ミア迷宮! パーティーの開始!

 ・・・・・・



「……ん~~溶けたカキ氷もうまか~、たい!」

 身体を捩りながら至福顔で氷を頬張るノア先生。


「…………ハ! ココハ何処⁇ 私ハ誰⁇」


「……ココハ保養施設の温泉〜でお主はアシ2号、かも?」


 困惑している相棒を冷静に流すノア先生。


「ソ、ソウデスネ……イエソウデハ無クテデスネ!」

「……まあまあちっとは落ち着きなさいって、ね」


 アシ2号に合わせる事なくマイペースで食べ続けるノア先生。

 とても十八歳とは思えない風格を漂わせながら。


 何処までもマイペースなノア先生。

 容姿から話し方、行動パターン、発想に至るまで違いが分からないほど、姉であるミアと瓜二つ。

 ワンテンポ遅れる話し方を始め、特徴のある語尾で会話を締めくくる言い方。座っている時も、周りをジッと観察する様な眼差しを向け、無口であまり動かずに何かを考えている素振りまで全く一緒。


 ここまで似ていると性格まで同じと思えるが、本人達に言わせれば外見は同じでも性格は全く違うと全否定するだろう。


 そう、実際のところは……性格だけは微妙に異なる。


 まず妹であるノア。

 考え方がどちらかと言えば「オジサン寄り」であまり物事に動じる事は少なく若干受け身で、どこか冷めた見方をするタイプ。


 片や姉であるミア。

 どちらかと言えば「ヤンチャ寄り」で興味が湧くと自制心が抑えきれずに言葉や行動にモロに出てしまうタイプ。


 基本的に大人しい二人はその微妙な違いが出る場面に遭遇する機会が皆無だったので、Bエリアの同僚達でさえネクタイの色でしか判別出来なかった。


 上司であるサラでさえ宇宙服を着て黙っている状態の二人を見分ける事は不可能で、用事がある際はその都度名を呼び反応が返ってくることで見分けていたほどだ。


 まあどこかの主任とは違い基地システムを悪用することはしなかったので、位置情報等での判別は可能ではあった。


 だからと言って会う度にモニターを開くのは二人対し失礼だし、そもそも二人に用事がある、という者は滅多にいなかったので、大半の者にはどちらがどっちでも殆ど不便は無かったのだ。


 ここまで表面上が似ているのにはちゃんとした原因がある。二人の深層には「伊達や酔狂をモットーに」というある者の教えが知らずの内に芯まで染み付いているからで、共通の概念から逸脱しないよう「呪縛」が掛けられてあるからだ。


 だがソックリな二人を正確に見分ける事が出来る者もいた。

 ローナ&ラーナと菜緒&菜奈の双子の姉妹。そして親であるCエリア主任。


 彼女らはいったいどこで見分けているのかは謎ではあるが……



「コ、コレハ失礼シマシタ。オ恥ズカシイ姿ヲ晒シテシマイマシタ」

「……んで?」

「ハ、ハイ。菜奈サン二決定シマシタデス」

「……そう、か。まあこのメンバーの中で、ミアが出した条件に一番合致しているのは菜奈っ子だから、必然の流れなのかもしれない、ね」

「考エ方ガ一番近イトイウ?」

「……そう、で?」

「……デ?」

「……菜奈っ子は見つかった、の?」

「エ? エートソレガデスネ……」

「……何故向こうの時間の流れを、の?」

「エ? ソ、ソレハ……」


「おっ待たせ〜〜しました〜〜ご主人様〜〜」


 突然声が掛かったので振り向くと、浴室担当バージョンのメイドさんがシルバートレイの上に大好物の「クリーム白玉あんみつ抹茶ソースかけ」を乗せ、身体を微妙に傾けてにこやか笑顔で立っていた。


