第71回『眠る』:人々はただ目の前の夢を見る

「楽しかったね」

「来週ね」

 キャリーを引いてネオン輝く街を過ぎる。休日は楽しい。平日は録画チェックが唯一の支え。辛い、いそがしい、楽しい、せわしい。


 *


 私服に着替えて店を出る。我が子を引き取り人も絶えた道を行く。

「ゆうこちゃんがね」

「んー?」

 目をこする子供を抱えて明日を思う。ゴミの日で、昼の仕事の出勤日で。

「たろうくんはね、」

「うん」

 街灯から街灯へ。暗やみを手探りで歩いているようだと、ふと思う。


 *


 国政選挙の投票率は今回も低い見込みだった。マスコミは騒ぎ、『有識者』は問題視する。

「信任されている証左です」

 私は余裕で微笑むのだ。


 民は目覆われて眠っていればそれでいい。

 未来へは私が運んで差し上げましょう。

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