新たな不安材料?

 

「お、お姉様!」

「お? どした?」

「凄ーーく幸せなんですけどぉーーちょっと苦しいですぅーー」

「あ、ゴメン!」


 力を緩めるとその場で恥ずかしそうにモジモジし出す。


 少々キツく抱きしめ過ぎたかな?

 でもラン達には申し訳ないけどやっとが見えてきたから嬉しくて自制が効かなくなっちゃったんだな〜


 隣りのリンは私のことをの目を何故かガン見している。



 あら、そんなに見つめられると照れちゃうでしょうに!



「みんなに心配させて一人で納得して〜それで何が決まったの~?」


 不意に脇腹をツンツンされる。


「う、うぇ~~っとそこ弱いんだから止めてって!」


 エリーに向き直り身構える、すると後方からまた囁く声が。


「ホント?」



 ツンツン



「ひ、ひぇ~~!」


 今度は菜奈にツンツンされた。


「な、菜奈ぁ~~」


 よろけながらも抗議する。


「ウフフ、今回は立ち直りが早かったわね」


「え、そ、そお? やっとのことで目的地が見えてきたからね!」

「早速聞かせて」


 挑戦的な眼差しを向けてくる菜緒。

 それに対しドヤ顔をして見せる。




「そう……私とエリ姉は向こうの世界に行くってね!」




「「「‼︎」」」




 静まりかえる室内。

 全員の視線がエマに集まる。

 名前を出された姉はポカーンと口を開けたまま固まってしまった。


 静寂の中、歩く音が響き渡ると皆の視線がその音をさせているエリスへと向けられる。


 足音がエマの前でピタリと止まる。


「ふぁいなる〜〜アンさ〜〜?」


 また真剣な顔付きに戻し問い掛けた。


 直ぐには答えず見つめ合う二人。

 だが突然エリスが片手を上げる。するとエマも手を上げパンっと勢いよくハイタッチを交わした。


「良くぞ気が付きやがったのだナーー!」

「おう! 任せろ!」


 ガッシリとハグをしあう二人。

 同じ大きさの小さな丘も、持ち主と同様にハグをしていた。


「い、いったい……どういう?」


 困惑顔のラーナ。

 皆も同じようで状況が理解出来ていないようだった。




「つまりこういうこと!」



 まず「遺跡」にて力を蓄える。

 ↓

 準備が整い次第「別世界」へと二人一緒に旅立つ。

 ↓

 あちらで「桜」を探し出し合流。

 ↓

「思いの力」を使って「桜」を送還する。

 ↓

 その後「消失現象」を治める力を開放。

 ↓

「エマ」は「エリー」を、「エリー」は「エマ」をそれぞれ同時にこちらの世界へと送り返す。


「な、なるほど……」


「出来ることは「桜」も「椿」も「探索艦に守られたソフィア」や「ドリー」を使って実証してくれた。だからそこは問題ないと思う」


「桜は直ぐに見つかるんかい?」


「アリスが「向こうの世界では直ぐに探知できるシステムが構築されてる」って言ってた」


「上手く……いきそう?」


「うん! これなら椿と桜の贄としての役割を終わらせられるし、やっと再会出来るし、消失現象も止められるってもんよ!」


 一同明るい表情になる。


 だが一人だけ浮かない表情の者がいた。


「その計画だと……一つだけ問題点がない?」

「え? 何が?」


 ……「残量」に気付いた? 菜緒なら気付くかもしれない。

 物理法則の世界では、大きさや重さが異なる二つの物を動かす場合、移動にかかるエネルギーに差が出るのは常識。


 桜は比較的小さな探索艦ソフィアと巨大なドリーを「力」を使って戻してくれた。その際、誰の力をどの程度消費したか、もしかしたら戻したかは今の私達には知る術はない。


「アリスさん」


 どうやら椿がアリスから奪った「力」と、私が桜から預かっている椿の「力」を件らしい。


「アリス? 例の件?」

「それ以外」


 それも違うらしい。


「アリスの何?」

「お姉さんの行方のこと」

「……そっちか」

