ミア迷宮! 色々購入?

「それじゃ時間が勿体ないからこのまま武具屋とアイテムショップへ買い物しに行こうかね」

「その前に〜パーティーを組みましょう〜」

「お? そうだ、パーティーリーダーは誰がなる?」


 それぞれの視線が交差する。


 二十歳以下組のシェリー・シャーリー・マリ・マキ・リン・ラン・ソニアの七人はエマを、二十三歳組のエマ・エリー・菜緒・菜奈はラーナを無言で見つめる。


 唯一、ラーナだけは特定の者は見ずに全員に目配せをしていた。


 こりゃ決まりだね


 ラーナと目があったので頷いてから

「リーダーはラーたんで」

「いいの〜?」

「いいの。私では荷が重すぎるし、能力で言えばラーたんか菜緒が適任だと思う。さらにここに限れば、この状況を一番理解してるであろうラーたんが最適だと思うんだけど?」

「あらあら〜鋭いわね〜分かった〜」

「ただし! 基本的には私が仕切ります。それとからって羽目を外し過ぎないこと、いい?」

「りょうか〜い」


「(縛りってどう言う意味?)」

「(ローナの姉御が居ないやろ? それとここなら例の反動を気にせんで済むからね)」

「(成程! 暴れ放題出来るっちゅーワケやな)」

「(その通り。あとリーダーに据えとけば周りの面倒も見なきゃあかんやろ? 暴走抑制効果も期待出来て一石二鳥ちゅーワケや)」

「(成程! 流石エマやね)」


 相変わらず小声で話すのが苦手な姉妹。


「(貴方、ホントのところは面倒くさいからなんでしょ〜?)」

「(流石、エリ姉)」


 逆に我が姉は内緒話が上手です。

 そうなんです。


「それではメンバー募集をしま〜す。入りたい人はいるかな〜?」


 上機嫌なのかマリマキをスルーしてステータスモニターを開くラーナ。

 すると真っ先にエマが手を挙げる。

 それに続けと全員手を挙げた。


「は〜い、全員登録完了でーす」


 モニターを指でポチポチと押しまくり登録を終えるとモニターを閉じる。


「ラーたん、お金はどうする?」

「エマちゃん持ってて〜」

「分かった。アイテムボックスオープン!」


 声に出すと手前に真っ黒な平面空間が現れた。

 そこにどっこいしょとお金を放り込む。


「あ、いいな〜」

 エリーが羨ましそうに呟く。


「え? みんなは使えないの?」

 残念そうに首を横に振る。


「みんなもアイテムボックスはあるけど、どうやらジョブに必要なモノしか入れられないみたいね〜」

「何でだろ?」

「手品で使えるからではないかと」

「そうです! お金も道具の一つになります!」

「それだと魔術? を使うにはアイテムボックスに物を入れとく事が条件にならないのかしら?」

「分かんない。そうなのかな? 因みに私みたいな使い方が出来る人はいる?」


「私〜」


 ラーナだけ手を挙げた。


「多分〜パーティーリーダーだからだと思うわよ〜」


 そうか。パーティーで誰も使えないと戦利品を持って帰るのも大変だもんね。

 メンバーが一人って事だってあり得るしね。


「迷宮に潜る前に自分の能力を把握しとかないと」


 それ一番大事。

 という訳で武具屋に着くまでの間、それぞれ自分のステータスモニターを開いて見ながら歩いて行くことにした。


 ギルドから出るとかなり広い円形の広場であった。


 正面には巨大な噴水。石畳の道路。

 噴水の先と左右には大通りが続いており、古代の中世欧州風の街並みがどこまでも続いている。


 って言うか噴水の周りだけ異様に人の数が多い気がするのだが……


 道路はそこそこ賑わっており人や馬車、荷車などが引っ切り無しに行き交っていた。


「さて、武具屋とアイテムショップはどこかいな……マップオープン」


 胸元の高さにマップモニターが現れ、今いる地点が光点で表示される。

 その光点を中心に見えている範囲の地図は既に完成しており、見えない範囲は真っ黒表示のままであった。


「どこだろ……武具屋は」


 呟くと真っ黒表示の箇所に光点が点滅し始める。