「……わぉ~~お待ちしておりました……かもかも……?」


 途端にあんみつに目が釘付け状態。

 ヨロヨロと近寄り受け取ると、立ったまま早速口に頬張り始めた。


「……ん~~ブドウ糖ちゃんうえるかむ~~脳細胞に染み渡る~~」

「シカシ甘イ物バカリ食ベテヨク太リマセンネ」

「……特異体質~、かな。頭働かせている時は致し方ない、のね~。あと適度なウォーキングも~欠かさずしているから大丈夫~、なの」

「先生方ハ難儀ナ体質デスネ」

「……別に~。リンに比べたらまだマシってモン、ヨ~」

「ソウ言エバリンサンモ良ク食レマスヨネ」

「……タダの食いしん坊~じゃないない、の?」

「アレダケ食ベテ太ラナイトハ」

「……だ~か~ら~体質だって~」

「ソウイウコ事ニシテオキマショウ。ソレデ計画ノ件ハ進メテヨロシイデショウカ?」

「……良きに計らえ、だぞ〜」

「了解デス。良キニ計ライマスデス」



「……ん~~幸せ~~」



 ──アリガトウゴザイマス

 ──どういたしまして。これなら命令違反にはなりませんからね。食べ終える迄にはあの部屋はクリアできるでしょう

 ──デハ私ハコノママ作業ニ取リ掛リマス。サポートヲオ願イシマスデス

 ──滞りなく……では時間速度を




 ・・・・・




 …………ん?


 不意に目が開け、切羽詰まった菜緒の顔と心配そうなエマの顔が真っ先に目に入る。


「「な、菜奈‼」」


 叫び声とともに二人が安堵の表情に変わる。


「お! 目、覚ましおった!」

「どれどれ~?」

「あ、うさ耳消えちゃいましたよ!」


 皆もホッとした表情に変わるが一人だけ、訝しげな目を向けている者がいた。

 その者は何故か? 恐る恐る菜奈の頭をナデナデして確かめている。

 いつでも手を引っ込めれるような態勢で。


「ほ、ホントなのね〜」


「菜奈? 大丈夫?」

「何ともない?」

 言い寄る二人。

 先ずエマに対してにこやか笑顔で頷く。

 次にそのまま真顔に変え姉を見て一言。


「な……お姉ちゃん」

「は、はい⁈」

「怒っちゃ……メ‼︎」


 ほっぺを膨らませて可愛らしく姉を睨む。


「は、はいーー‼︎」


 初めて妹に叱られた事により思考が停止、訳も分からず反射的に素っ頓狂な声を出し謝ってしまった。



 よしこれで解決……だよね?