「確か「消失現象」を止めるには「双方の世界」で「力の行使」が必要だったはず」


 片方が抜け落ちていた。流石は菜緒。



「そこは…………ラーたんに任せる‼︎ 頼むぜ!」



 ラーナに向け力強く頷きながら親指立ててグーを突き出す。

 それを見てコケる一同。


「は、はいーー⁇」

「い、いやね、そこは私も考えた。でもね、あのアリスがよ? この展開を想定してないとは考え難いと思わない?」

「それは……」

「でね、アイツはこのパターンに対しても当然何かしらの手は打ってあると思うのよ」

「そうかもしれないけど、そうでは無い可能性も」

「いやしてないとは思わない。だって言ってたもん! 「もうすぐ長年の夢が叶う」って」

「長年の夢?」

「そう「叶うかも?」とか「叶いそう」ではなく「叶う」ってハッキリね。そのアリスにとって最優先事項って一体なーにー?」

「消失を止める、よね?」

「そう。その為には?」

「姉妹二人の力が必要」

「そう。その程度は私達が言わなくても対策してあると思うけど」


「…………」

 話を聞いて渋面を見せる菜緒。


「ならば、あのアリス様が何も準備をしていないとお思いで?」

「……確かに。世渡り上手っぽいし、抜け目無さそうだし」

「でしょーー?」


「エマらしい考え方よね〜」


「エマちゃんが頑張るなら〜お姉ちゃんも頑張るわよ〜」


 いつ帰ってくるか分からないけどよろしくね!


 だがまだ不安なのか、またまた考え込む菜緒。だが直ぐに、

「そのアリスさんなんだけど……どうしても以前から気になってることが一つあるの」

「アリスの何が?」

「あの人、誰に対しても必ず「さん」付けで呼んでいたでしょ? なのにレベッカに対してだけは呼び捨てだったのと、彼女の話題の時だけは素っ気のない言い方をしてたのよね」

「そうだっけ? 気のせいってやつじゃない?」

「違う。そういうのって何だか気にならない?」

「うーーん、アリスだから大した理由も無いと思うけど。もし菜緒の言う通りなら、性格の不一致ってとこじゃない? 確か「贄システム」が気に入らなかった、とか言ってたし」


「あのお○さんはネコ被ってるから気を付けた方がいいヨー」


「そうなの? アリス」

「そうそう〜裏で何やってるか分からんシ〜。椿の方がよほど裏表が無いヨネ〜」


「アリスさんに関しては……全くの同意」


 菜奈までもが手を上げて同意してきた。


「ま、アリスの件はラーたんに任せた!」



 丸投げ完了っと! 

 ってゆーかそれこそ今は遺跡に集中しないとな!



「しかしエマっちもあんときに比べたらホンマ成長したよな~」


 腕を組み感慨深そうに、元気なエマを見てしみじみと呟くマキ。


「あんときって?」


 気になったので取り敢えず聞いてみた。


「ボロボロの基地に戻ってきた時に決まっとる」

「うふふ、そうですね」

「……まるで別人、だったな」


 あの時一緒だったランとノアも懐かしむ様に同意した。


「おう、泣きまくってたからの~」

「う、うえ? そ、そうだっけ?」


 そんな記憶は今の私には存在しない。


「お? 恍けとる~。なら遠慮なく。初めはサラ見て~次は紅茶見て~トドメにはクレア見て~」

「ちょ、ま、マキ!」

「そ、それは誠の事か⁈」


 何故かシェリーが食いついてきた。


「お、お姉様! エマさんに失礼ですよ?」

「へへへへ~シャーリーもそん時の記録見っか~?」

「え? ちょ、ちょっとだけ……見たいかも」

「「「私も」」」


 ほぼ全員、遠慮しながらも興味を示した。


「も、もう‼︎」



 今度マスター権限を利用して情報規制でもしとくかね!



 今回、椿の代わりに「贄」になるということを選択し、結果的にだがロイズの望みを叶える形になってしまったので少々癪だけど、別に奴の為に選んだ道じゃない。


 世界を守るため、そして自分が後悔しない為に行くんだ!



