第70回『服』:その服の私

 玄関を開けると据え付け鏡が正面に。険のある『仕事の私』が見返してくる。

 短い廊下で上着を脱いでスカートを脱ぐ。ストッキングを取り去って洗濯物のカゴに突っ込む。洗面所の鏡の私は目の険しさが取れている。

 今日はもう『近所の私』も『コンビニに出向く私』にも用がない。シャワーの栓を思い切りひねる。

 シャワーに叩かれるのは『素の私』だ。服に守られることもなく、服を鎧うわけでもない。無防備な私がどんな風かを私は知らない。

 風呂を出て部屋着を手に取る。だれ切った『部屋の私』の出来上がり。

 麦酒を手に取りタブを開ける。スマートフォンが着信を告げて慌ててクローゼットの扉を開ける。

『好きな人を迎える私』の服は、どれだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る