問題児!
「ヨシ! 皆の衆! 始めるのダ!」
ノアを見送ると早速舞台へ。
シューズを脱ぎ、綺麗に揃えてから舞台に上がり込む。
四人も同じくその後を付いて行く。
三段の階段を上がりきると独特な
決して嫌な感じはしない、ごく自然な匂い。
中を見回すと床は板張り。だが表面は光沢が出ているほど丹念に磨かれており、何処にも継ぎ目が見えないくらい精密に組まれてあり、歩いてもキシミ音の類は一切しない。
上は梁や桁と屋根が丸見えの構造。
こちらも隙間は見られず、雨程度なら問題なく凌げる造り。
ただ壁の類は一切無いので風や寒さはどうしようも無い。
キョロキョロと中を見回していたが他には見る物が無かったのでエリスに向き直ると、床に胡坐をかいて皆が座るのを待っていた。
特に急かす様子も見られず、こちらの様子を眺めていたが、目が合うと床をトントンと叩いて「座ったら?」と合図を送ってくる。
なので戸惑いながらも同じ様に腰掛けた。
「では始める前に身体チェックをしますネ~」
エリスの前に空間モニターが現れ何かを操作し始める。
すると突然天井から四人を包み込むように黄色い光がが舞い降りてきた。
「う、うぇ?」「は、はい~?」「キャッ!」「…………」
「ハイハイ~動くではないゾヨ~」
熱くも寒くもない光。突然な事で四人とも慌て出してしまう。
だが冷静にモニターと睨めっこをしているエリスの姿を見て落ち着きを取り戻した。
「ね、ねえこれ何?」
「…………」
問いには答えず無言でモニターを眺めていたが「ナントまーーこりゃダメだネーー」と言って肩をガックシと落としてしまうのと同時に光も止まってしまった。
「「「?」」」
「何がダメなの?」
心配になり聞いてみた。
すると頭をポリポリと搔きながら難しい顔をして見せる。
「
さらに大きなため息をついた。
「「「…………」」」
戸惑いながらもお互い顔を見合わせる。
「……特にエマは最低〜」
蔑んだ? 眼差しを向けてきた。
「……ガーーーーン‼︎」
名指しされたことに一人ショックを露わにする。
だが何かに気付いたのかエリスがモニターの一角を注視し始めた。
「ん? 何? この訳の分からない数値は……でもデモ基本数値はほぼ0だし~」
モニターとエマを交互に見始める、が直ぐに首を傾げて一言。
「んーー気にしないゾ! どっちにしても一からやるしかないかノーーーー!」
と言う訳でエリス先生による「贄」講座が始まった……
で、延々と講釈が続き約三十分後
「…………」
「……とここまでは理解出来たヨネ?」
「「「……はい」」」
いつの間に用意したのか古代の学校机が用意され、それに四人が窮屈そうに座っており、その前でエリスが大きな
「で~「覚醒」したので「消失」に使う力はここにいるだけで貯金出来るヨネ。でも~もう一つの力は「思いの形」に気付けてないと全く貯まらないカモね~」
「「「…………」」」
お互いの姉妹同士で顔を見合わせる。
「ナ~ゼ~そこで~黙り込むのダ~?」
口を尖らせ膨れた。
「そうは言っても、ねー?」
「そうそう。私とエマはね~誰かさんに~いつの間にかにね~?」
二人揃ってジト目でエリスを見る。
「……ってエリス! アンタがくれたチョコのお蔭だろうが!!」
「オウ? 愛情と怨念が織りなす手作りチョコは〜美味しかったデショ~?」
目を輝かせ可愛らしく首を傾けてきた。
「うん♡ あれはサイコーチョー美味かったよね~って怨念って何? ……じゃなくて!」
「もう一個、いっとく〜?」
「え? まだあるの? ……は! いや違うでしょ!」
キラキラ目線に危うく誤魔化されるところだった!
