第二話 たった二人で始めるクソ雑魚秘密結社



現実世界と類似する名前等が登場しますが、設定です。一文字違いの企業等も登場しますが、ワザとです。誤字ではありません。

この回を見終わって、ネタがわからなかったものなどあったら設定回を見てください。

小説になろうからコピーしているのでおかしな点があるかもしれませんが、見なかったことにしてください。



ーー




秘密結社の制服が出来たという連絡を受けて俺は朝から友人の家に向かっていた。

住宅地の中にポツンと一軒家の豪邸。

大使館かよ、と言いたくなるのを堪えず呟く。

これが初めてではない。だが呟くのは止まらない。

先の尖った高い柵に、検問がある門、警備員が庭を徘徊していて、馬鹿でかい庭の奥には洋式の宮殿的とは言いすぎかも知れないが、とにかく無駄にでかい屋敷が見える。


門まで歩いていくと顔見知りの警備の人がいた。

「どうも、お疲れ様です」

「いえいえ、今日はどのようなご用件で?」

「春樹くんはいますか?」

「御息子の春樹様ですね、しばらくお待ち下さい」


あー、めんどくせー!!

なんで友達に会うだけなのにこんな検問があるんだよ!しかも確認するまではないだろ!何回来てると思ってんだ!

仲のいい友人の名は近衛 メディオス 春樹と言った。士族の父と外国人の母をもつハーフだ。春樹とか文豪かよ。面白い小説書いてみろよ。


『はい、こちら…… です。え?……はあ……大丈夫です……はい……』

「警備の山口です。春樹様に会いたいというものが」

『来客者はどなたですか』

「少々お待ちください」


屋敷に確認しているらしい。

俺の名前知ってんだろうが。

と思っていると顔に出ていたのか、へこへこしながら聞いてきた。


「これも規則ですので……」

「あー、はい」

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「はい、統月(みつき)……あ"ー、柳葉統月(やなぎばみつき)です」


柳葉神社の息子。春樹とは春樹の父がうちの神社に来たのが始まりだ。

叔父は工場長で俺が工事に入ろうしているのは、神社が死ぬほどブラックだからだ。旅行禁止、24時間営業。朝から掃除、昼は儀式、夜は金稼ぎ。休む時間がない。

どうしてもやりたくなかった俺は反発する形で今は遊び惚けている。


「柳葉統月様ですね」

「はい」

「来客者は春樹様のご友人の柳葉統月様す」

『通して大丈夫です」

「了解しました」


ここまでのやり取りで10分。門の前でくだらない茶番を見ることに10分だ。

ラインで俺は春樹に、全然入れないからそろそろ帰るわと皮肉を書いて送ってやった。


「身体検査にご協力ください」

「いや、大丈夫です。ほら何にも持ってませんよ」

「いえ、規則ですのでご協力ください」

「いやいや大丈夫大丈夫」

「ダメです、規則ですので」

「いやいやヤダよ、友達に会いに来てなんでこんなに時間がかかるんだよ」

「規則ですので」

「そもそも、何回も来て危害を加えたことがあった?ないでしょっ、いいじゃん通してよ」

「いえいえ、規則ですのでご協力ください」

タックルをするも、全然通してくれる様子がない。なんでだよ!規則規則言ってんじゃねーよ!


ラインを見ると春樹から返信が来ている。なんだ?

タックルをするのをやめてスマホを見る。


"規則ですのでお荷物検査、身体検査にご協力ください"

"まさかタックルして警備を突破しようとしてませんよね?"



てめぇぇ!見てんだろ!どこだ!どこにいる!

「だからなんも持ってきてねーよ!」


「どうしたら、ご協力頂けますか?」


どう?どうしたら?

「あー、綺麗な女の人に検査してほしいなぁー。出来れば体の隅々まで」


いねえだろ?そんなやついないだろ?だからさっさと通せよ。

どうなってんだよ。俺も暇じゃねえんだよ!

