ミア迷宮! 落下確定?

 薄暗い道。

 今の所一本道で道幅も初めから1㎜も変わっていないのだが、脇の深淵の穴が自分達が落ちることを誘っているように思え歩みがどうしても遅くなってしまう。

 しかも先は暗くて見通せない、後方は一歩進む毎に道が消える、と気が気でない状況が続く。


 床自体が光っているお陰で迷ったり踏み外したりする事はないが周りは真っ暗、たま~に叫び声が聞こえるくらいで静まり返っている為、気が紛れることなくどうしても深淵へと意識が向いてしまう。


 今の状態は彼女ら探索者が普段置かれている状況に似ている。

 音も聞こえず、瞬きもしない星々の明かりのみ。周りには誰もいない真っ暗な宇宙空間に一人漂う日々。


 普段は艦と言う安心出来る環境に守られており、基本一人で行動していても表向きは不安は感じていない。

 だが、もし艦を奪われこの様な異様な状況に一人放り込まれたら正常ではいられないだろうし、考えただけでもゾッとする。


 だが今は目の前に心を許した仲間達がいる。

 仲間がそばにいるだけで恐怖心が薄れていく。



 ……と、この心境に至るに、実は一悶着あったのだ。



 今、進軍している順序だがラーナを先頭にソニア、菜奈、シェリー、シャーリー、ラン、エリー、マキ、マリ、菜緒、エマ、リンと並んでいるのだが、当初はラーナの真後ろにはリンが歩いていのた。


 何故リンの位置が入れ替わったかというと、先頭が小道に入った瞬間、後方で揉め事が発生、一旦引き返す事態となったのだ。


 不穏な雰囲気に気付き、揉め事を起こした四人に「何事か?」と仲間達が視線を向けると、どうやら「並ぶ順番」で揉め始めたとのことであった。


 話を詳しく聞くと「殿しんがりは誰がなるの?」とお互い無言のプレッシャーを掛け始めたところに先頭がサッサと進み始めたので、我先にと同時に小道に殺到、その際一部の者が深淵へと落ちかけたので喧嘩へと発展してしまったのだ。



 いい歳して仕方のない奴らだ……



 特に年下後輩達からの刺さる様な眼差しを感じたのか、自らの行動を恥て直ぐにシュンとなり騒動は収まった、がこのままでは行軍に支障が生じかねないと、リーダーの判断でリンにお願いをし、急遽最後尾へと移動して貰うことで順番の問題は解決した。


 やっとの事で進み始めたが、今度は深淵と道幅の狭さに怯え始め程度の速度まで落ちてしまう。


 特に出発が遅れた原因となった補助攻撃サイドアタッカー組の四人は、前を歩いているエリーの腰を掴み、その後ろの者も同じ様に腰を掴む、といった具合で「へっぴり腰の四連星」になりながら付いて行くしかなかった。



