第1話純神と人神

 成る程。君は清掃員になりたいんだね」


 俺は白衣に連れられてやってきた部屋で着物の青年と向かい合って座っている。

 黒髪で片目が隠れた少しタレ目の優しそうな青年だ。


「君は清掃員とカエレムについてどれぐらい知ってるんだい?」

「神の学校で清掃員は何でも屋で神が集まってる」

「うーん、大体合ってるけど違う所があるね」

「そうなのか?」

「説明するよ。まずこの世界には人神と純神がいるんだ。その身に神を宿す人間を人神。生き残った神を純神」

「生き残った?」

「遥か昔、ある堕天使を討つ為の大規模な戦があった。その戦は『終末戦争しゅうまつせんそう』と呼ばれているんだ。終末戦争で殆んどの神がその堕天使に討たれて力を失ったんだ」

「その言い方だと堕天使一人に神全員がやられたってことか?」


 すると━━


「ああッ!あの時の屈辱は忘れられねぇ!俺とこいつで絶対一太刀入れてやるぜッ!」


 突然彼が立ち上がった。


 逆立った黒髪に混じる青髪。目はつり上がり海の様な双眸。


「また始まった……」


 隣の白衣が頭を抱えた。


「自己紹介がまだだったな坊主。俺は須佐之男命スサノオ!海のように広く寛大な男の中の漢だ!ついでに日本と呼ばれる島国の神だったりするぜ。んでさっきの優男が俺の宿主の天ノ宮蒼一郎だ。よろしく頼むぜ」


 そう言って握手を求めたスサノオ。


「俺の名前はアルカだ。こちらこそよろしく頼む」


 俺が手を握ると……


「坊主お前……」


 スサノオが何か呟いたがよく聞こえなかった。


「彼が話の腰を折って悪かったね」


 いつの間にか普通の黒髪に戻ってた。


「どうなってるんだ?」

「それも順を追って話すよ。神々には色々な役目があるから簡単に死ぬわけにはいかないんだ。例えば雨神が死んだら雨は降らず大地に恵みは訪れない。こんな風に神の死は世界に強く影響するんだ。だから堕天使との戦いで癒えない傷を負った神々は人間に宿って自分達の役目を果たさせる事にしたんだ。そしてここカエレムのデウス魔法学院は人神の力の使い方を学ぶ所なんだ。さて……」


 彼が立ち上がって俺に近づいた。


「僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は天ノてんのみや 蒼一郎そういちろう。天ノ宮家の長男だ。宿す神は須佐之男命。コードネームは『荒神あらがみ』。よろしくね」


 そう言って手を差し出した。

 同じ人間と二回握手とは不思議な気分だ。


「もう一度自己紹介はするか?」

「あはは、必要ないよ。彼が表に出てきてても意識はあるからね」

「それと名前は何て呼べばいいんだ?」

「んー、ソーイチでもスサノオでもいいよ。この世界では基本神の名前で呼ばれているよ」


 確か宿主って言ってたから……


「よろしくなソーイチ」


 彼は目を大きく見開いた。


「驚いたな……どうしてソーイチなんだい?」

「ソーイチが宿主ならソーイチだろ」


 スサノオって神は脳内居候だろ。ならソーイチって呼ぶのは当たり前だ。


「……姉さん以外でそう呼ばれたのが始めてだったから少し新鮮だっただけだよ。それより彼女には自己紹介はしてもらった?」

 そうだ……さっきの話だとアスクレピオスは宿す神の名前ってことだな。


 白衣を見ると物凄く嫌そうな顔をした。


「さっきも言ったけど宿す神はアスクレピオス。コードネームは『回天かいてん』。名前は教える気は無いわよ。私の事はそもそも呼ばないようにしてくれればいいわ」


 ソーイチが苦笑いした。


「元からこんな感じでね。僕も名前は知らないから回天って呼んでるよ」

「そのさっきから言ってるコードネームって何のことだ?」

「コードネームは清掃員のメンバーの別名だよ」


 どうやらこの二人は俺の目指す清掃員のメンバーだったらしい。


「清掃員にはどうしたらなれるんだ?俺は強くなりたいんだ」

「それは困ったなぁ……普通は強いから清掃員になるんだけどね。清掃員は死の危険もあるからあまり弱いとメンバーに加えれないんだ」


 それでも俺は強くならないといけない。


「その男、あんたと同じよ」


 隣の白衣がソーイチに言うと……


「……わかった」


 一瞬表情に影が落ちたが直ぐに彼は優しい表情に戻った。


「コードネーム『地神ちしん』。僕達、清掃員のリーダーにアルカには会ってもらうよ」












「新入りとは嬉しいのじゃ!」


 俺は地神と呼ばれる清掃員のリーダーに会うハズだったのだが……


「ちと、冴えない顔じゃな」


 黒髪の軍服を着た幼女が俺の前に仁王立ちで立ち塞がっている。


 何故、俺は初対面の幼女に貶されたのだろうか。


「む?お主……」


 幼女が俺に近づいた。


曼珠沙華まんじゅしゃげ……そうか其方は愛されているのじゃな」


 そう言って慈愛に満ちた表情で……


「唾をつけとけば少しはマシになるじゃろ」


 ペッと手に唾をつけて俺の顔をペタペタと触った。


「……」

「妾は日ノ本の主神、きっとその冴えない顔に利益があろう!」

「姉さんそれは流石に酷いよ」


 隣に立ったソーイチが俺に布を渡してくれた。

 そのさりげない彼の優しさが心に沁みる。


「顔は変えられないんだから」


 前言撤回、くたばれ優男ッ!


「お前ら俺の顔に恨みでもあんのかッ!?」


 布を床に叩き落とした。


「フンッ、冴えない顔して髪なんか伸ばすからキモいのよ」


 ここぞとばかりに俺の傷心に塩を塗る白衣。


「おほんっ、では真面目な話をするのじゃ」


 そう言った幼女に視線を向けた。


「妾は天ノ宮 姫綺ひめき。日ノ本の主神・天照大御神アマテラスを宿しておる。コードネームは『地神』じゃ。地球の神って意味じゃ!」


 ということは……


「清掃員のリーダー!?」


 目の前の幼女が不敵な笑みを浮かべた。



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