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昔からオレは何かと事件に巻き込まれる。
ちょっとした悪ふざけが人生を変え、ちょっとした寄り道が大事件に発展した。
今日もそうだった。
いつもより少しだけ長く酒場に居座った。
本当にそれだけだった。
ついてねぇ、いやついているのかもな。
いつだって巻き込まれるのは結果的にいいことばかりなのだからーーーーー
◇◆
奢りと言う物は素晴らしい。
自腹では味わえない興奮が味わえるということか。
酒の味もわからねえ癖に酒場で一番高い酒を全て飲み干した部下達は、地面に転がって寝ていた。
食べまくった料理の数々、調子に乗って頼んだ酒、酔っ払って破壊した備品。
そして……
◇
請求書を見てゴンスは頭を抱えていた。
どうしてこうなった。
新入歓迎会だと言うから普段行かない宴会に参加し、船長が皆からのイメージを変えたいというから真実を話した。
それがこれだ。
よくわからないがラシエト様に奢らされ、ミイラを作れそうな包帯ほどの長さの請求書が手元にある。
安くて美味くて海賊が騒いでも問題ない酒場があると聞いてラシエト様はここを選んだのではなかったのか。
死んだ目で請求書に目を落とすと記載されている高級酒の数々…。
フェアリーローズリキュール210年物
フェニックスフレア70年物
アリムタシードル 年数不明
マイトマイルマインミード 数量限定
ヤルバトスウィスキー
アミールエール
トリトリサイダー
ゴブリンミード
安い酒場ではなかったのか…。
何故安酒場にこんな高い酒があるんだろうか。
特にフェアリーローズリキュール210年物は勘弁してほしい物だ。
どうせ自腹になるなら飲んで見たかった。
フェアリーローズリキュール
エルフのとある一族だけがが作れる幻の酒である。
原材料は世界樹と呼ばれる巨大な木になる虹色に光輝く果実から作られた醸造酒を蒸留した物にフルーツドラゴンと呼ばれる甘い果実のようなものを生やした魔物の肝臓から作った粉とエルフの住む領域のみに生息するハーブなどの副材料を加えて香味を移し、これまた高級な酒であるゴブリンミードと、アルラウネから作られた着色料などを添加し調製した混成酒である。
これは死ぬまでに一度でいいから飲んでみたい酒だった。
こんな目の前にあったのに…。
それに、合計金額78,000,000EAだと…。皇国大金貨7枚と皇国金貨8枚か。
中堅の海賊が使っている大型船が2隻買えてしまうではないか。
馬鹿者どもが。
自重というものを知らないのか!
はははは、財布がすっからかんだ…
ら、ラシエト様に借金をするしか私には
「ーーーちょっと、ラシエト様。そのナレーションやめてもらえませんか?」
頭を抱えながらゴンスに成りきって心境を語っていると普段笑わないゴンスが笑みを浮かべていた。
「やあ、どうしたんだい?お金がないなら貸してあげようか?この…っ!?あいでででで!?!ちょっ、マジやめっ」
痛い痛いやめろって、冗談だから。
ちょっとからかっただけなのに笑みを浮かべたゴンスは肩を握り潰さんばかりの力で掴んできた。
「あー、いった……なんてことをするんだい全く」
「ラシエト様が悪いのです。そもそも奢りだからといっても78,000,000EAも使うこの馬鹿共と安酒場を売りにしているのに高級酒を出したオーナーをなんとかして下さい」
「いやなんとかしないよ、無礼講だって」
「……私のサイフが」「借金する?しゃう?いひひひ」「しません」
『かんぱーい』などと寝言を言っていた新入りを蹴り飛ばしてポケットからサイフを盗みとる外道。
「クズかよ」
「拝借しただけです」
「いや何中身抜いてんの」
「…ラシエト様、いいですか?彼は酔っ払った拍子に中身を落としてしまったのです」
「よくないよくない」
「……(じぃー)」
「男に見られても嬉しくねぇな、ゴンス君が可愛い女の子だったら口が滑ってたかもしれないのに、ああ残念」
「ラシエト様はなよなよした女が嫌いだと以前」
「……えー、あー。いや、それとお前がそれをやるのは関係ないだろ」
「前々から思っていたのですがーー
「ハッハァ!ここがアジトか!」
「ちょっと待って下さいよ植松さん」
「あ?テメ俺に指図すんじゃねぇぶっ殺すぞ」
「龍夜、たしかにいきなり入るのは危険だっ……ってもう入っているのか」
聞かれたくない質問が飛び出そうとした瞬間、とんでもなく都合のいいことに殴り込みが入って来た。
ていうかゴンス…何かと言葉被せられること多いよね。
なんだなんだなんだ??
