忍法・異世界転生─天草四郎と恐竜型知的生命体の受難─
@HasumiChouji
序章:悪夢の旅立ち
「森宗意軒が御願い奉る。
その祈りと共に、どこからともなく、「ぎゃお〜」「がお〜」「みゃお〜」「にゃお〜」を3:1:1:1の割合で混ぜたような、如何なる訳か「面倒くせえな」と言いたげにも聞こえぬ事もない咆哮が轟いた。
その異様なる儀式が行なわれているのは、九州によくある彩色古墳であった。
古墳の玄室に居るのは、1人の老人と、女と見まごう美貌の青年、そして全裸にされ縄で縛られ猿ぐつわをされた若い娘。
かつては、鮮かな顔料で描かれていたであろう壁の文様も、千年を超える歳月によって色褪せていた。
そして、松明に照らされる中(小説投稿サイトの規定により一部自粛します。何かエログロな事が起きて若い娘が無惨なバラバラ死体になったと思って下さい)
「見よ、これこそ、儂が、この国の『忍法』と、南蛮の『黒魔術』、そして、彼の玄奘三蔵が天竺より唐に持ち帰りし『
本人は芝居がかった口調のつもりのようだが、微妙に九州弁のアクセント・イントネーションが抜けていない為、残念ながら、芝居は芝居でも、田舎芝居の大根役者に思えぬ事も無かった。
「師匠どん……あの……
青年は美貌に似合わぬ朴訥な九州弁で、老人にたずねた。
「四郎。我らは、復讐の為に
「いや、そがん
「よもや、生贄に使った娘に情が移ったのでは無かろうな?」
「じゃから、そうじゃのうて……何と言いますか……その……」
「だから、何が言いたい?」
「いや、何かおかしか気がすっとですが、何と言や良かか判らんとです……」
現代の先進国の平均的な教育を受けた者なら「兵士1人を生み出そうとする毎に、最低でも女を1人、誘拐せねばならぬのは、あまりに非効率では無いのか? 必要な数の兵士を揃えるまでに、一体全体、何人の女を殺して、どれだけの手間をかけるつもりなのか?」と指摘する所であろうが、残念ながら、一見、知的に見える容貌のこの美青年、父の代に没落した下級武士の息子であり、人生の大半が郷士とも農民ともつかぬ生活であったせいで、ロクに学問を修めておらず、彼の脳内には、自分の疑問を巧く言い表す語彙は無かった。
更に言うならば、かつて、この世の地獄を見た、この青年にとっても「若い娘を誘拐する羽目になった挙句、その娘が目の前で無惨に爆死する」と云う事態は、流石にあまり気分の良いモノとは言いかねる。こんな事態が続けば「必要な数の兵士が揃う」頃には自分が正気でいられる保証は無い……と云う意味の事も、老人に説明したいのだが、やはり、その事を巧く伝えられる語彙も、この青年の脳内には無かった。
この青年は、かつて、天草・島原の乱の大将に祭り上げられし「天草四郎」こと益田四郎時貞。老人は天草・島原の乱の軍師・森宗意軒。
2人が修羅地獄の如き敗北を生き延び、生存している事がバレぬように、九州各地を転々とし続けて5年近い月日が経過していた。
そして、四郎は、あの日より、何万回となく心の内で唱えた事を、また、この時も心の中で唱えていた。
「
そう……。天草四郎は哀れにも、この5年、様々な意味で完全におかしくなった、この老人の面倒を見続けてきたのだ。
「で、師匠どん、こりゃ、何ですか?」
四郎達が
「はて? ……儂が祈りを捧げたのは……太古の竜神の筈だが……」
「竜っちゅうより、鳥んごたる気がしますが……」
その者の体は、当時の平均的な日本人男性よりも2回りほど小さく、体の大半を
直立歩行が可能と思われる人間に似た体型。手は器用そうでは有るが、人間の手とは、いささか
