ミア迷宮! チュートリアル?

 ・・・・・・




「さあ目を覚ますのだ」



 はい?



「ここはどこ?」

「ここは神々が集う聖域。神界だ」


 目を開くと辺り一面真っ白で何も見当たらない。


「……神界?」

「…………我は全知全能の神」


 全てが真っ白な空間に影が浮かび上がり、何者かが両手を広げた姿でフッと現れた。

 さらにその者の全身から光が発せられ、目を開けているのも辛くなる程、より一層眩しくなった。


「神……様?」

「そうだ」

「えーーと、集うって一人? 一柱しかいないよ? それで神様が私に何の御用ですか?」

「願いがある」

「願い?」

「そうだ。我が大事にしていた神器が魔神の手先に奪われてしまったので取り戻して欲しい」


 神と名乗る者から発する光が眩し過ぎる為、ハッキリとは分からないが男性の様な低音の声で話しているので男神ではなかろうか。



 ……でも神様に性別って有るの?



「ちょっと待って! 私、何で神界なんかに⁈」

「残念だが其方そちは死んでしまったのだ」

「は、はいーー? 一体いつ?」

「つい先程」

「どこで?」

「就寝中のベットの中で」

「ホント⁈」

「其方がいた惑星が原因不明の爆発によって跡形もなく消滅した」



 ……死んだ? 跡形もなく?



「ちょ、という事は仲間は?」

「同じく跡形もなく」

「…………」

「まあ死んだと言われたら突然の事で驚くのも仕方ない、がまたそう悲観することもない。何故ならこれはお約束の一環だからな」

「お、お約束? もしかして……私ってば転移しちゃうの?」

「む? 何やら嬉しそうだな? そうだ。これから魂だけとなった其方に肉体を与え、ある場所へと送り込む。そこで我の願いを叶えてくれるのであれば、元の世界で元の状態へと戻すことを約束しよう」

