ミア迷宮! お気楽極楽?
ラーナを見ると放たれた
「エマちゃん達で時間を稼いで〜」
「分かった!」
「エリーちゃんはそっちを援護~」
「はいな〜」
どうやらチームを一時的に分割、個別撃破へと戦法を切り替えるつもりだ。
向こうはファイター系+ラン。相手は鈍足だがパワータイプと思われるオーク。
前回と同様、前衛が術者を守りながら遊撃が攻撃を加えていく。
こちらはパワータイプというよりはおそらくスピードタイプであろうコボルド。
エリーがランと背合わせとなり、そのエリーを囲む形で四人が敵と対峙する。
二体のレベルもこちらと同等か若干低い LV12とLV10。
オークに関しては上階のボスとの戦闘を考慮して、こちらのLvが低い状態でも問題なく戦えたのでイレギュラーな事態が起こらない限りは倒せるだろう。
ただ問題はオークよりもコボルドの方だ。
走り回るコボルドがいる方向を見るが暗闇と同化しており、姿を見つけることが出来ない。
こちらにはリンの様な暗闇でも対処出来る者はいないし姿を認識してから出ないと攻守に移れないタイプの者ばかり。
ならお互いの邪魔をしない範囲で密集し、防御に重みを起きながら連携して迎撃するという作戦にした。
待ち構える都合上、位置だけでも把握しておくため、全員マップを開いたまま敵と対峙する。
ここまですれば最悪の状況だけは回避出来だろう。
すると敵の光点が右へ左へとこちらを警戒しながら、人が全力で走るよりも早い速度で動き回っているのが見て取れた。
「これじゃこっちから近付くことはおろか、呪文も当たらんとちゃう?」
前回の様にこちら側の持ち味である遠距離攻撃を光点を頼りに放ったとしても、当てるどころか姿を見ることすら叶いそうもない。
ましてやこの速さだと初級魔法程度では当てることなど期待するだけ無駄というものだろう。
呪文は威力があるが、敵からも丸見え。特に炎系の魔法は放つ前に一度術者の前に現れるので「これから撃つぞ〜」と相手に予告している様なモノ。
放てば必中、というご都合主義でない限り、場面や使い方を考えないとただ単にMPを消費するだけで終わってしまう。
さらに厄介なことに武器を持っていると言っていた。
どんな武器かは分からないが接近戦に持ち込まれた場合、五人の中で太刀打ち
でもどちらもファイター系では無いので応戦は難しいだろうしかなりの危険を伴うだろう。
以上の事から、こちら側のメンバーでは接近される前に叩くしか選択肢が無いことになる。
状況・相性最悪と愚痴でも言おうとしたところ、敵は呑気に待ってくれる筈もなく、いきなり光点が真っすぐとこちらに向かって来た。
先ずはマキが矢を放つ……が空を切る。
避けた先にマリの斬撃が襲い掛かる……が難なく躱されたようだが何故か光点が遠ざかって行く。
「今のは様子見じゃないかしら?」
「こっちの対応を見るためってこと?」
「そう」
「ワンコのクセに賢いやんけ!」
それなら……
「次、近付いたらマリとマキは今のと同じ攻撃を、さらに避けたところにエリ姉の呪文と菜緒姉の召喚術で」
「それでも避けられない~?」
「取り敢えずは様子見と時間稼ぎ。後方のチームが片付けばリンを初めとした遊撃部隊が加わるから」
「「「りょ、了解!」」」
と作戦が決まるのを待っていたかのように、敵が動き出しこちらに一直線に突進してくる。
「よし! 今!」
相手との距離が半分程となった所で合図と共に一撃目の矢が放たれたが躱され、そこに二撃目となる斬撃が襲い掛かる、がこれも躱される。
そこに三撃目となるエリーの
「「「ま、不味い!」」」
思わず
ここまでは予想の範囲内であったのだが、思いもよらなかった事が起きてしまった。
暗闇の中、炎系の明るい呪文を間近で見てしまったことにより「暗順応」が起きてしまい、一瞬ではあるが目の前がより一層の闇と変わってしまったのだ。
しかも敵はすぐ目の前まで迫っているこのタイミングでだ。
「いやまだよ‼︎」
菜緒の勇ましい声が響き渡る。