「エリスさん」
鋭い目つきの菜緒が突然手を上げる。
「ハイハーーイ」
「一つ質問」
「ドウぞー」
「
「ノーーーー‼ 起床後ならどこでもO~K〜」
「分かりました。それと先程の「全員」についてお聞きしたいのですが……その中に菜奈も含まれたりしています?」
「おふコース」
「え? ……お姉ちゃんも?」
「いえース」
「と言う事はアレ……」「……だったんだ」
姉妹で顔を見合わせる。
「へ? 何なに全員って? アレって?」
「え~と……もしかして全員って〜?」
こちらも姉妹で見つめ合う。
「イエーーーース! 君達
「…………えーーーーーーーーーーーー!」
大声がこだまする。
「いいいいいつの間にーーーー⁈」
狼狽えるエマ。ぜんまい仕掛けの人形のように菜緒菜奈に首を向ける。
「え? き、昨日……かな?」
「私も……昨日だと……思う」
昨日? もしかしてゲーム中?
いやいやアルからは何も聞いてないよ⁈
「あ、アル?」
「…………」
応答が無い、というより繋がらない、ではなく繋がっていない。
でも今はそんな事を気にしている場合ではない。
「そ、そんな……」
「そんなって。別に驚くほどの事じゃないでしょうに」
「考えてみたらそうよね~」
慌てているエマとは対照的に何故か落ち着いている菜緒とエリー。
菜奈も「何をそんなに慌てているの?」といった感じでエマを見ている。
当のエマは周りが冷静で大騒ぎしにくい雰囲気を感じたのでトーンダウンしてしまう。
「い、いやでもね!」
「授業中に喚いたらダメだぞ〜迷惑な困った子は校庭十周だカラ〜」
エリスからイエローカードが出された。
「で、でも……」
「エリスさんの言う通り。今は集中しないと」
「それにエマちゃんも……「仕向けた」って言ってたでしょ?」
「仕向けた? ……あっ!」
「だからこれは誰かさんの目論見通り、ってことですよね? エリスさん?」
「アハハハハ、そこは椿に聞いて下さレ~」
確かにその通りなのかもしれないけど、新たな心配の種が……
「それで~四人とも~」
「「「?」」」
「自分の中にある
「「「思いの形?」」」
「そう~願いとか夢でもイイぞ~?」
「え、えーーと」
「オウ、エマ、神様に願い事するのとは違うゾ?」
「ううう」
「イイかな? ここが一番肝心なのだゾ。ソッチの三人はどうカナ?」
「私は多分、分かると思う」
「私……も」
戸惑いながらも同時に手を上げた。すると大きな山脈も同じく震えた。
「ならナラ、目を瞑り~その思いに触れてミテ」
言われるとお互いを見て、次に二人揃ってエマを見てから同時に目を瞑り集中し始める。
その様子を黙って見守る姉妹とワクワク顔のエリス。
その視線の先では机の上で両手を重ね、まるで何か楽しいことでも考えているような、とてもリラックスしている表情で静かに瞑想? している姉妹の姿が。
「ヨーシ! 掌を上に向けて出して意識をそこに集中ーー!」
見た目には全く変化が無かったのだが、暫く経って突然エリスが二人に向け指示を出した。
「そ~と目を開けヤガレ~」
二人共、ゆっくりと薄目で自らの掌を見てみると……
薄っすらとだが掌に
「「!」」
驚く姉妹。と同時に光の球は消えてしまう。
「ぶらぼーーーー!」
手を叩き大喜びするエリス。キラキラ笑顔の復活だ。
そして成功させた二人は驚きの為、動けず固まってしまう。
一方、先を越された二人は瞬きせずに目をまんまるにさせながら見ているしかなかった。
「で、出来たの……よね?」「うん」
「イエース! 二人はその思いで間違いありませーーん! 以後はその思いを大事にしてネ!」
二人はエリスに褒められている間も自分の掌を眺めていた。
「でーー残るはこいつらカーー」
ジロリとジト目を向けてきた。
「「ぎ、ギク!」」速攻目を背けた
「ホレホレ、サッサと目を瞑れ〜」にじり寄るエリス
仕方なしに目を瞑る。
だが……何も変化は起きなかった。
「ナラ楽しかったこと思い出せ〜」
「「…………」」
体勢そのまま目を開けず考えを巡らせてみる。二人とも微妙にニヤけながら。
が相変わらず変化なし。
「チッ」
舌打ちする声が聞こえたので片目を開けて覗き見ると、大変ご立腹そうなエリスの姿が目に入る。
「仕方ねえナ。先ずはエリーから攻略しとくかネー」
