個人授業? とある姉妹達の悪巧み2
「当然ですが、その準備の中に「贄」としての椿も含まれている筈です」
「何故? そこに椿が含まれている理由は?」
目を閉じたまま質問し返す。
「す、すいません。まだ断定できる程の根拠が……」
焦り出す菜緒。
「八十九点♬」
「え? は、はい」
突然目を開け嬉しそうな笑顔を向けてきた。
「素晴らしい推測なんだけど、まだ足りないと言うか、何故そうしなければならなかったのか「動機」の部分が抜けてる〜♪」
「しかし余りにも情報が足りないし、一度しか会ってはいないので……」
「しかじゃない。一回もよ♩ 菜緒なら聞いたことあるでしょ? 「百聞は一見に如かず」って。その僅かな
「はい。すいません」
「謝る必要はないの♩ いい? 具体的に教えると、今の貴方の推測にはね「感情」という一番重要な部分が足りていないの。相手も人間なんだから初動は何をするにしても芽生えた「感情」によって動き出すと思うし、その後の行動にも影響を与え続けると思うんだけど♩ 貴方はそうは思わないかな?」
「……いえ、同意見です」
「だから素晴らしい推測に辿り着けても心が動かされない、だから決定的な説得力に欠けてしまう♩ それはすごい勿体ないこと♩」
「…………」
「逆に動機さえ分かればその後の行動の理由も比較的簡単に理解したり読むことが出来る様になれるのね♪ でもね、そこまで読むには実際に人と触れ合って色んな経験を積まないと難しいのも確か♪ こればかりは頭で割り出せるものでは無いし、経験に基づいた発想と直感頼りとなるからね♪ だから今回の貴重な体験を絶対に忘れたりしないでね♪」
「はい」
「でも良い推測のお陰で、私達の思惑達成にはサラの行動力が鍵となるのは間違いなくなったわね♩」
「主任が、ですか?」
「そう。
「僅かな差と思っていましたが、手伝い……ですか?」
「結果的にね〜……お、そうか! それもこれもあの
「女狐?」
「アリスのこと♩ あ、そうだ! 聞き忘れる前に一つだけ確認~♩ 貴方達がAエリアで会ったというアリスは、私達が知っているアリス……である可能性は何%くらい?」
「…………」
思いがけない内容、さらに答えようのない質問に虚を突かれ黙り込む菜緒。
「私は本人だと思うけど……ね? 菜奈?」
困惑している菜緒の代わりに答える。
隣の菜奈は姉と同じ状況なのでウサ耳を折りながら真横にコトンと首を傾げた。
思わずうさ耳と菜奈の顔をガン見してしまう。
その仕草、なんか可愛らしくて反則だぞ
私もアルにお願いしてうさ耳でも生やすかな?
いや、今の流行りはまん丸のタヌキ耳?
「根拠は?」
「カン……だな」
「100%って思っていいの?」
「だってーーあいつとは仕事以外での付き合いないしーー話したらサラや色んな事も詳しかったしーー」
「ならエリスは?」
「エリス? あいつも本人だと思うよ?」
「二人が会話をしているところは見た?」
「はい。本気で喧嘩をしていました。「私を巻き込まないで」と」
「巻き込むな、か……分かった~♩」
「本人じゃないの?」
「さあ?」
「はい?」
一体どっちやねん
「ローナ、ちょっといい?」
「なーにー?」
「菜緒姉の推測の足しになるかもしれないから話とく。アリスからね「贄」について色々教えて貰ったんだけど」
「ちょっと待って♩」
「え? う、うん」
「…………」
「…………」
「はい、どうぞ♩」
「どしたの?」
「菜緒が纏めてくれた記録でアリス関連の所だけ見てたの♩ あの膨大な量を短時間に一度で全てを見る事は私でも不可能だから♩」
「あ、そう……。でね椿に奪われた「力」は有限で、アリスには流れを止める事が出来るって言ってたんだけど」
「ええ」
「何となくだけど分かるんだ。私が預かっている「椿の力」には、今でも「力」が流れ込んできているのが」