この馬鹿っぽいガキ共は。
"ウェマッツ"に"リーウヤ"というのはなんだろうか?二つ名か?
「(おい、ゴンス。あいつらなんだと思う?見たことない見た目をしているぞ?)」
「(はい、たしかに。炭のように黒い髪に闇を連想させる黒い目ですか…。ビーストにこのような容姿をした者達がいると聞いたことがあります)」
「(ビィ〜スト?こいつらが?どう見ても人間のガキだろ)」
「(もしかしたらーー
「おいっ!テメェらコソコソ話してんじゃねぇよ」
あ、また被せられてる
ゴンス君、君泣いてもいいよ。
とりあえずビーストということで話してみるかな。
「やあやあ、すまないね!いきなり入って来たものだから驚いてしまったのだよ。
それでビーストの青年達?ここは高級なお店でね、お金はあるのかな?ん?」
「(ラシエト様、それは交渉ではなくただの煽りです)」
いや煽ってんだよ。
当たり前だろこいつら絶対たまにくる殴り込みか賞金首稼ぎの連中だろ。
「あ?何言ってんだテメー。俺様は勇者だぞ!大人しく殺されろや!」
あ、想像以上に頭悪いはこいつ。
なんだこいつは、図体ばかりで頭入ってるのか?
教養もなさそうだし、五月蝿えし、口調が悪いし。
「(確かに口調はラシエト様並みに悪いですね)」
……一言余計だと思わないかな?
「やっ、やっぱり。人殺しなんて良くないよ!!」
「うっせぇえ!お前は黙って回復すりゃあいいんだよ!こいつらをぶっ殺せば姫峰院の野郎を超えた勇者になれんだよぉ!」
"ヒネェミェ二ィン"?"ユウシャ"?
よくわからない単語は無視だ無視。
なんだこいつら、本当に。
仲間割れか?
それに人殺しは良くないってマジかよ……。平和になったと言え宗教的に殺しを禁じられている神官が殺人しているような時代だぞ。
いや、ほんと。えぇ?!
んー?他の国から来たのか。
……っ!?
「(まさか)」
「(私も同じことを考えてました)」
「(今度はお前が聞けよ)」
「盛り上がっているところ、すまんが、お前たちは何処から来たんだ?」
すると彼らは顔を見合わせてたのち、散々殺すと騒いでいた男を抑え、奥で割と冷静にこちらを観察していた青年が口を開いた。
「僕らは東にある島国から来たんだ」
東にあり島国だと?
「……んなもんねぇよ。ざけんなガキぃ!オ"ラァ!嘘付いてんじゃねえぞカスが!
つかいつまでグースか寝てんたこのボケナスがっ!
お客様だ、さっさと歓迎して差し上げろ!」
東の島国とはな。全くもっとマシなウソはつけないのですかな。
オレはこれでも東の海を事実上制覇していた大公国な時期領主だったんですけど…ねぇ?
殺気をいつまでもオネンネしている馬鹿共に当ててやると慌てるように立ち上がり武器を構えてあっという間に包囲を完成させた。
「「「ーーっ!?!?」」」
漸く自分達が包囲されたことに気づいたようだ。
ツバをゴクリと音を立てて飲み込み目を見開いている。
大袈裟か。
演技だったらこいつらはプロだ。
いやしかし気づくのがいくらなんでも遅い……遅すぎる。
まさかただの一般人じゃないだろうな?