「は、はいな~」
呼ばれたエリーは目を開けずに顔だけエリスへと向ける。
「エリーにとって一番嫌な事って何だーー?」
「へ? い、嫌な事~?」
「そうダニ」
「そ、それは……」
目を開けエマを見た。すると片目のエマと目が合う。
「ヨシ。なら何故嫌なのかを深ーーく広ーーく考えてミロローー」
「そ、それは簡単~」
「ホレ答え出ましたーー! 早速目を瞑れーー!」
「は、はいな~」
素直に目を瞑る。
暫くすると再度同じ様に掌を上に向ける様に指示をしてきた。
「「「あ!」」」
エリーの掌に、先ほどの二人とは違い極小だが光り輝く「光の球」が現れ周りを明るく照らし出す。
「ヘイお待ち! 一丁上がり!」
またまた手を叩き喜ぶエリス。
「そういう事か〜」
自らの掌に浮いている輝く光を見て何かを悟ったようだ。
「ちょ、何一人で納得してるの? 私が嫌なの? もしかして面倒くさいヤツって思ってるの? それに気付いたからそんなに光り輝いてるんでしょ?」
「そうじゃないでしょ? 逆でしょ?」
菜緒がツッコミと同時に脳天チョップを入れてきた。
さらに姉にも脳天チョップを入れられる。そのせいか、光の球は霧散してしまう。
「はっぴーばーすでーだネー。そしてーーついに逆ギレ問題児だけが残っちまったゼーー」
「……フンだ!」
とここで爆音が近付いて来たかと思ったら直ぐに静かになった。
どうやらこの惑星一周レースから戻ってきたようだ。
「もうお昼過ぎてるわね~」
「いつの間に。時間が経つのは早いですね。みんなで食事にしませんか?」
「賛成~。菜奈ちゃん先に行ってるわね~」
エマ越しに話しを進める姉達。
席から立ち上がり昼の休憩時間に入ってゆく。
「ううう……私だけのけ者扱い……なんか悔しい……」
「エマちゃん……休憩しよ」
背後から聞こえる優しい声。
不意に誰かが私の頭を撫でてきた。見ると正面でエリスが「困った奴だ」といった風に眺めていた。
「エマには大切なものが多すぎるんでないかいな?」
「大切なモノ?」
「だから分からない? いや気付けない? のカモね」
「何とか……ならない?」
「他人が手助けできるのは「覚醒」までダ。その先は自分で気付かないと」
「はいはい、そんじゃ休憩前にもう一回だけ頑張りますよーだ!」
姉の二人は舞台から出てくると皆で昼食を取る為、ノアの所へと足を向ける。
舞台から離れた所でエリーが菜緒に話し掛けた。
「菜緒さん、さっきのどう思う~?」
「…………」
「?」
返事なく無言のままエリーの手を引きノアが居る船の方向へと向かい始める。
「あ、その前に確認しておきたいことが」
とモノリスへと向かい操作し始めた。
「やはり思った通りね」
「何が分かったの~?」
「え? いえどんな機能があるか、ということがです。さあ、ノアを迎えに行きましょう」
そう呟くとエリーを引き連れ再度ノアが居る方向へと歩き始めた。
何か様子が変だと察したので付いて行くと、今度は菜緒の方から口を開いた。
「ここならばもう大丈夫かな」
「?」
舞台と湖と丁度中間地点。距離にして約三百m。
「後ろは振り向かずに自然に振る舞って下さい」
極々自然な話し方。散歩の最中に話し掛けたといった緊張感とは無縁な感じの話し方。
「はいな~」
「エリス艦の真下では一切の通信が遮断されているのと同時に常時監視されています」
「監視?」
「はい。なので会話には充分気を払って下さい」
「成程~それでアルテミスとは通じなかったのね~」
「はい。私もモノリスの所で自艦に対し通信を試みたのですが同じ状態でした。ですが上空に居座るエリス艦の影の外まで移動した今ではちゃんと繋がっています」
「ということは範囲内では三百六十度、全方向の通信電波を遮断しちゃうってコトよね? それってばちょっと凄いわ~」
「はい、何の為にそんな事をしているのか……ただ一つ言えるのは……」
「そうね~いざという時は困っちゃうわよね~。あ~~それでノアはあんなに離れた所まで避難していたのね~」
「そうだと思います。まあ相方がいない状況で相手がレベル5なので極力波風立てず、という部分もあるとは思いますが」
「ウフフ。ところで菜緒さんはあの子の事、どう見る~?」
「特に害意は感じません。殆ど他人同然な私よりもエリーさんの感想をお聞かせ下さい」