「ひょひょひょひょぇぇぇぇ~~~~」

「うひょひょひょひょ~~よいではないか~~」



 お茶目な忍者の思わぬ脇腹コチョコチョ攻撃で奇妙な声を上げるエマ。


 この状況では反撃することが出来ないと分かっているのでなされるが儘の状態。

 擽っている方もそれを承知でここぞとばかり追い討ちを掛ける。

 その攻撃を受け反射的に前を歩いている菜緒の腰を掴んでいる手が妖しい動きへと変わり、菜緒も身体をピクピクと反応させてしまう。


 それが前へ前へと伝わり最終的にエリーへと到着したことによりマキが睨まれる。

 直ぐに理由を説明しようと試みるが自分を掴んでいた手は既に離されており、後ろの者達は素知らぬフリを決め込んでいた為、結局一人だけ怒られる事に。


 緊張が解れ、仲間達の有り難みを噛み締め、気持ちを新たに和やかな雰囲気のまま進む。


「先が見えてきたわよ~」


 特に何事も起きずノンビリ歩くこと数分、やっと次のが見えてきた。


「「「…………」」」


 前の者の歩みが止まる。


「どうしたのですか?」


 シャーリーまでは何とか前方が見えているが、それより後方の者達には仲間が邪魔で見えていない。


「ちょっと前方、説明してくれるかしゃがむかしてくれる〜?」

「えーと動くと危ないから~例の動作で~」

「「「O~K~」」」


 全員適度に足を開き身構えると、先頭の体の動きに合わせて一糸乱れぬ華麗な「ちゅーちゅーとれいん」の動きをして見せた。


「な!」


 見えてきたのは見るからに滑りそうな高さ五m程の巨大な楕円台の山が聳える深淵に浮かぶ島。

 黄色に着色すれば「巨大なプリン」に見えなくも無い。


「これって……落としにかかってるよね?」

「……明らかに」


「しかも~見た目通りのツルツル~」

 ラーナが山を触って確かめた。


「どうやって乗り越えるの?」


 滑るなら、登る=即落下へと繋がる。

 一応島の形をマップで確認すると、山の丁度反対側にY字型の通路が表示されていた。


「クリアするには先ず山のてっぺんにいかなあかんな」

「なら~簡単な方法で~投げ飛ばす~?」

「上は滑らないの?」

「滑ったらたら落ちてまうやん!」

「ならマリは落下確定!」

「先に確かめた方がいいな」


「お姉様! 出番ですよ!」

 親指立てた片手を後方にいる姉に見える様に横に付き出す。


「はいはい〜ちょっとだけよ~」

「何がちょっとだけ……うわっと!」


 エマの肩にフワッと座り肩車の体勢をとると、片手の人差し指と中指だけを伸ばして顔の前に持って行き「ニンニン〜」と呟く。

 すると楕円台の上にもう一人の可愛い忍者が現れた。

 因みにリンの分身の術は見えている範囲内になら出現可能とのこと。


「上はどうですかー?」

「そっちの床とおなじ感じだぞー」

「だそうです」

「ならいいか〜ソニアちゃんは上までジャンプ出来る〜?」

「あの高さなら楽勝なの!」

「リンちゃん、もしもの時はフォローお願いね〜」

「あいあいさ〜だぞ」


 深淵を怖がる素振りを見せずラーナと位置を入れ替わり二、三歩助走をつけてから軽やかにジャンプ、見事な着地をして見せる。


「おーー確実に成長してるね!」


 着地する様子が後方からでも見えた。

 その動き、来たばかりの酒場でのジャンプと比べると雲泥の差を感じる。


「はい次〜、準備はいいかな〜?」

「私の番」


 菜奈が進み出る。


「それじゃ〜いらっしゃい〜」

「お願いします」

「よいしょっとー」


 腰と足に手を回しお姫様抱っこをすると、軽く勢いをつけて上へと投げ飛ばす。


「うわーーーー」


 可愛らしい声を上げながら飛んで行く。

 そして放物線を描く事なく、立位の体勢で衝撃も無く滑り込むように無事着地をした。


「宜しく頼みます」


 シェリーを同じ要領で投げ飛ばす。

 今度は綺麗な弧を描き天頂部に着地する。


 その要領で次から次へと投げ飛ばし見事着地をしていくが、菜緒だけは自らのスカートの裾を抑えながらだったので着地でバランスを崩しコケてしまう。


 最後に残ったエマ&リン。

 リンは分身を解除するかと思いきや、ちゃっかりとエマからラーナの肩へと乗り換え、今か今かとワクワク顔? で待ち構える。


「しっかり掴まってるのよ〜」


 一言掛けてからエマをお姫様抱っこをすると、投げることはせず自ら軽くジャンプをして空中へ。


「ぎ、ギャーーーー!」


 そのまま着地するかと思いきや、空中で前方宙返りをしてから着地をする。


「フフフ♡」

「ハアハア、こ、怖かったーー!」

「たのしかったのだ!」



 た、頼むからやるなら一声掛けてからにしてくれ!