「ほ、ホント?」

「全知全能の神にとっては造作も無き事」

「それで願いとは?」


「其方は仲間と共に我の大事なコレクションである神器を取り戻して欲しい」


「神器って?」

「奴を倒せばアークが手に入る。その中に入っている筈だ」

「誰? 奴って」

「……魔の神だ」

「へ? 魔の神? もしかして通称魔神! そんな奴ホントにいるの?」

「全知全能の神がおるのだ。魔の神がいても可笑しくはあるまい?」

「ま、まあ……そうかもね」


「そうだ。忘れるところであった。無事取り戻してくれた暁には厳選なる審査により褒美を与える」


「ほ、褒美? なになにーー?」


「む? いきなり食い付きが良くなったな?」

「当然! もしかしてキラキラ光る石?」

「そんな下賎な物では無い。其方らのタメになるものだ」

「えーー違うのーー? しかも審査とか言ってるしーならどうしよーかなー」


「……全く物欲に塗れた者はこれだから」


 呆れる神様。

 纏っている光も澱んできた様に見える。


「ねえねえ、魔神ってことは手下は魔物?」

「そうだ」

「他種族は? エルフとかドワーフとホビットとかは?」

「行って貰う場所にはいない」

「どーゆー場所?」

「人属の世界にあるダンジョンだ」

「ダンジョン! もしかして魔法が使えるの?」

「期待するがよい」

「属性は? スキルは? レベルとステータスは? あとチート能力は?」

「時間があまりないので簡単なモノだけ用意した。チートがあったらすぐ終わってしまうのでなし。レベルに関しては1からとなる。」


「えーー1? チートもなしーー? それってヤバいじゃーーん! 何も出来ずに終わっちゃわない?」


初めての者もおるし、全員に「経験値×一万」のユニークスキルを始め幾つか付与しておく。なので戦えばレベルくらい直ぐに上がるから問題ない」


「全員に? ならどっちかって言えば「ユニーク」じゃなくて「レア」とかの表現の方が良くない?」


「……細かいことは気にする、な」


「神様~言葉使いが変わっちゃったよー? 一応ツッコミ入れとくねー」


「……こほん。細かいことは気にしない」


「ねえねえ! 勇者様は? 女騎士は? 貴族様は? ご令嬢は? 定番の奴隷はいるの?」

「いるが登場はしない」

「迷宮だけに、魔神ラスボスの名前ってワー○ナー?」

「…………先ずは冒険者ギルドで仲間を集めよ」

「ちっ、いないのか……」

「そして魔物を倒し、より強い武器を手に入れ見事、魔神を倒してくれ」

「はいはい」

「では頼んだぞ」


「キャーー」


 お決まりの説明が終わり足元に真っ黒な円が現れ、体がそこに落ちていく……




 ドスン


「アイタタタタ……」


 木製の床に落下し尻もちをついた。


「全く何でこんな時に……はあーー」


 深いため息を一つ。


 流石に二度目なのでパニックになる事はないが、今回の様に予告なく突然始まるとあまり良い気分はしない。

 しかもこの微妙な時期に何故このイベントを行うのかの理由が全く分からない。



 全くミアノアあの子達の考える事は分からん……



 このゲーム、全滅するか目標達成のどちかでしか「落ちる」ことは出来ない。

 選択の余地がないので先を進めよう。


 取り敢えず現状確認から。

 立ち上がり周りを見回す。


 先程の真っ白な空間とは違い木造の質感があるかなり広い部屋におり、正面には外への出入口となるウエスタン風の両開きの扉、後方には何かの受付けと思われる小窓が複数並んで壁に設置されており、女性が並んでいる人と何やら会話をしているのが見える。


 左側の壁には衝立が整然と向かい合わせに並べられており、そこに紙が所狭しと貼り付けられてあり、何人かの者がキョロキョロと眺めていた。


 右側を見ると上階方向への階段の上り口の壁にベッドマークが彫ってある看板、下階方向の壁には皿とナイフ&フォークの絵柄の木彫りの看板が掛けられてあった。


 他は数名のNPC冒険者がのどかに雑談しており、慌てる状況ではなさそうなので取り敢えずはホッとする。



 どうやら一番乗りだったみたい。

 見える範囲にはまだ誰も到着はしていないようだ。


 だけど……前とはだいぶ違うよね……




 前回は神様が現れ魔王を倒して世界を救ってくれと、今回と似たようなチュートリアルシーンだったけど、そこからいきなりお城のとある部屋に全員一緒に落とされた。


 そこでは目の前で王様が、下僕のメイドさんに「オイタ」をしようと追い掛け回している真っ最中で、それを見たシェリーが仮想空間だという事をすっかり忘れて王様をぶん殴って気絶させてしまう。


 そしたら何処からともなく衛兵が現れて「此奴らを引っ捕らえよ!」とか言われて、そのまま暗い地下室へと連行されたんだっけ。


 で、国王暗殺未遂容疑とかで処刑される前に、眼の下にクマが出来た王妃様が現れて「勇者様とは知らずご無礼をお許し下さい」と泣きながら謝罪されやっとのことで外に出たら、なんと目の前で王様が処刑されるとこだった。


 王妃様曰く、王様は立場が凄く弱い王配なのに手癖が悪くもう愛想が尽きたとの事。


 がそこに戦争中の魔王軍の怒涛の奇襲攻撃が始まり、持ち堪える事が出来ずに王国軍が崩壊して、レベル1のまま逃げ出したんだな。


 で、そこからやっと冒険が始まったんだけど、ここからが鬼畜仕様だった。


 逃げたはいいが王国は既に崩壊して経済や生活圏は滅茶苦茶で当然支援も受けられない状況。マトモな食い物もなく武具屋は無くなっているし、戦うにしても武器や防具は落ちているモノか奪ったモノを使うしか無い。


 さらに魔法は存在しない設定だったので、攻撃にしても回復にしてもマジックアイテムを使うしかなかった。

 その頼みの綱のアイテムもトラップ付きの宝箱からしか入手出来ないという鬼畜仕様。


 敵となるモンスターはかなり弱かったが数が多くそこら中に徘徊しており纏まった休みが取れない。


 そうこうしている内に、ルークがハニートラップにて早々に脱落。

 それを契機に、一人また一人と仲間が脱落していき、現実世界リアルタイムで約二十二時間後に、最後までひたすら逃げ回っていたマリがトラップに引っ掛かり、運悪く? 魔王の前に転送され瞬殺、そこでやっとパーティー全滅判定を受けて終了、解放となったワケだ。


