第一話ノリで始めたベンチャー秘密結社


配線がカビたラジヲのように芸能人のどうでもいいスキャンダルを垂れ流すテレビ。夏の猛暑は収まらず日に日に熱くなるばかり。就職活動、インターシップなんだかんだ言って大学生は遊んでいられない日々。

暑い中スーツを着て歩けば滝のように汗をかき、電車に乗れば寒すぎる冷房に冷やされ風邪を引く。


言葉は過去最高の暑さを記録し……ここのところ毎年のように聞くそのニュースをみて溜息をついた。

家からでなければいい話だった。

しかし、今日はそうとも行かない。

道行く先々ですれ違うおばさん達が吸血鬼のように真っ黒な傘をさして通り過ぎて行く。

このからんからんな天気だというのに傘をさしてどうしたんだ。

目線の高さで傘を差して歩いてくる危険性に気づかないのか、気づいているけど相手が良ければいいと思っているのか。

つくづく感じるが、アレだな。

こう暑い日に限って無駄な思考が湧き出すというか。


太平洋側が晴れたら日本海側は雨。

ということわざ……ではないが豆知識を教えてもらったことがあったな。

この天気を分けてあげたいくらいだ。

暑くて暑くて仕方がない。

待ち合わせをしている友人に日を改めないかというのは今からでも遅くないのではないか。道半ばにして右のポケットから取り出したスマートフォン。

右手の高速タップでメールを打った。

『やっぱり暑いし今度にしないか』

と送ろうと思ったところで『大切な話があるから絶対来いよ』と言われたのを思い出した。

とりあえず打ち込んだ文章を⌫を押して全てを消した。


黒いスマホが暑い、朝から照りつける日差しで熱々に熱せられたコンクリートは尚更暑く、化学製品を燃やした化のような異様な匂いをだしていた。

全てがおかしい。

俺は汗をダラダラと垂らしながらそんな街を歩いていた。


使い続けてふにゃふにゃになったリュックサックから水筒を取り出し一口飲む。

中学生の頃から使い続けたこのリュックはもう何度か穴が開いている。

別に新品を買えないほど生活が困窮しているわけではないがまだまだ使えるということでパッチワークみたいに他の布を継いで直し直し使っている。

それにしても時期的にちょうど良かった。

東京に行くとどこもかしこも破れた服を着ている人ばっかりで。

ああ、そういえばアレは貧しい訳でなくて"ダメージジーンズ"というらしい。

とすれば、自分が今背負っているリュックサックもダメージリュックとか言ってもいいかもしれない。

名残惜しく水筒の口をつけたまま歩いて飲みすぎては途中でトイレに行きたくなるだとか、無くなっては困るだとか、ぼあぼあと頭に浮かんできて二口めを飲むことはなかった。

結局のところ、ケチって一口しか飲まなかったっていうのもある。


飲んで喉が潤ったどころか、一口しか飲まなかった所為で余計に喉が乾く。

もう一口飲もうか飲まないか悩み続けて黙々と歩いているうちに目的地にたどり着いてしまった。


緑の地に赤い文字が特徴的なイタリアンレストラン、サイエリーゼ。サイゼという愛称で親しまれる庶民用の"本格"イタリアンレストランだ。


妙に重たい二重扉を押して中にはいると、涼しげな鐘の音とともに喧しい騒音が耳に入る。

騒音の中には『いらっしゃいませ!』とか『らっしゃっせー』という声もある。

半面鏡張りの大広間には幾多のテーブルが配置され各地からきた選りすぐりの庶民たちがよれた服をきてこの店に来ていた。

このレストランには立派な天井画や、壁画が施され、まるでギリシャの神殿か、いやはたまた教会を思わせる内装だ。

すでにイタリア要素はない。

鏡張りの壁には半分しかない楼台がくっついている。

鏡で反射させることでシャンデリアに見せようとしているズル賢さがステキなお店だ。

そしてその大きな鏡で店を2倍の広さに見せようとしている感ありありで友人の言葉を借りるとすれば

『高級ヘタリアレストラン』と言ったところか。

上を見上げればレストランにはそぐわない騒々しすぎる天井画がお見えになるのだ。

にこやか笑みを浮かべる全裸パーマ男児改め天使が青々とした空を飛び回っているのだから意味不明である。

宗教施設ならともかくなんだこれと言いたくなる内装であるが、まぁここまでボロクソ言って見たものだが自分は一番この店が好きである。

他にも天使に留まらずよくわからない神々の絵は食事をする場所にしては少しやかまし過ぎるとか思わなくもないが通い慣れたせいか来るとこう、なんだかそれが落ち着く。

これでもか!と言わんばかりに日本人が考えた"ぼくのかんがえたさいきょういたりあん"的な感じがするが一体誰がこんな内装にしようと思ったのだか。


いつ来ても若者で賑わうこの店は午後4時というこの半端な時間帯でも混み合っている。

その大概が常連さんだ。

だから店員に案内されながら席に向かっていると顔見知りばかりでなんだか楽しくない。

楽しいではなく楽しくないだ。

新しい顔がない、変化がないと言うのはなんだか寂しいものだ。

彼らとは顔見知りだし名前も知っているが話したことはない。

知り合いで話すことがあれば同じ顔でも楽しいだろうが一方的に知っていてそれで毎回話せないとなるとやきもちした気持ちが募ってだんだん嫌になるものだ。

全く彼らは個人情報というものを大切にできないのか、大声で話す。

内緒だよじゃない。

みんな聞こえているじゃないか。


ちなみに俺や今からくる友人が同じことをしても大した問題にはならない。

がこれからここにくる友人はちょっと変わったやつで演技か設定か。それとも本気なのか俺は組織に命を狙われているとか言ってた。ああそういえば最近捕まった煽り運転の犯人もそんなことを言ってたような?

あとで煽り運転して指名手配されてないかからかってみるか。

さて、何故なら俺たちが個人情報を大声で話しても問題ないかといえば、まず俺の叔父が町工場の社長で住所を公開しているということだ。最近はwebページも作ったみたいだし尚更という感じである。そして友人は近所では知らない人がいない大金持ちだ。

