第4話 夜這いしてくるので困っています!
「うっ」
腹に伝わる重い衝撃。
僕は、吐き気と涙をこらえながら、目を開けた。
視界に、ただでさえ見たくない優衣の顔が、どアップで飛び込んできた。
「あ、起きないでよ」
僕は優衣を見上げながら、恐る恐る「何してるの?」ときいてみた。
「夜這いよ」
「うん。そっか。ならよそで勝手に――――いや、ちょっと待って」
優衣は布団の中に入り、僕のお腹の上に躊躇なく乗っている。電気が消えていて暗いから、はっきりとは見えないが、僕に触れているのは、ふんわりと柔らかい、引き締まった彼女のおしりだ。要するに、彼女は何も着ていない。のだと思う。
「本気なの?」
「ええ。本気よ」
静かにじっと、僕を見つめるというか、見下ろす優衣。
このままでは、僕の部屋の住民が一人増えてしまう。
「とりあえず降りて」
「いやよ」
布団の中で一糸まとわぬ女の子が自分に乗っているという状況は、一般的な
でも、腹に全体重をかけるのは、色々と苦しいからやめてもらいたい。
「早く下りてよ。重いから」
「うっ!?」
優衣は僕の言葉が何故か気に食わなかったらしく、僕の上ではねた。
「夜這いって何か分かってるの?」
「もちろんよ。夜這いと言うのは……」
「うん。説明しなくてもいから」
そう言って、優衣の口を押さえる。
おや?
優衣は相変わらず無表情のままだが、興奮して上気しているのか、息が荒い。もしかすると、興奮ではなく緊張しているのかもしれないが……。
「…………」
「…………」
静寂が世界を支配する。
「で、ここからどうするの?」
と、優衣が首をかしげる。
良かった。優衣は夜這いの目的は知っていたのかもしれないが、具体的な行為そのものは知らないらしい。
あ~、助かった。
ん? まてよ。これはチャンスじゃないか!
「あ~あ。夜這いされちゃったよ」
「え? もう終わり?」
「そうだよ。それぐらい分かっているよね?」
「ええ。もちろん分かっているわよ」
優衣が僕から降りる。
優衣は何か納得がいかないらしいが、僕の上からどいてくれたから良しとしよう。
「じゃあ、僕はもう寝るね」
「私も」
布団の中で優衣が腕に抱き着いて来た。
温かくて柔らかい小さな胸が僕の肩に押し付けられる。
僕の中で、音を立てて崩れ去った理性のような何かを、近くにあった水のりで修理しながら、興奮して元気になっている自分が寝静まるのを待った。
すぐ耳元からは、優衣の安心しきった寝息が聞こえてくる。
優衣が高校生ならよかったのに…………
***
夜が明けた。
腕に優衣が抱き着いていた所為で寝がえりが出来なかったし、それ以前に、すぐ横にある、マシュマロみたいにやわらかいものに緊張して、全然眠れなかった。
「はあ……」
今もなおコアラの如く腕にしがみついている優衣を乱暴に引き剝がし、ベットに投げ捨てる。
しかし彼女は、乱暴に扱われたにもかかわらず、気持ちよさそうに寝ている。
「…………」
うつ伏せになり、カエルのようなポーズで寝ている美少女(優衣)の姿は、僕のような健全な男子高校生にとって、目に毒だ。
ふとしたことで、大きな過ちを犯してしまわないよう、優衣に布団をかけた。
「………………………………」
目の前に、僕にとって道の生命体である『カワユイ女の子』がいる。
「………………………………」
優衣の性格は可愛くないが、容姿は神絵師が書いた二次元美少女くらい可愛い。
気持ちよく熟睡していて、可愛くない性格が表に出ていない今の優衣は、単なる絶世の美少女だ。
えっと……その…………少しくらい触ってもいいよね?
先に僕に(裸で)抱き着いて来たのは優衣だし、少しだけなら触っちゃってもいいよね!
僕は自分の中で無理矢理結論付けて、優衣のほっぺたを指で押してみた。
指が優衣の頬に沈み込む。
やわらかい。まるでお餅だ。
今度はほっぺたをつまんで、引っ張ってみた。
あ、伸びた。
本当にお餅みたいだ。
その時、優衣の腹が鳴った。
彼女で遊ぶのに夢中になっていた僕が、そんな事気にせずに指を頬に近づけると……
がぷっ!
と、咬まれた。
痛い。
「…………おいしい……………………」
え?
「寝言だよね? 僕の指が美味しいんじゃないよね?」
「……………………」
優衣は何も答えない。
どうやら、本当に熟睡しているようだ。
ふと、壁に掛けてある時計を見ると、短針があと少しで『8』を指そうとしていた。
このままでは学校に遅刻してしまう!
「ねえ、起きて!」
僕は優衣の耳元で大声を出して、彼女を起こす。
「わ!?」
よし。バッチリ目を覚ましたようだ。
「いきなり何よ?」
「もう八時だよ! 学校は?」
「土曜日。」
「え?」
「今日は土曜日だから、学校に行かなくていいわよ」
呆れ顔で僕を見つめる優衣。
あ。そういえば、昨日は金曜日だった気がする。
そっか。今日は土曜日か。
優衣が布団をどけて、起き上がって伸びをする。
その時に、バッチリと見えてしまった。女の子なら本来人に見せてはいけない部分が!
正直、凄く目のやり場に困る。
何か着てほしい。
「ん」
優衣が僕に手を差し出した。
「え?」と、首をかしげると、優衣に睨まれた。
「服よ、ふ・く! 可愛い女の子を裸のままにしておいていいのかしら?」
優衣以外の普通の女の子なら裸にしておくのは良くないが、優衣なら別にいい。
と思うが、怒られる前に服を持ってこよう。
「でも、君に合うサイズの服なんて無いよ」
「あんたのでいいわよ」
僕は着れなくは無いが、少し小さいサイズの服をタンスから取り出し、優衣に渡した。
彼女に渡した服は、ドラゴ◯クエストのスライ◯を顔がプリントされている服で、女の子に適した服ではないが、優衣が元々着ていた『お前の人生、俺の物』と書いている服よりはましだろう。
「この顔はあまり好きじゃないし、サイズは少し大きいけど、OKね。あんたがチビで助かったわ」
どーせ僕はチビですよ!
……でも…………中二の女の子と同じ服が着れるって悲しいな。
小魚をたくさん食べなくちゃ!
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