「な、菜奈、どこ行ってたの?」

「……ちょっと野暮用だよ。気にしないで」

「へ? ……う、うん。でも野暮用って?」

「気になるなの~」


「ちょこっとだけクレーム入れに行ってきたの」


 一人を除き皆驚いた表情で一斉に菜奈を見る。


「く、クレーム? どこに? 誰に?」

「伊邪那美」


「「「……誰? それ」」」


 首を傾げる仲間達。


「友達だよ」

「「「……はい?」」」

「で、解決したから」

「何が?」

「モザイク」


「「「…………はい?」」」


 ドヤ顔で親指立ててグーを突き出す菜奈。

 仲間達は訳が分からず目をパチクリさせるばかり。


「はいはい~菜奈ちゃんも無事復帰出来たことだし~早速行動を開始しましょう~」


「……お? 準備出来たから~?」


 パンパンと両手を叩きながら話すラーナに気付き、いつの間にか床に寝ていたシーフの女性が欠伸あくびをしながら起き上がる。


「その前に、敵を斬ってもにはならない。だから思う存分暴れてOK~」


 またまたドヤ顔で親指立ててグーを突き出す菜奈。



「菜奈ちゃ~ん」

「?」

「そういう時はね~こうするの~」


「微妙」に身体を捩らせながら「微妙」な笑顔でグーを突き出すラーナ。


 以前の笑顔のままであれば「サマ」になっていた仕草。もしその状態のままであったなら、今の仲間達からは総ツッコミが入っていただろう。

 だが、今の後光が射すような聖女の笑顔でその仕草をされると、何と言うか……ツッコミが入れづらい。


 皆も同じ意見のようであのマキですら顔を背けている程だ。


「分かった、こう?」「だ、ダメ! 貴方は真似しなくていいの‼︎」


 姉に止められる。


「どうして?」

「いや、菜緒殿の言う通り。あれは……真似をしない方が」

「そうです。菜奈さんが言いたい事は充分伝わって……って姉様‼︎」

「んーー?」


 さり気なくラーナの真似をしているリンを目撃。すかさず止めに入る。


「こんな感じ~で~いいから?」

「「「……プッ!」」」


 もう一人、真似をしていた者がおり、不意打ちとも言えるそのアンバランスさに全員思わず吹き出してしまう。


「持ちネタにさせて貰うから! さあ準備はいい?」


 笑いを堪えながらも頷く。




 全体の作戦の流れはこうだ。

 ①先ずエマだけが深淵の川の手前の塀へと移動

 ②次に自陣内の全ての塀の内側にトンネルを繋げ、その出口として敵陣の川を越えた小さな広場にトンネルを繋ぐ

 ③トンネルが繋がった時点で「囮組」として、シールドを展開した状態の菜奈と、殲滅組に参加出来ない防御力が高いファイターを先頭に雪崩れ込み、その場で応戦を行いながら可能なら臨機応変に進撃をする

 ④双方応戦が始まった後、新たに敵陣の塀の外側、つまり敵が隠れている反対側となるトンネルを繋ぎ、そこから殲滅組が乱入し、壁を回り込む・又は乗り越え受け持ち場所の敵を屠る


 因みに壁面にトンネルの出口を繋ぐのは、設置時にはどうしても魔法陣が浮かび上がってしまうから。

 視界に魔法陣が現れたら余程のマヌケでない限りは気付かれてしまう。


「囮役」は囮として派手に敵を引き付ける事に専念。

 殲滅目標時間の五秒を目標に、被害を最小限に抑えながらその場を文字通り死守すること。


「殲滅組」は受け持ち場所にいる者を五秒以内に瞬殺すること。

 それ以上、時間を掛ければ混乱している敵に立ち直る時間を与えることになり、反撃や自爆によって自分達のみならず、囮役にまで被害が及ぶ可能性が出てしまう。


 殲滅組参加者は防御を捨て、目に入った敵を「問答無用」に切り捨てる気概が必要だ。


 これが今回の共闘作戦の全容である。

 全てのパーティーは全ての敵を殲滅することに決めたのだ。


 この作戦に至るまでに、リーダー間で話し合いが行われたのだがその際に初歩的な疑問として挙がったのが、エマ達も同様な疑問を抱いたように、


 ──今までは敵を倒すことによって転送用魔法陣が現れていたのに、この部屋だけ何故初めから姿が見えているのか?

 ──あの魔法陣は乗るだけで作動するのか?

 ──そもそもあの転送用魔法陣は本物なのか?