住宅地の中に突然現れる大豪邸。アニメじゃあるまいし何故ここに建てたし感が凄い。

大使館じみた頑丈な警備網に強そうな門番、それから黒塗りの高級車。

そして巨大な洋館。……羊羹ではない。

俺は何を言っているんだ。

仲良くなったあと友人宅に最初にお邪魔してた際は驚いたものだ。

お邪魔しましたーと言って右回りして帰ろうとしてしまったくらいには。

俺のような下町の工場の息子とは住んでいる世界が違うなんて思ったこともあった。

話してみるとそんなこともないというか、より気があうようになってからはそんなことを思って壁を感じることはなくなったけど。


遅いなぁと思いつつ待つことしばらく、あまりに来ないものだから昔のことまで思い出してしまった。

4時丁度に待ち合わせした友人は約束の時間から15分も経つと言うのに来ない。

朝の4時と勘違いしてないだろうなと腕につけた年季の入った時計を見てそんなことを考えた。

先にメニューを開いて注文でも取ろうか、悩んでいると店の入り口の鐘をチロリンと鳴らして誰かが入って来た。


待ち人来たり。

友人が来たと一瞬でわかった。

まただよ、俺は彼が来たことを確信して見ぬふりをした。



そいつは、俺の予測どうり案内しようとした店員に対し、

『案内は結構だ。だが機会があれば今度僕がエスコートさせてくれないかいお嬢ちゃん?』

とふざけたセリフを言った。

こいつ馬鹿か?そう思いたいところだが思えない。何故ならこいつは毎回このやり取りをやるからだ。

そして友人は誘った店員、他の女性客から汚物をみるような視線をその身に浴びながらそのまま歩いてきた。

あーあ、やめてくれよ。俺まで仲間だと思われるだろう。

そんな心情を知ってか知らずか向かいにどかりと座った。



「おいおい親友(とも)よ、どうしたよ?つれねぇじゃねえか」


へらへらした笑みを浮かべて座る友人。

何がつれないのか、その小説に登場する山賊とかチンピラ的な話し方やめろよと思ったが、夏だと言うのにファーがついたコートを着て来た方が気になって仕方がない。

おい、過去最高の暑さって気象庁が発表してたぞ?お前はアホか。

いくら金持ちが見栄っ張りでも夏にファー付きのコートは滑稽だ。

つれないとかいうまえに言動と格好をなんとかしろよと。

その件に関しては口に出さなかったがメニューから眼を離さず

「誰だお前は」


と言ってやった。

遅れてきたのもちょっとムカついたのですかさず『15分遅れだぞ』と文句を続けた。



目の前でへらへらしている男……俺の待ち人の友人は『フランス帰りなもので感覚がずれちゃったんだ、まっ仕方ないね』と言い訳した。

フランス帰りだろうがフランス人だろうが、時間を破る奴は破るが守る奴は守るだろう。

お前……フランス人舐めてんだろ。


「フランス帰りと何か関係あるか?訳のわからない言い訳するなよ」


「あー、そういえばここのマルゲリータピザまだ食べてないわ」


「おい。ま、いいや。てかお前話逸らすの露骨すぎないか?」


「まあね、都合の悪い話は聞こえないから、そう言う生き方じゃないと辛くなっちゃうよね。ははは」


「うーん、そうかな」


「そうだよ」

ふーん。日本で生きていくとしたらそれはちょっと難しいかもな。でも悪くない考えではあるな。