と思っていると、向こうからすらっとした女性が来た。


「山口隊長、何用ですか?」

「ああ、よく来た。クリス、柳葉神社の御息子が身体検査にご協力頂けないようでな」


クリス。見たことがある。こいつはクソ坊ちゃんの春樹のメイドだ。

日本人だろ。メイドとかどうかしてるぜ。


「ああ、クリスさん。困るんですよ、規則規則って」

「柳葉くん」

「え?なんすか」

「綺麗な女の人なら身体検査やるのでしたよね」


「え、ええまあ」

言ったよ。言ったけども。

本当にやるの?

クリスさんは、本格的なメイド服を着込んだ女の人だ。20代くらいなのではないだろうか。

ま、本格的ではなくて本物のメイドなのだが。


「では失礼します」


いきなりズボンのポケットに手を突っ込んで来た。


「えっ!?あっ……ちょ」


「ああ、これは不審物ですね」


"ギュッ"


「んぎあっ!? あっ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!あ、あ、あぁぁぁぁ!!?!?」



腹を思いっきり殴られた化のような吐き気、股間に走る鈍痛。

鈍痛☆鈍痛☆鈍痛☆鈍痛☆鈍痛☆

いてぇわアホ?!


「ああああ……あっ……ああ……」

腰が砕けて、地面に手をついて、倒れた。ああ…………


「異常ありませんでした、大丈夫そうです」

「鳥を絞めた時のような声を出しているが大丈夫なのね?」

「大丈夫です」


警備隊長の山口さんは内股でチラチラクリスを見ていた。

クリスさん、あなたにはわからないでじょうねぇ!うああああああ!


「門前でゴミのように這いつくばっていないでさっさと入ってください。じゃまです」


「誰か……さんが……こんなことを……するから…………立ち上がれません」


股間を思いっきり握られたせいで激痛でとても立てたものじゃない。

血の気が引いている気がする。

叫びながらヨダレを垂らしてもがき苦しんだ俺に彼女は、鼻で、フンと笑って帰って行った。


◇◆



「ギャハハハハ!!!」


そこには不快な笑いをあげる友人がいた。

玄関開けたら佐藤のご飯♪

玄関開けたら近衛の春樹♪

だまれ。


凄え金持ちの庭。テーマパークかよ。ハウステンボスかよ。

といいながら庭を横目にまっすぐ歩いて屋敷前まで来た。


執事っぽい人がドア前に立っていて自動ドアにみたいに開けてくれる。


いる?今の時代に。ドアマンいる?

自動ドアなんて古代ギリシャ時代からあるんだけど……もう一度言っていい?要らなくね?

