ミア迷宮! 訓練場とレベルアップ?

 光が消え去ると何も見えない真っ暗な空間へと出た。


「「「…………」」」


 風もなく冷んやりとしている静まり返った空間。

 足元どころか自らの手すら見えない。


 ここがどういう場所なのか、どういう状況なのかすらも分からない。

 ただ分かっているのは、自らの足で立っており、直ぐ近くには仲間達がいるという事だけ。


 仲間の息遣いの音は聞こえていたので、一人ではない事だけは分かった。


光源魔法ライティング~」


 静まり返った空間に突然エリーの声が聞こえたのでそちらを向くと、スモールシールドを装備した方の手を上げ、その手から光の球が上へ上へと昇って行くところが見えた。


 同じ様にボーと光の球を見上げている仲間達。


 ただ明るい光の球なのだが眩しくはない。



「てきだぞーーニンニン!」



 その声で我に返り振り向くと二十m程先、光が届く限界付近に一匹の青色をした不定形型モンスターが身動きもせずこちらを見て? 佇んでいるのが見えた。


 その瞬間、全員に緊張が走り慌ててシェリー聖騎士菜奈槍使いシャーリーが皆の前に進み出て横並びで構えた。


「ラーナ殿! 指示を!」

「お、お〜? そうだったわね~。みんな打合せ通りに隊列を組んで接近~」


 ガチャガチャと音を立てぎこちない動きで決められた位置へと移動する。


 集合したところで、その場で動かずプニョプニョと体を左右に振るスライムに向け身構えながら隊列を組んでゆっくりと移動していく。


 すると光源である光の球灯りもエリーの直上を同じ速度で移動していく。

 そのお陰で、近付くにつれその姿がハッキリと見える様になった。


 対するスライムは体をプルプルさせるだけでこちらに向かって来る気配は感じられない。


「先ずはシャーリーちゃん、突いてみて~」

「は、はい!」


 かなり緊張している様だが、基本通り半身で構え重心を低くして一気に突く。



 ぷしゅ



 僅かな抵抗と音が聞こえたか思った瞬間、目の前のスライムが煙に包まれ霧散して消えてしまう。


「どう~?」

「え? あー全く手ごたえがなかったです!」


 困惑するシャーリー。



「またてきだぞーーニンニン!」



 いつの間にかメンバーの後方に移動して背を向けていたリンが緊張感のない声で教えてくれた。


 見ると今度は二匹。


「次は我と菜奈殿で!」

「了解した」

「頑張ってね〜」


 二人とも後衛の間を擦り抜けながら抜刀し、躊躇いもなく切りつける。


「す、スマン!」

 何故かスライムに謝りながら斬りつけるシェリー。



 ぷしゅぷしゅ



 今度も僅かな抵抗と音が聞こえたかと思った瞬間、スライムが煙に包まれ霧散して消えてしまう。


「シェリーちゃん、どうしたの〜?」

「え? な、何がですか?」

「今一瞬躊躇いがあったような〜?」


 確かに動き出しが菜奈より一瞬遅かった。

 ジョブの特性で聖騎士よりも侍の方が俊敏性は高い筈だが……


「い、いやそんな事は! 初戦闘だったもので……」

「そう? それならいいけど〜。菜奈ちゃんはどう〜?」

「全然まだまだいけるよ」


 初攻撃の三人はお互いに目配せをし同じ感想だと確かめて合う。



「またまたてきだぞーーニンニン!」



「こ、今度は三匹?」

「リンリンがニンニンしてもいいかいな~?」

「それじゃ中央は忍者リンちゃんで~右が武芸家で左が修道士ソニアちゃんね~」

「ハイなの!」


 ジョブ能力の違いなのか、先ほどまでの三人とは明らかに違う速さで近付いて行く。


 リンは腰の刀に手を掛けたまま敵へと突進、そのまま抜くそぶりは見せずに後方へと擦り抜けた。

 ラーナは普通に右ストレートを、ソニアは飛び蹴りを行う。


 するとほぼ三匹同時に煙へと変わった。


「す、スゲー! あの三人」

「あ、圧倒的じゃないか……いな」


 確かに前の三人に比べ移動速度が明らかに違う。


「しかも姉様がどうやって攻撃したのか全く分かりませんでした!」

「もしやスキルか?」

「ちがうよーちゃんとふつうに切ったのだ~」

「み、見えんかったわ……」



「そんなことはないぞ~? ぬ~? またまたてきなのだ~」



 今度は四匹。


「次はウチラの番や!」

「そや!」

「なら私も!」

「うふふふふ~」


 やっと出番か! といった感じの料理人マリ弓士マキ魔法使いラン司教エリーが進み出る。


 マリは腰から柳刃包丁を、マキはボウガンを、ランは杖を、エリーは凶悪モーニングスターをそれぞれ握りしめ、何故か不気味な笑みを浮かべながら横一列になって向かって行く。


 ある程度距離が狭まると横並びで立ち止まり、各々の敵と距離を取り対峙した。


 先ず初めに動いたのはマキ。

 手に持った少し大きめの黒色をした金属製? のボウガンのグリップ部に、アイテムボックスから取り出したカートリッジ? をセットしスライムに向け構える。

 すると既に発射出来る様に引かれてある弦に弓が具現化する。

 それを構えて狙いを定め、トリガーを引くとスライムに突き刺さり煙に変えた。


 次にマリが持った包丁をスライムに向け振り下ろすと目に見える形の斬撃が飛んでいき切り裂いて煙になった。


 エリーとランは何かを口ずさんでいたが、ほぼ同時に呪文が完成したようでランの前には火の玉が、エリーの前には尖った氷の塊が浮いている。

 そして目的を指差して叫んだ。


小火球ファイヤーボール!」

小氷矢アイスアロー!」


 声と同時に突進して行く魔法。

 避ける暇も無くぶち当たりスライムは煙へと変わった。


「マリは攻撃は基本斬撃〜?」

「そやね、直接はアカンみたい」

「ほーー」



「またまたまたまたてきだぞーーこんどははさまれただぞーー」



「わ、私の出番?」

「そう、そっちは任せた!」


 躊躇う菜緒の背中をポンと叩いて敵に向き直る。


「……ちょっと多くない?」


 目の前の地面は無数のスライムで青く染められていた。


 一方菜緒の方は今までの膝丈サイズよりも二回り程の大きさのスライムと対峙している。


「ま、いいか! そんじゃ行きますかね!」


 ステッキを握りしめ、空中で魔法陣を描いていく。


「はい出来上がり〜」


 魔法少女の変身シーン並に素早く完成させると、出来上がった魔法陣をステッキの先で突き刺すと音はしないがガラスが粉々に割れる様に崩れ去っていく。


 すると目の前のスライムの下に魔法陣が現れた。


「それではサヨウナラ〜」


 片足の踵で地面を軽く叩くと魔法陣が真っ黒な穴へと変わり、全てのスライムが「落下」していく。


「さあ今回の報酬は〜?」


 期待の眼差しで穴を眺めていると、一箇所を残して地面へと戻ってしまう。


「一個だけかー! まあ初回だしねー」


 再度、踵で音を立てると、穴がボン! と煙を立てて青色の小さな宝箱へと変わり、そのままエマの手の中へと収まった。



 一方の召喚士菜緒は持っている扇子を体の前でバッと開きそこに描かれてある絵をチラリと見ると満足そうな顔で、モンスターに対して大きく


 すると扇子から、輝きながら掌サイズの妖精ピクシーが現れスライムの前に立ち塞がる。

 ピクシーは大きく息を吸い込むと口から火炎を吹いた。


 炎に包まれる巨大スライム。

 程なく煙となって消えてしまう。



 さてこの宝箱の中身はなんじゃろな?


 蓋を開けるとポンっと煙を上げ「ヒールポーション」へと姿を変えた。



「ミッションクリアです」



 とのアナウンスが聞こえ皆の体が眩い光に包まれた。


 目を開けるとそこは帰還用魔法陣の上であった。


「お疲れ様でした。初体験、どうでしたか?」


 笑顔の店員さんが迎えてくれた。


「真っ暗であった」

「スライムしか居なかったですぅ」

「ニンニン〜」


「最後のニンニンと言うのは良く分かりませんが、基本的にはダンジョンという場所は地下や構造物の中にあり、道具か魔法で灯りを点けない限り真っ暗です。中には光苔や魔法効果で明るくなっている場合もありますが、全体から見ればごく僅かです。それとスライムしか居なかったのは、単純に皆さんのレベルが1だったからですね」


「お、そうか! ところでレベルってどうやったら上がるんや?」

「規定の経験値が貯まっている状態で神様にお祈りを捧げます」

「祈り?」

「はい。基本的には教会で。あとクエストなどで戻れない時は胸のペンダントを握りしめて祈りを捧げます」


「「「ほーー」」」


 ん? 基本的?


「まあまだスライムを倒しただけなので上がったとしても一かニ程度でしょう」

「ここでの戦闘でも経験値が貯まるの?」

「勿論。実際に戦闘していますから」


「ならここでレベリングした方が安全では?」

「それはお勧めしません」

「何故?」

「今体験された様に、出てくるモンスターは一種類でほぼ単体。余程時間に余裕がある方なら良いのですが、そうで無いならダンジョン等に潜って戦った方が効率的に経験値やアイテムが手に入りますから」


「そやね。ウチらには「ゆにーくすきる?」ってヤツを神様から貰ってるさかい、ガンガン行った方が恩恵が大きそうやし」


「?」


 首を傾げる店員さん。


「ならダンジョンに行く前に教会によって行くかね」




 武具屋から十分も掛からずに教会にたどり着いた。

 幾つか角を曲がり街並みが途切れいきなり視界が開けると、柵で囲まれ綺麗に整備された広大な敷地のなかに聳え立つ白く巨大な建物が目に飛び込んでくる。


 丁度正面には開かれた格子状の門と、そこから数百m先にはまるで一国の王でも住んでいるんじゃない? と思えるくらいの巨大な教会が聳え立っていたのだ。


「「「…………」」」


 壮大な光景に口をポカーンと開け、田舎から観光に出てきたばかりの風体で門へと近づいて行く。


 門は開け放たれており、左右に兵士? らしき門兵が槍を持ち直立不動で真っ直ぐに前を見据えて立っていた。


 その脇には茶色の修道服を着た修道士が敷地に入ろうとしている者に声を掛けているのが見えた。


「ようこそカウント教会へ。先ずはご寄付をお願いします」


 門から一歩足を踏み入れたところ、修道士に呼び止められいく手を遮られた。


「え? い、いやちょっと神様にお祈りをと思って来たんだけど」

「それは敬虔けいけんな事で神も大層お喜びになられるかと」

「はぁ……」

「さらに今ご寄付を戴ければ神はもっとお喜びになられます」


 首から下げている募金箱? を掲げで見せる。


「えーーと、おいくら?」

「お一人様1Gからで構いません」

「あ、そう」


 もっと要求されるのかと思ったよ。


 入館料と割り切って全員分の12Gを手渡す。


「それでは礼拝堂をご案内致します」


 と正面の巨大な建物に向かい始めた……のではなく直ぐ脇にあった守衛詰所隣の小さな教会へと案内される。


「どうぞお入りください」


 入口の扉を開きその場で中へどうぞと手招きをする。


 頭がぶつかりそうな高さの入口を通り抜けるとそこは倉庫……では無くしっかり手入れが行き届いている典型的と言える小ぢんまりとした礼拝堂であった。


 両脇に長椅子が並べられており中央の通路の先には祈祷台と二人の女神像? が並べられておりステンドグラスから差し込める光で室内は色鮮やかな光に満ち溢れていた。


 全員が中に入りきると「それではごゆっくり」との声と共に扉が閉じられる。


 通路に立ち尽くしている訳にもいかないので、取りあえずペア毎に長椅子へと腰掛けた。


「あ! 皆さん、あれを見て下さい!」


 ランが女神像? を指差しながら叫んだ。


 仮にも神様なんだから「あれ」呼ばわりはいかんでしょ、と思いつつその女神像を良ーく観察すると、何故「あれ」呼ばわりしたのかが何となく理解出来た。


「どこかで見たことある顔やな~」

「そやね、良ーく知っとるヤツに似とるな」

「フフフ~」

「な、なんで彼女達が⁈」 


「ミアミアとノアノアにソックリなのだ~」


 リンとラーナは嬉しそうに、菜緒菜奈ソニアは驚いて、それ以外は基本的に呆れ顔を見せる。


「それじゃ~私達からね~」

「はいなの師匠!」


 ソニアを連れて祈祷台の前まで歩み出ると片膝をついて祈りのポーズを取り目を瞑る。


 僅かな沈黙の後、体が温かみのある光に包まれた瞬間、



 パラララパッパー



 と、どこからともなく音が響き渡った。


「なあ、この音楽って」

「おう、レベルアップしたんちゃう? の有名なお知らせ音やな」


「何で疑問形なの? という事はレベルアップしたなの?」

 キョロキョロ落ち着きなく周りを見回すソニア。


「そうみたいね」


 菜緒がステータスモニターを開き、パーティーメンバーの状態確認画面でラーナとソニアのレベルを確認したようだ。