「あっ、店員さん。注文いいですか?」

「おいおいおい!!?お前が言うか?!」


「何が?」


「は?いや話逸らしたじゃん」


「俺はエ、エスカルゴの……えー、バジル焼きとカボチャとチーズのスープ、ドリンク飲み放題で。お前は?」


エスカルゴはカタツムリだ。ちなみにエスカルゴ料理はフランス料理なのだがさすが庶民用の"本格"イタリアンだねと以前、目の前のやつが言っていた嫌味をふと思い出した。


「んッ!?え?あ"ーーまだ決めてないし、えっと……いきなりとかありえないだろ」


「こいつはマルゲリータピザとそれからミックスサラダと冷たいトマトスープ、ペペロンチーノ、ドリンク飲み放題。以上で」


「勝手に決めてんじゃねーよ!」

そう叫ぶ友人を指で指しながら勝手に注文した。


「お前、いつも頼むやつ同じだろ?」


「ま、そうだけどな」


な?こいつはいつもこれしか頼まない。

庶民の料理はお口に合わないらしい。

こいつはただの金持ちではない。

クソみたいにデカイ屋敷に住み家には召使いと料理人がいる。

出張料理人ではなく家に住み込みの専属料理人がいると言う金持ちっぷりだ。だと言うのにここでの食事の支払いは割り勘だと言うのだから全く酷い話だ。

こいつが言うには、イタリアン食べるならどんな店でもスープ、サラダ、パスタ、ピザの4つが無いとダメらしい。

そこには庶民用のイタリアンだからと言う理屈はないらしい。


「と言うことでそれでお願いします」


「注文確認致します。」


まるで動揺を見せない店員。このやり取りはいつもやるのでまた漫才が始まったよとか思っているのだろう。


「エスカルゴのバジル焼きがおひとつ

ピリピリペペロンチーノがおひとつ

カボチャとチーズのスープがおひとつ

冷たいトマトのスープがおひとつ

新鮮野菜のミックスサラダがおひとつ

ドリンク飲み放題がおふたつ

マルゲリータピザが……」


「ピッザだ」

お前黙れよマジで。


「チッ……

マルゲリータピザがおひとつ。以上でお間違いありませんか?」


「ピザの発音が違」


「はいはいはい!合ってます!」


もうやってられるかと言わんばかりに早足で立ち去る店員。

それを二人で眺めてやがて席の陰に隠れて見えなくなると友人が先に口を開いた。


「あの子可愛くね?」


「え。えー、うん。あー、何?急に。まあ、可愛いとは思うけど」


「ていうかあの子舌打ちしなかった?」


「何がていうかだよ、そうだよお前の発音なんたらがウザいからな」


「だってー」


鼻声でだってーとか言いながらくねくねすんなよ。気色悪いな。


「だってて同然、本格イタリアンの癖に発音が日本語だったとか言いたいんだろう?」


「そそ、よくわかったね」


いやお前とずっといたからなわかるよそりゃあ、もう友達になって18年くらいじゃ無いか?

もう親友を通り越して幼馴染だな、これは。


「まあ長いからね」


「そうだねー」


「なぁ」


「なあに」


「その喋りかた何」


「あー、長いで思い出したんだけどさ、この前親に連れられて出席した晩餐会でさ酔っ払ったおっさんたちが自分のイチモツの長さを張り合っててね、それをおもいだして嫌な気分になってた訳」


