第58話 無視された陳述書

 陳述書(平成二十五年一月二十二日提出)


 妻は交際時から何か腹の立つことがあると、私の言い分は聞かず、二時間以上も同じ言葉を繰り返して私を責め続けることが多々ありました。

 結婚後も同様であり、私の冗談さえも怒りの原因になるため、なるべく冗談も言わないように、妻の意に反しないようにして、妻の怒りの原因を少しでも減らすように努めてまいりました。


 娘が生まれてからは、育児の負担によって妻が精神的に不安定にならないように、ミルクやオムツ交換、入浴、抱っこ、寝かしつけなどの育児全般に関して、私も積極的に関わってきました。

 会社の退職は、私なりに育児に配慮して決心したものであります。

 退職後の私の職業訓練受講中も帰宅後は育児に専念しましたが、それでも妻にとって育児がつらく感じられるようで「子供がかわいく見えない」と繰り返したため、娘を保育園に預けることを決めました。

 それ以後も、妻が精神的に不安定にならないように、子の食事の世話、入浴、着替え、歯磨き、寝かしつけなどの育児全般を主として私が担ってきた次第です。妻は泣く子をあやすことが苦手で、車で出かける際は妻が運転し、後部座席で私が娘の隣に座るのが常であり、車で寝かしつける時も抱っこするのは私の役目でした。

 以上の経緯により、私の育児の比重が高まり、父親と娘の関わりが大きくなっているのが現状です。


 娘が一歳八か月を過ぎた頃から、娘も家庭内の状況を理解し始め、家庭内で妻が大声を出す様子を見た後は、何に対しても嫌がるなど娘まで精神的に不安定な様子を見せるようになりました。

 私の努力だけでは妻の怒りの原因を完全に無くすことができず、妻が大声を出す姿を繰り返し目にすることで、娘が「お母さん、怖い」と口にするようになり、家の中で私の後追いをして私の姿が見えないと泣くようになりました。ショッピングセンターなどでも私がトイレに入ると、娘がトイレの前で妻に抱かれながら「お父さーん」と泣き続けることも多々ありました。


 妻の精神的な不安定さを補い、絶対に虐待などが起こらないように配慮し、主として私が育児全般に関わってきましたが、妻が子に直接当たるようになったため、妻の父に事情を話し、妻の激昂を諌めてもらうようにお願いしました。

 その時点では、妻にも妻の父にも了承を得られ、今後は家庭内の状況も改善していくものと安心したのですが、突然、妻が子を連れて家を出て、妻の実家へ妻子を探して行っても、妻の父から「警察を呼びます」と繰り返されるだけで、子に会うことが叶わない状態になりました。

 それまで、私が主として育児を担ってきたために、子の様子が気がかりでしたし、また警察署で妻との話し合いの際、「ひどいことをしても、二~三歳の時のことは覚えていないから大丈夫や」という妻の言葉は私の不安をあおるものであり、娘の身の安全を第一に考え、妻の実家から自宅へ娘を連れ帰りました。


 その後、妻が私に会いに来た際、「家に戻りたい」「家を出たのは、父親が何度も実家に戻るように言ったから仕方なく戻っただけで、私は出て行きたくなかった」「調停を取り下げたい」「カウンセリングを受けるから教えてほしい」と話し、妻が実家に訪れた際も、妻は私の両親に謝罪し「父が何度も帰って来いというので仕方なく実家に帰った」「警察を呼んだのも父で、家庭の話なのになぜ警察を呼んだのか私にはわからない」と話していました。

「お義父さんお義母さんにもっと感謝すべきだった。これからはもっと仲良くできるようにしたい」という妻の言葉に期待して、私の両親も妻に「気楽に遊びに来てほしい」と勧めており、妻と子の面会場所として実家を私が妻に提案したのは、妻と両親が打ち解けられるようにしてあげたいという私なりの配慮があったのです。

 別居以前のように妻が大声を出したり、娘を不安定にすることがないのであれば、特に面会場所にこだわりがあるわけではありません。現在も別居中ではありますが、私は「家に戻りたい」という妻の言葉を信じ、家庭内の状況を改善するために心理臨床センターでカウンセリングを受けています。


 今回の申立について、別居以前より主として私が育児を担ってきたために、現状も変わらず子の監護において一切問題は起きていません。

 別居以前の妻の育児の様子はもちろん、妻が娘を実家に連れて行っていた、わずか十二日の間に娘を生まれて初めて入院させているような養育状態であり、子の監護に関して大いに不安があります。また別居以前の娘の様子から考えても、娘を父親から引き離すことは娘の精神状態を極めて不安定にする恐れがあります。


 妻の実家から戻って以後、娘は風邪ひとつひかず元気に過ごしております。身長体重ともに増え、身体的にもすくすくと成長しており、おまるや補助便座でのトイレトレーニングも進んでいます。言葉の発達にともない、教え諭すことで行儀の良さも身に付いてきています。

 娘は現在、従来の住まいにて、精神的に落ち着き、極めて安定した状態で毎日を伸び伸び楽しく暮らしています。申立人への子の引き渡しという事態は、娘に多大な心理的負担を及ぼすものであり、今後の成長に悪影響を与えかねないものと危惧します。今の落ち着き安定した生活環境を維持し、娘がいつも笑顔で安心して暮らしている今の生活状態を守り継続していけることを、心から要望いたします。

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