第125話 この町には神様がいっぱいいるね

 八月三日から四日の土日二日間、私と娘は帰郷することになった。当時の手帳には三日の夕方に弁護士事務所と書いてある。

 三日朝、宿泊所を出た。駅まで三分もかからない。

 駅前のミスタードーナツで、朝食にドーナツを食べた。カードを渡されたが、プレゼントをもらうには枚数が足りなかった。

 涼しい店内で、娘とドーナツを食べながら、電車の時間を待った。


「これ、どうぞ」

 ドーナツを買ったおばさんが、娘にカードを渡して店を出て行った。

「おおっ!」

 娘が嬉しそうに声を上げた。

「あと二枚足りないね」

 娘に説明した。


「これ使ってください」

 近くに座っていたスーツ姿の男性が、私たちのテーブルにカードを置いて出て行った。

「これで、もらえる?」

「もらいに行こうか」

 カードを娘に持たせ、レジの前に立った。

 ポン・デ・ライオンのグラスを受け取った娘と二人、元の席に戻った。


 グラスを見ながら、娘が私に言った。

「この町には、神様がいっぱいいるねえ」


 これが、四歳の子の表現なのだろうか。

 四歳の子だから、こういう表現ができるのか。


 この子の目には、自分に優しくしてくれる大人が神様に見えたのだろう。

 神様の町でつらい経験をして、もうすぐ故郷へ帰る親子に、最後に神様が優しくしてくれたのかもしれない。

 娘の言う通り、見方を変えれば、この世界には神様がいっぱいいるにちがいない。

 狂気の母親も、理不尽な裁判所も、精神的に弱い私たちを猛烈に鍛えてくれるスパルタの神様だったのかもしれない。


「神さんに会える」

 雅楽会の会長さんの言葉通り、この町で、娘もきっと神様に会えたのだろう。親しみやすい神様は、この町のあちこちで気さくに声をかけてくれるようだ。


「この町には、神様がいっぱいいるねー」

 優しい人たちを神様と表現する娘の人生には、これから先、もっともっとたくさんの神様が現れてくれるだろう。

 家庭裁判所によって理不尽に家庭を壊され、片親に育てられることになる娘を、もっともっとたくさんの神様が見守っていてくれることを心から祈っている。

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