第76回『影』:アンビジブルアンブレラ<タブレットマギウス>

 白皙の肌を守るためなら。彼はそっと差し出した。

「見えない影を作る見えない日傘の電書魔術さ。可視光以外をカットする」

 野菜と果物だけを美容のために摂取する美肌自慢の彼女はもちろん、その魔術を愛用した。


 それは最初、白肌信望者の間で重宝された。

 あるとき住宅メーカーが目を付けて、看板会社と美術商が後に続いた。

 やがて、電力会社と役人が彼へと名刺を差し出した。


 彼は燕尾服を纏っていた。

 マイクを向けられ、ようやく彼は口を開いた。

「僕は今、ノーベルの気持ちを噛みしめています」

 魔術は宇宙線から飛行士を守った。核廃棄物の安全管理を実現した。

 そして、彼女を寝たきりへと追いやった。その結果。

 彼は独り。マイクの前で涙する。

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