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酒場の元締めの筋肉お化けが酒場を破壊した翌日、オレたちは皇国の首都一の商会の主、ヘビーペァ邸宅へと向かっていた。

ヘビーペァという男は皇国の物流を牛耳る闇の帝王で、表向きは日用品から武器まで扱う大商会の主だが、黒い噂が絶えず、大陸一(笑)の情報機関を持つ皇国からは目をつけられている。

実際黒いから庇うに庇えないが…。

そして犯罪行為が発覚するたびに金を握らせなかったことにしていたり、役人を買収して裁判に勝利したりと正直言って救いようのないクズだ。

何故、オレがそんな黒い屋敷に行かなければいけないかというと、昨日の召喚された連中についての対策会議が開かれるからだ。

各方面の犯罪者および黒い連中が集まり会合を開くらしい。

こう言ったことはこれまでもあったし、嫌じゃないが、ヘビーペァがちょっとウザくて行くのやめようかなーと思ったりする。

別に、奴はあの美化された本の犠牲者ではないが大公国が崩壊した際に職を失った奴の先祖を助けてやった節があり、尊敬?なのかな、色々真似してきてちょっと引いている。

『服、いらなくなったらください』とか言われた時はこいつとの縁を切ってやろうかと本気で思ったくらいだ。

"死ねくたばれ変態"がと罵ってやりたいところだが、やつはオレが罵倒を浴びせると『むしろご褒美ですぅ』とか言う始末だからなぁ……

思い出しただけでゾワってくるわ。

変態め。


てなことを考えているうちに本拠地である屋敷に到着した。

ちなみにオレは歩いてここまで来たが他の奴らは馬車らしい。

今回ここに集まるような奴らは、暗殺者や賞金稼ぎの連中に狙われてるからな。

オレみたいに自分で倒せる力がないとおちおち外も歩けない。


「どうもー、ご苦労っ」

ヘビーペァ邸の門番に声をかけるとまるで軍人のようにピシッと敬礼をした。

教育がなってるなー。

と思ったけどよく見たら君たち皇国の治安維持局の人間じゃないですか。

犯罪者を取り締まる機関の人間が犯罪者に加担してどうするんだよ…。

金の力は計り知れないな……。

もちろん金ではどうしようもないこともあったけど。

具体的には昨日。

ペペレ君の秘蔵の酒を金に目が眩んだ酒場のマスターが出してしまって……その後は言わんでもいいか。

全財産を渡したようだが許されなかったようだ。

奴が斧で店を壊した後、片付けがあるから帰ってくれ。

手伝おっか?と言ったのに『マジで帰れ、お小遣いあげるから帰って下さい』

と言われてので渋々酒場を後にした。

帰り際、『フェアリーローズリキュールご馳走さんっー!』とまだ半分以上残った瓶を掲げて言うと、『ちょっ…ま…!?なんでお前が』と言うから「金なら払ったぜ?』と返すと酒場のマスターをペペレが睨みつけてこの後、店内の掃除があるから帰ってね?とにこやかな笑みを浮かべていてちょっと怖かったので帰って来たが、ここに来る途中に通りがかった首無しの像に昨日の酒場のマスターの頭がのせられていたのをみて、状況を理解した。

首無しの像というのは、以前ここを治めていた貴族の銅像があった場所で、銅像の頭が潰されてその貴族の生首が変わりに置かれた時からいつのまにか伝統のように殺された人間の生首が置かれるようになっており、ここに住む住民の楽しみにもなっている。

「あ、あのクソが漸く死んだか」

「見てあの顔、ザマァないね」


公開処刑が禁止された現在、彼らの娯楽はこの首無しの像に載せられる生首になっている。

そしてオレも利用したことがあるからわかるが、乗せに行くときに既に乗っていたら叩き落として首を乗せていいと言うルールがあって、首には大概、誰がどう言う組織がやったかというのが書かれてあって、それを見て『あ、こいつ雑魚だから首落として変えておこう』とか判断をする。


首を最近置く機会がなかったけど、あの斧で首をはねられた奴でも晒そうかと思っている。

まあ、なんて言えばいいのかな。

あんな雑魚で馬鹿でも皇国が隠して召喚した国家機密なわけだし晒してはいけないかもしれないな。

その辺は今日の会合で話せばいいか。



会合が行われる会場には護衛の持ち込みは不可で、会場前に設置されたテントで待たされる。

中にはイカレタ奴も多くただ待たすだけでは剣を抜いて殺人を始めるような輩もいるため、ヘビーペァの計らいで女、酒、闘技場が用意されている。

闘技場はここで待機させられている護衛同士の喧嘩が収まらないために作られた施設で、殺し合いは闘技場でどうぞと言うことだ。

一人で行くからいいと言ったのにラシエト様がまた他の護衛の方々に喧嘩をぶっかけないか心配だからついて行きますと押し切られゴンスと魔法使いのミレラについて来てもらった。

一人で来たかった理由はいつからかゴンスを倒せば副船長の座を譲ってもらえるなどとおかしな噂が広まったからだ。

ゴンスはオレの護衛に、ゴンスにはミレラと言う護衛をつけてここにやってきた。


「ラシエト様、行ってらっしゃいませ」

「ああ、喧嘩すんなよ、お前弱いから」

「私はラシエト様が思っているより弱くはないです……いえ、はい、わかりました。危なくなったら逃げさせて頂きます」


慢心は良くない。

お前は弱い、ドラゴンと素手で倒せないし、魔法を握りつぶして消滅させられないし、蹴りで森を薙ぎ払えないし。

まぁ、そんなことを出来る奴は見たことないけど。

いるかもしれないから、慢心するな。

てかさ、それ以前に護衛のくせにオレより弱いじゃん君。



「ミレラ、お前は自慢の雷撃魔法で喧嘩売ってくるやつを追い払え」

「りょーかいです!きゃっぷ!!

