第88話 なんてことするの!
平成二十五年の夏は、休日の天候があまり良くなかったからか、娘を連れて海ではなくプールへばかり行っていた記憶がある。
実家から車で十分のプールには、流れる屋外プールも波の出る屋内プールもあったが、すぐに雲で日が陰って肌寒くなるため、波の出るプールでばかり遊んだ。
保育園に行かなくなっていた娘は、友達が欲しかったのだろう。同じ年頃の女の子のあとを追いかけて、一緒に滑り台に並んでいた。娘は少し背が大きいから、前に並んでいた子は年上だったのだと思う。
滑り台の上で待つ娘に、その子が何か話しかけた。
滑り降りて、プールに着水した娘の寂しそうな顔に、「何か言われたの」と声をかけた。
一言だけ。
「ついてこないでって…」
意地悪な子だね。三歳の子が一緒に遊んで欲しかっただけなのに。
一時間半ほど遊ぶと、娘も満足してプールを出る。いつも二階の食堂で、かき氷か、たこ焼きを食べるのがお決まりのコースだ。
プールを出て、シャワーを浴びていた時、たまたまシャワーのお湯が娘の顔にかかった。
その瞬間…
「なんてことするの!」
娘が私にパンチ。
その大人びた言い方に驚いた。
妻の姿が重なった気がした。感情的になって怒っても、二時間以上、叱責を続ける妻とは、もちろん違う。
きっと、マイメロかプリキュアのDVDで、言葉を覚えたのだろう。小さい幼児の体に大人の魂が入っているような、そんな不思議な感じだった。
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