第61回『包む』:プロペラが回りだす〈科楽倶楽部(移民船世界観)〉

 小さなプロペラが揺れている。色葉の影で幾つも、幾つも。

 ごつん、頭に。

「サボってんじゃない」

「線だけじゃん!」

 当たったのは端末の角。

 紅葉という植物の映像資料の裏には二本ののたくる線グラフ。上の線は微動を続け、下の線はほぼ一本。見た目変わらず離れたままで横軸だけが増えていく。

「緊張感ってもんは習わんのか」

 人類が太陽系を初めて出る。太陽風に包まれ守られていた船が、銀河を渡る風を知る――そう聞いてはいたけど。

 この船で生まれ、言われるままに航路観測の専科に進み、研修は線を睨むだけ。

「何を緊張するの」

 白いひげがむにりと動く。

「さてな」

 ビィィィィ!

 音と共に線がわずかに動き出し。

 プロペラが風とともに回りだす。

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