「と言うことは?」
「今でも昔の「思い」が椿の中に残っているってことだと思う」
「…………」
「あとアリスが言ってた。基地で一人も「消失」での犠牲者が出なかったのには理由があるって」
「何と?」
「椿は誰もいなくなるタイミングを待っていたって」
「なるほど……繋がったわ♩」ハッとするローナ
「繋がった?」
「今までの話が全て♪」
「今後私達はどうすれば?」
「私達が正しいと証明する為に生き残るしかない♩」
「…………」
考え込む菜緒。
「だって「運命」とやらが決めるんでしょ?」
「……はい」
「違うわ、そこは「いいえ」って言わないと♩ 運命ってのはね、
「はぁ……」
「別に神の存在を否定しているって訳ではないけど、今言った類のモノは結果を任意に変える事が可能なのよ〜♫」
「……では今まで通りで良いと? 敢えて思惑に乗ったフリをして」
「そう♩ 故意に変える必要はないけど、目的だけは見失わないこと♩」
「はい」
「こっちはこっちで少し軌道修正が必要ね♩」
「軌道修正とは?」
「ん? 心配事が一つ増えたの♩」
「…………」
相変わらずの笑顔のローナの口から出た「心配事」と言う言葉を聞いて不安そうな表現になる菜緒。
「ローナ。サラが整合部に連れてかれたことは知ってる?」
「勿論♪」
「何で?」
「
「うーーーー! いつ帰って来るか知ってる?」
「あの動きだと上手くいってるみたいだから少し時間が掛かるんじゃないのかな?」
「あの動き? サラはまだ(整合部)本部にいるの? どれくらいで戻れそう?」
「さあ?」
表情動きは一切変えず言葉だけで返事をした。
「ぶーーーー」
真剣さが感じられず、何となくおちょくられた気がして膨れるエマ。
「あら可愛い子豚ちゃん♫ 貴方に似合うのは子豚ちゃんの耳じゃない?」
「ち、畜生……色んな意味で」
見てたんかい! 流石はローナ
「貴方更に太ったんじゃない? 二の腕とお尻周り、少しダイエットなさいな♪」
上から目線を向けながら呆れ顔をしてみせる。
「サラは自らの目的の為に今は奔走してる真っ最中♪」
「奔走?」
「そ。サラはね、私達情報部とは立場も違うし物事への考え方もアプローチの進め方も全く違う。勿論それにはちゃんと理由があってね、事を始めた「動機」と主たる「目的」が私達とは全然違うからなのよ。でも違うからと言って、貴方達を救ってあげたいっていうところは共に同じで変わりはない。そこのところくらいは分かってるわよね?」
「……はい」
「さらにその望みが叶えばだけど結果的には貴方達姉妹を救うことに繋がるのよ〜♪」
「…………」
「当初の予定ではサラには基地でフン反り返ってもらって、私が色々手を回して裏方に徹するつもりだったんだけど、今は想定外のサラには
「……はい。……あ、クレアは知ってる?」
「あの子ね。勿論♪」
「今、何処にいるか知ってる?」
「当然♪」
「どこ……いや無事よね?」
「さあ?」
「危ないところ?」
「さあ?」
「さあって……」
「何処にいるかは知ってるけど、何をしようとしてるかまでは知らないの♩ あそこには近付けないし研究所レベルの情報統制が敷かれているから♩」
「そんな所があるの?」
「一ヶ所だけね♩」
「そう……」
「そう心配しなさんな♪
「彼女? レイアのことだよね?」
「その通り♪
「情報部の長老が?」
長老が? なんでだろう……
でもローナがクレアの所在を把握していると分かってかなり安心できた。
ローナはほっとしているエマをジッと見つめていたが突然クルっと首だけエリーに向ける。
「エリーはそこの子豚ちゃんと菜奈の危なっかしい妹コンビの監視役兼保護者役♪」
「は、はいな! え? 菜奈さんも〜?」
「決して目を離さない、独断専行をさせないこと♪」
今度は反対側にクルっと首を向けて菜緒を見た。
