ミア迷宮! 落ち?
そばには囲むようにマリマキ、エリーとラン、姉とエマとラーナが座り、少し離れた場所で武器を握った状態で立っているシェリー姉妹が見えた。
(それで?)
(菜奈殿が倒れられて直ぐにヤツが前室の扉から現れて一番近くにいた我々に襲い掛かってきたのです)
(で無我夢中で攻撃したら、私達には近付けないと諦めた? みたいで、目標? 獲物? を変えて渡河をし)
(今度はあちら側の冒険者達相手に無双を始めたのです)
(でね、私達は合流してたし運良くMP全快した直後だったからまだ良かったんだけど~)
(七割近くがアっという間に強制退場させられちまったわな)
(あの猫丸パーティーなんかは戦わずにサッサと街に引き上げとったで)
(それで生き残ったパーティーは取りあえずは籠城して様子見してるってワケ)
(因みに
(ん、状況は理解した。ありがとうお姉ちゃんとエマちゃん)
頷いてからよっこしよっと上体を起こす。
すると後ろからリーダー悩んでいるような声が聞こえてきた。
(うーーん、どうしようかな~~)
(どうしたの? ラーたん)
顎に手を当て、一人可愛らしく悩んで? いる姿が。
(でリーダー、どないする? 打って出るんか?)
(いやいや、諦めて一回戻るのもアリちゃう? 全滅よりはええやろ? な、リーダー?)
(うーーん)
ラーナの両脇にズリズリと移動、話し掛ける二人。
距離感が無くなったとはいえまだボディータッチが出来る距離には達してはいないので、ラーナの左右には拳一個分くらいの間が空いていた。
(いやもういっそのこと全滅した方がウチ的には……)
(ここまで頑張っとってお宝どないすんの?)
(持って帰れへん宝なんて何の価値もあらへんやろ?)
(…………そりゃそうだ! エライとこに気付いたで! なら何でこんな事すんの?)
(そりゃ……何でやろ? マリ知っとる?)
「ウチが知るか‼︎」
リーダーに絡んでいたがいつの間にか二人だけの世界へ。
これなら話し掛けずに離れた場所で話せばよいものを。
でもあの猫丸パーティーが単騎相手に戦わずに逃げたってことは、今の私達では勝てる見込みがないのかもしれない。
しかもよくよく考えたら奴が魔法陣の上にいる限り先には進めない。
魔法陣の作動条件も分からない。
その条件を調べるにしてもアイツまで相手をしながらっていうのは無理があるってもんだ。
などと思いながらもエマもさり気無ーくラーナに話し掛ける。
(ねえラーたん)
(……え? あ、な~に~?)
(なんで
(…………格好?)
(チョーダサくない?)
(ううん。あれワイズちゃんじゃないの~~)
(……へ? ち、違うの?)
無関心を装いながらも聞き耳を立てていた何名かが振り向く。
(アレはね~ず~~と後に出て来る予定の~)(予定の?)(~~の)(の?)(~~~~えへ♡)
(やっぱり知ってるんじゃん!)
久しぶりの脳天チョップをお見舞いする。
興味津々で聞いていた者達も
(い、痛いの~~)
(まあ
ヤツは一通り暴れた後、転送用魔法陣の上に座り込み、それ以後は全く動いてはいない。
(う〜〜ん)
(ところでさっきから何悩んでるの?)
(実はね〜ヤツは〜ある条件を~満たすと〜襲ってくる〜「ジャッジマン」なのよね〜)
(条件? ジャッジマン?)
(ってゆーかー分かり易く言えば〜合図〜? だから〜双子の女神様の目的は達成されちゃったのよね〜)
(む、無視かい!)
(だからね~~う〜んどうしようかな〜)
(ラーナさん、何が問題なんですか?)
(菜緒ちゃんならどうする〜? 道は二つ〜)
(道?)
(勝てるかどうか分からない敵とは無理してでも戦う〜?)
(無理してでも? 奴はそんなに強敵?)
前回、奴と相対した時は全く手も足も出なかった。だが菜緒の言う通り、今回は奴を近付けさせない事だけは成功した。
つまり今後レベルが上がれば対処は可能なのかもしれない、と思える。
(それとも
(今……は?)
(そう〜まだ〜アイツは早い……じゃなくて〜多分勝てないかな〜。ね〜菜奈ちゃん〜)
突然菜奈の名を呼ぶ、ってゆーか何故菜奈?