「意味わかん無いけど、晩餐会に出席してる奴らも馬鹿が多いな」


「だろ」


「でさ、そうじゃないわ。お前の着てるソレなんだよ」


おっさんのイチモツの張り合いも気になるが隣の席に座ってるおばさんが睨みつけているしやめとくかな。

あとで聞けばいいや。


「フランス製のコートだけど?」


「動物愛護団体が見たら発狂しそうなコートだな」


「だろ?気にってんだ、これ」


「お前……」

会話になんねー。


「ファーが熱い、マジで熱いわ。くっ、おい!クーラー効いてんのかこの店!店長呼んでこい!」


「やめれ」

ファーが熱いってなら脱げよ


「だってあっついんだもん!ピザの発音のやつで恨みを持って俺のところだけクーラーがこないようにしてんじゃないのか?」


「被害妄想凄過ぎだろ」


「熱遮断結界とか貼られてんじゃねーだろうな?くっ、結界能力の使い手だったか。しまったあんなこと言わなきゃ良かった」


「結界どうのこうのは肯定出来ないが、以下の反省は合ってると思うぞ」


たまにこう言う事言うからやばいよな。

こいつ。俺と同じで今20歳なのにこれだからな。


「ピザ遅くね?」


「たしかに遅いな」

ここの店は庶民用の"本格"イタリアンだからメニューは全てレンジでチンだ。

窯で焼かれたピザとか、鍋でコトコト煮たスープとかありやしない。

そういえば以前ネットの記事で窯で焼いたのがピッザで、それ以外がピザだとか書かれていたのを見た気がする。

あの店員が頑にピザといったのは合っていたのかもしれない。


「本物でももっと早いぜ」


「イタリアで本場のイタリアン食べたことあるの?」


「ない」


おい。なんなんだよ今までのイタリア語りは。


「イタリアンを語るには100年早いな」


「そう言うお前もだろ」


「当たり前だろ、お前と違って俺が行けるのはここくらいだし」


「だろうな」

いちいち発言がウザいがそれが楽しい


「遅いな」


「ねー」


「あ、きっとあれだ」

そう俺が言うと友人は食いついてきた。


「何?何?」


「今、小麦畑から収穫して来て石臼で挽いてそれを水で捏ねて生地を作っている間にもう一人がトマト畑に行って収穫してるんだよ」


「はっははは、出たー!それいつもいうやつ!」

これはウチの家系の人がよくいう皮肉だ。

非常にウケがいいので結構な率で使わせて貰っている。

いつもの、その通りだ。


「いや、まだ遅いな。今頃フランス行きの航空券を予約してエスカルゴを捕まえにいこうとしてるのかもしれないな」


「じゃあ、アレじゃね?バジルは種から撒いてるかも知れないし、チーズを作るための牛乳がないから乳牛を育てようと思ったが餌がないから牧草を育てようと試行錯誤してるかも!はははは」


「『カボチャ取って来ました!チーズは?チーズはどうした!!』

『そっ、それが……今牧草を育てるところからやってます』

『何をやっているんだ、アイツは!?』とか言ってそう」

「じゃあさ、じゃ」



「おまたせしましたーーマルゲリータピザです」


だんだん盛り上がってすっかり気づかなかった。俺たちは店員の前で嫌味を言う嫌な客になっていた。

周りにいる客たちもちらほらこちらをみて何やらヒソヒソと話していた。

噂をすれば……というやつだな。

ちょっと視線が痛くなった俺は誤魔化すためにドリンクを飲もうとしてドリンク飲み放題を頼んだというのにまだ何も持って来ていないことに気づいた。

暇だというなら飲み物を持ってくればよかった。

仕方ないので、リュックサックから取り出した水筒を開けごくりと飲んだ。

空気圧でキュポンといい音を鳴らして勢いよく開いた蓋からしずくがほとばしり、机を汚した。

友人は無言でティッシュでふき取ると地面に投げ捨てた。


その行為は……と注意しようと思ったがどうせイタリア流とか言うんだろうと思いながら俺は水筒に口をつけ中身とともにその言葉を喉へ流し込んだ。

温くなったポカリは酷く甘く感じた。

とても食事をする際に飲むものではないな。

後味が苦く感じたのは暑い中長時間持ち歩いたせいだろう。


水筒をしまってふと前を見れば、いつのまにか切り分けたピザを俺の方に突き出していた。

サファリパークのふれあいコーナーの動物はこんな感じにみえるのかな。

そんなことを急におもって俺は動物になったそのままかぶりついてやった。


「あーん、ね?私のピザ美味しい?」


やめろ。

そう言いたい気持ちを抑えピザを咀嚼した。

一応、食べ物を食べているときは話さないとかマナーは気おつけている。

アイツはわかっていてやってきたのだろう。

20になった男が同い年に男に対して甘ったるい声を出してあーんだそ。キモいだろ。

そもそも金持ちの嫌味ったらしいモブ男と貧民の特徴のない俺みたいなモブ男のあーんとか誰得だよ。


「よかったです。これ、残りになります。レシート置いときますね!」


何が良かったの?