 因みに電脳空間内では時間の進み方がリアル現実とは違い、およそ十倍早く進行する。

 つまり現実で六時間なら電脳空間では六十時間の滞在といった感じになる。


 そしてこの空間、ミアノアあの子達特にミアがご熱心に作り上げたので、現実以上にリアルになってるんだな。


 先ず脳内チップと自艦AIを使い基地AIをメインサーバー扱いとしそこで仮想空間を展開し、そこに対しミアノアの艦AIである「アシシリーズ」が制御・管理というシステムを構築、参加者の五感に直接作用させる為、擬似的信号を脳に対しリアルタイムでフィードバックさせている。


 つまり、参加者は寝ながらにして異世界ゲームを実体験している事になるのだ。




 先程ここに落とされた瞬間、前回の悪夢のような事態だけは勘弁してよね! と思ったが、今のところ無理ゲーぽさは特に見当たらないので取りあえず一安心。


 だが心配なのは初参加となる菜緒と菜奈とソニアの三人。


 もし彼女達がシステムも含めた事前説明も無く、先程のチュートリアルを信じてここに送り込まれたとしたら、かなりヤバい事態になってしまうかも。


 なので早めに合流しないとね


 などと考えながら仲間を探しに下階へと続く階段に向かおうとしたところ


「「「キャーー」」」


 ドスン、ドスン、ドスン、ドスン


 と連続して叫び声と振動が伝わってきた。

 みんなはどうやら今、到着したようだわさ


 床には綺麗に等間隔で座り込む、私と同様に私服を着た仲間たちの姿がそこにあった。



 ひいーふうーみー……うん、ノアとラーたん以外は全員無事到着~


 ラーたんの姿も見当たらないが、どうせ高みの見物でもしてるに違いないな



「おーー? エマエマ先にきてたのかー?」


 一人だけ尻もちせずに無事着地したリンがキョロキョロと周りを見回しながら近寄ってきた。


「ほんの少し前にね」


 傍まで来たので肩に手を回して引き寄せ軽いスキンシップをする。


「んーー? どしたのだー?」

「リンたちは寝てたの?」

「そうなのだ! 「じょしかい」してたら~みんなねむくなって~そのままねてしまったのだ~」

「それは残念だったわね。取り敢えず皆を起こすの手伝ってあげてくれる?」

「わかったのだ~」


 肩をポンと押して送り出すと真っ先にランの所へと向かって行った。

 その間にも殆どの者が自力で立ち上がる中、若干一名が頭を抱えて蹲っていた。


「どうしたの? 菜緒姉?」

「ひっ‼」


 こちらをチラッと見ただけで更に小さくなってブルブル震え出してしまう。


「ゆゆゆゆ幽霊ーーーー‼︎」


 あ、そーゆーことね。やっぱり危惧した通りになったか。

 ってゆーか何で神様説明してあげないの?