(私は何もしていないから分からないよ?)
呼ばれた本人も首を傾げてキョトンとしている。
(塀の陰からヤツを覗いてみて〜)
(?)
素直に言われた通り塀の端まで歩いて行く。
そこでは一応? 見張り役の
思わず足を止め暫しの間、見入ってしまうが勝敗がつく気配が一向に見られない。
と言うか顔と手の動きが早すぎて目で追えない。
とても楽しそうな二人の邪魔をしない様に覗くと薄らとだが奴の姿が見える。
だが前回目撃した時と同じで姿・形に全く変化が見られなかった。
頭の中に「?」を抱えながらラーナの下へ。
(どう〜ヤツを見て〜どこか変わってた~?)
(前と同じ。全身真っ黒だったよ)
(そうか〜やっぱりまだちょっと早いか〜)
(何が早いんですか?)
(今度は菜緒ちゃんに質問〜勝てないと思われる相手が目の前に現れたら〜?)
(可能な限り有利な状態で撤退します)
迷わず即答する。
(ですよね〜と言うワケで〜エリーちゃんよろしく〜)
(え? 今? テレポート〜?)
(そう〜みんな街に帰るから集まって〜〜)
(んーーもうかえるのかーー?)
(撤収? 撤収なの?)
ラーナの目の前に、今まで遊んでいた二人が音もなく現れる。
(そう〜今回の冒険はここまで〜。今度来る時はみんなで来ましょうね〜)
両手を使い二人の頭をナデナデしてあげる。
(みんなって? 誰か増えるなの?)
(ウフフ。次はソフィアちゃんも呼ぶ〜?)
(‼︎ はいはいなのーーーー‼︎ とぉーーても喜ぶなの‼︎)
(そん時はサラも巻き込むってのはどう? 面白いんちゃう?)
(主任のジョブはどないする?)
(……魔王?)
(ま、魔王⁈ そんなの仲間にしたら勇者に討伐されちまうって!)
(ならラスボスってことで)
(そ、そうか! それならええ!)
おいおい! ラスボスなら絶対に呼ばない方がいいでしょうに!
二人の会話のお蔭で、皆も引き揚げようという雰囲気になってしまった。
(でも折角ここまで頑張ったのに~~残念ですぅ)
(大丈夫~次来る時までこの状態が続いてるから~)
はあーーなんだがなーー
(それじゃ全員揃ってるわよね~テレポート~)
エリーを中心とした円陣が光に包まれ消えて行った。
これで今回の魔神の迷宮攻略は「一旦中止」となった。
ギルド前の噴水広場へと全員無事帰還。
噴水広場は相変わらずの人通りで賑わっていた。
太陽は頂点から少し傾いており、昼食の時間は疾うに過ぎていた。
「で、これからどうするの?」
「戻るタイミングは神様次第だけど~今回はもう迷宮には潜らないでこの辺りでもブラブラ過ごしましょうかね~」
「「「やったーーーー!」」」
「ブラブラ」という言葉に一部の者が大喜びとなり大騒ぎだす。
「それよりおなかすいたのだーー」
「そう言えば私も」
リンに続きシャーリーもお腹を押さえる。
ちょこちょこと休憩を取っていたので、今頃になってみんなの腹時計がお昼の時間を知らせてきた。
特に反対意見も出なかったので、大通りに面したレストランに入ると、お客さんは疎らで大半が空席であった。
なので遠慮なく一番大きなテーブル席を占領する。
「良し野郎ども! 生還前祝いだ。好きなモノ好きなだけ食え!」
「良いのですか?」
「おう! どうせ持って帰れない金だ! 残しといたってしょうがないしょ?」
「そりゃそうや!」
「ならウチは……これや!」
メニュー表をガン見しながら叫ぶマリ。
シャーリーが脇から覗き込む。
「え? な、何それ? マリったら凄いの見付けたじゃない!」
「どれなの~~そ、それは伝説の「マンガ肉」なの⁈ しかも野生マンモス肉⁈ わ、私もそれにするなの!」
シャーリーが自分のメニュー表でソニアに教えると目を輝かせ始めた。
「リンリンは~ここからここまで一個ずつ~~」
「あ、姉様そんなに食べきれませんって……あ! けけけけケーキもあるわ‼ な、なら私はここからここまで一通り‼」
一通りって……結構な品数あるよ?
