300字の独り言(参加時公開)

森村直也

第57回『演じる』:笑顔<オリジナル/現代>


「自慢の息子よ」

 母は笑う。僕は笑う。


「パパ、優しくて、好き!」

 息子は抱きつく。僕は笑う。


「家事も仕事もいつもありがと!」

「こちらこそ」

 妻は高くビールを掲げ。僕は笑顔でそれに合せる。


 *


「君がいてくれて良かった」

 上司は肯く。僕は微笑で。


「頼りにしてます」

 後輩は頭を下げて。僕は笑って頷いて。


「いらっしゃいませ!」

 元気な挨拶。会釈は笑顔。


 *


「久しぶり」

 友人には、少し小皺が増えていた。

 僕は軽く手を上げる。笑んで迎えて歩き出す。

「お前の顔見るとホッとする」

「そうか?」

 人波を縫い、二人歩く。ぶつからず、ぶつからせず。

「いつも同じで笑ってるじゃん? 変わんないなって」

 友人は冷やかすように。僕は変わらず。

 鉄壁の。


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