 と全員疑問に思った。


 疑問への一番の解決法はその魔法陣の上に乗る事と単純明快なのだが、魔法陣がある位置は敵陣の全ての塀の裏側から丸見えの位置。

 俊敏性が高い者達だけで魔法陣を目指したとし運良く辿り着けたとしても、万が一作動場合は生きて戻れる保証はどこにも無い。


 ならばリスクを最小に抑える為、今までと同じ方法で行くことにしよう。


 その場合、目の前に立ちはだかる飛び越えるには広すぎる深淵の川。

 前室で深淵を経験した者達からの情報で、落ちればスタート地点に戻されるだけ、との情報を得ていたので、皆に落下に対する不安は全く無くなった。


 だがここで問題が。

 スタート地点と言えば、ここにいる全てのパーティーが来た際に経験したように敵の攻撃に晒される可能性が高い。

 もし深淵に落ち、隊列や準備が整う前にスタート地点に戻されたら、敵の攻撃への対応はほぼ不可能だと断言できる。

 いや、この部屋に入室する時だけ限定の攻撃では? との意見も出たが、どのパーティーもその意見の裏取りをする度胸は無かった。


 そして最大の難関は深淵に掛かっている橋。

 幅は約二m程。駆け抜けるとしたら落下リスクが高い並走は不可能。どうしても単騎の縦列となってしまう。

 敵からしてみれば、そんな状態を放っておく筈は無い。

 待ってました! と言わんばかりに正面から火球なりの魔法を一発放てば、苦せずして一網打尽に出来てしまう。


 ならば手は一つ。

「(深淵の)川を歩いて超えることは諦めよう」と。


 このまま下手に攻め込めば、ここまで辿り着けた有能な冒険者達の数が減ることにより自らのパーティーの生存確率を下げることに直結してしまう。


 ならば川を飛び越える能力を持った者が来る迄、辛抱強く待とうと。

 ただしジッと待つだけというのは性に合わないし、他にやれることがあるならしておくべきだ、と。


 そこで遠距離攻撃を出来る者を中心に、新たにこの部屋へやって来るパーティーを、冒険者が扉から現れる時に敵が攻撃を仕掛けるタイミングを見計らいこちらからも攻撃を行いダメージを与える事で、来るべきその時の為に僅かでも敵の情報を集めていくことにした。


 その際に判明したのは、敵の魔法使いが使う魔法は「炎系」がメインでたまに威力が弱い「氷系」の魔法を使うだけで、それ以外の魔法を使うことは無かった。


 魔法への防御は防具系で防ぐかジョブによるスキルとなる。

 例えば大楯などで受け止めたとする。その大楯が魔法に耐えきれれば防げるが耐えきれなければ消し炭となってしまう。


 もし防具に特殊効果が付与されていた場合は全く損害が出ないのだが、そういった物は希少性が高く所持している者は限られる為、数がどうしても足りない。


 残るはジョブによる特殊防御系魔法。


 勇者が使える有名な防御魔法に「完全防御パーフェクトシールド」というものがある。

 これは一定時間全ての物理・魔法攻撃を防ぐという代物なのだが、こんな非常識な魔法は勇者にしか使えない。


 だが一部の上位ジョブで似た様な防御魔法が存在していた。

 そのうちの一つが菜奈の聖騎士パラディン


 パラディンの本来の姿は防御を主体とする戦闘スタイル。盾で敵の攻撃を防ぎ、隙を見て反撃を行う。

 身を守る、ということであればシェリーの「侍」も、元来は身を守るという流れから生まれた武道。

 だが「盾で守る」か「武器で守る」かの違い、そして「神に仕える」か「主君に仕える」かの差によって能力が変化してきた。


 攻撃力、そして派手さを好む冒険者達に人気があるのは勿論「侍」であり、わざわざ防御主体のジョブを選ぶものはいない。

 とは言え、その域まで辿り着く者は限られているが。


 その傾向はエマの魔術師イリュージョンマスタも同様で、誰もリスクを冒してまでを覚えたいと思う、ある意味はいない。


 なのでこの世界では二人のジョブはとても希少価値が高いのだ。




「と言うワケで待ちに待った「能力」を持ったパーティーが「今」やって来た、というわけだから」


 エマはシーフの女性の先導で必死の思いで最前線となる深淵の川手前の塀の裏までやって来て、一息つく合間にここでの事の成り行きを聞く。


「メンバーが多いパーティーだから成せる業だよね~、でここからなら向こう側の全ての塀が見渡せるよね?」

「覗いても大丈夫?」

「三秒以内だからね」


 塀からちょこっとだけ覗き直ぐに顔を引っ込める。


「大丈夫」


「よしよし! それじゃーアイテムボックスオープン!」


 シーフの女性の前の空間に取出し口が開く。


「使えるの?」

「シーフだからね」


 不意を突かれたのでちょっとだけ驚く。

 てかシーフは使えるのね。


 ボックスへ無造作に手を突っ込み掴めるだけの小瓶を取り出しエマに手渡す。

 中身は……MP回復ポーションのようだ。


「お姉さん名前は?」

「え? え、エマ」

「よし! さあエマ!」



 掛け声とともに雰囲気が一変、鋭い目付きへと変わり、舌なめずりをしながら腰の短剣に手を掛ける。

 それから通りを挟んだ反対側で待機しているパーティーへと手を振って合図を送った。


 すると二人の前に「猫丸パーティーのリーダーさんからの通話」と表示された小さなモニターが開き、音声が流れてきた。


『ではこれより作戦を開始する。誰一人として欠けることなきよう、死力を尽くしてここを切り抜けよう! さあパーティーの幕開けだ!』

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