ねえ。

残りの料理を持ってきた店員が何やらいらない一言を言っていったような気がした。


「あっ、エスカルゴまだ来てません」


「今フランスに捕まえに行っているので少々時間がかかりますがいかがしますか?」


聴いてたのか。

嫌味を嫌味で返された。


それをみて目の前で人目を振らず大爆笑する友人を無視して『3分間だけ待ってやる』と言うと店員は『30秒で支度します』と返してきた。

こいつやるな。

お前はウンウンじゃねーよ。心読むな。


「心を読めるココロクンだからさ」


心を読むなっての。




「そういえば、大切な話ってなんだ?」

頼んでいたエスカルゴのバジル焼きが届いて俺はそう切り出した。


友人は辺りを見渡すと急に決心したような顔をして、俺に告げた。

なんとなくその真面目な雰囲気に飲まれ告白する気か?俺に。

と茶化す気になれなかった。


「俺、隠してたけど。超能力者なんだ」


「ああ!俺も俺も」


すかさず同調した。

友人はいいやつだし話があうのだがそう…………厨二病なんだ。

これも新しい設定だろう。

ここで"は?"とか"超能力者?まじかよww"とか言ってしまえばそれでおしまいだ。

このロールプレイ的なのもかなり年密な設定でやってて楽しい。

俺はここ最近言っていた組織に狙われているの言動が頭の中で繋がった。


どうせ超能力者だとバレたかで狙われてるんでしょ?

わかるわかる。


「超能力者ってなんの超能力なんだ?」

すかさず質問。

さっき心を読んで来たような気がするしサイコメトラーとか?


「俺は、人形使いだ」


人形使い?糸でもつけて操るのか?人形劇でもやってろ。

人形使いか……なんだろ。微妙過ぎない?設定なら念力使いとかタイムトラベラーとか炎使いとか花型にしてくれればいいものを。

なかなかいい言葉を言うのに苦労しそうな超能力だ。


「人形使いって……何?」

もはや諦めモード、知らずは罪だが、知らないより知ったかぶりするのはさらに罪。そんな言葉を叔父が言っていた。

叔父は知ったかぶりして毒キノコを山に生える天然もののシメジだと言って客に食わせて食中毒にさせた前科がある。

とてもその言葉には深みがあった。

人形使い。わからないから聞こう。

知らないなら知らないことに恥じず、正直に聞けばいいのだ。


「そうか"まだ"友は知らなかったな。人形使いというのは、入れ物に魂を入れて操る能力だ」


まだ……って何その思わせぶりな言い方。


「入れ物とは何か、魂を操る。混乱しているだろう」


してませんね。


「入れ物は何でもいい。"人形使い"それが一番あっている感じがするからこの呼び方にしている。」


「何?何でもいいって人形以外でも魂が入っていなかったら何でも魂を入れて操れる的な感じなのか?」


「そうだ、よくわかったな」


だってよ、俺名探偵かよ。

そうだ、俺も超能力者だって言ったのにまだ話してなかったな。

うーん、設定だしな。

町工場の息子だし、金属操作の能力とかいいな。

適当にそれっぽい武器作って

『ふふふ、これは俺の金属操作で作り上げた特性の剣だ』

とか。楽しいかもしれない。


「お前は人形使いか……なるほど、俺の能」「お前の能力は知ってる」


え?

なんか雲行きが怪しいぞ。

これはもう決めてきたパターン!

