第63回『鞄』:代わりの鞄<科楽倶楽部>

 ふむとかうむとか頷いて、店主は鞄から顔を上げた。

「直る?」

 祖母が持ち込んだ革鞄。ついにショルダーストラップが取れてしまった。単なる袋じゃ鞄じゃない。

「革は無事。布が擦れて切れたんだね」

 本物の革は船で生産されていない。食用牛のおこぼれが技術継承のためだけに卸されるのだと聞いていた。しかも鞄は牛皮ではない。

「どうやって直そうか」

 ほどして補強か、このまま上から縫い付けるか。

「時間が掛かってもちゃんと直したい」

「なら、代わりのカバンをあげるよ」

 そうしてもらったものに最初は途方に暮れたけど。


 なんでも包める。形を問わない。

「悪くない」

 小国の一文化だという風呂敷という名の単なる布は、優秀なサブになりそうだ。

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