罪人⑦
次の日もまたその次の日も僕達は、同じ場所にいた。動けなかった。
理由は、一つ。
今さらなんだけど。
魔女がどこにいるのか、有力な情報がゼロだからどこに行けば良いのか分からなかった。
こうして足踏みしている間にも少しずつナツの腐敗は進行し、今では走ることが出来なくなっている。
今夜ーーー
僕は、ナツの新しい体を錬成することを決めた。
夕食を食べた後、ナツは近場にある公衆浴場にアンナと二人で出掛けた。
その後ろ姿は、本当の姉妹のように微笑ましくて……ずっと、見ていたかった。癒された。
チリン………リン……。
深夜。僕は、ジャングルのような森の中にこっそり造った地下室に行き、そこで錬成の準備を始めた。
「体調は、どうですか?」
「大丈夫……。元気です」
新しい『器』に赤い薬を手渡した。
その薬を躊躇なく飲み込む女性。すぐに女性は意識を失い、そのまま静かに亡くなった。
「…………」
また1人、罪のない人を殺めてしまった。
すぐに僕は、この名前も知らない女性の体をナツの体に変異させた。女性が身に付けていたアクセサリー類は、ゴミ箱に捨てる。
「…………はぁ」
暑くもないのに額から汗が流れた。
僕の精神が崩壊するのが先か。
ナツの治癒が先か。
どちらにしても時間的余裕はなかった。
帰り支度を済ませ、部屋を出ようとした時。誰も来ないはずの地下室に人の気配を感じた。僕には、誰か分かった。
「アンナでしょ? 隠れてないで出ておいで」
柱の影から、小さなアンナが姿を現した。しっかりと食事を取り、体も清潔に保った少女。パッと見、彼女がアンデッドだと気づく人はいないだろう。
「その人、殺したの?」
「うん。殺した」
「どうして?」
「ナツの体を錬成するには、別の人間が必要なんだよ。失敗は、許されない。『器』は、完璧でないと」
「サトルさんは、悪い人なの?」
「うん。悪い人。罪人」
「………違う。あなたは、悪い人じゃない……と思う」
地下室を出た。新鮮な空気を思い切り吸い込む。見上げた星空に吸い込まれそうだった。
「アンナ………。もし………。もしさ。僕に何かあったら、アンナがナツを守ってあげて。お願い」
「そんな悲しいこと言わないでください」
「………ごめん。でも頼むよ。ナツは、僕のすべてだから。だから、守って」
アンナは、泣いているみたいだった。
本当に優しい子だ。
「帰ろうか。明日は、ここを離れよう。大都市に行ってさ、情報を集めて、早く魔女を見つけないと」
「そうですね」
最後にこの夜空をもう一度目に焼きつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます