ミア迷宮! ラーナの実力?

 先程の戦闘バトル、私は何となく結果は察していたので「あの笑顔」以外での驚きは少なかったが、パーティーメンバー仲間達の大半は、予想の遥か上を行ってしまったリーダーの姿に瞬きも忘れる程の衝撃を受けた様で、身じろぎ一つせずに口を開けたまま固まってフリーズいた。


 その後、宝箱の回収を行うのとリーダの回収を行う為、仲間達を一人ずつ声を掛けて再起動させていく。


 だがその中で一人、意外にもソニアだけは目をキラキラさせながら感動していたのだ。


 他の仲間達は予想通りと言うか期待通りの反応で、目と口を限界まで見開いた状態だったのだが、ソニアはまるで花畑の中で感動している少女と見間違える姿で佇んでいたのだ。


 その場違いな姿を見た瞬間、反射的に身を引いてしまったのだが、他の者達みたいにフリーズしているワケでも無し、感動の邪魔をするのも悪いと思い、声を掛けずに放置すした。


 全員に声を掛け終え、エリー達に先程教えて貰った情報を簡単に説明し、移動準備の為ラーナの回収へと向かう。

 すると数歩進んだところで上機嫌のソニアが腕に絡みついてきた。


「エマ姉様、私も師匠のお迎えに行くの!」

「ん? いいよ。ソニアだけ?」

「そうなの!」


 他の者達は……エリーと菜奈が皆を一か所へと集め始めているから大丈夫だろう。


「それにしても師匠、凄かったなの!」

「そうよね~。でも手とかが光ったりしてたけど、あれはこの世界独特の現象で、本来はそんなことは無いからね」


 ラーナ彼女の為に取り敢えずは訂正しておく。

 多分ソニアは勘違いしてると思うし。


「そこは分かっているなの! ここが現実の世界じゃないってことも!」

「うぇ⁈ あ、あら良く気付いたね~」

「実はその手の小説は一時期飽きる程読みまくってたなの! で、直ぐに物足りなくなってしまったの!」

「物足りなくなった?」

「そうなの! で今度は読むだけじゃなくてその世界を体験したいと思ったの!」

「思って?」

「それでみんなで主任に相談したら、翌日にはDエリアの班長達が徹夜でゲームを作りあげてくれてたなの! それを仲間達でお休みの度にやり込んでたから、ここに放り込まれても全く違和感無かったのね!」


「へ、へぇ~、あのハンク主任がねーー」



 サラの言う通りの親バカぶり?

 いや娯楽も少ないだろうし、若い探索者にとっては福利厚生の一環と思えば問題ないのかね?

 でもそのお陰で抵抗なくこの世界を受け入れられたのか

 親バカも一周回って役に立ったということか!



「でもね……とっても楽しかったんだけど、結局は外部装置を使った擬似体験だから、ここまでリアルでは無かったのね……だから次からは余り楽しめないかも……」


 少しだけシュンとなる。


 サヨウデゴザイマスカ……


「でも安心したなの!」

「何が?」

「他のエリアでも似たことしてたから!」

「そ、そう?」


「それと……」


 突然小声になった。


「へ? なに?」

「このことは秘密にしておくのね!」

「だ、誰に?」


 まさかハンク主任?

 それはアカンよ!

 バレたらまたドヤされちゃうでしょうに!


「菜緒さん達に、なのね~」


 違ったか。

 うーーん……そっちは別に秘密にしている訳ではないんだけど……


「…………協力よろしく!」

「なのなの!」


 力強く握手をする。


 楽しみは取っておきたいので暫くはその方針で。

 というかソニアってイメージと違って環境の変化に直ぐ適応しちゃうし、好奇心も旺盛そうだし、気も使えるし、ちゃんと空気も読めるし、ホントBエリアの探索者にスカウトしたいくらいだよね。


 いやいっその事、トレード申請でも出すかね?

 どこかの不良兄弟とかと。




 お喋りが終わる頃にはラーナのそばまでやってきた。

 だが英雄の周りには何十人にもなる人集りが出来ており容易に近付けない。

 まるで大都会の真ん中に突然現れた超有名人の周りに群がっている熱狂的なファンに阻まれているみたいに。


「はいはい、ちょっとごめんなさいよーー、道を開けて下さいねーー」


 人集りが何重にも出来ており、何度声を掛けても場所を譲ってはくれない。

 しかもこの騒ぎではここからの声はラーナには届かないだろう。


「はぁ〜〜埒あかん」

「エマ姉様、どうするなの?」

「なら次の作戦。押してダメなら引いてみろってね。近付けないなら向こうから来させればいい」


 ソニアの手を引いて引き返す。


「この辺りでいいかな♪」


 人集りと仲間達がいるちょうど中間辺りの誰も居ない場所で立ち止まりラーナがいる方を振り返る。


「ソニア、ちょっと耳塞いでて」

「? ハイなの」


 大きく息を吸い込んで……


「キャーーーーーーーー!」


 大声で悲鳴を上げると……


 ズドドドドドドドド!


 まるで爆発が起きたみたいにラーナを中心としたその場から人が四方八方へと飛び散り、それと共に怒気を帯びた何かがこちらに向け突進して来るのが見えた。


「え、エマちゃん今の悲鳴は~?」

「よっ、お帰り! 取り敢えずストレス発散出来たよね?」

「え? ええ。……え~~?」

「次行くよ次。それともここに残りたいの?」


 困惑しまくるラーナ。


「エマ姉様……師匠の扱いがとっても上手なの……」



 ま、長い付き合いだからね!



 とその時三人の足元に転送用魔法陣が現れ体が光に包まれた。

 どうやらエリー達が戦利品の回収をし終えたらしい。


 光に包まれる中、周りでは冒険者達が私達に笑顔で手を振っているのが見えたがそれに応えている暇もなく、何処かへと転送されてしまう。


 気付くと見た事が有る小部屋であった。

 正面にはこれも見た事が有る扉が一つ。他には何もない。

 いるのは仲間達だけ。


「回収出来た……みたいね」

「ええ~取り敢えず十二個の防具? ね~」


 その仲間達が防具? を抱えていた。


「使えるモンかもしれんし、鑑定しながらちっとだけ休憩せん?」


 そうだよね。まだ訓練場でゲットした武器の鑑定もしてないし。

 それと、みんなの動揺もまだ収まっていないみたいだし、一回ティータイムにしましょうかね。


「よし、休憩にしよう!」


 と言ってアイテムボックスを開き「キャンピングセット」を壁にセットした。




「それじゃ順番に鑑定してくわよ〜」


 マリに飲み物と一部向けに軽食を用意して貰っている間に、テーブルの上に並べた戦利品を順に鑑定して貰う。


 その僅かな時間を利用して話し掛ける。


「どう? スッキリした?」

「うん。こんなに運動出来たのは生まれて初めてかも~」

「そりゃ良かったじゃん。肝心なところは見えなかったけど」

「そうなの~? ならもう一回……と言いたいところだけど、全力出すと怒られちゃうのよね~」

「へ? 誰に? という事はさっきのは全力じゃないの?」

「うんその通り~。大体半分くらいの力かな~。ってここだけの話、実は神様から「全力は止めときなさい」って言われてるのね~」

「なんでだろ? もしかして本気の一撃だと魔神もワンパンで倒せちゃうから?」


「ワンパンなの? ワンパーンチなの?」


 詰め寄るソニアの頭を優しく撫でながら首を傾げるラーナ。


「多分違う気がする〜」

「違う?」

「ワンパンだから〜じゃないと思うの〜」

「他に? ……あ!」

「?」



 何となく分かっちゃったよ!

 神様は知ってたんだな、あの顔

 私より付き合い長いし

 神様なりの気遣いなのかもしれない



「ラーたん、横や前に仲間がいない時なら遠慮なく力を解放してもいいんじゃないかな」

「どうして〜?」

「うーーん……仲間に被害を及ぼさないため、かな? さっきも後ろの冒険者が巻き込まれてたでしょ? 多分神様はそこを気にしたから忠告してきたんじゃないのかな? だってラーたん、たまにこうなっちゃうから」


 両手を顔から前に向かって真っ直ぐ伸ばしてみせた。


「……周りが見えなくなる〜?」

「そう。私はラーたんの事、信じてるし行動原理も充分理解してるから見ただけで大抵の事には対処可能だけど、周りの人に私と同じこと期待するのは酷ってモンだよね」

「ん〜分かった〜♡」

「我慢出来なくなったその時は遠慮なく言ってね、フォローするから」


「ワンパン? ワンパン?」



 周りの事には気を回せるのに自分の事には無頓着なんだよね〜

 だから今のこのパーティーの雰囲気にも気付けていないんだな〜



「終わったわよ〜」


 エリーの声が聞こえた。



 無事二十四個の鑑定が終了。

 呪われた品は一つも無く、武器も防具も一人一個ずつ手に入った。


「エリ姉はどんなのが?」

「ウフフ、今度はこれよ〜」

「お? これは……メイス?」

「アタリ〜」

「でも……」


 銀色に輝くメイスの先端には菱型の重そうな物体が付いており、そこには見るからに怖そうなトゲトゲが所狭しと生えている。

 それをうっとりとした瞳で見つめる姉。


「シルバーメイス+1だって〜」


 うん、見た目そのまんまの名だね。

 それとエリーの服がだいぶ変わっていた。


「それはキャソックって言うんだっけ?」


 今までのゴワゴワとした司教服ではなく、上下つなぎの黒い服の上に黒い肩掛けを羽織り、胸元には今までは服の中に入れていたペンダントを外へと出している。

 これはこれで動き易そうだしカッコ良いのだが、手に持っている武器とのバランスが全然取れていない気がする。

 どちらかと言えば辞書とかの方がしっくりくるね。


「その服、前のよりスッキリしたよね?」

「そうね〜でも防御力は倍は違うのよ〜」

「へえーー」

「そっちは〜?」

「えへへ」


 手に入れた「ステッキ」を取り出して見せる。


「どこが変わったの〜?」


 見た目は全く変わりない。


「ここ」


 柄の部分を見せる。

 そこには分かりにくいが本体と同色のボタンがついてあった。


「ボタン〜?」

「うん。ここを押すと……」



 先端を上に向けボタンをポチッと押すと、先端から鮮やかな色のお花が咲いた。

 もう一度押すと今度は傘になる。


「…………」


 無反応の姉。

 ま、ここまではお約束ってことで


 姉の反応に満足し、ニヤケ顔に変えてからもう一度ボタンをポチッと押すと、大きさは変わらずに本体が「レイピア」へと変化する。


「おお〜?」


 なんか微妙な反応。

 レイピアをプルプル振ってみせる。


「この形態は非常用だね。これで攻撃しても私の STRの値じゃスライム倒すのがやっとかな?」

「バーベキューで役立ちそう〜」

「……お! その使い方は思い浮かばなかったよ! 肉や野菜刺して粗塩と胡椒まぶしてジュージューと……いやいやその発想は置いといて」

「他にも〜?」

「出来るよ。何にしたいかは私次第」

「へ〜〜」

「とは言ってもビームとかミサイルとかは出ないからね」

「あらあら残念〜」


 本当に残念そう。

 まあビームなんか出たらゲームバランス崩れまくりそうだし。

 そう考えたら敵もビームは使ってこないのかな?

 どこかの大魔王みたいに目や口からのビームとか。


「あと防具はね……」

「そっちも外見は全く変わりないわよね〜?」

「ここよここ!」


 首元を指差す。


「あっ! 蝶ネクタイしてる〜!」

「そう。服の一部扱いで、燕尾服の見た目は変わりないけどエリ姉と同じで防御力が倍になってる」

「へーー、でその蝶ネクタイに何か特殊効果が? 例えば声が変わるとか?」

「声変えてどないすん! これの凄い所はね、逆で変わらない所!」

「?」

「見てて」


 立ち上がり、さりげなーく上着を脱いでいく。


「あ、あれ〜?」

「ふ、ふ、ふ」


 何も変化が起きない。

 真っ白なワイシャツの下では透けて見えるぶらじゃーに隠された壮大な山脈が萎みもせずに自己主張していた。


「へ、へえーー」

「驚いた? これ着けてると服を脱いでも効果が持続するんだって!」

「良かったじゃない〜。それなら蝶ネクタイだけつけてれば他に着替えたとしてもその効果がプラスになるってことよね〜?」

「お? そうか! そっちは気付かなかったよ」

「…………」

「あはは! まあ健気な私への神様からのプレゼントなんだな! 帰ったらいっぱいサービスしてあげないと!」

「あはは……」


 力無く同意するエリー。

 ……神様ももう少しゲームクリアのになる武具をくれたら良いのに……と。それとこんなの与えたらエマこいつは間違いなく素っ裸でも蝶ネクタイだけはつけて風呂に入るよ、と妹のその哀れな姿を想像したが、口には出さずにそっとしておいた。



 お互いの装備の見せ合いを終え仲間達を見ると殆どの者の装備に変化が見られた。


 初めは菜奈

 得た剣が奇妙な形でとても攻撃に向いていなさそうな形をしている。

 防具は形こそ変わりが無かったが、色がシルバーからプラチナへと変化、凛々しく見えた。


 次にリン

 彼女は今まで使っていた刀はそのまま使い、新たに金属製の星形投擲武器が加わった。

 防具は腕に手甲、額には金属性の鉢金が追加してある忍び装束へと変化する。


 最後にシェリー

 彼女の鎧が宇宙服と同じ全身赤色へと変化。

 特に目を引く点が兜の飾りが王冠を被った獅子。然程大きくはないがここだけが他とは違い赤色ではなく金色を主体とした細工が施されていた。

 あと腰の刀が長短三本から同じ長さの二本へと減っていた。

 因みに金髪は邪魔にならない様、後ろで綺麗に結わいている。


 他の者達は色や形に多少の変化が見られたが機能的にはあまり変わりは無さそうに思えた。


 ただ見た目に大きな変化が無いとはいえ、全員の武具は初めから「+1」が付いており、この後の育て方次第で化ける可能性が十分にあるといえるだろう。




 装備の確認を終え小腹を満たした後、迷宮へと戻る。


「みんな準備はいい~」

 肘近くまで覆われたナックルを装備したラーナリーダーが変わらずの笑顔で皆を見渡す。


 隊列を組んだ仲間が無言で頷く。

 リンに合図を送り扉を開けて中へと侵入すると、いきなり冒険者がこちらに向けぶっ飛んできた。


 それをラーナが冷静に受け止めるが、その冒険者は直ぐに光に包まれ消えてしまう。


「な! これは何事⁈」


 中を見渡すと、先程と同じ広さの部屋のあちらこちらでパーティー単位での戦闘が行われているではないか。


「今回は乱戦?」


 と言うのも、どう見ても連携を取って戦っているようには見えない。


「来るぞ‼︎」


 考える暇も無く敵が来たようだ。

 シェリーが身構える先には二体、四足歩行のモヤが掛かったモンスターがこちらに向け突進してきていた。

 直ぐに遊撃が迎え撃つため先行していく。

 その間に前衛が迎撃準備を整え、呪文組が詠唱を始める。


 真っ先にリンが敵と接触、敵の上を飛び越えながら刀による初めの一撃を与えると首? と胴体が綺麗に二つに分かれ、そのまま煙へと変わってしまった。


「にんにん~~」


 空中で一回転し、見事な着地を披露する。


<LV32ヘルジャガー>


 名が判明するともう一体のモヤが取れ、真っ赤な体が現れた。


「ジャガーっていうよりサーベルタイガーやな」


 動物園などで見掛けるジャガー特有のしなやかな動きなのだが、顔の三倍はあろうか巨大な牙と手足の盛り上がった筋肉、鋭利な爪は遥か昔に絶滅したサーベルタイガーを連想させた。


 ここで残りの遊撃二名の攻撃が入る……がヒョイと避けられてしまう。


「呪文行きます!」


 杖の先端に浮いている青白い水晶を大きく掲げ、掛け声と共にランの火炎柱ピラーフレームがさく裂し敵が炎に包まれた……が毛の一本燃えることなく平然とこちらに向け突進を続ける。


「き、効かない? レジストされた?」

「ならこちらはどう~」


 効果が全く無かったようで慌てるラン。

 その隣では同じ詠唱をし、準備万端で待機していたエリーが急遽違う詠唱を開始、メイスの先端を敵に向け呪文を放つ。


氷結フリージング!」


 移動する敵に纏わりつきながら、周りに氷の結晶が無数に現れ一斉にモンスターの体に付着、その部分から凍り始める。

 さらに同様のことが全身の至る箇所で起こり、すぐさま氷漬けとなりモンスターの動きを一瞬で停止させた。


 そこへマキがすかさず柄の部分が派手に装飾された真新しい洋弓で慌てて矢を放つと、矢が自ら軌道修正を行いながら見事命中、体が粉々に砕け散り、煙へと変わっていった。


「今度は後ろ!」


 菜緒の声で振り返ると後方からモヤの掛かった長大ながこちらに一直線に向かってきている。


「任せな! そりゃ!」


 パン切包丁のような刃の部分が波打っている包丁を取り出し一振りすると、刃と同じような波型の斬撃が敵に向け飛んで行く。

 その斬撃を避けようとしたが僅かに敵と接触、するとが数本地面へと落下する。


<LV28ハイメデゥーサ>


 モヤが晴れると全身灰色の目がない男性型のメデゥーサの姿が現れる。

 その頭部からは黒い目を持った無数の赤い蛇がおり、蛇同様、ウニョウニョと蠢き合っていた。


「あ、あれってメデゥーサよね⁉」

「ま、不味いんちゃう? 目、合わせると!」

「目、無いから大丈夫やろ?」

「それよりも!」


 もう寸前まで迫られてしまっている!

 この距離だと遊撃はおろか、前衛すら間に合わない。


「任せて!」


 脇で何かが光り輝くのが見えたのでそちらを向くと、スカートの丈が膝上まで短くなった菜緒が輝く「薄い本」を片手で開きながら何かを呟いていた。


「出でよ、ゴーレムナイト!」


 叫ぶと同時に手前の床に魔法陣が浮かび上がり、そこからボディービルダー顔負けの筋肉マッチョなゴーレムが敵に向け「サイドチェスト」のポージングで現れた。


「「「…………」」」


 その姿を見て敵が迫って来ているのも忘れ時が止まってしまう一同。


 そこにハイメデゥーサが減速もせずに激突してしまう、がゴーレムナイトにダメージを与えるどころか自らは跳ね返されて大ダメージを負ってしまう。


 ドヤ顔で勝ち誇った様に「ダブルバイセップス」のポージングをするゴーレムナイト。

 そのまま光と共に消えてゆく。


 そこにシェリー姉妹が到着。


大蛇オロチおろし!」


 蠢く蛇の如く、怪しい軌道を描きながら振り下ろされる二ホン刀。

 その軌道通りに飛んで行く真空刃。

 受けたダメージで悶えている敵に到達すると体を左右に真っ二つにする。


「やったか?」


 それは言ってはいけない言葉。

 もし倒したのであれば煙へと変わっている筈。


 マリの言葉のせいか、二つに分かれはしたがウニョウニョと藻掻いている。


 敵の前まで進み出て頭上でクルクルと刃が二倍の長さになった青龍刀を回していたシャーリーの気合の籠った一撃が振り下ろされると、半分に分かれた首が同時に胴体から離れ落ち、そこでやっと煙へと変わった。


「最後はクリティカルか?」

「どうだろ。そうかもしれない」


「これでお終いかい?」


 マリさんや、それも言ってはならん言葉でしょ?


「うえになにかいるぞ~」


 いつの間にか戻って来ていたリンが上を見上げていた。

 脇ではラーナとソニアの二人も戻って来ている。

 釣られて上を見るとが羽ばたき、真上をクルクルとこちらの様子を伺いながら旋回していた。


「あの飛び方……なんか嫌な予感しない?」

「いや……大きさからいってちゃうやろ」

「だよね」

「それよりあの高さだと斬撃、届くかしら」

「どやろ。試してみっか?」


 マリの斬撃が飛んで行く……がスーと躱されてしまった。


「菜緒姉の誘導魔法は?」

「初級魔法程度じゃ同じ様に避けられるか、当たっても効果が薄いかも」

「ちょっとためしてみるのだ」


 腰の星形の投擲武器を手に取る。


「あ! それ手裏剣なの!」

「よくしっているのね~。そんでね~これをひょいっとなげると~」


 フリスビーの要領で胸元から軽ーく投げる。

 すると目でも追える程度の勢いで上昇し、敵に向け回転しながら飛んで行く。

 対するモヤの掛かったモンスターは何かを察したのか、のんびりした動きに乱れが生じ、慌てた様子で手裏剣から逃げ始めた。

 だが手裏剣が徐々にスピードが増してゆき、終いには敵に突き刺さる。

 さらにその部分が爆発した。


「ギュエエエエ!」


 雄叫びを上げるモンスター。

 ただ殆どダメージは負っていないようで変わらず宙に留まり続けた。


 〈LV15リトルドラゴン〉


 緑色の巨体が現れ名が表示される。


「ど、ドラゴンやて⁉︎」

「一階から⁈」

「ワイバーンかと思ってた!」


「来るぞ! ブレス‼︎」


「「「‼︎」」」


 大きく開かれた口の中から真っ赤な炎が見えたかと思った瞬間、大火炎がこちらに向け吐き出された。


 今度こそ不味い!

 避ける手段が全くない!


 迫り来る炎。

 それを呆然と見守ることしか出来ないエマ達。


 ここでゲームオーバーか? と誰もが思った時、皆の前に立ち塞がる者がいた。


「リミテーションシールド!」


 リトルドラゴンに向け大楯を掲げ、技名を叫ぶと、シールドが輝き一瞬で仲間達を覆い尽くす程の「光の盾」が広がる。

 そこに鉄をも溶かす程の高温のブレスが襲い掛かる。


「キャーーーー……あ、あれ? 熱くない?」

「ホント〜」

「な、菜奈! 貴方は大丈夫?」

「大丈夫だよ菜緒、みんなは怪我は無い?」


 そんなやり取りの合間にも止むことが無いブレス。


「しかしどうやってアレ倒す?」

「浮いている限り手が届かん」

「手が届けば何とかなるの?」


「「「勿論!」」」


 菜奈を含めたファイター系が声を揃えて返事をした。


「ふふふ、やっと私の出番かね!」

「え、エマ?」

「ヤツを地面に落とす! そしたら全員で倒して。頼むよ!」

「で、出来るの?」

「おう! 但しあんまし長くは持たない。それと術を掛けてる間は多分私自身が無防備状態になるから誰か守ってくれる?」

「分かった〜」


 後衛組と呪文組が頷く。


「そんじゃ、行くよ! あとは任せた!」


 空中にステッキで魔法陣を二つ描いてから前後に重ね合わせてからそれを力強く切り裂く。


「グワァァァァーーーー」


 切り裂いた直後、ブレスが止みドラゴンの絶叫が響き渡る。

 全員の視線が光の盾の先にいるドラゴンに向けられると、変わらず羽ばたいている羽をその場に残して緑の巨体が真っ直ぐと地面へと落下してくるのが見えた。


「や、やりました!」

「流石エマ姉様!」


「…………」


 感嘆の声が掛けられるが、今のエマには返事をしている余裕は全く無い。

 勿論、敵にこの術を悟られない為にスキルの効果がいるのだが相手の抵抗力が思いのほか強く、集中していないと直ぐにでも効果が切れてしまうからだ。


 LVは十五と低いとはいえ「ドラゴン」の名は伊達じゃないと言う証。


 と言うのもこの術、敵の任意の箇所を一時的に切り離すことが出来るであり、実際には繋がっているのと同じ状態。

 この状態の分かり易い例えを出すなら有名な「デュラハン」を思い浮かべれば分かるだろう。


 ズドーーーーン


 傍の地面に巨体が落下し激突。地響きがと風圧が伝わって来る。


「今よ~~!総攻撃~~!」

「「「おーーーー!」」」


 群がる前衛。対するリトルドラゴンは上昇しようと藻掻くが一向に体が浮き上がらないことに困惑している様で、こちらの攻撃に対処する素振りが見えない。

 というのも……


「固~いの!」

「傷を付けるのがやっとだ!」

「槍先が刺さらない!」


 と攻撃が通じないのだ。


「ぐぐぐ……」

「え、エマ……」


 ステッキを構えている手が震えだす。

 それを見守る後衛。

 限界が近いことが誰の目にも明らかな状態。


「あっそうか! 姉様ーー!」

「なーにー?」

「あ、あへ?」


 目の前にリンが現れる。


「え? あっ分身……」


 ドラゴン相手に飛び回っている姉の姿が見える。


「そうなのだー、でーどしたの~?」

「そ、そうです! 先にを何とかして下さい!」

「ん~~おーそうか! まかせとき~~」


 そう答えるとのリンがラーナに近付き何やら話し始める。

 直ぐにラーナの片腕が突き上げられると、のリンがラーナに向け物凄い勢いで駆けて行く。


 その合間にこちらに向き直り両手の指を交差させ腰を落として待ち構え、刀を抜いたリンが到着と同時に自らの足をその交差させた手の上に乗せると、思いっきり上へと投げ飛ばす。


 その行き先は未だにフラフラと羽ばたいている羽。そこへ一直線に、弾丸よりも早く突撃していくリン。


「とっかーーーん、だぞ!」


 ものの見事に羽を突き抜け、破り遥か上にある天井に着地、さらに天井を思いっきりジャンプし、もう一枚の羽根も同様に穴を開けて地面へと無事舞い戻ってきた。


 痛みで悶えまくるドラゴンの前で喜びの踊りを舞う小さな忍者。


「ニンニン〜」


 いつの間にかランの隣にもう一人のリンがいた。

 どうやらこちらのリンとあちらのリンがいつの間にか入れ替わっていたみたい。


「お姉様、グッジョブ!」

「よっしゃーー! これで飛ばれる心配は無くなったな!」

「ふぇぇぇぇ~~~~」


 術を解除しその場に崩れ落ちるエマ。

 心配そうに手を差し出すエリーと菜緒。


 マキの言う通り、これで手出しが出来ないという問題は解決した。

 だがこちらの攻撃が通らないことに未だ変わりはない。

 そこをどうするか……


「一度撤退するしかない?」

「ここまで頑張ったのに……」

「あの硬い装甲さえ貫ければ」


 諦めムードが漂い始める。


「ひ、一つだけ手がある……」

「どんな手〜?」

「ら、ラーたんに任せるの」 

「え?」

「遠慮無く力を使えって。でないとアイツは倒せない。それと仲間は巻き添え喰らわないように後方に下がらせて」

「わ、分かった」

「……もう一つ伝えてくれる?」

「な、何を?」


「お姉ちゃん……大好きって……」


 気を失ってしまった。どうやらただのMP切れのようだ。


「「「え、エマーー!」」」

 雰囲気に流され叫ぶ姉達。

 それをジト目で見詰めるマキ。


「あ、姉様! 急ぎ皆さんに一字一句間違えずに伝えて下さい!」


「へいへいほ~~」


 あちらのリンが仲間をリーダーの後方へと下がらせる。最後にラーナにエマからの伝言を伝えると、こちらに背を向け敵と対峙したままの状態で動きをピタリと止める。


 直後、帽子が床へと落ちると長いサラサラな赤髪がフワフワと風もないに浮き始める。

 さらに彼女を中心とした空間が揺れ始めると、流石のドラゴンも異変に気付き痛みも忘れ、己の直感に従いブレスを吐くのすら忘れて後退りを始めた。


「師匠! 頼むなの!」

「ラーナ殿の一撃で!」

「エマさんの仇を!」

「…………」

「ワクワクドキドキ」


 仲間達が見守る中、敵に向けゆっくりと歩き出した。

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