第13話 エピローグ

 《吟遊詩人》が歌う神々の決闘。

 その勝者はアル=357。秩序の神の勝利である、

 混沌と文明、そして秩序が融和し、秩序の神が生成する新たな世界を力を併せて開拓していくことが決まった。


 そして数年後、既存世界の中央に築かれた秩序の神の神殿。

 そこで僕は今は神像に宿った秩序の神にひざまずいて報告をしていた。

 

『それで、北方調査団と東方調査団はどうなったのかな?』


『はい。北方調査団は巨大な氷の大地を発見しました。開拓班付きの《吟遊詩人》は氷河と名付けました。

 あまりの寒さと足場の悪さに、獣の神の信徒の《ビーストティマー》たちしか現状ではまともに行動できません。

 ですが、車輪の神の信徒の《チャリオットマスター》たちが《ビーストティマ―》の魔獣と組み合わせた新たな戦車を作成し、踏破する予定です。

 東方調査団は、既存世界の川をひたすら下って行ったところ、巨大な塩水の湖を見つけました。

 巨大すぎて、とても見通せないとの報告が上がっています。そして川とは違う魚も無数にいるとのことで、新たな食料源になりそうです。

 《吟遊詩人》は海と名付けました。

 川の神の信徒が船を造ろうとしていますが、川とはかってが違い、作業が滞っているようです。

 《ビーストティマー》による海の魔獣の調教など対策が現地で行われています』

 

 その言葉を聞いて、秩序の神は満足そうな気配を発した。

 

『氷河に海か。うん。私も知らない地だね。

 アル君にはどっちかを見に行ってもらうよ。

 《神の眼》のクラスを使っていれば、君がみたものは私にも共有されるからね」

 

『はっ……。しかし、新世界を造ったのが秩序の神ならば、最初からご存じなのでは?』


『今回私は世界を雑……と言うと言い方がまずいかな。

 世界の設計図を完全には決めずに世界の材料を注ぎ込んで新しい世界を造ったから、私がわからないことはたくさんあるよ。

 未知は不安だし、世界を再び崩壊に導くかもしれないけど、それが今の世界にはふさわしいと思ったから』

 

 僕はひざまずいたまま待った。秩序の神はまだ何かを話そうとしている。そんな予感がしたからだ。

 

『ねえアル君。ちょっと昔話を聞いてくれるかな?』


『いくらでもどうぞ』


『ありがとう。私が生まれたとき……私に始めて意識が芽生えたとき、私は一人だった。

 何も、光も闇すらもない世界で私は一人。

 どれだけの時間か数えきれない、ううん、時間を数えるという意識すらないまま、私はずっとそこにいた。

 でも、いい加減暇になってきから、光と闇を造ったんだよね』

 

『軽い言葉でおっしゃる割にスケールが大きいですね。秩序の神』


『神だからね。それでもまだ暇だったんで、大地を造った。

 それから、山や川とか動物に人も。

 その過程で私は力が大きすぎて小さなものを造るには向いてないから、色んな神々を生み出して世界の創造を手伝わせた。

 そして生まれた世界に満足して、私はずっと世界を眺めていた。何千年、何万年も』

 

 本当にスケールが大きい。これが神の時間感覚か。

 だが秩序の神は、自重するように言葉を吐いた。

 

『だけど、何万年も見ているだけで満足していたのは私だけ。

 まだ混沌や文明って言葉もなかった他の神々たちは、信徒に恵みを与えたい。停滞した世界を動かしたいと私に言ってきた。

 だけど私はそれを却下した。……世界を動かすことで、世界が壊れてしまうかもしれないからね』

 

『それ、は……』


『アル君の感覚だと、悪いのは私かもね。そして、他の神々も納得しなかった。

 酒の場で私は他の神々に総がかりで襲われ、滅ぼされた。

 それが秩序を名乗った神の最後。……まあ、私の感覚では割とすぐに復活したんだけどね?』

 

 自らの子とも言える他の神々に滅ぼされた秩序の神のお気持ちは僕にはうかがい知れない。

 そして停滞した世界をよしとしているなら、何故今は世界を動かそうとしているのか。

 

『そして目覚めたとき、世界は壊れそうだった。だから新しい世界を造った。

 ……世界を動かそうと思ったのは、アル君のせいなんだよ』

 

 僕、の……?


『最初にアル君に目をつけたのは、私が復活した場所にあった遺体で、一番損傷が少なかったから。それだけ。

 でも一人の人間をずっと見続けたのはこれが初めてでね。君が行く先がどこなのか、見たくなったんだ』

 

 僕の行き先を見たい。だから未知の世界をよしとした。それが、神の御心なのか……。

 

『……まあ、私の押し付けだけどね。文句があったら言ってもいいよ。聞き入れないけどね』


『いえ、秩序の神。光栄です……僕の未来を、見てください。僕は、あなたに新しい世界を見せます』


『そう、か……』


 沈黙。心地よい沈黙。

 しばし後、それを破るように秩序の神は声を上げた。

 

『それじゃあアル君。北の氷河か東の海か、どちらに行くか調査団の増員の計画を立てて報告すること!』


『はっ、お任せください!』


 小さな世界で終わろうとしていた僕の命。だけど今、広大な世界で生きようとしている。

 僕は改めて、秩序の神に命を捧げることを誓った。

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