彼女は目を閉じたまま、待機させていたピクシーに攻撃指示を出す。
すると待っていました! とばかりに
「グオァァァァーーーー!」
クリーンヒットし炎に包まれたが、雄叫びを上げながら体を数回大きく振って纏わりついていた炎を消すと、バックステップをしながらまた暗闇へと姿を眩ましてしまう。
「ヤバかったーー!」
「Lv5コボルドよりも一回り大きかったな」
「チラッと見えたけど武器は
大きさ意外に身体的な差は見られなかった。ただ我々とほぼ同じ背の高さのせいでより凶暴に見えてしまう。
再び後方からの喧騒のみとなり、薄暗い状態へと戻り、辺りには焦た臭いが充満していく。
消えたボスコボルドの光点を注意して見ているが、壁際まで移動してからその場から動かずジッとしていた。
「でも良くピクシーの炎が当たったよね?」
「多分、この子達には敵が見えてるんだと思う」
「成程……なら暗闇近接戦闘には最適かしら~」
「それはこの子達の能力によって変わりますね」
そうか。今はまだ菜緒の召喚士としてのレベルは低いから呼ばれた方もレベルが低いんだ。
ただレベルが上がればピクシーだけでなく色んなタイプのモンスターが召喚できるようになって、より強力なモンスターを召喚出来るはず。
それは菜緒だけではなく、エリ姉やラン達の呪文組も同じで今は単体攻撃魔法しかないけど、この先は広範囲殲滅魔法も覚えていくし、種類も増えてく筈だよね。
例えば核融合魔法とか……
こっちが一段落着いたので後方を見ると、そばにランとその先少し前方の菜奈を残して、他の五人がボスを囲みそれぞれ波状攻撃を加えているようだった。
こちらに関しては、声を出し合ってお互いの位置を確認し合いながら戦っているので、炎系の魔法での灯りとしての役割出番が無いようで、ランは護衛役の奈菜と一緒に待機していた。
状況だけ見れば向こう側は押している様に感じられるのだが、ボスの動きには大した変化が感じられない。
……こりゃ時間掛かるかも
……こっちはこっちでケリを付けた方がいいかも
……それよりも一部の者は技名? らしきモノを嬉々と口走ってないかい?
「仕方ない! 奥の手を出そうかね!」
「お? 何か閃いたんかい?」
「次突っ込んできたら、落とし穴で逃げ道塞ぐ。そこに遠距離攻撃で畳みかけて頂戴な!」
「なるほど!」
「落とし穴に落ちたとしてもボス級なら大したダメージ追わないかもしれない。その時は穴から出てくる前に囲んで復帰した瞬間にボコボコにすっぞーー!」
「「おーー!」」
マリマキの元気な声。
「上手くいくかしら……」
「何か嫌な予感しない~?」
「はい、します。とても……」
その脇で姉コンビはひそひそ話。
と今までジッとしていたボスコボルドが再度こちらに向けて動き出す。
それに合わせてエマ、菜緒、エリー、マキ、マリの順にV字陣形に変えた。
ステッキを構えルンルン気分で魔法陣を描き、近付くのを待ち構える。
他の者達も準備をしながら待つ。
先程と変わらず物凄い勢いで迫り来るボスコボルド。
姿は薄暗い為、全く認識出来ていない。
「よしここだ!」
距離が半分となった所で魔法陣を作動。
ボスを中心にメンバーの前方の床一面埋め尽くすほどの落とし穴が現れた。
「い、今よ!」
ここまで穴の数が多くなるとMPをかなり消費するらしく、その影響でフラついてしまう、が負けずに何とか指示を出す。
「「よっしゃーー!」」
「はいな!」
「お願い!」
待ってましたと合図と共に弓と斬撃、炎とブレスがボス目掛けて飛んで行く。
手元から放たれた攻撃は直ぐに暗闇に消えて行くので赤い光点と各種攻撃が合わさった瞬間、誰もが「決まった!」と思ったがどれ一つ効果を発揮せずに擦り抜けてしまった。
「ど、どこや⁈」
さらに炎が通過する際に敵の姿が全く見えなかった。
光点が示す場所に性格無比に攻撃したのに目の前から消えてしまった……
落とし穴には落ちていないのは間違いない。
慌ててマップを見ると光点はまだ移動しており目前まで接近されているではないか!