突っ立ってドア開けるだけの仕事とか最高かよと思いながら将来の仕事の一つとして頭の隅にとめて置いた。あとで紹介してもらお。

開けてもらったドアを潜って悠々と屋敷にはいる。

そこで待っていたのは、この不快な笑い声だった。


「ギャハハハハハハ!!どうだった?よかった?」


「ドキドキした」

ドキドキしたよ、潰されたのかと思って。

よく見れば、股間を握り潰そうとしたクリスは目の前のクソ坊ちゃんの後ろにひかえていた。

うしっ、もう一声言っておくか。


「ふう、俺の心も股間も胃袋もすっかりクリスさんに握られちゃったぜ」



クリスさんが眉をひそめる。


「キメェ、ヒャハハハハハ!!」



「金持ちのボンボンとは思えないような下品な笑いだな。」

「べらんめぇ!それこそ、ボンボンだからぁこそよ」


何語だよ。江戸時代か、おい。


「今度、自分も握って……じゃなくて、身体検査やって貰おうかな」


「うわ、きっも」

ないわー、うわー、きっもー。


「ブーメラン」

う、うるせえよ。


「それはいいけど、早く中に入れろよ」

お得意のタックルで入り口を封鎖している春樹を突破しようとする。


「ちょ、おま、タックルやめれ!(笑

わかったわかったよ、案内するから」


「あーよしよし、いい子いい子」

「悪ノリやべえな、どうした今日も絶好調だな」


当たり前だろ。ストレス発散だよ。

いい子いい子と言いながら春樹の頭を撫でる。いや、撫でるというより高速で動かしてわちゃわちゃする感じだ。


「おいっ!乱れるだろ!」


ワザとだよ。


「あっ、ああ!?ちょ……早い!禿げる、禿げるからやめて」


「おーきーどーき、おーるらいとだよぉ」


「なら最初からやるなよ」

といいつつも怒っている様子もないし呆れている感じでもない。笑っている。

数少ない親友の春樹とは昔からこんな感じだ。


「さあ、ようこそ我が家へ!君を魔法の世界にご案内するしちゃうよ、ハハッ!」

と………俺は手を広げて春樹に言った。



「統月(みつき)だからか?」

そうだよ。みつきーさんだからだよ。


「それからいつからおまえんちになったんよここ」

「え?ここ俺たちでシェアハウスにしたじゃん」


「そうそう、ああお前ちゃんと荷物片付けてよな、掃除す…………って違うわ!」


「どうした?上機嫌じゃん。随分とノリいいね」


「そう、そうだよ!制服ができたんだよ!」


……あー、そんなこと言ってたような。

そういう用事でここに来たんだったわ。

忘れてた。


「えっと、どれ?」


「あ、これこれ!」

こっちついてきて!

そう続けて奥に歩き出した春樹に続けてついて行く。

後ろにはメイドのクリスさんもついてきた。


【1F 客員室】と書かれたその部屋の前についた。クリスさんがドアにかかった鍵を開け、どうぞお入りくださいとドアを開けたままにしてくれる。

春樹と俺が入ったあと、見知らぬメイドさんたちが入って来て、椅子をひいてくれたので目でお礼をして座る。

カラカラと音を立ててカートを押して来た茶髪で緑色の虹彩をしたメイドさんが春樹と俺の分の人数分の紅茶と、お菓子を置いて行く。

紅茶からは凄くいい匂いがして、熱々にもかかわらず一口つける。


「ふう、今日も相変わらずいいお茶だ。ふむ、これはルイボスティーですな」




「ぶふっ!?……くっくっ……くっ……」


笑いが堪えきれず口に含ませていた紅茶を吹き出す春樹。

すかさず、ポケットから取り出した布で、春樹の顔まわりとテーブルを拭くクリスさん。

吹いた紅茶を取り替え新しいティーカップを用意したメイドさんは

「……いいえ……、それは、アールグレイです」


そう俺の間違いを訂正してそのままカートを押して部屋から出て行った。



◇◆




「余興も終わったことだし、さあ、本題に入ろうか」


そうし切り出した俺に春樹は、なんでお前が仕切ってんねんと、エセ関西弁を喋ってツッコミを入れて来た。


「いや、つっこまれ「その話は置いといて」」


……るより、つっこみたいと、下ネタを言おうとした俺の言葉を予知してか話を被せて来た。

どうやら話が脱線するのを感じたようだ。

仕方ない、話に乗ってやるか。


「で、どれなの。制服って?」


「あー、"パンパン"」


春樹は手を二回叩いた。何様だよ。ンなの水戸黄門に出てくる悪徳商人とか漫画で出てくる貴族くらいしかやってんのみたことないぞ。え?んん?


「失礼します」


ガチャと空いたドアからまた違うメイドがやってきた。

早えよ、制服持って隣の部屋で待機してたろ。

メイドの手にはハンガーにかけられた上下の服があった。


「ほう……これは……」

ふむふむ、興味深い。


「わかるか、友よ」


これはこれは、かの有名なアレじゃないか!なんかほらあの、そのアレだ。

凄いなんかその、あれで…………うん、やっぱりわからないな(笑


「いいや、さっぱり」


「だと思ったわ」


「これ何?タキシードっていうやつ?」


「違う……ただのタキシードではなぁい!!このッ!発明はぁ〜!」

なんだその喋り方は。



「クリスティーナ答えてみろ!」

クリスティーナって誰だよ。

と思いながらクリスさんをみる。

ああ、クリス、クリス言ってたけどあれ愛称だったんね。

今度からクリスティーナさんって呼ぼう。


「へぇ、なんだ。クリスティーナっていうんですか、知りませんでした」


「クリスティーナではありません……クリスです」

は?違うんかい!

何がクリスティーナだよ。偉そうに言って間違え……おん?クリス……ティーナ?


……。

…………あー。

あ!ああ!おけおけ。

鳳堂院春樹ね!"『我が名は狂気のアークウィザードを生業とし、なんとかな何ちゃらをなんとかするフゥーハハハハハなマッドサイエンチストだ!』"な人だったな、たしか。

なんで、今日に限っていつも、外で警備とかしてるクリスさんを連れてきたかと思えば、そういうことか!