「多分ここね」


 点滅している光点の方角へと歩き始めると、そちらに向かって地図が完成していく。


「そこ右〜」


 幸いなことに数分歩き、角を数回曲がった所に武具屋があった。


「「「大きい~」」」


 思わずみんなで見上げてしまう。

 建物自体は三階建てで周りの建物よりも低いのだが、一階毎の高さが倍近くあり窓や扉もその分大きく、そのせいで余計に大きく見えてしまう。

 造りも傍の建物に比べ重厚な造りとなっており、ひときわ異質に感じてられた。


「ボルダック商店?」


 入口と思われる上に架けられてある看板にはそう書かれてあった。


 建物中央には巨大な鉄製の両開きの扉があり、外側に向け開け放たれてあり、そこを数組の冒険者パーティーが出入りして行く。


 どうやらここで間違いなさそうだ。




「うわーー凄いなの!」


 中は入口から奥へと続くレッドカーペットの道の左右には所狭しと展示台が並んでおり、各種武器・防具、そしてアイテムの類いが飾られてあるショールーム風のフロアであっだ。


「「「いらっしゃいませ」」」


 死角から声が掛かり振り向くと、店員さんが営業スマイルを携え立っていた。


「何かお探しで?」

「え? あー装備一式を揃えようと思ってきたんだけど」

「かしこまりました。皆様全員分でございましょうか?」

「そう」

「装備のランクはどの辺りをお考えで?」

「まだ始めたばかりだから初級より少しいいくらいかな」

「承知しました。それではご案内致します」


 気配もさせず数名の店員さんがやって来てペア毎に一名担当する形で奥へと案内されて行く。


 私とエリーは一緒に試着室へと連れて来られた。

 試着室は十二畳程の個室でソファーと茶菓子が置かれてあるテーブル、奥には板張りの床があり、そこの端っこには大きめの「宝箱」と膝程の高さのテーブルが置かれ、全身が映せる鏡が壁に取り付けられてあるのがチラリと見えた。


 勧められるままソファーへと並んで腰掛けると、店員さんは私達の正面に回り込み軽く一礼をしてから話しを続ける。


「先ずお二方のジョブをお教え下さい」

「私は魔術師」

「私は司教かな〜」

「魔術師様と司教様ですね。どちらからご試着なされますか」

「ん? じゃあ私から」

「ではこちらへ」


 と板張りの床へと案内されて行く。

 靴を脱ぎ床中央部に来ると「ではまず防具から」とエマの全身をジロジロと見ながら周りを一周する。


 それが終わると宝箱へと向かい、蓋に手をかざすと掌に魔法陣が現れ一瞬だが宝箱が淡く光った。


 光が収まると蓋を開け手を中へと入れ白い服のような物を取り出してテーブルの上に置く。


「靴と帽子もあった方が良いかな」


 同じ手順で今度は両手を使って取り出した。


「そのままジッとしていて下さいね」


 言われて直立不動になるエマ。

 取り出した装備をエマの胸元近くに持って行くと、掌からまた魔法陣が現れ装備品が輝いたかと思った次の瞬間、しっかりとエマに装備されていた。


「ふ、ふぇ?」

「いかがでしょうか?」

「あら〜素敵〜」

「い、いや嫌だよ、こんな姿!」

「そう言わずに一度ご覧ください」


 店員さんが手招きをしながら向かう先には鏡があり、そこには真っ白な燕尾服を着た自分の姿が映っていた。


「あ、あれ? あれれ~」


 嫌々ながらもそこに映り込んでいる自分の姿を見ると顔以外は明らかに違っているではないか!


 顔と髪、さらに身長は変わらないが、それ以外が元の姿とは違い、胸元・ウエスト・腰回りのサイズが一目見ただけで分かる程に変わっていたのだ。


 変わり果てた自分の姿が映る鏡から目が離せない。


 これ本当に私?


 恐る恐る自分の胸元を見ると……なんとそこには菜緒菜奈並みの立派な山脈がそびえ立っていたのだ。


 固まるエマ。

 無意識の内に両手が自分の胸元へと向かい、本物かどうか確かめ始める。


 ぷにぷに



 なななな、なんですとーーーー!