「ちょっと失礼~」
「え?」
エリーが前に進み出ると凶悪トゲトゲモーニングスターを大きく振りかぶり、躊躇いもなく前方へと勢いよく振り下ろした。
ガン‼
トゲトゲ鉄球が何かとブツかったのか鈍い音が辺りに響いたと思うと、エリーの前に煙が立ち上る。
「ふ~~いっちょ上がり~~ていうか最高~~」
汗を拭う仕草をし、今まで見た事も無い至福顔をしている。
「い、今のはどーゆーこと?」
困惑する四人。
一体どこから現れたのよ?
「そ、そうか! 地面に穴出来た瞬間、ジャンプでもしたんちゃう?」
「えーーこの距離を?」
軽く三十mはあるけど……
「まあ魔物やし、一応ボスやし」
「そ、そうか。そうよね」
確かに人間でも十m級ジャンプを軽々とこなす奴もいるしね。
「しかし良く気付いたな?」
「流石エリ姉」
「た〜ま〜た〜ま〜よ〜」
珍しく声が浮ついている
一体どしたの?
そういえば武具屋でその武器見た時からちょっとテンション高めだよね?
ボン!
皆の前に宝箱が現れた。
「お? 宝箱や!」
「よう出るの!」
「それは一先ず置いといて……あちらを手伝わないと」
あ……忘れてた
さり気無ーく振り向くと……まだ元気よく戦っていた。
「ラン、状況は?」
「あ、はい。確実にダメージは与えています。ただHPと
「しかも防御が上手いよね」
ランも菜奈も顔はこちらに向けずに答える。
ガード役のシェリー姉妹がいないところを見ると危険は少ないのだろう。
「そっちは終わった?」
「うん、片付いた。菜奈、ここは任せて貴方も攻撃に参加したら?」
「いいの?」
「ええ、この状況なら手数は多ければ多いほど早く終わりそうだから」
姉の勧めに対しこちらを見て確認してきた。
それに笑顔で頷きOKを出すと、ポニテの黒髪をヒラヒラさせながら攻撃の輪へと加わった。
「これなら魔法も当たりそうじゃない?」
ボスは囲まれており反撃すら出来ない防護一辺倒状態。なので連携さえ取れれば速度の遅い初級魔法でも当たる気がするし、もし相手が炎か氷への耐性が低い場合には、初級と言えどもかなりの効果が期待出来る。
「いえ。皆さんが集中している状況で放てばフレンドリーファイヤーになる恐れがあるので」
それもそうか。
押している状況で無理にリスクを高める必要も無いか。
という事はマキの矢も危険だね。
「ならウチも行ってもえーかいな?」
マリが顔を覗き込んできた。
「…………うん、行ってらっしゃい」
「おおきに~~マキは危ないから留守番な~」
嬉しそうに駆けて行く。
「ええの?」
マキが驚いた表情で聞いてきた。
「経験値稼ぐチャンスだし、マリのレベルなら大丈夫っしょ!」
「いやいやちゃうて。
「そん時はそん時考えよーーう!」
「……相変わらずのお気楽極楽やわ~」
呆れるマキ。
「エマ~? 貴方今、自分のMPが減ってること、スッカリと忘れてるでしょ~?」
「…………はっ! そうだった!」
そうだ! スッカラカンとまでは言わないが、この数値では得意の「落とし穴」魔法は使えない。
ってゆーかどの魔術も使えないっす!
あはははは、こりゃ参ったね~
さっきは張り切り過ぎたか~
でもMP回復アイテムもあるし、これ以上フラグ立てなければ大丈夫だよね!