なるほどな。

鳳堂院春樹で本名が近衛メディオス春樹だから……あーおかり……じゃなくてこのりん?


「このりん?この戦闘服の名前、アヴゥリュークロス式戦闘服バージョン0.28でいいんじゃね?」


「……」


な、なんだよ。黙るなよ。

なんの沈黙だよ。


「……」


「あ"ー、うん」


いやわかるよ。

うん、うん。

「ないね……」


「自分から振った話だけどやめようか……」

「うん」


"俺たち二人共、そんな背高くないし、体系も痩せてるし、一人は真夏にファーきてる変態で厨二病で金持ちで、俺は神社の息子で工場で働いていて目の色素が薄いせいで虹彩が灰色なんだよな。

もう、キャラが濃すぎて合ってないなー、とは思ったよ?

やめよう、やめましょう。あれはどちらかといえば、秘密結社とかと戦う側じゃん?

俺たち秘密結社を立ち上げようとしている側じゃん?

だからさ、変に、不用意に設定を持ち込むのをやめよう。"


「そうだね」


「怖っ……また心を読んできやがったよ」


「いや、テキストをLINEで送りつけてきたやん」


と言いながらスマホの画面を見せてくる。いや、今送ったの俺だし、いや、わかった。わかるからいいよ。でも、それこそお前が嫌ってるメタ発言なんだけど。


「そうだけど」


ウンウンと頷いて勝手に納得した春樹はスマホをポッケにしまい込んだ。


「でもさ、戦闘服の名前はそれでもいいかもね」


でもさ、じゃねーよ。

いきなり話変えすぎだろ。

ま、いいけど。


「あー、うんいいんじゃね」


「あの、失礼ですが何か意味のある名前なのでしょうか」

ほんとに申し訳ないという雰囲気を出しながら小さく手を上げたクリスさんは、そう聞いてきた。

多分、メイドだから、だろな。メイドとして主人に質問をしてはいけないとか。

いや、もうアニメの知識ってか。

……想像でものをいうのをやめよう。

知ったかぶりをしたらダサい。

もう紅茶の一件で恥をかいたばかりだし。



「「アヴゥリュークロス式戦闘服バージョン0.28…………特に意味はない」」


口を揃えてそうクリスさんの問いに答えて、ニヤリと笑ってハイタッチをした。

「イェーイ!」

「ふぅーい!!」


「一度言ってみたかったんだよねー!クリス、ナイスゥー!」


「クリスさん、やるぅー」


「は、はぁ」


困っているクリスさんも可愛いな。



◇◆



「はーん?」


「フン、はん」


「ふぁん」


俺たちはどこぞの村人のような声を出してタキシードこと、ア……炙り黒酢?「アヴゥリュークロス式戦闘服バージョン0.28だ」…あ、それね。

何ちゃら戦闘服とやらをみていた。


「ふぁーん」


「フンァーン」


春樹も春樹で凄いのを作ってと頼んだらしいがここまで凄いのが出来るとは思っていなかったらしく、へんな声しか出ないらしい。


「えーと、もう一回説明してもらっても?」


「は?」

戦闘服の構造やら素材やらを書いたリストを先ほど読み上げたクリスさんは、眉間にシワを寄せながら、呆れたように見てきた。


「いや、ほら春樹ももう一回聴きたいって言ってるしさ」


「え!?……えー……クリス、ボク、モウイッカイキキタイナー」


「はい!じゃあもう一度説明させて頂きますね!」


うーん、態度の差。一応、客なんだけど。春樹の話は聞くのに俺が聞くと"カスが"とか"ゴミが"的な幻聴が聞こえてくるような冷たい目で見てくるんだよね。


「おい、聞け」


「は、はい」

怖いなぁ……。聞けって、クリスはん、怖いねん。

ははは、黙ればいいんでしょ。

わかったよ。


「アヴゥリュークロス式戦闘服バージョン0.28と先ほど決まりました。このタキシードには耐火、耐電、耐水の防弾布を使用しています。防弾チョッキと違い防弾布は軽く身体の動きを阻害しない作りとなっていますが、普通の布に比べて若干重く着ると少々暑いと感じる作りとなっています。

