第124話 大きなったなぁ!

 平成二十六年八月二日、翌日からの一時帰郷で学校を休むことを先生に伝え、エアコンの効いた事務所を出て、ベビーカーを押して歩き始めた。

 校舎の前を向こうから歩いて来る、背の高い姿が見えた。

 雅楽会の会長さんだった。夏のお祭りのために、来たのだろう。

 笑顔が見えた。

「大きなったなぁ!」

 前に会ってから、一か月くらい。少しは背が伸びたかもしれない。

 ベビーカーから足が大きくはみ出している。眠ってしまうと、靴がアスファルトに引っかかる時もある。

 少し話したあとで、商店街の旅行会社へJRの切符を買いに行った。

 窓口には、四人ぐらいの列ができていた。

 先に終わったお母さんと女の子が横を通り過ぎた。娘と同じぐらいの子だった。

「かわいい~、赤ちゃん」

 ベビーカーに乗った娘のことを見ながら、お母さんに言った。

 馬鹿にしているわけではなかった。

「ベビーカーに乗った子は赤ちゃん」という認識だったのだろう。

「ふん!」

 娘があわてて、ベビーカーの日よけを下ろした。

「やめなさい、違うのよ」

「ほら、かわいいよ」

「ちがうのよ。赤ちゃんじゃないの。ごめんなさいね」

 お母さんが私たちに謝りながら、その子の手を引きながら店を出て行った。

「ふん! ふん!」

 怒った娘が鼻息を大きく出しながら、さらに日よけを下げて顔を隠した。

 学校まで一キロ以上あるからベビーカーは欠かせないが、その日から乗ることは確実に少なくなった。

 私のリュックを小さな背中にかけて、ベビーカーを押して歩く娘の後ろ姿が、今もアルバムに残っている。

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