「因みにおいくつ上がりました?」

「二人とも今、レベル5」

「ご、五? スライム一匹倒しただけで⁈」

「恐るべし……一万倍」


「何だか小説書けそうじゃないかしら? 「スライム一匹倒してレベル五! 百匹倒してから世界無双の旅に出掛けます! 神の加護で私ってば苦せず世界最強?」とか!」


「あ、姉様! 今度は私達が挑戦してみましょう!」

「ランランとニンニンするのだーー!」


 手を繋ぎ駆け出す姉妹。

 次はラン&リンの二人がトライする様だ。


 両膝をつきお祈りを捧げる二人。

 小ちゃくて後ろ姿がとても可愛らしい。

 まるで学芸会の様相だ。



 パラララパッパー



 先程と同じくどこからともなく音が響き渡る。


「やりました! レベルアップです!」

「ランランならあたりまえなのだ〜!」


 姉に抱き付く妹。



「次はウチらの番や! マキ、行くで!」

「おう!」


 そんなに気合い入れんでも……


 並んで立ったまま、頭を軽く下げるだけのお祈りをする姉妹。

 妹は女神像を前に如何にもファンタジーと合致している格好だが、姉の格好では女神像ではなく「神棚」の方が似合ってる気がする。



 パラララパッパー



 とまたまたどこからともなく音が響き渡った。


「お? 上がったか?」

「みたいやね」

「ほんじゃ次どうぞ〜」


「よし、シャーリー次は私達の番です」

「はい! お姉様!」


 二組はすれ違い様、順にハイタッチを交わして交代する。


 シェリー&シャーリーも立ったまま黙祷をする。



 パラララパッパー



 ともう聞き慣れた音が響き渡った。


「さあ引き上げましょう」

「はい!」


 感慨に耽ることも無く席へと戻る。



「菜緒と菜奈、お先にどうぞ」

「え? いいの?」

「どっちが先でも結果は変わらないじゃん」

「それじゃお先に、菜奈」

「うん、お先に」


 二人に軽く手を振る。


 祈祷台の前で目を瞑り立ったままお祈りを捧げる。


 すると菜奈の体光る。


「「「?」」」


 音も鳴らなかった為、全員があれ? といった表情になる。


 菜奈は直ぐにお祈りを終えたが、隣ではまだお祈りは続いていた。


「菜緒?」


 妹の声にピクっと反応し、体勢そのまま首だけを向けてポツリと呟く。


「神様が信仰心が足りないって言ってるの」


 今にも泣き出しそうだ。


「はぁーー?」


 とても悲しそうな菜緒の顔を見て急に声を荒げるエマ。


「ちょっと神様⁈ あまりが過ぎると今後は口きいてあげないからね!」


 女神像に向け言い放つと間髪入れずに菜緒の体が光り出し、やっと音楽が流れた。

 その音を聞いて明るい表情へとやっと変わる。


 そこに駆け寄り菜奈と一緒に三人でレベルアップを喜び合う。


「よし! 真打登場!」

「はいな~」


 皆が見守る中、お祈りを始める。




 ──神様、一言だけ言っておきます


 ──今後、菜緒に対してあんなことしたら本気で怒るからね


 ……ごめんなさい、だぞ


 神の声ゴッドボイスではなく本人の声が聞こえた。


 ──よし、今回は許す。但しここにいる間にお詫びとして菜緒に対して何かしらのサービスをして楽しませてあげる事


 ……了解〜


 ──上手くいったら後で神様にもサービスしてあげるから


 ……頑張る、ぞ!


 全くもう……




 目を開けると隣にいる筈の姉の姿は無かった。後ろを向くと皆が此方を無言で見つめていた。


「終わった〜?」


 澄まし顔で座っている姉を発見。


「随分と長かったですね!」

「そう?」

「はい! 体が光ってから三分は経ってますよ?」


 そんなに? 体感時間で一分も話して無かったと思うけど?


「ちょっと神様に文句を、ね」


 声を掛けてきたシャーリーではなく菜緒に笑顔を見せる。


「?」


 キョトンと見つめ返す菜緒。

 だがその笑顔の意味が理解出来た様で微笑みを返す。


 そんな二人を温かい目で見守る菜奈とエリーとラーナであった。

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