第6話 無理矢理デートに誘われて困っています!

「でもさ、恋人らしいことって一体何?」

「デートしたり、二人でお買い物したりすることよ!」


 ふ~ん。

 思考回路がクレイジーな優衣だから、とんでもない答えが返ってるるのだろうと思っていたが、普通だな。


「それなくらいならいいけれど、近所にデートスポットとか無いよ」

「別にいいわよ。買い物が出来る店ならあるから」



***



 結論から言うと、優衣はやっぱりクレイジーだった。


 僕たちは今、どういうわけかホームセンターにいる。

 優衣がどうしてもここがいいと言ったのだが、恋人らしいか、ここ?


「ねえ見て。肌触りの良いロープがあるわ。首吊りに最適ね!」

「ちょっと! そんな物騒な事を大声で言わないで!」


 周りのお客さんの目線が、僕たち二人に注がれる。

 ある者は「あの子大丈夫かしら?」と白い目でこちらを見つめ、又ある者は「あの暗い男が、あの子に何かしたのかしら?」と僕に悪口を言う。


「あ! このナイフ、よく…………」


 何やら恐ろしい事を口走ろうとした優衣の口を両手で塞ぎ、そのまま、アリが獲物を巣に持ち帰るように物陰に隠れた。


「誘拐かしら?」

「警察を呼んだほうがいいのか?」

「あの男は女の子に何をするつもりなのだろう?」


 周りの視線が、槍で貫かれるように痛いが、今は我慢だ。




「ちょっと! なんであんな事言うんだよ!」

「正直な感想を言っただけよ」

「ほら! 周りを見てよ。君の所為で、周りから変な目で見られているじゃないか!」

「別にいいわ。変な目で見られているのは、私じゃなくてお前だから」

「尚更悪いよ!」


 痩せれなくて困っている人の家に優衣を連れて行ったら、疲労と心労でみるみる痩せて、ダイエットに成功するのではないだろうか?


 実際に、一晩でちょっと痩せた気がするし…………。


「とにかく! 帰るよ」

「もうちょっと待ってよね! まだ恋のダブルベッドを買ってないわよ!」

「買うか! ンな物」


 僕は暴れる優衣を担ぎ上げ、店を後にした。


「もしかしてあの男、あんな小さい女の子に…………………………?」

「早く、警察を!」

「警備の人! あのロリコン男からいたいけな少女を救って!」


 店内に残されたモブキャラたちが途轍もない勘違いをしているようだが、断じて気のせいである。



***



 今日も、マラソンより疲れた。


 RPGとかのラスボスの必殺技よりも体力ゲージを削られた。


 そんな僕は、体力を回復させるために早めにお風呂に入ることにした。




 お風呂などの脱衣中に一糸まとわぬ姿のヒロインとご対面! とか、裸を見られちゃう! と言うのは、ラブコメなどではよくあることだ。


 あれはラブコメだから笑えるのであって、僕と優衣でそんな展開になってしまったら、『男子高校生×女子中学生』の………………(R18内容のため、一部削除)というただの犯罪になってしまう!


 細心の注意を払わないと!


 僕は僕の部屋に優衣がいる事を確認してから、洗面所に入った。


 そこで優衣の服がどこにもない事を確認してから扉を閉めて鍵を閉め、おまけにつっかえ棒で扉を固定する。

 浴室にも優衣がいないか確認してから服を脱いで浴室に入る。


 シャワーで体を流し、湯船につかった。


 ぬくもりと入浴剤の香りが全身を包み込み、緊張して固くなっていた体がほぐれていく。


「ふう…………生き返る………………」


 こんなにゆっくり休めるのはいつぶりだろうか?

 随分と長い間、この安らぎから隔離されていた気がする。


「まるでオッサンね!」

「ほっといてよ」


 ああ、お風呂気持ちいいし、すぐ隣には可愛い女の子が…………


「ん?」

「なに?」

「わああああぁぁぁぁあ!!」

「ちょっと! 面と向かって至近距離で大声出さないでよね!」


 すぐ目の目前に優衣がいる。

 しゃがんで僕を見つめている。

 じっと見つめる優衣がいる。

 一糸まとわぬ優衣がいる。


「何でここにいるんだよ!?」

「お前はバカなの? お風呂に裸でいる理由何て、入浴以外にどんな理由があるのよ」

「そうじゃなくて、どうやってここに湧いて出たんだよ!?」

「私を虫みたいに言わないでほしいわね。それに、私はあの扉から普通に入って来たわよ」


 キョトンとする優衣。


「あのバリケードを突破したの!?」

「バリケード? あのつっかえ棒の事ね。あんなの意味ないわよ。だって私は、ずっと洗面所にいたから」

「え? 僕の部屋から聞こえるゲームのBGMは何?」

「今時スマホも知らないの?」


 部屋から聞こえていた音楽は、スマホで録音していたものらしい。

 音が聞こえるから部屋にいると思っていたが、優衣の方が一枚上手だった。


「で、でも、洗面所のどこにいたの?」

「私は小さいわ」


 そうだね。特に胸が小さいね。


「だから、隠れる場所なんてどこにでもあるのよ」


 完全に優衣の方が悪知恵がある。僕とでは比べ物にならない!


「さあ、始めるわよ」


 優衣がニヤリと笑い、身を乗り出してきた。

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