第0話魔法学院で清掃員になります━━
ジリジリと汚い音を発する魔法具の音で俺は目が覚めた。
怠い身体を気力で動かしベッドから出て伸びをした。
「あ"~眠ぃ」
服を脱ぎ捨て、昨夜机に置いた服に着替える。部屋の鏡で自分を見た。
寝惚けて冴えない顔に、跳ねた赤髪。
嘘……寝惚けて冴えないのではなく、元々冴えない顔だ。
「くっそ、ロン毛にしたらイケメンに見えるかと思ったが逆に鬱陶しいな」
俺は跳ねた髪を整えて紐で結った。
「ちゃんとしてねぇとセツナに怒られるからな」
俺は鏡の前で自分をチェックする。
「うしっ、準備完了!行くか!」
***
早朝、俺はある一室に呼び出されていた。
「いつも早起きなのか?俺はまだ寝足りないんだが」
頭を掻きながらが言った。俺はソファに寝転がりながら、執務机を挟み正面に座る背の低い美しい女性━━セツナへと視線を送る。
「何で俺をここに呼んだんだ?」
俺の質問にセツナが返した。
「……朝起きたら?」
セツナが美しい顔を歪めて言った。
「挨拶がまだだった、悪い。おはようセツナ」
俺は身体を起こして答えた。
「うん……おはようアルカ……」
可愛い表情で、微笑んだ。
セツナは朝の挨拶をしないと不機嫌になって一日中俺を無視する。どんなに話しかけても翌朝まで絶対に口を利いてくれない。
「んで、こんな朝早くからどうして俺を呼んだんだ?」
先程の微笑みが消えてセツナは深刻な顔で俯いた。
━━嫌な予感
「……やっぱりダメだった……そろそろ……私は限界……」
「そんな……どうしてだよ!?あと一年は先って言ったじゃねぇか!」
俺はセツナに叫んだ。
「ごめんアルカ……あと一年なんて……無理……」
セツナは俯いて声を絞り出した。
「嘘だろッ!?」
俺は力無くソファへ崩れ落ちた。
そして直ぐにソファから飛び上がりセツナの目の前に立った。
「セツナッ!お前いつになったら弟子離れすんだッ!まだ半年も経って無いッ!しかも泊まりじゃなくて家に帰ってくるよな!?夜会えるんだぞ!?わかるかッ!?」
俺は額に青筋を浮かべながらセツナへと迫った。
セツナは━━弟子コンである。
セツナと俺は師匠と弟子の関係で現在一緒に暮らしている。
セツナはある時をきっかけに弟子コンになった。
ガキの頃は一緒に寝てたが、俺が一緒に寝ないと言った時は一日中立って気絶していた。
今も俺の寝室に忍び込んで、朝起きたら隣に寝てるって事もある。
風呂に入っていると突撃してくる。
外に買い出しに行く時は手を繋げと騒ぐ。
一日一回は必ず俺の膝に座って二時間ぐらい抱きつく謎の時間。
それ以外にも色々あるし、語ったらキリがない。
「……だって学院にはアルカがいない……私だけ通うのは……不公平……」
「セツナは学院長!俺は教師でも無いし、生徒でも無い!通うわけ無いだろォォ!」
俺は青筋をさらに増やしながら執務机をバンッと叩いた。
「……じゃあ……辞める……」
「嘘だろォ!?セツナを国が何年も誘って、せっかく学院長にしたのに!?辞めるのか!?慈悲は無いのかッ!」
「……大丈夫……。私の代わりは幾らでもいる……」
セツナは引き出しから辞表を取り出して机に置いた……が即座に俺が破いてやった。
「いないッ!セツナは五大賢者!この世界で知らない奴がいない超有名な『殲滅の魔女』!」
この世界には魔法を極めたとされる五大賢者と呼ばれる賢者がいる。
セツナはその中でも攻撃魔法に優れていて『殲滅の魔女』と呼ばれている。
国は俺がガキの頃からセツナを魔法学院で教鞭を執って欲しいと騒いでたがセツナは拒否。
拒否の理由は俺との時間が減るからだ。
