きてらい

ある日見た夢の中で、私はジャパリパークをさまよっていた。


私が居たのはさばんなちほーの岩場の中で、黄土色の地面が延々と続いている。天気は快晴、上を見上げれば清々しいまでの青空が広がっていた。


私はしばらく歩いた。

遥かな遠景には、イネ科植物が群生し、アカシヤの木が萌えて立つ。

点在する朽ちた人工物が鉄錆の粉を地に落とす。

絵を飛び出したような光景を前にして、私の感覚はふわふわしていた。


――はて、フレンズの姿はないものだろうか。


ジャパリパークにはフレンズがおり、フレンズのいるところそれすなわちジャパリパークである筈である。フレンズがいないとするなら、ここはジャパリパークと呼べるものだろうか。だとするなら、私が今いるところは、一体――などと取り留めもなく考えながら、なおも歩き続けていると、ああ、


すぐそこに、サーバルちゃんの姿が見えた。


何の外連味もない、全てがそこで落ち着いているようなあの笑顔が、私の目の中に遠慮なく入り込んできた。


私はそれに近づこうと思った。

近づいて、どうしようというのでもなかった。

ただ、灯火を見つけた小さな羽虫がどうしようもなくそこへ吸い込まれてしまうように、私はそこへ近寄った。


私が岩の隙間からひょい、と顔を出してみると、なんと目の前を、かばんちゃんが歩いているではないか。

果たしてかばんちゃんはこちらに気づいた。


かばんちゃんの顔を見上げてみる。少し不安そうな目。

彼女は歩みを止めて立ち止まり、少しかがんで、こちらに話しかけてくる。


「フレンズさん、ですか?」


私は、答える言葉を持たなかった。


強烈な既視感。この光景を、私は何度も見たことがある。幾度となく繰り返し繰り返し見たことがある。知っているそれが、今まさに目の前で行われている。

何度も何度も見たことのある光景。記憶の中にあって、しかし目の前の光景に含まれていない、ただ一つのものは――


なるほどな、と思って、私はかばんちゃんに歩み寄った。

これから起こる全てのことが手に取るように分かった。

私のすべきことが、されるべきことが、何もかも分かった。


サーバルちゃんが叫んだ。私は知っていた。

かばんちゃんが走った。私は知っていた。

かばんちゃんが転んだ。私は知っていた。


後ろでみゃみゃみゃみゃみゃと声が聞こえる。

何度も、何度も、聞いた声。

彼女が、跳躍して――


サーバルちゃんの爪が脳天に食い込む。

身体が不格好に大きくゆがむ。目玉が飛び出そうかという感覚。

痛い。痛いよ。意識が遠のく。視界がぎらぎらする。

必殺の一撃は、いよいよ石に亀裂を走らせる。


私は、幸せだった。

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きてらい @Kiterai

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