新宿駅で迷っていたら、いつのまにかダンジョンにいました。
三瀬川 渡
第1話
ここは新宿駅。
人々の雑踏と電子音が鳴り渡る構内に僕は居た。
僕の名前は
アニメとか漫画とかが好きな少しだけ体が弱い中学生、……いやこの春から高校生だった。
この3月に色々な都合によりど田舎から東京へと引っ越してきて、4月から東京の高校に通うことになっている。
今日は学校が始まる前に都会の交通機関に慣れておこうと、電車を乗り継いで新宿駅にたどり着いたところだ。
ところが、出口に向かおうとした所で困ったことが発生した。
出口が分からなくなってしまったのだ。
電車を降りたら人の波に着いていけば出口に出られるだろうと思っていたが、 運悪く乗り換えの人達だったようであえなく失敗。
仕方なくふらふらと歩いて出口を探そうとしたのだが、どうにも同じところをぐるぐる歩いてしまっているようだ。
自慢ではないが僕は少しだけ方向音痴な上、地形を覚えるのがとても苦手だ(本当に自慢ではない)。
初めて訪れたところだと尚更で、どんどん頭がこんがらがってしまう。
構内の立体的で複雑怪奇な構造に、田舎の平坦な駅しか馴染みのない僕は案の定道に迷っていた。
「うぅ……、少し人酔いしたかも」
少し気分が悪くなってしまい、僕の足は自然と人気の少ない所を目指す。
ちょっとどこかで休憩したい。
少しでも人通りが少ない通路を選び、腰を下ろせそうな場所を探す。
床材がタイル調の石材から岩肌のような材質に変わった辺りで僕は床の上にへたり込んだ。
「つ、疲れた……」
辺りに人の気配はない。
地下特有の少し冷んやりとした空気が体の余分な熱を逃がしてくれる。
一息つきながら、僕は周囲をちらりと見渡した。
そのスペースは5メートル四方くらいの立方体の空間で、僕が入ってきた通路と先に繋がる通路が対になるように配置されている。
明かりは蛍光灯ではなく、壁に設置してあるランプのようなものが部屋を明るく照らしている。
先ほどまでの雑踏とは打って変わって、僕の息遣い以外は何も聞こえない位に静かだった。
気分が大分楽になってきたところで、静寂の中に響く僅かな音に気が付く。
ぺた……ぺた……。
それは裸足で床を歩くような音で、少しずつこちらに近付いているようだった。
(丁度良いや。駅の出口を聞いてみよう)
僕はそう思い、その音に耳を傾ける。
どうやら足音は僕が来た方向と逆の方から鳴っているらしい。
ぺた、ぺた
音がかなり近付いてきた。
足音の主は間も無く通路から姿を現わすだろう。
僕はすっと立ち上がり、通路から入ってきた人影に対して話しかけた。
「すいません!道をおたずねしたいのですが、ちょっと良いですか?」
「ギッ!?」
現れたのは10才くらいの子供ほどの大きさで、大きく尖った耳、ギザギザの歯、黄色くてギョロリとした目玉、そして、腰に巻いた簡素な布と緑色の体。
手には白い尖った物を手にしている。恐らくは動物の牙か何かか。
その緑色の体の人が少し驚いた様子でこちらを注視していた。
その姿に動揺を隠せない僕。
まさか……そんな、これは……
(都会で流行っているファッションか……?)
僕は田舎から出てきたばかりで都会のファッションには疎く、きちんと話を合わせられるか不安だった。
心なしか緑色の人はなんだかこちらを睨みつけているような気がする。
「ギーッ!」
「あ、すみません。もしかしてお忙しかったですか?」
「ギッギギギッッ!!」
困った。
言葉が通じてないみたいだ。
いや、一つだけ思い当たるふしがあった。
心の片隅に引っかかっていた僅かな可能性。
もし僕の想像通りだとすれば、かなりまずいことになったかもしれない。
もしかしてこれは──
一抹の不安が脳裏を過る。
──もしかして、外国人なのでは?
そうだとすれば、非常にやばい。
英語とか全然話せないし……。
「キャ、キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」
「ギーッ!」
僕がそう尋ねると緑色の人は白い歯を見せてにっこりと笑った。
※牙を剥いているとも言う。
続けて、緑色の人は手に持つナイフ位の大きさの牙のような物をこちらに向けながら、後ろに半歩ほど下がった。
なんだか怖がられているような気がする。
どうやら日本語は話せないらしい。
困った。
こうなったらボディランゲージとかいう奴だ。
確か海外ではハグが挨拶のようなものと漫画で見たことがある。
僕はハグの準備があると示すため、両手を横に大きく広げ、明るい声で話しかけた。
「オー!イエス!ハグ オーケー!ウェルカム トゥ ジャパン!スシ!テンプラ!ゲイシャ!!!」
「〜〜〜ッ!?」
緑色の人は何故か僕に背中を見せ、一目散に駆け出した。
もしかして、恥ずかしがり屋さんだったのかな……。
悪いことをしてしまった。
ふと足元を見ると、先ほどの緑色の人が持っていた手のひら大の白い大きな牙が落ちていた。
「あっ、落し物だ!追いかけて届けてあげなくちゃ」
緑色の人が走っていった通路を小走りで進む。
「この通路ってこんなんだったかな……」
壁や床は駅の構内とは思えないような、岩を直接くり抜いたような少しボコボコとしたものに次第に変わっていく。
やがてその道はやや大きな空洞にぶつかった。
天井までは20メートルほどの半球のドーム状になっており、音が反響する。
そこには先刻の緑色の人と、それに対峙するようにもう一人の帽子を被った人間が杖を突き出すように構え、緑色の人へと向けている。
「おーい!落し物です!」
手に持つ白い牙を振り回してながら僕が声を発すると、ギョッとしたように緑色の人がこちらを振り向く。
その瞬間、何か目に見えない物が帽子の人の杖に集まっていくような気がした。
緑色の人が慌てて前に向き直った瞬間、澄んだ声が洞窟ドームの中に響き渡った。
「『アクアカッター』!」
刹那、杖の先端から圧縮された水の線が発射され、緑色の人の右肩から左腰にかけてを斜めになぞった。
「ギッ……」
緑色の人はそう短く漏らすとぐらりと崩れ落ちた。
「み、緑の人!?」
次の瞬間、緑色の人の身体は光の粒子となって消え、あとには紫色の小さな石のようなものと緑色の人が身に付けていた薄汚れた腰布が残った。
「ありがとう。助かった」
帽子の人は静かにお礼を言うと、昔話とかで魔女が被っていそうな大きな帽子を脱いで僕の様子を見る。
被り物を外したことで肩口まで伸びるミディアムの長さの髪が柔らかく揺れる。
青みがかった銀色の髪だった。
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