「残る問題は何故我々の殲滅をしなければならないのか、だな」


 シェリーがポツリと呟く。


 そう、そこが分からない。

 先程推測した通りなら、いくらでもやりようがあるってもんだ。

 例えば「話し合い」で済む可能性が高いと思うし、それこそ入念に準備・指導をした上で万全な状態で事に挑めばリスクも最小限に抑えられそうな気がする。

 なのにそれらをせずに莫大な費用・労力をかけて自分達が作り上げた「探索者」というシステムをも破壊するという、一見矛盾した行為に及ぼうとしているのだ。


 もし探索者側が破れてしまったら椿達は一体どうするつもりなのだろう。

 その時は二つの世界が滅んでしまうかもしれないのに。


 その事はアリスも当然知っている筈。

 自分達の世界も同時に滅んでしまうということを。

 なのに全面協力を続けているのだ。



 そんなやり取りをしている仲間達を横目で見つめているラーナ・ノア、菜緒の三名。

 仲間達が悩んでいる理由に対し、苦心の末、自らが導き出した答えを今、ある程度の確信があるとは言えこの場で話すことは出来ない。


 言えない理由はいくつかある。

 最たる理由がここに至るまでの事態を予見していたサラが、この事態に至った理由を根本的にに現在奔走していると思われ、皆に話すことによって万が一にもその努力が水の泡に帰すような事態だけは避けたかったからだ。