喧嘩売ってくる馬鹿を雷で焼き殺しておきますね!


焼き殺したらだめだろ…

「あ、後ゴンスのお尻は私が守りますよー」


え?



「お尻……?こいつのか?」

「ちょっ、な、な、な!?ミレラぁ、何を言っているのですか!」


この慌てようマジなのか!?

ふあぁぁぁ!!ヤバ…。そっちかぁ…うん。

性癖には色々あるしね。

狙われているのかぁー。

うん、頑張れ。

強く生きろ。

何かを失っても君なら前に進める筈だ。



「えー、だって私はゴンスさんをみんなが狙ってるって聞きましたよ?

狙ってるって言ったらお尻じゃないんですかぁ?」


ああ、なんだよ。

そう言うことか。

酷い勘違いだ。


「馬鹿、やめろ。こいつの尻を狙うような奴はいない。狙われているのは副船長の座だ。尻じゃない、座だ。

こいつを倒せば座がもらえるとか言うデマが流れているんだ」


「え?ゴンスを?

私も狙って見ようかな?

ねぇ…ゴンスさん。

イイコトしませんか?」


いやらしく胸を腕に押し付けてこんなところでイイコトやらを始めようとしているミレラ。

馬鹿じゃないのかなぁ?

そう言うのはプライベートな空間でやりなよ。

まぁ……


「押し倒しても意味ないぞ多分、そいつ性癖マジきめぇから」





「えぇ?!そうなんですか!」


そう、ゴンスの性癖は異常だ、

驚くのも無理はない。

こいつは表情がほとんど変わらないし、声は小さいし、図体ばかりがでかいし……あ、これはただの悪口か。



「ラシエト様、嘘を言わないでください」


「嘘じゃないだろ、お前はたしかに女が好きだ」


「その通りです」


「毛深い……じゃなかった、女は女でも人間は好きじゃない」


「その通りです」


危ない核心を言うところだった。


「お前が好きなのは野性味がある女だ」


「その通りです」


「お前が好きなのはビーストの女だろう?な?」


「その通りで……ってなんで知っているのですか!?!」


知らないと思ってんのか?

オレはこれでもかなり用心深いんだ。

仲間の年齢、名前、出身、健康状態、足の先から頭のてっぺんまで全部知ってんだよ。

もちろん性癖もだ。

そういえばミレラ君は泣き叫んで命乞いをする奴を魔法で焼き払うことに興奮をするだったな。

こいつも変態だったわ…


じっと見つめると不思議そうな顔をして見つめ返してくるミレラ。

とりあえず話を戻そう。




「ちょっと前にペペレが街中で邪教の連中が集会をしていると聞いて調査に行ったんだ。

そしたら奴ら、ビーストの女について語っていた。

あのモフモフがたまらんなどと訳の分からないことを話していたことから昔から路地裏に貼ってあったおかしな看板を作っている連中だとわかった。

それでな、夜、荷物を抱えてこっそり宿を出たゴンスを怪しげに思って追いかけたら

【"モフモフ"と和解せよ】【心から"ケモケモ"を信じなさい】【ビーストは真理なり】【ケモナーを認めよ】

とかいう看板を熱心に取り付けているお前を見つけたんだ……オレは悲しかったよ。

まさか、まさか!お前が邪教の連中と組んでいた、いや邪教にのめり込んでいたってな、

信じたくなかった。

けど、お前のベッドから見つかった裸のビーストの女を写した本にお前がヘソクリを貯めている隠し金庫からビースト専門の奴隷商人との取引書類をみたときにはもう…な。

お前、ケモナーなんだってな。

お前が崇めてんのは魔物だそ!

モフモフしたいとか言っているがモフモフする前に相手にガブガブされて食われるぞ!

奴らは人間に似ているが魔物だ!

魔物というのは言葉が通じん獣で人族をエサとしか思っていないんだ。

わかるか?お前は」



「ちょっと、その辺でいいですか?」


邪教の沼にハマったゴンス君を更生させるために熱く語っていたところに水を刺された。


「はぁぁ?よくないですよー」


本当に今いいところなのだ。

サスペンス風に語ってるのに。

あと少しでいいところなんだよ。


自分が邪教に入っていると上司に知られてしまったゴンスは、周りに言いふらされるのを恐れて殺人をしてしまう。

そこから事件は始まった。

その日全く別の町で街を歩いていたという完全なアリバイがあるゴンスをなんとしても逮捕するため、聖職者に蘇生された探偵ラシエトと捜査官ミレラが事件を解明するって言う話を考えていたのに!!


「きゃっぷぅ、それはダルいから私は参加しないよ」


「は?なんで?船長の言うこと聞けないの?」


「怖い怖い怖い!いいから、この話さまた後にしましょ?ね?

ほら、早く行かないとヘビーペァになんか要求されたらどうするんですか?」


「あ、そうだった。じゃあ行くわ。

お前ら問題を起こすなよー」


「きゃっぷ!きゃっぷ!」


「ん?何かな?」


「ぶーめらんです。それ」


「ぐはっ」


「いいから早く行って下さい!後ミレラも引きとめないこと!」



「「ふわぁぇーい」」


「なんですか、その気の抜けた返事は…」

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