「ん~~私も
「はい」
「一つだけハッキリ言えるのは、エマはエリスを変わらず友人として見ているってこころかな~」
空を見上げて答えた。
「それは……以前を知らないので断言は出来ません。ですが見ていれば何となく分かる……かな?」
「そこは間違いないかな〜。その上で私からの質問~。エマを見るエリスの目。菜緒さんにはどういう風に映ってるのかな~?」
「……多分ですがエリーさんと同じ感想だと思います」
「ですよね~あの眼差しは」
「と言う事は……」
「菜緒さん……提案があるの~」
前を向きながら話していたが、急に顔を向けてきた。
「は、はい?」
「今は詮索するのは止めておかない~?」
「え? どうして?」
「経緯はどうあれ、エマが自分で選んだ道を歩もうとしているのを私は邪魔をしたくはない、ってところかな~」
「それを言われると……そうですね、分かりました。同じ立場として今は控えておきます」
「ごめんなさいね~色々と立場があるでしょうけど~」
「いえいえ私の立場なんて。それよりも他の話をしても構いませんか?」
「?」
「いえ、私は姉としてまだまだ未熟なので色々と参考にさせて貰えないかと」
「あらあら~」
驚いた表情で歩みを止め菜緒の目をジッと見る。数秒間、真面目な菜緒の目を見ていたが直ぐに笑みに変え、ノアに向け再びユックリと歩きだした。
「菜緒さんは常にお姉ちゃんたろうとを意識し過ぎじゃないのかな~」
「意識……ですか?」
「そう。偶然お母さんのお腹の中で一緒に生まれて、たまたま出てきた順序によって決まっただけなのに、お姉ちゃん面するっていうのは私はあまり好きではないかな~」
「そうは言ってもエリーさんとエマは姉・妹としての関係がしっかりと確立されていますよね?」
「それこそたまたまそういう結果になっただけ~。傍から見ればそう見えるかもしれないけどお互いの役割がハッキリしているだけで何も意識なんてしてないわよ~?」
「…………」
「考え方は人それぞれだけどお互い自然体が一番かな~って。って偉そうな事、言ってるけど頑張ったってなる様にしかならないから~あんまり気にしないのが一番よね~」
「自然体……ですか」
「と言う訳で~菜奈さん同様、エマの事もよろしくね~」
「は、はい?」
大事な娘を任せたぞ! といった感じで肩に手を置かれた。
その手の温かみを、エリーが言いたい事を悟り、戸惑いながらも頷いた。
「そう言えばクレアさんってどんな感じの人~?」
「クレアですか? ……彼女と話す機会があまり無かったので性格等は分かりかねます。ですがエリーさん不在の当時、彼女の存在がエマの心の拠り所となっていたのは疑いようがない事実です」
「へ~~あの子がね~益々興味が湧いて来たかな~。会うのが楽しみね~」
和やかな笑みで先を見ているエリー。
その笑みを尊敬の眼差しで眺める菜緒。
その後たわいも無い話で盛り上がりながら湖へと向かった。
あっという間に湖へと到着。
岸から二百m程先にクルーザーが一隻、長閑に浮かんでおり僅かに見える船尾からは釣り竿? らしきものが仕掛けられてあるのが見えた。
「近くで見ると~結構大きいわね~」
形はクルーザーそのものなのだが大きさが一般的なクルーザーの域を遥かに超えており、デッキスペースが二段、船尾は広く開けており、どうやら釣り糸はその船尾から垂らされているようだった。
「ノア〜? お迎えに来たわよ〜」
岸から声を掛けるが返事がない。
菜緒も声を掛けたが同じく反応が無かった。
二人は反重力シューズを利用し岸から一気にジャンプ。放物線を描きながら船尾のスペースへと直接着地をする。
すると「まだおさん」と同じサングラスを掛けたノアが、釣り竿の脇に置いてあるリクライニングチェアーで横になって寝ていた。
近付きながら声を掛ける。
すると熟睡していたらしく、ムクリと上半身を起こして辺りを見回し始めた。
「釣れたの?」
釣り竿の脇に置いてあるバケツを覗き込むと、形の良い魚がいっぱい入っていた。
「……うい、いい暇つぶしになった、よね?」
お空を見上げながら答えた。
どうやらメカだけでなく釣りの腕も確かなようだ。
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