GPSや電磁充電システムも完備しており、最新の電子工学により作り出された伸縮性の人工筋肉を編み込んだこちらのタキシードは実質的に陸上自衛隊に配備されているものの12倍の性能をもてパワースーツとなっています。

付属品のこちらの腕時計型端末にはカード式ロックシステムのマスターキー機能搭載、隠しカメラ、無線機も搭載しており、最新式のリチウムバッテリー内蔵のため長い時間の活動にも向いています。

それから、靴は安全靴をベースとして特定の動きをしていただくことで隠し刃が飛び出し近距離戦闘を可能としました。

さらに手につけて頂く手袋には超能力検査器の電波をキャッチして発熱する素材を採用、手というのは重要な部位ですので硬化素材他、吸着機能も付与されているので壁に張り付く等も可能です。もちろんタキシード本体だけでなく付属品も人工筋肉が編み込まれているので、使って頂ければわかりますが、全身の力がみなぎります。

それから……」


「頭痛くなってきた」


「そうかな?」


「聞いてますか?それで、ですね、腕に関しては外郭骨格系のパワーアーマを開発しているので要望があれば第3開発局までご連絡ください。

現時点で作られている外郭骨格系パワーアーマにはステンレスと鉛の合金で作られいまして人間が持ち上げるには苦労するような重量ですが、人工筋肉を搭載したタキシードを着ることにより重さを軽減し、将来的には全身をパワーアーマで覆って頂くことにより人間の限界であるAJP値1400を超え、AJP値76800程度の能力を発揮することができるようになります。資金は……」


「もうわけがわからないんだが」


「うーんとね、あー統月がわかるように言うと"なんか夢の技術がたくさん使われた高価な服"って感じかな」


「なるほどーわかったよ!」


俺は考えることを放棄した。



ようやく終わった説明。

ようやくすると、高い服でなんか凄い服で春樹サマが使うのはいいが、クソガキ(俺)に使うにはもったいねー服だ。ってこと。


「わかりましたか?」

なげえよ、わからねえよ。

超能力者とか秘密結社の設定で頭いっぱいなのに戦闘服の"設定"まで言われたっておぼえきれねぇよ。


「もうい……いやいいです」

睨まれた。


「よろしい」


「覚えきれなかったので、その紙あとでください」


「秘密保持の為、この場で焼却させていただきます」


俺の話を無視して、懐から取り出したジッポーでジッとやってボーと火をつけた。ライターじゃなくてジッポーとはハードボイルドだな。

ジッポーっていうのは蓋のついたライターだ。半グレのあんちゃんとか、強面のおじ様とか、軍人とかが持ってる金属に覆われたライター。キューバの革命家マラクオバナ?マラクゲバナ?あ、チェ・ゲバラがジッポーを愛用していたとかなんとか。

それでどうも女の人がジッポーを持ってると違和感を感じるけど、偏見だな。


目の前でみるみるうちに真っ赤に燃え上がっていく紙のリスト。暑くないのかな?ま、メイドさんだし、なんか秘密があるんだろう。

メイド イズ 神秘。


あー、スパイ映画でそんなのみたことあるな。サイボーグのほうは007だから。"デデン♪ジァーンデデーン♪"って音楽のスパイ映画の名前はたしか009だったな。

そこで報告を受けた司令官みたいな人が報告書に火をつけてやいてたな。


にしても、しかし、防犯や火災にやたら気遣って火災報知器をつけまくっている近衛亭で、紙を室内で火をつけて焼いても大丈夫なのだろうか?

もしかして、事前にシステムを落としてきたのかな?