「菜緒姉、貴方は新しい世界に連れて来られたの」


 正面に回り込み、しゃがみ込んで肩に手を置き優しく話し掛ける。


「どどどどどういう事⁈」

「私達はね、一度死んじゃったんよ」

「え? 本当に? それじゃさっき会ったのは本物の神様?」

「そうみたいね。でもその神様が言ってたでしょ? 帰れるかもって」

「え、ええ」

「だからみんなで力を合わせて元の世界に帰れるように頑張ろ?」

「み、みんな?」

「そう、顔を上げて周りを見て。一人じゃ無いから」


 言われて恐る恐る顔を上げて覗き込むと微笑むエマの顔が真っ先に目に入る。

 ゆっくりと視線を左右に回すと妹が心配そうにのぞき込んでいる顔、さらにその後ろには見知った者達の姿が見えてきた。


 すると震えが止まり怯えた表情が消え、いつもの凛々しい姿へと変わっていく。


「ご、ごめんなさい。取り乱してしまって」

「いいの、気にしない。それよりも立てる?」

「え、うん。大丈夫」

「分かった」


 と言ったが、フラついていたので手を貸して起こす。

 その際、菜緒の後ろにはエリーがおり、エマに無言のジト目を送っていた。

 そのジト目にウインクで返事をすると「呆れた」といった表情をしてから周りの者の所に声掛けに向かって行く。


「菜奈は大丈夫?」

「うん。エマちゃんと一緒だから問題ない」


 満面の笑顔の菜奈。その笑顔とっても似合ってて可愛い………………ん?


 あれ? 笑顔? 満面? 話し方も?


「菜奈、あなた話し方が」

「ん? そう言えば自分で言うのもなんだけどみんなと同じになってるね」

「うん。それと今の顔、今までで一番素敵な笑顔になってるよ!」

「ホント?」

「うん!」


 嬉しそうに破顔する菜奈。


 多分菜奈に対しては「補正」が働いているんだろう。


 このゲームシステムでは本人の感情を正確に読み取り仮想空間に反映させているが、あくまでも普段の日常と何ら変わりがない状態を心掛けている様で、参加者本人の外見・表情・仕草、果てには体力に至るまで、基本的に手は加えられてはいない。


 だが菜奈を見る限り普段とは明らかに違うので、ミアノア神様あたりが「手」では無く「手心」を加えてくれたのだろう。



 これ見れただけでも連れて来られた甲斐があったってもんだね!



「お? お嬢ちゃん達、冒険者ギルドになんのご用かな?」


 浮かれていたところに突然声が掛けられたので慌てて振り向くと、背の低い小太りでいかにも人が良さそうな男性が笑顔で立っていた。


 何か何処かで見た事あるような。

 名前は多分「ベッカー」って言うじゃない?


「えーーと」

「あ、こりゃ失礼。わたしゃここギルドのマスター支配人なんだな」

マスター支配人?」

「そうなんだな。お嬢ちゃん達はもしかして冒険者登録しにきたのかな?」

「うん、そう」

「そうかい。それならそこの窓口で簡単に登録出来るんだな」

「あ、はい」

「ただしジョブを決めないと登録出来ないので、予め決めてからの方がいいんだな」

「ジョブ?」

「そう、戦士やら魔法使いやら僧侶やらは聞いた事があるよね?」

「うん」

「それ以外にもジョブは無数に存在していて、自分で考案して新たに作ってもいいんだな。」

「へーー」

「兎に角、登録にはジョブが必要なので自分に合ったジョブを決めてから窓口で登録して下さいな」

「分かった」

「登録料は無料、登録初回特典としてお祝い金が千Gゴールド贈与されるんだな。注意事項として一度決めたジョブはそのジョブを極めないと変更出来ないんだな。だからよーく考えてくれな」


「はーい、ありがとうベッカーさん!」



 お尻蹴られない様に気を付けてね!



「みんな揃ったね? 状況は理解してる?」


 全員頷く。

 若干数名は正確に理解してるかどうか怪しいけど。


「んじゃ一先ず食事でもしながら作戦会議といきますかね」

「「「はーい」」」


 挙動不審な菜緒の手を私と菜奈で握りながら階段を下っていくとそこはレストランであった……筈なのだが、テーブルやら椅子、さらには元料理やらがあちこちに散乱しており、なにやら怪しい呻き声までが聞こえてきた。


「な、なんやこれ……」


 床には原型を留めていない料理や飲み物が散乱して足の踏み場も無い程散らかっていた。


「あ! あれを見てなの!」


 ソニアが指差す方向へと視線が一斉に向けられると動けない冒険者? が積み重なった山が出来ており、頂上には何処かで見たことがある女性が片腕を上に挙げ、土曜日の夜ならバッチリと似合う勝利のポーズをとっていた。



「ふーーーーご馳走様〜♡」



 充実感に満ち溢れた笑顔をしていた。

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