そして十八歳の時、俺は魔法具店で働き始めてセツナとの時間が減った。
不貞腐れたセツナは部屋にこもって魔法薬の調合を始めた。
あの時はヤバかった……部屋を開けたら禁薬だらけ。欠損も治るエリクサー、飲んだら不眠不休で活動出来るゾンビ薬。
他にも色々と禁薬を調合してセツナがストレスを解消して、屋敷が禁薬で溢れ返った。
屋敷中が薬の臭いがして鼻が壊れたかと思った。
そしてセツナの説得に費やす事一年半……何だかんだでセツナが学院長に就任。
長過ぎか?ホントに長い道のりだった(白目)。
セツナは破られた辞表を見て肩を落としている。
外見は16歳ほどのきめ細かい銀髪を腰まで伸ばし、翡翠色の瞳。人形の様に整った顔立ちに、白い肌。背は低く、華奢な身体。『美少女』だがそれは外見であり実年齢は別だったりする。
彼女はとある理由で老化が止まっている。
服装は緑色のローブの上に真っ白い金色の刺繍が施されたマントを羽織っている。
俺は外見二十歳で、実年齢も二十歳。腰辺りまで伸びている赤髪を白い紐で束ねてる。黒い瞳に長身、程よく引き締まった身体だと思うが…顔は冴えないですッ!
いや、ロン毛にしたらイケメンに見えるかなとか期待したけど、あんま変わんなかった(二回目)。
服装は白いワイシャツに、ポーラー・タイ。黒のスラックス。
俺の服はこの世界に存在しない。この服はとある人物が俺の為に作って俺に着せている。
この珍しい服で歩いてるから街で俺は『変な兄ちゃん』って呼ばれている。
そこは『変な服の兄ちゃん』じゃないのが気に入らない。もう諦めてるからどーでもいいけどな。
「……ならアルカも通って……」
「いや、流石に無理がある。それに臨時で教師として通うなんて無理だ。学園で教えれるほどの能力も無い」
「……アルカは教えるの下手……私と同じ天才だから……」
「天才というか俺のは根本的に違う」
「……良いこと思い付いた……清掃員……」
「それなら学園内に入ることは可能だな。だが必ず会えるとは限らんぞ?」
「……大丈夫……合間に会いに行く……それに一緒にお昼も食べられるかもしれない……アルカは……取り敢えず仕事を辞めておいて……」
セツナが目を輝かせて立ち上がった。
「……今すぐ学園に向かう……行ってきます……〈カドゥケウス〉!」
セツナの手には金色に輝く二匹の蛇が絡まった先端に赤い宝石が付いた美しい杖が収まっていた。
「〈転移〉!」
次の瞬間セツナはその場から消えていた。
「今の仕事気に入ってたんだが……。セツナが望んでるならしょうがないか。朝飯でも作るか」
━━「ねぇ、甘やかしすぎじゃない?」
俺の頭で声がする。これは念話といって相手に直接言葉を伝達する。
「別に、仕事が変わるぐらい大した事ない」
━━「ほんと、貴方はセツナに甘いわね。あの根暗のどこがいいのよ」
「お前は変わらないな」
━━「貴方に一途なだけよ!私を実体化しなさい!」
「嫌だ、朝から疲れる。俺はやることがあんだよ」
━━「何よ?」
「仕事は辞めないといけないし、洗濯も終わってない。家の掃除、夕飯の買い出し」
━━「一日が終わるじゃないッ!」
「そうだな。分かったなら静かにしてろ。もしかするとチャンスがあるかもな」
━━「言ったわね!静かにしてるわ」
結局アルカはこの日、声の人物を相手にする事は無かった。
二日後、俺は正式に一万年の歴史を誇るイリアーナ島イリアーナ魔法学院の清掃員として俺は就職する事となった。
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