そもそも、スプリンクラーってついてるのか、この部屋。



そう考えながらぼっーと立ち上る煙を見ていると、やかましいサイレンを鳴らしながら不意に天井や壁から大量の水が噴き出した。


「あ」


一言そう呟いたクリスさんが見えた後、俺たちは土砂降りのような水に飲み込まれた。


◇◆





一人だけびちょびちょになった俺。部屋の中には春樹とメイドのクリスさんと俺の三人しかいなくて、普通に濡れたのは俺だけ。

庶民の呉服屋、ユネクロの服でコーデを決めてきたというのに台無しだ。

アロエスミスだかエアロスミスだかなんだか忘れたが羽の絵が、書かれたコラボTシャツの上に水色のシャツ。

それに加え穴の空いたダメージジーンズを履き、穴の空いたダメージリュックを背負ってきたというのに見る影もない。


ダメージファッションは金持ち着れば流行に、庶民が着れば貧相さ、増すばかり。


あ、リュックを入り口でメイドさんに預けてきてよかったわ。

あぶねー、スマホもリュックの中だからちょっと、安心だわ。


水色のシャツは濡れて紺色に変化し、下の生地の端からはポタリポタリと水滴が滴り落ち、ワックスで整えてきた髪は洗い流され海苔か海藻のようにべたりと張り付いた。

だというのに、春樹もクリスさんも濡れていない。

どうしてだよ。

もしかしてあれか?ドッキリみたいに一人のところだけ水を浴びたりするのか?ええ?


「で、どうなの?」


「は?何がだよ、急に言わなきゃわかんないし」


はん、つかねえーな、今こそ心読めよ。


「俺だけびちょびちょに濡れたからさ、なんでかなって」


「あー、うちの服撥水加工されてるから、うん当然だねー」


「は、まじかよ。いいなー、傘いらわないじゃん」


「いや、いるわ」


「じゃあクリスさんも?」


「そそ」


へぇ。と呟きながら濡れてない二人を見てそれから自分と同じようにびちょびちょになった部屋を見た。

暖炉とか絨毯も水が入り込んでるけどいいのかこれ?


絨毯以外の布……つまり、テーブルクロスやカーテンは撥水加工がされているらしく、水が染みている様子はない。


クリスさんは、インカムで一言呟くとドアを開けてメイドさんたちが何人も入ってきた。あ、水を拭きにきたんだ。うわ、お疲れさま。

頑張れ。

手にはモップ、掃除機みたいな機械……これは床を濡らしてる水を吸うバキュームのようなものかな?それから雑巾とバケツを持って水に濡れた部屋を拭き始めた。


「めっちゃ無駄じゃん。水じゃなくて消化剤にしろよ」


「いや、うんいいんだけど、うちにあるもの、美術品とか多いし消化剤がかかると変色する可能性があるから、水にしてるんだ」


「へー、うん、ならしょうがないかと言いたいんだけど、いくらなんでも水が多すぎだろ。てか撥水加工の服を着てればスプリンクラーが作動しても濡れなくていいけど、部屋がびちょびちょってどうなのさ?部屋を乾燥させたり排水するような構造作りゃあいいのに」


