Vol.6.2 【提携店】
今日はご近所の婦人会の日。
12名ほどの奥様が3つのテーブルを囲んで談笑している。
「お待たせいたしました。
スペシャルコーヒー4つ、レモンティー3つ、ミルクティー1つ、カフェラテ2つ、モカブレンド2つです。
そして、こちらが本日のスイーツになります。
アップルパイとガトーショコラ、モンブランになります」
「キャー来たわ~」
「あぁ、今日のケーキも美味しそうね」
「パイも素敵。さ、さっそく切り分けて食べましょう」
お出しした料理を囲んで盛り上がる皆さん。
今日も大好評のようで安心しました。
「それにしても、こんなに美味しいパイをどこで焼いているのかしら。
見た感じオーブンや大型のキッチンは無さそうなんですけどね」
「あら、知らなかったの?
このケーキは東通りの花山さんのケーキショップから取り寄せたものだし、
パイも薫通りの香蓮堂のものよ」
「へぇそうだったのね。今度娘のお土産に買って行ってあげようかしら」
「良いんじゃない、きっと喜んでくれるわよ」
「でもそうしたら、このお店の売り上げが落ちて困ったりしないのかしら。ねぇマスター?」
「はははっ、お気遣いありがとうございます。
ですが、ご心配には及びませんよ。
こうしてここで提供することで、あちらのお店の宣伝も兼ねておりますので。
そうして頂けるとこうしてお出しした甲斐があるというものです」
逆に時々むこうのお店でケーキを買ったら、うちの喫茶店でコーヒーと一緒に食べるとまた格別なんだって聞いていらっしゃるお客様もいます。
つまりはお互い様という事ですね。
そう思ったところで奥様の1人が目敏く窓際の生け花に気が付いた。
「あら?この生け花、素敵ね。
先週来たときは無かったと思うけど。
お店の雰囲気にマッチしていて良いわぁ。
こういうの我が家の居間にも欲しいかも」
「でしょう。素敵よね!!」
「って、なんで加藤さんが得意げなのよ」
「だってその生け花、私が生けたものだもの」
「えぇぇ!あなた、そんな事出来るなんて初めて聞いたわよ」
「この間、マスターに紹介してもらった生け花の先生に教えて貰ったの。
でもこうして早速飾ってもらえると嬉しいわね。
ありがとう、マスター」
「いえ、こちらこそ。お陰で一層店内が華やかになってくれました」
「む。私も今度何か作ってみようかしら。でも同じのは嫌ね。
ねえマスター。私にも誰か良い人紹介してくださらない?」
「そうですね」
わたしはこのお店を利用して下さるお客様の事を思い浮かべ、今回のお話に丁度良い方が居る事に気付きました。
「それでしたら、手作りハーバリウムなどは如何でしょうか」
「はーばりうむ?なに、それ」
「はい、例えばこちらが先日そのハーバリウムの先生に作って頂いたものです」
そう言って、中に綺麗な花が浮かんだ円筒形のビンを棚から取ってお渡ししました。
受け取った皆さんが向きを変えながら眺め顔を綻ばせている。
「素敵ね」
「見る角度や光の当たり具合でも雰囲気変わるのね」
「でも、これって作るの難しいんじゃないかしら?」
「いえ、そんな事も無いそうですよ。時間も1時間と掛からないそうですし」
「あら、それなら良いわね。ぜひ紹介して欲しいわ」
「分かりました。少々お待ちいただけますか」
そう一言お断りを入れて、携帯を取り出し先日教えて貰った連絡先に電話を掛ける。
もちろん相手はこのハーバリウムの先生です。
『もしもし』
「もしもし、私は先日お世話になった喫茶『陽だまり』のマスターをしております……」
受話器越しにメゾソプラノの綺麗な声が聞こえてくる。
私は今の出来事を手短に伝えて、今度作り方を教えて頂けないか尋ねた。すると、
『なるほど。そう言う事でしたら、皆さまでご一緒に教室を開きましょうか。
その方が楽しいでしょうしね。
場所は、マスターの喫茶店をお借りしても良いかしら』
「はい、もちろんです。色よいお返事をありがとうございます。
では、今ちょうど目の前にその教室に参加したいと仰っている皆様が居ますので代わりますね」
そうして、2言3言打ち合わせした結果、無事に来週開催されることが決まったそうです。
「今日もありがとうございました、マスター」
「はぁ、でも、場所をお借りして、コーヒーとケーキを頂くだけで長時間居座って、これだと申し訳なくなるわね。
今度何かでお返し出来ればいいのですけど」
「そのお気持ちだけで嬉しいですよ。
私と致しましても、この店を気に入ってくれる方が1人でも増えて、その方々が幸せになって頂くことが喜びですから」
「そう?あ、それなら、来月の娘の誕生日パーティーをここでやらないか提案してみようかしら」
「良いわねそれ。私も娘がお世話になっている幼稚園の人達に紹介してみましょう」
「後は皆でブログとかで情報発信したりとか」
「今風で良いわね」
気が付けば今日の婦人会の議題は、この喫茶店をどうやって盛り立てようかになっていた。
本当に、ありがたいことです。
人と人との繋がりを結び、幸せの環を広げる。
そのお手伝いが少しでも出来ているのですね。
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