第62回『余り』:あまりもの<オリジナル>

 彼が動こうと思ったとき、仕事はすでに埋まっていた。

 彼のきょうだいはみな優秀で、彼にやれることなど何もなかった。

 彼は邪魔だと追い出された。仕事の場所には要らないと。

 彼を顧みるひとはいなかった。彼はすっかり忘れ去られた。


 彼は暇を持て余した。やれそうなことなら何でもやった。


 普段は好きなことをした。遊んだ。学んだ。楽しんだ。苦しんだ。

 きょうだいの一人が休む時は、代わりに仕事をやってみた。

 ほかの一人が休む時は、そちらの仕事をやってみた。

 彼は有能ではなかったけれど、誰もいないよりマシだった。


 彼は誰かの代わりだった。

 いつしかなくてはならない代わりになった。


 彼は初め余剰と呼ばれた。

 そして今では余裕と呼ばれる。

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