 ホンマもんやないですか‼



 手からも山脈からも確かな感触が伝わってきている。


「…………異世界サイコーーーー‼」


 思わず両手を突き上げ涙を流しながら叫んでしまった。


「お気に召されたようで何よりです」

「うん! サイコー! でも色は何とかならない?」

「白色が定番なんですが……ではこちらはいかがでしょう?」


 エマの胸元に手を翳すと再度魔法陣が現れる。

 するとタキシードが一瞬光ったと思うと今度は全身黄色へと変化した。


「こ、これはそれこそマジシャンじゃなくてスベリ専門芸人になりそう……」

「そう~? とても似合ってるわよ~」

「…………他の色で」


 嬉しそうな姉は放って置いて次を促す。


「お次は……」


 今度は赤色。


「これだと耳を大きくすることしか出来なくない?」

「それでも食べていけれるんだから立派な芸でしょ~?」

「違ーーーーう! あたしゃ芸人じゃなーーーーい!」

「もう、ホント我儘よね~」


 キレる妹、呆れる姉。


「それでは昔ながらの……」


 姉妹の漫談は無視をして魔法陣を発動、今度は黒色へと変化した。


「うん! やっぱりこれよね~」

「あらら~残念~」

「…………何が残念?」


「頭部はどうされますか? 魔術師様と言えば、通常でしたらこの様にシルクハットが標準装備なのですが」


 机の上に置いてあるシルクハットをチラリと見る。


「えーーそれは要らないかな」


 明らかに嫌そうな顔をするエマ。


「大変お勧めなんですよ? その燕尾服を着た状態でこちらを被ると装備ボーナスが追加されて胸元がさらに二割増しに……」


「下さい‼ 是非‼」


「ありがとうございます~~」


 後は革靴と武器となるステッキを購入。


 エリーは武器は所謂「モーニングスター」で鎖に繋がれた先端の鉄球にトゲトゲが生えている凶悪仕様をチョイスした。

 防具は紅蓮色のローブと腕に装着できるスモールシールド。

 頭部は同色の司教冠で正面に胸元のペンダントと同じ形のロザリオの柄刺繍が入っている帽子にした。


 因みに武器は杖やらメイスなど、色々見ていたがトゲトゲモーニングスターを見た途端、意外な事に目が輝きだしてその場で即決となったのだ。


 上機嫌の二人。

 エマは先程から体を揺らして、丘→立派な山脈→巨大な山脈へと変化した自分の胸を堪能していた。


「それでおいくら~?」


「冒険者ギルドとの決まりで今回のみ、お一人様千Gとなります。お代はギルドの方から頂きますので皆様方は今回に限りお支払い頂く必要はございません」


「あ、そう」


 そう言えば初回登録特典の千Gは貰ってなかったよね


「あ、それとアイテムの類も欲しいんだけど」

「そちらは二階にてお選び下さい」

「代金は?」

「勿論自腹です」


「あ、そう」


 ま、そこまで都合良くはいかないか


「ご購入いただいたお客様へのサービスの一環と致しまして、当館三階にて装備品の特殊効果や覚えた魔法をお試し出来る訓練場バーチャルルームがございますので、宜しければ一度お立ち寄り下さい」

「分かった。ありがとう」


「またのご来店、心よりお待ちしております!」




 フロアーに戻るとまだ誰も購入が終わっていない様で姿が見当たらなかった。


「アイテムショップはあっちみたいね~」


 入口脇の階段の壁にポーション? の絵柄が彫られた木製の看板が掛けられてあるのを見付けた。


「そう言えば二階って言ってたわね〜」

「ここで待ってるのも時間がもったいないし先に見に行こう」

「そうね~」


 近くにいた店員さんに仲間が来たら「上階にいるから伝えて」と一声掛けてから階段の上り口へとやって来た。


「うげ!」

「そうよね~そうなるわよね~」


 二階の明かりが「遥か先」に見える。

 いや実際には「遥か先」ではないのだが一段の高さが低いため段数が多くなっており、さらに一階毎の天井の高さが通常の倍近くあるので、目的地である二階が優に2倍以上近く先に見える。


 さらにその先には三階へと階段が続いており、一番上の天井まで見えている為、果てしなく続いている様に見えてしまい、視覚的にも永遠と続く階段に見えてしまう為、上がる前から気力が萎えてしまう。


