晩秋の巴里

橘知親

晩秋の巴里

晩秋の巴里は灰色である。


そこから長い灰色の季節が始まる。


十月、枯葉が街路を覆い、雨に濡れた葉が足元にまとわりつく。

十一月、白い息が行き交う人の肩の合間をすり抜ける。

十二月、夜露に濡れたクリスマスの電飾が、凍てつく夜を照らす。

一月、せわしなく始まる新年の熱気を、一層の寒さが笑う。

二月、雪が降ることがあれば、巴里は束の間の雪景色となる。

三月、春を待望する人々にお預けを喰らわせる冷たい残寒。


太陽なんてない。

あるのは、灰色の空。

ただそれだけ。


太陽がないから、巴里の夜は灰色の延長の漆黒である。

太陽がないから、日々気持ちは沈む。

太陽がないから、人々の装いもまた、黒いモノトーンになる。


そうして、人々は、半年後の太陽と灰色からの脱却を待ちわびるのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

晩秋の巴里 橘知親 @T-Tachibana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