もちろん、天草四郎と森宗意軒に斯様な知識は無いが、もし、二十一世紀初めの人間が、この生物を見たならば「羽毛恐竜から進化した知的生命体」と考えるであろう。
「ぴぎゃっ?」
その生物は、自分が置かれた状況を理解していないようだった。
やがて、自分が血塗れになっている事と、(彼ないし彼女からすれば)見た事も無い動物(早い話が生贄になった娘だ)の血と肉片が周囲に飛び散り……しかも、これまた(彼ないし彼女からすれば)見慣れぬ自分より体の大きい生物が2体も、すぐ近くに居る事に気付くと……。
「ぴ……ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁ〜ッ‼」
その絶叫の意味は、異種族である四郎と宗意軒にも十分に理解可能だった。
どう考えても、それは、恐怖の叫びであった。
「どぎゃん
あまりの事に、宗意軒の口調は、田舎芝居めいたモノから九州弁になっていた。
「師匠どん……このチビ介も、血塗れのままじゃと嫌じゃろうから……水浴びか湯浴みでもさせた方が良かと思いますが……」
「あ……まぁ……そうじゃの……。何で、こげんモノが転生してきたかは、後で考える事にすっか……」
そう言って、3人と言うべきか、2人と1匹と言うべきか判らぬ一行は、古墳の外に出た。訳も判らぬまま異世界に呼び出された
もちろん、
「はて?
「し……師匠どん……」
「ん?」
その時、宗意軒の鼻が、何とも言えぬキナ臭さを感じた……。そう。松明が燃える時の臭い……。
「おまえらかぁ〜ッ‼ お朋
若い男の野太い声が響いた。
そこには、十数人の農民らしき男達が居た。全員が、片手に火の付いた松明を、もう片手には、鉈や鎌や鍬を持っている。
「あ……マズかの……こりゃ……」
だが、更に……農民達の背後から巨大なモノが現われた。
それは、確かに人間だった。だが、農民達よりも、頭1つ分以上背が高い……そして……肩幅も異様に広い。手も足も太い。全身が筋肉の塊の如き禿頭の男。右手には、独特の形状の槍を持っている。
「あれは……宝蔵院流槍術の片鎌槍……まさか……武者修行で九州に
「拙僧は禅栄房胤舜と申す者。一宿一飯の義理により、この村人達に合力いたす。
「行けッ‼ 行って竜神の眷属の恐しさ
宗意軒は、そう叫んだ。
この叫びを聞いた
「な……なんじゃありゃ?」
その時、ようやく、農民達と胤舜も
「お前に
「ぴ……ぴぎゃ……っ」
言葉は通じぬまでも、身振り手振りから宗意軒の命令を理解したのか、
「ぴぎゃっ‼」
だが……。
威嚇しただけであった。
そして……しばしの時が過ぎた。
今度は、胤舜が深呼吸をした。続いて……。
「おおおおおおおッ‼」
山をも揺がさんばかりの雄叫びを上げる。
「ぴ……ぴぎゃああああああああああ‼」
「師匠どん……追い掛けましょう」
「いや……じゃが……あんまり役に立ちそうに無かけん……放っておいても……」
「追い掛けましょう。あんチビ介
「おい、待て、四郎‼」
「貴様ら、2人とも待たんかッ‼ お朋はどこじゃ〜‼ お朋
どたどたどたどたどたぁぁぁぁ〜ッ。
夜の山間に、いくつもの足音が響いた。ただし、その内の1つは……人のものでは無かった。
人間の中でも「日本」なる島国に住む者達の暦で言う寛永二〇年。人間が九州・熊本と呼ぶ地域のある山間の村付近で、恐竜が絶滅せず、ついには、知的生命体へと進化した平和で穏やかな平行世界から、凶暴にして野蛮なる哺乳類系知的生命体が地球を支配している、このもう1つの平行世界に呼び出された、1人の
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