 それとリンは手放しバンザイしてたけど、どうして振り落とされないの⁈



「つ、次は私もお願いするなの!」

「え〜今のソニアちゃんならあれくらい自分で出来るでしょ〜?」

「えーーーー!」



 一体何をお願いしたいんだか……



「それよりどっちに進むの? 左? 右?」

 マリに呼ばれたので全員へりに近寄り下方を眺める。


「どっちも同じじゃないかな?」

 菜奈の言う通りどちらの道も全く同じに見える。右か左かの差しかないのは確かだね。


「行かんと分からんね」

 そりゃそうだ。先が見通せないんだし。


「確か光が見えたのは丁度正面。それと戦闘は一回……」

「という事は左に進むのが……」

「最短距離〜?」

「と思わせといて極悪なトラップが……」

「RPGなら急がば回れが鉄則なの!」

「そういう場合は大抵行き止まりだよ」

「でもお宝は行き止まりに多く配置されてますぅ」

「でトラップ解除に失敗して振り出しに?」

「テレポートはもう嫌やーーーー!」

「そろそろおなかがすくのだ……」


 相変わらず意見がちっとも纏まらない。


「それじゃ神様に決めて貰おう!」

「どうやって~?」


 アイテムボックスから大金貨を一枚取り出す。


「二人の女神様が描かれている方が左。訳の分からん絵柄は右」

「そんな決め方でええの?」

「大丈夫! 神様が選ぶんだから! ね~~神様?」


 上に向かって笑みを送る。

 こんな時は神様に丸投げするに限る。


「そんじゃー神様よろしく!」


 軽く親指で弾いてコイントスをする。

 キンという音と共に指から離れ、皆の目線の高さまで上がってから大理石の床に甲高い音を立て落ちて転がり始めた。


 その様子を黙って見守る。



 コロコロコロコロ…………ピタ



「「「あっ!」」」


 なんと器用に立った状態で止まる大金貨。


「す、凄い! これエマのスキル?」

「んなワケあるか‼」

「フフフ」


 フフフって、ラーたんその笑い何か腹立つから止めて!


「次はウチに任せてーな!」


 マリが大金貨を奪い取り同じ様にコイントスをしてみると……


「また立ちおった!」


 だめだこりゃ! 多分何度やっても同じだね!


