「先輩の答えはわかりました。それはとても素敵な答えだと思いますけど、『私の答えは違います』」

 自信を持って小夜は言った。(だってこのシチュエーションを何度も頭の中で練習したのだから)

「自分から話を振ってくるだけあるね。それで、その答えってなに?」

 興味津々と言った顔で綾川先輩が小夜に言った。

(そう。宇宙大好きな先輩が地球最後の日なんていうキーワードに興味を惹かれないわけないのだ)


「私は、……『自分の好きな人と一緒に過ごしたいです』」

 小夜は言った。

 その言葉は、思っていた以上に、自然と小夜の口から溢れた。(自分でも少し驚いた。まるで女優になったみたいだと思った)

「自分の好きな人と?」

 綾川先輩が言う。

「……はい。それって、別に変なことじゃないですよね。すごく普通のことですよね」

 小夜は言う。

(今頃になって、緊張していた。少し手が震えている)


「うーん」

 綾川先輩は(きっと、小夜の質問と答えの意味が理解できていないのだろう。真剣な顔をして)顎に手を当てて、なにかを考えながら、少ししてかちかちと時を刻む時計を見て、それからだんだんと日が暮れてきた天文部部室の窓の外にある空の風景に目を向けた。(そこから綾川先輩はよく空を見ていた。きっとその果てにある宇宙の姿を、綾川先輩は中学生の三年間の間、ずっとここから眺めていたのだろう、あるいは観測していたのだろう)


「先輩?」小夜が言う。

「え? あ、うん。ごめん」

 そう言って、綾川先輩は小夜を見た。先輩と目と目があって、思わず小夜はどきっとして、その視線を二人の間にある木製のテーブルに下げた。

 するとそこには宇宙の雑誌が置いてあった。

 さっきまで綾川先輩がずっと見ていた表示にまだら模様の木星の写真が載っている雑誌だ。その木星の姿を見て、小夜は緊張で喉が渇いたから、甘いミルクティーが飲みたいな、とちょっとだけそんなことを思ったりした。


「……うん。そうだね。確かにそうかもしれない」

 綾川先輩は珍しく真面目な声で、そんなことを(まるでひとり言のように)言った。

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