「何笑ってるんだか……」呆れる菜緒
「菜緒さん、
「え? い、いえ逆に
「あらら~ご馳走様~」
全く「こんなの」とは一体誰の事を言っとるんだか……
「でもな、今のボスの状態はジリ貧で勝ち目無し。ウチがヤツならサッサと仲間呼ぶで」
「そうよね~勝ちを諦めてなければね~」
「あ……早速」
ガアアアアア‼
雄叫びが響き渡り一瞬だが身体が硬直してしまう。
「反対方向から敵が一体現れました!」
「ホレきた! エマ、アンタのせいやで?」
「責任取ってね」
「えーー? 私のせい?」
「さ~どうするか考えを聞かせて~」
な、ならMP回復ポーションを
「あ、アイ……」
「マジックポーションは案外高いのよね~」
アイテムボックスを開こうとするとワザと聞こえる様に呟く姉。
確かにヒールポーションの五倍の値段はする。
「来るで!」
開いていたマップの光点がみるみる近付いて来るではないか。
この速さは……コボルドだ! レベルは八。
「ま、不味い! 今度はホンマ不味いで!」
本当に不味い。この編成じゃ防ぐ手立てが無い。
仕方ない! 奥の手だ!
「リーーーーン! ランがピンチ! 助けに来てーーーー!」
「ランランをいじめるヤツはどこなのだーーーー?」
ランの背後から声が聞こえる。
「「「うぉ⁉」」」
ラン以外の三人が驚く。
「姉様! アイツです!」
「まかせるのだーー!」
唯一見えていた目が光ったと思った瞬間、目の前から姿が消え、もう目視可能な距離まで迫っていたコボルドの前に再び姿を現すと、徐に腰の刀を抜き風の様に敵に向け
対するコボルドはリンなどまるで目に入っていないかの如くそのまま突進を続けた。
「「「あっ!」」」
二つの影が交差すると、コボルドが突然前のめりで転んでしまうのだが、
その
ただじっくりと見る暇もなく直ぐに煙へと変わり消えてしまった。
「今のって首刎ねたんとちゃう?」
「流石忍者~! クリティカルヒットってやつよね~?」
「ラン絡みにとなると頼もしいわ!」
「そ、そうですか⁈」
照れるラン。
「そうなのだーー!」
「「「うぉ!」」」
いつの間にか輪の中心に戻って来てた。
「姉様、お疲れ様でした」
「なんのこれしき~~」
「ところで向こうはどう? そろそろ終わりそう?」
「ん~~おわるとおもうよ~」
ボン‼
「「「よっしゃーーーー!」」」
大きな音と歓声が聞こえ部屋が明るくなった。
どうやら地下二階、無事攻略出来たみたいだね。
「それじゃ合流すっかね!」
宝箱を回収し仲間の下へ。無事撃破の喜びを分かち合う。
一息ついてからその場で宝箱の中身を確認すると
豚肉(ロース部/特大)×1
骨×1
だった。
豚肉ってのは何となく分かるけど、骨って……何かに使えるのかな?
戦利品を収納したところで突然リンが背伸びをしながら手を上げた。
「どうしたんですか? 姉様」
「もうすぐおなかがすきそうなのだ~~」
「空きそう? 予告かい!」
「おやつは?」
「もうないのだ~~」
「い、いつのまに」
食べてるとこ見てないよ?
「っていうかちゃんと前もって言える様になったんですね! 偉いですよ姉様!」
「えへへへへ~~ランランにホメられちった~~」
嬉しそうなリン。今度は不思議な喜びの舞?を踊り始めた。
「試したいことがあるから一回地上に戻らない?」
「何を試したいの~? 菜奈ちゃん~」
「皆さんスキルは入手出来ましたか?」
菜緒の問いに全員首を横に振る。
「教会でないと得られない……っぽい?」
「あ、そうか! スッカリ忘れてたよ! 流石菜奈菜緒!」
「貴方達、良いお嫁さんになれるわよ~」
「まだ言うんかい!」
「そうだな。一度汗を洗い流したいと思っていたところだ」
「なら早速戻りましょう!」
「決まりなの!」
「じゃあ~地下三階へ降りてから地上に戻るということで~」
「「「おうーー!」」」
皆の元気な声が響き渡った。
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