「はあはあ」

「はぁーーちょっとキツイわね~」


 エマ程ではないがエリーも運動が苦手なタイプ。

 妹よりも若干だがスタイルが良いのはマメな運動をしているから、ではなく食事とエステに気を使っているお陰だ。


 二人とも根っこは運動が苦手なのである。


「「どっこいしょっと」」


 絨毯敷の階段を、途中幾度かの休憩を挟んでやっとのことで無事二階へと辿り着くと、双子らしく並んで肩で息をしながら同じタイミング・同じ言い方で「おやじ臭く」呟いた。



 二階は一階に比べ半分ほどの広さで、奥・左右と三面に横へと長いカウンターが配置。そこに複数人の店員さんが座ってお客さんの対応をしていた。


 因みに左カウンターが「アイテム販売」、右カウンターが「マジックアイテム販売」、中央奥カウンターが「買取り」となっているようで、一階とは違いそこそこの人数のお客さんがいて賑やかであった。


「取り敢えず回復系のポーションは買っといた方がいいよね?」

「そうね~HPだけじゃなくてMP回復と異常系の回復薬も必須よね~」

「そんじゃ行ってみっか!」


 左側の「アイテム販売」の空いている席へと並んで座る。


「いらっしゃいませ~本日は何をお求めですか~」

「どんなアイテムがあるの?」

「定番の回復・攻撃・補助系のアイテムから合成用素材、さらにダンジョン内でのキャンプ用機材から食材に至るまで約二千種類程取り揃えておりますです、はい」

「キャンプ機材?」

「はい、迷宮内で疲れた時に安全に休めるキャンピングセット! これが有ると無いとでは生還率に雲泥の差が付きますよ~」

「どーゆーモノ?」

「はいは〜い、ダンジョン内は基本的に休める場所はありませ〜ん。ですがこのアイテムを壁にセットすると~あ~ら不思議、横穴が出来た上に中にはベットやら~キッチンやら~お風呂やら~トイレやら~の便利空間へと早変わりしちゃうんだな~」

「「へーーーー」」


 誇らしげに説明をする店員さん。


「勿論使用中は入口は壁に戻ってしまうので~モンスターに襲われる心配もな〜し!」

「「へーーーー」」

「どうですか~お客さん、今ならお安くしときまっせ~~」

「いくら~?」

「マケて一万G!」

「え~高いわ~」

「ぐぬぬ……なら九千Gで!」

「私のジョブは~ビショップなのよね~」

「うぅ⁉︎ な、なら帰還魔法が?」

「もうちょっとで覚えられるかな~?」

「な、ならご……五千Gでどうですか?」

「他のアイテム見せてくれる~?」

「わ、分かりました!二千五百で! これ以上は赤字です!」

「しょうがないわね~そこまで言うなら買ってあげる~。但し二個セットでその値段~」

「それはいくらなんでも……無理です」

「今なら鍋も付いてくるわよね〜」

「は、はい?」

「他のアイテムもいっぱい買ってあげるから~」




「あ、ありがとうござい……ましたー」


 ガックリと肩を落としている店員さん。


「え、エリ姉、凄いわ! てゆーか駆け引き楽しんでた?」

「別にこれくらい普通でしょ~。それと買い物は楽しまないとね〜」


 あの後、買い物は続き、トータルで二十万G近くのアイテムを購入した。

 勿論、後で仲間達に分配する為に多少多めに購入。


「でも値引きなんてしてくれるもんなんだね」

「初めに「お安く~」とか「マケて〜」なんて言っちゃうのが間違いなのよね~」

「そうなの?」

「そうなのよ~手の内バラしちゃってるじゃない~」

「へーー、なら下の武具屋も?」

「可能性はあるわね~とにかくギルド直営とか公営とかじゃないんだから疑ってかからないとね〜」

「勉強になりました。でも一個有れば充分と思えるアイテムをなんで二個ずつ買ったの? 例えばキャンピングセットとか」

「パーティーを二つに分けるってことだってあり得るでしょ~」

「……なるほど」

エマ貴方ラーナさんリーダーで分けて持っておくこと~」


「りょうかーい」

 探索部式敬礼をしながら返事をする。


「はいはい次〜」


 次は背後の「マジックアイテム」カウンターへと向かった。

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