くっ、人に決められたロールを演じるのはなかなかきついぞ。


「俺に接触してきたのも俺が超能力者だと知っていたからだ。お前の……今はまだ思い出せないかもしれないが、前世に言ったことを俺は忘れていない」


超能力者だと知って接触?おいおい、その時2歳だぞ。無理があるだろ。

それに前世って設定が鬼畜過ぎない?前世の設定も考えるとかきついわ。

まだ思い出せないって、今考えてるからな!くっ。


「全く思い出せない」

そもそもそんな出来事ないしな


「だがお前は昔の約束通り俺と一緒にいてくれる」


「だが、一度も能力者だと言ってないのになぜ能力だと気づいた」

お前、2歳で気づくとかアホか、設定詰めてんのか。前世とかふざけた設定つけやがって……。それらしいこと言ってみろよ。


「お前の能力、観測者は世界から隔離された中立存在であり全ての世界線において一人しか存在しない。

観測者は異変が発生した世界へ移動しそれを記録する。

本人は気づかないが、魂に世界の記憶が保管されて行く。

観測者は寿命以外で死ぬことはない。

そして世界が存在する限り不滅である。

不滅、たとえば、全ての人間が殺された世界Aでは再び生まれることはないが、

人間が生き残っている世界Bに転生し、観測者の能力によってA世界に移動できると言ったところか。

歴代の観測者から大体のことはわかっているがまだまだ謎は多い。

お前は記憶を失っているだろうから教えておくが、観測者は寿命よって死ぬと記憶を失い転生するが世界の記憶"アカッシックレコードは保管される。

だが観測者単体では何も意味を持たず、時空能力者と合わさることにより本領を発揮する。

あとは……いや、組織ももう気づいているだろうから最後にもう一つだけ。

お前は前世では女だったな」


「いや……」


「なんだ?」


なんだじゃないだろ。

設定が長過ぎ、いや意味わかんないしといいかけたし。

何?前世は女だったって。

設定が鬼畜過ぎ。

いや無理無理。できるか。いや記憶を失っているんだったか。

細か過ぎだろ。

不滅とかカッコいいしそこはいいけどな。観測者ね。

よくSFもので出てくる謎能力者だろ。

大体黒幕に囚われているとか、観測者を巡って能力者同士が戦っているみたいなヒロイン的立ち位置。

ああ、それで。

それで前世は女だったね。

無理があるよ、その設定は。

謎は多いとか、もう今出てる設定でお腹いっぱいなのにまだ作れと申すか。覚えきれる自信がないぞ。

転生とか前世って設定始めてかもしれない。やっぱり最近の異世界ブームを取り込んだのか。

こいつ澄ました顔して"なろう"とか読んでるのか?

こんな厨二病溢れる設定をボンボン思いつく辺り読んでるだろうな。


「組織のものがいるかもしれないというのにこんな場所で話してよかったのか?」


「ああ大丈夫だよ、仲間の幻術使いが俺たちの会話を別なものに見えるようにしているから」


割とそこはメジャーな感じの設定なんだな。

設定を覚えすぎて頭がパンク気味だ。

ドリンクバーから持ってきた白ぶどうジュースを飲み干し、叩きつけるように置いた。


「げふっ……ああ、わるい。

でお前は組織に狙われているらしいが観測者の俺はどうすれば良いと思う」

狙われているから俺の家に来いとかだったらまだ美味い飯食えるし、親の手伝いをしなくて済むな。


「いや、いつも通りで大丈夫だ。

観測者というのは世界そのもので先程言ったように寿命以外で死ぬことはない。

というのも、世界に住むものたちは観測者を傷つけることができなくなるという干渉が働き引き金を引けなくなったり、突っ込んだ車が急にスピンしてギリギリ当たらなかったり、超能力を撃ち込んだのに消えたり、即死級の毒を盛ったのに腹痛程度で済んだりしてしまう。

つまり殺せない。

殺せない以上組織の奴らも関わってこないだろう」


ああなるほど、とにかく何にもできないけど無敵で寿命以外で死なない訳ね。

へんな能力振り当てられて公衆の前で必殺技を叫べとか言われても恥ずかしいし良かったかもしれない。


「そうか」


俺、ここに何しに来たんだ。

そう思ってしまうくらい設定が凄かった。

しかも大切な話だって言ったのにあんまり大切な話じゃなかったし。

平常運行。


そのあとも二人で最強の人形使いと無敵な観測者の設定を詰めて別れた。

設定を考えて覚えるのに夢中でエスカルゴの味を覚えていない。

最終的には


"世界最強超能力者代表として秘密結社を立ち上げよう!"


という話でまとまって別れた。

秘密結社については後日考えようという話になった。


最初はおちゃらけ出たのに超能力者設定持ち出してから口調を変えるとかかなり本気さを感じた。

お小遣いを使って基地を作るとか言ってたしマジなんだよな。

秘密結社だから秘密保持の関係で場所は友人の家、ロゴはデザイン学校に行ってた俺がやり、制服?いや戦闘服的なやつはあいつの家の使用人が用意してくれるらしい。

すごいな使用人。

頑張れ。



そんなわけで午後の8時過ぎになったというのに空が明るい中を歩き俺は寂れた工場へと帰宅した。

もちろん組織の接触もなかったし、命を狙われることなんかなかった。

ただ、ケチケチして少しずつ飲んだポカリが味が悪くなっていたのに飲んだせいかお腹が痛くなった。

その日はギュルギュル唸るお腹の脅威に脅かされ夜中に何度も起きることになったのだった。

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