でもランなら制覇しそうだわさ
皆が好き勝手に注文し始めたのでウエイトレスさんが右へ左へと聞きに走り回る。
因みにお店にとっては昼休みの時間帯。だからウエイトレスさんも一人だけ。
ごめんね! 後でチップ多めに渡すから許してね!
「二人は?」
まだ注文していない、澄まし顔で背筋を伸ばし行儀よくメニューを眺めるないすばでぃーの双子の姉妹。
「私達は軽く済まそうかな」
あくまでも上品に振る舞う姉。
どうやらパエリア系に決めたようだ。
「飲まないの?」
勿論アルコールの事。
「え? まだお昼よ?」
「お昼って……ここはどこ?」
「……あ、そうか! なら遠慮なく」
そうそう、遠慮しない。
「お姉さん、私もみんなと同じ「肉」を。あとこのステーキをレアで。あとビールもお願い」
妹はガッツリいくようだ。
ってゆーか肉だけじゃなくて
「あ、私はワイン~。あとスモークサーモン入りシーフードサラダの盛り合わせもね~」
我が姉はいつも通り、体型を気にしたメニューをチョイスしていた。
エリ姉もここならいくら食べても太らないんだから肉食べればいいのに。
……って実際に食べてるワケじゃないから好きな物食べた方がいいのかね?
「んじゃ私は一番高い肉ーー!」
チュモンを終え暫く経つと、休憩中? だったウエイトレスさんも駆り出されたらしく、総出で出来上がった料理を一気に運んでくる。するとテーブルの上が料理で埋め尽くされた。
「では改めて!」
ジョッキを掲げてから
「乾杯ーーーー!」
「「「乾杯!」」」
本日二度目の乾杯。
そして昼食という名の宴会の幕開けであった。
出された料理を半分ほど攻略してから気になっていた事をラーナに聞いてみた。
「ねえラーたん、さっき言ってた神様次第って?」
「ん〜とね~女神様の「真の目的」は果たせたから魔神の迷宮の攻略は一旦中止ってことになるのね~」
「真の目的? 一旦中止って?」
「目的に関しては~ひ~み~つ~」
「なんで教えてくれないの?」
「共闘承諾する時に~心配したことと一緒~」
「共闘? 情報漏れ?」
「壁に耳あり障子に目あり~ってね~」
「は、はあ~~? この世界で?」
「一旦中止にするのは〜現状ではヤツを攻略出来ないから〜」
「……居座っているから?」
「そう〜それと初めに会った全知全能の神様の願いは~まだ~叶えていないでしょ~?」
「……お、何だっけ? えーーと「神器」だったか?」
「そう~私も~神器が何かまでは知らないけれど~どうせなら拝んでみたいじゃない~?」
「そーおー? あたしゃ別に。ってゆーか
「エマちゃ~~ん」
ジト目で見つめるラーナ。
「な、なによ⁉」
「いつまでもグダグダ言ってると~そのお口~強引に~塞いじゃおうかな~~?」
「わわわわ分かった! あたしが悪かった!」
はあーーーーまっいいか!
取り敢えずはゲームから出れるんだから!
