プロローグ
深夜、とっても深い、夜の底。
わたしはふいに一人目覚める。
というか、寝呆けたまま起き上がる。
うん、目は醒めていないかも・・・。
家はしんと静まりかえり冷蔵のコンデンサーがぶううううん、と鳴るのをほかの家具たちが硬く跳ね返す。
うるさいよ。って。
うん、うるさい。
すごく、うるさいもん。
なのに、跳ね返ってきたその響きに体が素直に反応して、頭の芯までスッキリ覚醒して、ベッドから起きだして月明りで薄明るいベランダにでてみた。
聞こえる。
聞こえる、のかな?
音?
おとじゃなくて。
何が?
どこから?
・・・遠くから。
街が響かせるちいさなノイズの塊かな。
そうじゃない、それとはぜんぜん違う。
それとも、遠くを走る車がアスファルトを振動させる音。
とか、
何処かの何かの工場の機械がきしませる少しだけ油分が足りないギアの音。
とか、
処理された排煙が狭められた煙突に静かに抵抗しながら吹き上がる音。
違う。
海、川、流れ、波?
・・・ちがうわない?似ている?
粒、粒子、素粒子?
りゅうし、りょうし。
粒だつ
ふつふつ
つぶつぶ
・・・でも、それじゃない。
それは、とんでくる。
まっすぐに。
とても遠いところからだけど,減衰することなくはっきりとくっきりとした輪郭で。
いる。
いることははっきりとしているのに捉えることがどうしてだかできない。
もどかしい。
でもわかる。
粒粒と粒立ち
淡淡と纏わりつき
そしてうなじからしゅわりと浸透してくる。
浸透してくるのは分かるのに、自分の体の中には受容する器官がない。
かんじない。
かんじらんない。
そうじゃなくて。
ぜんぜん、そうじゃなくてさ。
感じているって、身体は主張している。
体が何かを主張しているの、わかる。
でも、なんで?
つかまらない。
だから、留まることなくそのままどこかに逃げてしまう
捕まえたいのに。
触れたいのに。
それが何か、知りたいのに。
とてもとても、知りたいのに。
見たことのないものが、それが一体どんなものか、どうして私に話しかけてこようとするのか、一生懸命想像して、姿を思い浮かべて、理由を探して、像を結ぼうとして。
そして、知ってほしいのに。
わたしはここにいる、って。
触れてほしい、って。
懐かしくて、切なくて、どうしてよいのか、捕まえきれない思いにはらりはらりと涙が落ちる。
涙が落ちる
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