「ウッキーーーー!」

「あ、こいつ蹴飛ばしおった」


 マリに蹴飛ばされ、お星様に成り果てた大金貨。


「あーあ、何てことを……」

「つ、ついイラっとしてもうた……すんません」

「二度も立ったという事は「どっちも同じ」って解釈でいいんじゃないのかな~?」

「成程。同時に両方確認のしようが無いのならどちらに転んでも結果は同じってことですかね?」

「おーー知っとる。確か「シュレッターの猫」やったか?」

「なんやシュレッターって。それメッチャ痛そうで可哀そうやん。そやなくて「シュレーディンガーの猫」やわ」

「冗談やて」

「分かっとる。姉ちゃんにそんな残酷な事出来へん事くらい…………そや、マリなら右と左、どっちにする?」


「うちか? ウチなら迷わず左、選ぶで!」


「「「よし右に決定!」」」


「…………な、なして?」




 右側の道に滑り降りてから進む。すると……


「今度は擂り鉢状?」


 前回の逆バージョン。今回は先の小道が見えている。


「それじゃ順に滑り降りてさっきと同じ要領で~」

「まつのだーー!」


 叫ぶリン。視線は擂り鉢の底に向いていた。

 見ると先程マリが蹴った大金貨が擂り鉢の中を、減速もせずに右へ左へと大きくクルクルと動き回っているではないか。


「今回は底の部分も滑るの~?」

「そうみたいなのだ!」

「どうするなの?」


 丁度足元の縁までに「滑ってきた」大金貨を見事キャッチ、それを取り敢えずアイテムボックスへと入れておく。


 悩む最前列。

 後ろに順に情報が伝わり殿しんがりのエマにも情報が届く。

 すると「またまた私の出番だね!」と言い先頭へと進み行く。


「どうするの~」

「新しく覚えた魔術を使う。その前に先の小道はどっちにする?」

「うーーん」


「今度こそ左や!」


 後方から声が聞こえた。


「(じゃあ右で~)」何故か小声のラーナ

「? 了解」


 取り敢えずマリに聞こえる様に大きな声で返事をする。


「リン、向こう岸で現れたら引っ張ってあげてくれる?」

「にんにん~」


 対岸に小さな忍者が現れる。


「よし、そんじゃ行きますかね!」


 床にステッキで魔法陣を描くとリンの傍の床に同じ色と模様の魔法陣が現れる。

 その魔法陣をステッキで突き刺すと……あーら不思議、大きな穴へと変化した。


「さあさあ~どんどん飛び込め~」

「私が一番なの!」

 とラーナを追い越し軽くジャンプをして穴へとダイブするソニア。


「到着なのーー!」


 結構な勢いで対岸の穴から飛び出て空中でくるっと一回転して通路に見事着地する。


「ソニアも補助お願いね~~」

「了解なのーー!」


 次にラーナが飛び込み消えて行く。

 その次は菜奈。

 この辺りから曲芸が出来ない者が続くので、しっかりと説明していく


「簡単に説明するね。こっちの穴と向こうの穴は繋がっているんだけど、飛び込んだ勢いそのまま向こう側から、穴に対して垂直に飛び出すから出たら引っ張って貰ってね。でないとまた穴に落ちてこっち側に戻って来ちゃうから」


「うん、分かった」


 兎の様にピョンと可愛らしく飛び込む菜奈。

 反対側から無事現れ引き揚げて貰ったのを確認する。


「次、シェリー」

「お先に行かせて貰います」


「次、シャーリー」

「はい! シャーリー行きまーーーーす!」


「次、マキ」

「お先に~」


「次……マリ」

「お、おう!」


 飛び込んで直ぐに反対側を見ると、藻掻きながらも仲間達に何とか救出して貰っていた。


「次、菜緒姉」

「ねえエマ?」

「ん? どしたの?」

「一つお願いが有るの」

「?」

「そろそろ菜緒って呼んで貰えない?」

「…………分かった、菜緒」

「フフフ、ありがとエマ」


 スカートを抑えながら飛び込んで行く。


 さて私も行きますかね、と飛び込もうとしたところ、目の前に再び菜緒が現れた。


「キャーーーー」


 叫び声を上げながら再び消えて行く。


「キャーーーー」


 対岸から聞こえてくる叫び声。

 だが直ぐに目の前に現れ、また落ちて行く。


 対岸は何をしているのか? と見ると菜緒が両手でスカートを抑えている為、上手くキャッチが出来ずにいるようであった。



 全く、我々しかいないんだからぱんつくらい見えてもいいだろうに……

 もももももしかして穿きわすれたとか?


 いやいやそんなことより



 放置プレイしておく趣味は無いので現れたと同時に抱き着き穴へと一緒に飛び込む。

 そして対岸に出たところで手を伸ばし拾い上げて貰った。


「うううううう」

「よしよし」


 抱き着き離れようとしない。

 あの高貴なイメージとは違う姿を見れて愛らしく思えてきた。


 いやいやそうではなくて!

 年頃の娘だし色々あるだろうから泣いている原因を効くのは止めておこうかね。



 第二の島も何とかクリアー。

 菜緒がエマから離れなかったので、菜緒が最後尾となり、エマの背中に抱き着きながら先へと進むこととなった。


「ちーと長くないかい? まだ次の島に辿り着かんの?」


 確かに今までの五倍近くの距離は歩いている気がする。

 さらに初期に比べれば深淵にも慣れたので歩く速度は速くなっている。


「ぬ~~?」「にんにん~~?」


 ソニアとリンがほぼ同時に何かに反応した。


「どうしたの~?」

「前方に」「てきがいるぞ~」


 え? もう?


「マリのお陰だな」

「いやーー照れるのーーって何でウチのお陰?」

「気にせんでええ」

「そ、そうか〜?」


「「「?」」」


 大半の者は理由が分からず首を傾げた。


 さらに進むと正方形のあまり広くは無い広間へと出た。


「あ!」


 その広間の最奥の床には小さくて可愛らしいピンク色のスライムが一匹、こちらを見てプルプルと震えているのが見えた。



 〈LV1バブリースライム〉



「れ、レベル1やて? 楽勝やん!」

「油断せずに行くぞ〜!」

「「「おーー!」」」


 道幅があまり無く退路もない今回は攻撃力が高い前衛が前面に出て一気に攻めて行く。

 その後ろを遊撃が追走、隙あらば攻撃を加える。


 前衛が走る合間を縫って呪文と矢が飛んで行く、が呪文は効かず、矢は刺さらずに終わる。


「レベル1なのにどういうこと⁉︎」

「シャーリー、菜奈殿、油断せずに!」

「分かった」



 プルプル……


 突然震え出すバブリースライム。



 その直後、全員何も出来ずに深淵へと落ちて行った……

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