出たら早速
焼け野原となったテーブルを後にする一行。
あれだけ飲み食いしたのに財布の中身が一向に減らない。
ここで皆にお小遣いを渡し一時解散としエマとエリー、菜緒と菜奈は四人でウインドーショッピングへと繰り出す。
シェリー姉妹とマリ姉妹、ちびっ子3人組を保護者役のラーナが引率して、二組に分かれて街へと繰り出していく。
その際、三時間後に公衆浴場に集合とした。
全員揃い次第入浴とし、ギルドの宿屋に戻り就寝、本日の活動は終了の予定。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎ三時間後。定番の温泉施設の前。
後は好きな温泉入って食べて寝るだけと、超お気楽気分だったので、大した我儘も言わずに自らの足でかなり時間を掛けて橋を渡って来た。
念の為、途中で行き倒れても良いようにと非常食まで買い込んだのだが、四人でくっちゃべりながらのんびりとやって来た為、非常食も空っぽに。
到着は集合予定時間の約十五分前。
早過ぎたようで、まだ誰の姿も見当たらなかった。
なので建物脇のベンチに腰掛けて待つことにする。
五分後、山なりの橋の陰からマリ・マキ・シェリー・シャーリーの四人が横並びで楽しそうに話しながらやって来るのが見えてきた。
「あ、エマさんだ! やっほーー!」
四人の中で真っ先にシャーリーがこちらに気付き駆け寄って来てエマに抱き着く。
「よしよし、少しは楽しめた?」
「はい! 色々と勉強してきました!」
「べ、勉強? 何を?」
「えへへ、秘密です!」
は、はぁ……秘密、ですか
褒められて嬉しい……そうにも取れる笑み。
何を勉強して来たのかが分からないので、どう受け止めれば良いのだろう。
でも一つ言えるのは恥ずかしがっている訳ではなさそうね。
「しかしシャーリーとシェリーは全くブレんの~」
「ホンマ、こんなとこ来てまで服屋に行かんでも」
「我が姉妹共通の趣味だからな。そこは許してくれ。それよりもマキにあんな好みがあったとは」
「おおおおおおおおそ、それは内緒にしといておくんなまし!」
「何やおくんなましって。マキがボケてどないすんねん。でもな、ウチは安心したで~」
「そう! マキにも女の子らしいところがあったってね!」
「同じく」
何の事だろう……女の子らしいって
君達、他人に迷惑掛けるようなことはしてないよね?
ちょっとだけ不安になってきちまっただよ……
「お、お待たせしちゃいました?」
和やかな雰囲気の四人の背後から突然声が掛かる。
一斉に振り向くとそこにはランが一人で立っていた。
「あれ、いつの間に。一人で来たの?」
「い、いえ。姉様に今、送って貰ったところです」
「そうなの? ってリンはどこ?」
「到着して直ぐに分身を解いたので本人は向こう岸にいます、っていうかもうすぐ始まります」
「「「……はい? 何が?」」」
と言って一人川縁へと歩いていく。
八人も気になったので後を付いて行くと、僅かに見えている向こう岸を指差した。
「では始めます。よーーいドン!」
と言うと同時に上空へ向けて
すると向こう岸から、川の上を「何か」が水飛沫を盛大に巻き上げ動き始めた。
その「何か」は三つ。
内二つはまるで水面スレスレをジェット推進装置を使って移動しているかの如く巨大な水飛沫を撒き散らしながらこちらへと向かってくる。
もう一つの小さな「何か」は水面を滑る様にこちらへと向かって来ていた。
「も、もしかしてあの三人?」
「はい」
どうやら三人で競争しているらしい。
「「「ゴーーーール‼」」」
なんと水面を沈むことなく走り抜け、到着寸前で三人同時にジャンプ、文句なしの十点満点といえる着地を披露しながら舞い降りて来た。
「だ、誰が一番だったなの⁈」息を切らせ必死の形相のソニア
「同着……かな?」
アハハ、と困った表情のラン。
誰が見ても同着にしか見えなかった。
なので誰もその質問には答えられない。
「それじゃ〜決着はまた今度ね~」息一つ乱れていないラーナ
「たのしかったのだーーーー!」
あんた達……一体何者なの?
そして……待ちに待ったこの瞬間がきた!
「よ、よし! 早速脱ぐど~~」
逸る気持ちを抑えきれず緊張して声と手が言う事を聞かない。
だが負けずに気力を振り絞り、服に手を掛け一枚ずつ慎重に脱いでいく。
おっと! 蝶ネクタイだけは外さずにYシャツからズラしておかないと!
そこだけはいくら焦ってたとしても忘れてなるものか!
あとはこの邪魔なYシャツさえ脱げば、我がモノとなった壮大な山脈をやっとのことで拝むことが出来るのだ。
皆の興味津々でバレバレな視線は敢えて無視をする。
今はお前達に構ってあげてる余裕はない!
てか皆は何故期待の眼差しを向けてるんだい?
みんな何期待してるの?
手を止めて考える。
もしかして夢? これは夢オチなのか?
頬をツネってみる。
うん、痛い。
いや本当は痛くは無いんだろうが今は痛い。
服の上から山脈に触れてみる。
うん、確かに感触はある。
大丈夫だ!
ボタンは全て外した!
後は前を開けるだけ!
ぬ、脱ぐぞ……
三……二……一……
それーーーーーーーー
その瞬間、全員の足元に真っ黒な穴が開き、現実世界へと戻されてしまった……
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