 そう、エリスという正体不明な者がいる前で話すことによって、事態がどう変わるか予想出来ないから。


 アリスの館にいた時とはもう状況が違うのだ。


 サラに関しては襲撃が行われる前に彼女の努力が実れば犠牲は最小限に抑えられる筈。そうなれば調査艦だけでは無く、整合部の艦も襲ってくる理由が無くなる。


 逆に間に合わなければひたすら戦うだけ。自前の戦力だけで自分達が正しいと証明する必要が生じる。


 そう、二百年もの間、答えが出せず悩み続けているであろう椿に、何が正しいかを分からせる為に。



 それ以外にも不安材料はある。

 まさに今、エマが見つけた「穴」がそうだ。

 これはサラにとっても想定外な事態。




 そのサラだが、彼女の行為は結果的にだが椿の理想と合致していた。

 だからこそサラの行動は制限される事なく容認されてきたし全て順調に事を運ぶことが出来ていたのだ。


 だからと言って椿の理想を本人から聞いたという訳ではない。サラも椿と会ったことは一度も無い。

 なので未だにそれが真実かどうかなんて分からない。

 ただある者からの情報と、実際に行動に移してからの目に見える妨害が一切無かったことにより、己の推測に間違いはなかったと確信していた。


 だがここに来て想定していた道程に異変が生じ始める。


「消失」の発生

 明らかに早すぎるタイミングで現れた調査艦敵艦

 一途の望みを残して去った整合部で起こった動乱


 事態が一気に、そして目まぐるしく動き始めた。

 特に最後の整合部に関しては、利用価値がないなら排除することも躊躇わない覚悟までした。


 このような状況が続くならいずれはどこかで妥協、又は何かを切り捨てる覚悟が必要になるかもしれない。



 この世界を根本的に変えるために。

 椿達の様な不幸な者を二度と生み出さないために。


 そのためなら整合部のみならず政府すら敵に回す事も厭わない。



 だからと言ってその覚悟の中でも絶対に譲れない一線が存在する。

 その一つが探索者から「贄」を出さない事。


 本人達の意思とは無関係に「贄」になるなど自分の信念に反するし、もしそれを一度でも許してしまえばと何ら変わりがない事になってしまう。


 だから絶対に守り通さなければならない。


 それともう一つ。

 エマ同様、桜と椿に再度「贄」として世界を救って貰うという点。

 ここはローナと全く同じ。

 だがローナ達情報部とは違い「贄」に関しての知識はあまり多くはない。


 当然の事といえば当然だが、サラと言えども今は「贄」の事は「贄」に聞くか椿の研究所の門を叩くしか知る方法がない。


 もう一人「友人」であるアリスは椿に関しては殆ど語ろうとはしない。


 つまりサラには知る術がないのだ。



 そして三人が言えない理由がもう一つ。

 探索者であり、情報部員でもあるローナの思惑。


 サラの目的は情報部内でも広く認知されており、その事自体に異議を唱える者は皆無だった。


 但し情報部としては部としての目的も違えば立場も違う為、表立ってサラの支援をすることは出来なかった。

 もし具体的に行動を起こしてしまったら最後、探索部以外の全て、政府すらも敵に回すことになりかねない。


 武力を一切持たない情報部として、表向きは通常業務のみを淡々とこなし静観する構えを貫き通す。

 その一方の裏ではローナ達と連携し、唯一の武器である「情報」を使ってサラの目的達成のため、適時協力を行ってきた。

 というのも、情報部としてサラの目的は現状を打破する最たる手段とは分かってはいたが、その道のりは高く険しく障害が多すぎるので達成困難と見られていた。


 しかも情報部が以前から極秘裏に進めていた計画との最終着地点は一見同じに見えるが、通って行く道のりが全く違う。

 その様な理由からあくまでも「ローナ達が関わる案件」以外での協力には消極的であったのだ。



 そのローナだが、行動の源になっているのは、当然だが情報部の思惑である「椿と言うレベル5の驚異の排除」から来ている。

 彼女はそれを是非とし、椿自身にサッサと「贄」としての役目を果たして貰い退場して貰おうと画策してきた。



 計画のメインとなるBエリアの人的掌握

 天敵となるミアノアを招き入れ牽制の開始と探索艦の改造指示

 計画の邪魔する為、敵となる艦艇への徹底した対応

 最後に聖域である研究所への進入



 これらは全ては椿に対する嫌がらせをする為。

 まあ、幾つかは椿に逆手に取られて良いように利用されてしまったが、イラつかせることくらいは成功していた。


 その結果、最後となる目的の獲物がやっと釣れた。


 それは「レイア」と言う、居所も分からず今まで手が出せなかった、椿にとって最後の切り札。

 その為に情報部の長にも「御助力頂き」……いや貰って、の間違い?



 これで天探女が言っていた「実験」に使われた六人は全て確保した。

 ロイズという駒も切り離せた。

 うち二人は「長」に取り上げられてしまったが、聞く限りではもう二度とあちら側の手に渡ることは無いだろう。


 なので彼女達六人がこちらの手の内にある限り椿の選択肢は限りなく狭まったはず。

 後は本人のお尻を叩いて「長い旅」に終止符を打ってもらうだけ……の筈だった。



 だがローナにとって、そう簡単な話ではなくなった。



 椿に力が残っていないかも? との事は当然まだローナに伝わってはいない。

 伝わったとしても「力」に関する情報には曖昧な部分が多く判断材料に欠ける為、直ぐに目的の変更が生じることはあり得無い。

 なので椿が原因というワケではない。

 むしろ脅威レベルは椿以上。


「中の人」についてはまたまだ謎の部分が多いが、推測の範疇内に収まっていたので「場面」にさえ気を付けていれば対処は可能と思われた。


 では何が問題なのか?


 そう、つい先日「ラスボス」と思われていた椿以外にも、ローナにとって新たな「ラスボス」の出現の予感。


 そして新たな疑心暗鬼の幕開け。


 それは以前チラッとだけ報告を受けていた正体不明プログラム。

 それが搭載されていたAI玉手箱をミアが偶然にも再び発見して開けてしまったのだ。


 しかも同じ場所で。


 それはレイアがAエリア基地に乗ってきていた、巧妙に偽装された第六世代型の探索艦のAIの一部で。


 もう一つは「ステラ」と名乗る未知の、だが明らかな戦闘特化型のバイオロイドを制御していたAI。


 この事実は、この先どの様な影響を及ぼすか計りかねているので、まだローナ姉妹とミア姉妹の四名のみの秘匿事項となっていた。

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