僕は防御魔法しか使えない
佐藤チアキ
プロローグ
プロローグ 『魔法使いたち』
昔々、 ある王国にとても優秀で偉大な魔法使いがいた。
魔法使いは国民を魔法で癒し、 魔法で王国を怪物たちから守り、 魔法で作物を実らせ、 魔法で建造物を作り、 魔法の力で人々を救った。
そして、 その偉大なる魔法使いは八人の弟子に自らの魔力を分け、 授けた。
一人には戦うための魔法を。
一人には癒すための魔法を。
一人には呪うための魔法を。
一人には偽るための魔法を。
一人には召すための魔法を。
一人には注ぐための魔法を。
一人には知るための魔法を。
そして、 守るための魔法を。
※※※※※
──時が経ち、 現代。
「──こちら、 陸上自衛隊回転翼航空機。 巨大生物に対する射撃の許可を請う。 繰り返す。 巨大生物に対する射撃の許可を請う」
夜空を飛ぶヘリの中で男は怒涛の声を発しながら無線機に向かい怒鳴っている。 だが、 無線機からの応答はない。 男は変わらない態度で無線機に怒鳴りながら地上を見た。
轟々と燃え盛る夜のビル街。 そこには信じがたい光景があった。
炎の中に荒れ狂う二本の腕、 額からは一本の巨大な角、 口から光線を放ちながら二足歩行の巨人は、 ただひたすらと泰然たる態度で世界を破壊していた。
「あの怪物……どこから湧いて出てきやがった」
すると、 無線機から先ほどの応答が聞こえてきた。
「現在、 避難中の市民を誘導中。 待機せよ。 繰り返す。 避難中の市民を誘導中。 待機せよ」
男は頬を伝う汗を袖で拭い、 無線機に了解と伝える。
その瞬間、 男と並走していたヘリは巨人から発射された無数の光に貫かれ、 夜の暗い闇へと落ちていった。
制御を失いながら、闇へと吸い込まれていくヘリを目の当たりにした男が次は自分が落とされると恐れ慄く。
そして、それを感じ取ったかの様に巨人は口を開き、 男のヘリに向け禍々しい光の線を放ってきた。
絶体絶命。 万事休す。 絶望。
「射撃の許可を請う! 射撃の……射撃の許可を!!」
必死に抵抗することへの許しを男は頼む。 しかし、 応答が来ることはなかった。
──死にたくない、 死にたくない、 死にたくない
ひたすらに叫喚し、 震えながら死が近づいてくる様を見ることしか出来ず、 男は爆発と鼓膜が破れるほどの轟音に包まれた。
──しかし、 ヘリは落ちていない。 それどころか自分に傷一つついていなかった。
「なんだ……なにが起きたんだ」
男は状況が理解出来ずに、 少しずつ晴れていく爆煙を、 息を呑み見つめていた。
しかし、 そこには何もなかった。 奇跡的にあの死の光線から回避出来たのか。 自分でもわからない事態に混乱する。
そして、 ハッとした様に巨人の方を見ると今は暴れるのをやめ、 どこか一点の方を見つめている。
「どこを見ているんだ……」
男は巨人の視線の先を見てみた。
「──ビルの屋上を見ているのか?」
男は目を凝らし、 屋上の上に何があるのか見ようとした。
そして、 男は確かに見た。
──屋上に立っている八人の魔法使いを。
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