だからといってここまできたら返すつもりはないけど。
もしかして一流の暗殺者が粋っている青年を演じているという可能性も捨てきれないな。
いやしかし、暗殺ギルドはウチに関わらないと契約したはず。
それほどの暗殺者がギルドに所属していないはずもない。
思考を巡らせていると島国から来たなどと嘘をついた青年が何やらおかしな動作をし始めた。
「スキル《全能力解析Ⅷ》」
奴がよくわからない事を呟いた瞬間魔力が高速で飛来してきたのが見えた。
魔法に適正のない部下の多くは気づくことさえなく馬鹿にした笑みを浮かべて武器を構えるのみ。お前らが馬鹿だ。
ゴンスも魔法の適正がない為か全く気づいていないようだったので指から飛ばした下級魔法で自分に来た分と一緒に相殺しておいた。
まさか相殺されるとは思わなかったのか一瞬顔を歪めた彼は、今度ば頭を掻きむしって乾いた笑いを浮かべだした。
「HP 28000だと…な…嘘だ……ろ、う、嘘だ!HP31000っ!?おかしい。なんなんだよこいつら、序盤なのになんでこんなに強いんだよ、おかしいおかしいおかしいおかしいぃ!!ああああああああ!!!ぼ、僕は死にたくない!いやだ!僕は東大に行くんだ!こ、こんなところで死ねない!う、うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあ…!?!」
「お、おい!」
「え?うわぁ!」
再び訳のわからない事を呟やき出したかと思うといきなり仲間を突き飛ばして叫びながら股から顔から洪水のように水をながらして外へ走り出していった。
あまりの汚さに避けてしまった部下の脇をすり抜け、仲間の制止の声を無視して逃げ出した。
うん……何があったか知らないがとりあえず放置でいいだろう。
目先の問題をまず片付けよう。
「ちっ…どうなって嫌がる」
「はっ、仲間に見捨てられたんじゃねぇのか?」
「んなわけがねぇ、シュウが裏切るなんてありえねぇ」
「ヒュー仲間思いダネー」
いちいち小馬鹿にする部下達。全く誰に似たんだか。
「ゆるさねぇ、やっぱり纏めて俺の経験値になりやがれ!スキル《聖剣召喚》ッ!!」
"ケイケェンチー"なんだそれは。と口を開こうとした瞬間、叫んだ青年から突然光の魔力が噴き出した。
体から炎のように吹き出す光の洪水は夜を照らし星々の輝きを隠し、酒場の屋根を吹き飛ばした。
やがて輝きか治ると先ほどまで掲げられていた右手には光り輝く剣が握られていた。
そして彼は剣をこちらに構え、ニイィと残酷な笑みを浮かべた。
「ほう、やる気かね」
「死ね」
短く答えた奴に、手をクイっと動かし挑発するように言い放った。
「ふん、ガキが。
格の違いを見せてやる
こい、雑魚が!
いや、名前を聞こうか?」
「あ?植松 龍夜だ」
「そうか、オレは…まあいいか」
名乗る必要は感じられないな。
こんな雑魚に名乗ってどうするよ。
「ちっ、おい、
テメーも名乗れや!」
「え?なんで馬鹿じゃないのー?わっ、怖ーい。
ちょっと話しかけないでもらえますぅ?
きゃー…
ふん、なんども言うがな。ここは酒場だぜ?
ガキは帰ってママのミルクでも飲んでな」
「……っテンメェぇぇ!!
うろおおおおぉぉぉぉおぉぉらぁ!!!しねぇやぁぁぁぁぁ!」
やはり馬鹿か。
馬鹿のひと覚えだな。
大きな声を上げて突っ込んでくるなんて、オレがガキの頃にしかいなかったぞ。
時代錯誤もはなばなしいわ!
顔を真っ赤にしてウェマッツ=リーウヤは突っ込んでくる。
さあ、オレが新入りにいいところ見せる為の踏み台になれ!
そう心で叫びながら
こちらも剣を抜いて一歩踏み出した。
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