「うーん、でも先代の近衛家の当主が作ったやつだし、そもそもこの建物、国の重要文化財に指定されているから早々、改築とか出来ないんだよ。残念ながら」


「え!?まじかよ、重要文化財なの?」


「いや、見りゃあわかるじゃん?」


わからないからいま、そうなんだ!って驚いたんだけど。


「わからなかったわ」


「ふっ、まあ気にすんなよ。誰にでも得意不得意はある」


偉そうなことを言いながら春樹は懐からスマホを取り出した。

あ、それcyborgⅩじゃん。象が踏んでも壊れない、水深150mでも使えるスマホって売りの最新機種じゃん。


「いいな、どうしたんそれ」


「貰った」


「ぱねえ」


「あそこの社長が、あげるっていうから」


「それ、発売日まだ先のやつじゃん。凄えな。もう世界が違うなーって思っちゃうわ」


「だろ」


そう言いながら、春樹はカシャカシャとシャッター音をたてながらスマホで写真を撮ってきた。

なんだか知らないが、どうせろくなことに使わねーんだろ。知ってるぞ。

や、やめろよ……とか言うと面白がって余計にとってくるから、シャッターを切るたびにポーズを変えて撮影されてやった。


「はいいいねいいねいいね〜はいチーズ」


「おっけーい!もう、終わりかな」


何枚取ってんだよ。


最終的には立ち上がってポーズまで決めたゲリラ撮影会は終了した。

妙に疲れて椅子に座ると、くちゃりと濡れた布から水が吐き出されるような嫌な音がして、椅子に触れた部分の肌がじんわりと冷えた。

スプリンクラーから出た土砂降りでだいぶ薄まった紅茶を飲みながら椅子にもたれかかって天井を仰いだ。


「秘密結社の話いつやるんだよ」



◇◆◇◆



以前から自由に利用していいと言われている。


広い広い、大浴場。大理石っ作られたそこは25mプールよりもでかい浴槽があった。

それ以外にも泡風呂や電気風呂、サウナ、ワイン風呂まで。


スーパー銭湯か温泉施設かよってくらいの規模、決して個人が使う大きさではない。


ここの大浴場には男女で別れていないが、一つの大浴場を時間を決めて使い分けているらしいので、問題ないようだ。


ちなみに春樹曰く、体を洗う時は、メイドが全身を洗ってくれるらしい。


おい、男性職員どこいった。


メイド多すぎだろ。




くっ……何よりも、羨ましいぃぃぃ!!



適当に湯に浴びてさっぱりしたと、風呂上がりになぜか着替え部屋に置かれた自販機からフルーツ牛乳を取り出して、ごぐりごくりと一気に呷ると、嫌な熱気がとれてスッキリした。


てな訳で、濡れた体を大浴場で温めた俺は、びちょびちょのユネクロの服の代わりに早速、秘密結社の戦闘服を着てみた。


光沢のある黒の上下のタキシードと、紫色のシャツ、黒の蝶ネクタイをつけてピシリと決めた。


説明されている時は気づかなかったけど、タキシードの内側の模様が和柄だった。



……ヤクザかよ。


大浴場から上がると体を拭いてくれてドライヤーをかけながら髪を整えてくれて、服を着せてくれて、身だしなみも整えてくれる。



ああ、癖になる……ダメ人間になりそう。




【1F 客員室】はスプリンクラーのせいというか誰とは言わないが人的なミスで使えなくなったようなので、違う部屋に案内された。


大浴場があるのは屋敷の東側。東側側は食堂や書庫、大浴場と言った施設があり、北側が客室、あまり行ったことがないが西側には倉庫や寝室があるので使用人の寝室とか厨房もそこにあるのだろう。


大浴場を利用した俺はメイドさんに案内されるままに一度、入り口の大広間まで出た。

これで入り口正面のドアに入れば北区間だから、多分そちらに誘導されるのだと思うがその前に、いい機会だから聞いておきたいことがあったんだった。



「前から思ってたんすけど、これ誰ですか?」


玄関の入ったところ、上野美術館の本館の入り口みたいに吹き抜けの大広間が広がっていて、中央には2階にあがる階段。階段の左右にはドアがあって、左が食堂で、右は知らない。



上野美術館と違うのは1階と2階の間、1.5階とも言えるスペースにドアがあるわけではなく、この近衛邸には偉そうなおっさんの肖像画が飾られているのだ。



皇帝かよ。というような絵。

見るからに日本人ではない。


「あゝ!こちらは近衛 メディオス 春樹様の名前にあるメディオス家の宝物になります。

メディオス家はヘルチリア連邦王国の皇族の流れをくむ 一族で、こちらの肖像画は12世紀メディオス当主、"ヨハネ・ビス・メディオス様"が宮廷画家に命じて描かせた絵だといわれています」



皇族の流れをくむ一族とか……え?マジで?

あー、社交界とか言ってたなー。

うーん、住む世界が違うわ。

ようわからんけど、わかることが一つある。


ぱねえ。




現実逃避した俺は、そのあとも続いたメディオス家の歴史について、じっくり聞いて、やっとのこと部屋にたどり着いた。


このメイドさんは、楽しそうに話していたし、歴女かな?



と……。

つれてこられた、ぼーとしている間についたらしい。


部屋の前には特に何も書かれていない。

身だしなみを整えてくれたあと、部屋まで案内してくれた名前を知らないメイドさんは、"扉の前でこちらです"と一言いうと頭を下げて帰っていった。


俺がノックをするわけもなく、ガチャリとドアを開けると、春樹は何か紙を見ていて、クリスさんはそれを覗き込んで微笑ましげに見守っているっぽかった。


最終にクリスさんが気づいて一歩遅れて気づいた春樹は、顔を上げるなり


『お!思ったより似合ってんじゃん』

とわりかし失礼なことを言って出迎えてくれた。



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