「菜緒は考察任務継続♩」
「は、はい!」
「積極的に頑張りなさい♪ 色々と〜♪」
「……へ? 何を?」
「
「は、はい。姉さん」
「次、暴走したらお仕置きよ〜♩」
「ひっぇ‼︎」
「最後に
「「は、はい?」」
二人を交互に見やる。突然名を呼ばれたのでビクッと驚いてしまう。
「ここからが正念場。想定外な事も起きるかもしれないけど二人で……いえみんなでそれを見事に乗り越えて見せてね♪」
「はいな〜」
「ローナ」
「ん? 何? 何か文句あるの?」
目をパチクリさせるローナに向けて、お湯を掻き分けながら近付きいきなり抱き着く。
「ありがと! ん……」
「!」
礼を言うとすかさずお口にキスをする。
その際、抱えるように両腕をホールドしておりエマの方が軟弱とはいえ、体力も体格も上なのでされる方は抵抗出来ず成されるがままだ。
その光景をみて周りは驚き呆気に取られていたが、突然エリーが戸惑いながら呟いた。
「あ、あらら~これじゃ私もしないと不味いのかしら~」
「え? ね、姉さんは今は忙しいから私が代わりに……」
ラーナが自信なさげな、だが期待の込めた眼差しで両手を広げて訴える。
「冗談ですよ~」
「え? そ、そんな……」
爽やか笑顔の即答にガクッと肩を落すラーナ。
そんな四人を温かい目で見守る菜緒菜奈。
程なくして解放されると若干困り顔でエマの頭を優しくナデナデしてあげる。
「全く、楽しみに取っておこうと思ってたのに〜♪」
「全てが無事片付いたらいくらでもしてあげるって!」
「はあ?」
「ついでにラーたんも含めて特別な儀式もしてあげるね♡」
「エマちゃんホント?」
「ホント♡」
「やったーー!」
可愛らしく身体を捩って喜んでいる。
「…………」
ラーナの反応をジト目で観察するローナ。
「さて、(情報連結にて)情報は貰ったし元気な顔も見れたし、危険を冒してまで来た甲斐はあったってとこね♪ さあ行くわよ、ミア」
「……少し予定変更だ、ぞ」
「それはこっちもだけど♩ 一体どうしたの?」
「……僕は所用が出来たので、基地に寄ってから帰りますので一足先に戻ってて、ちょ」
「なんで?」
「……ラスボス対策、かな?」
「…………誰を?」
ローナの問いに顔をノアに向け暫く見つめ合う。
すると何故か二人ともいきなり頬を赤らめ頭から湯気を出して俯いてしまう。
「「「?」」」一体どうしたん?
「「……さん」」
「「……にい」」
「「……いち」」
「「……ほい!」」
体勢そのまま、バシャと言う音と共に二人の片腕がお湯の中から出てきて、ミアは菜奈を、ノアはエマを見ずに指差した。
「どっち?」
「「……どっちか、かも?」」
「はいはい、丁度良かった♪ でも強制はしちゃダメよ?」
「「……りょうか~い、だぞ」」
出していた手でハイタッチを交わす二人。
「それじゃ今度こそ行くわよ♬」
「……がってん承知の助~、でやんす!」
じょうだんじゃないよーと鬼瓦権蔵風に、誰もいない方向へジェスチャーをして見せるミア。
って誰に向けてボケかましてるの?
「……よ! ミア屋ーー! かな?」
ノリノリでゲキを飛ばすノア。流石姉妹。
でも君達何かおかしくないかい?
いやおかしいのは元々か……
「それじゃラスボス前には帰ってくるから元気でね〜♪」
「……お土産はなし、だぞ?」
「ない……の?」
ボケてきたので潤んだ瞳てツッコんでみた。
「……うっ! か、考えとく、ね」
どうやら会心の一撃となったようだ。
二人を見送ろうと立ちあがろうとしたところ「不吉だから要らない♩」とローナらしくない言葉で拒否された。
そして立ち去ってから数分後に湯面が僅かに波打ち出したことで彼女たちが乗った艦が動き出したと分かり、空を見上げその姿を探したが何処にも見当たらなかった。
多分隠蔽迷彩モードで立ち去ったのだろう。そうこうしている内に元の静かな湯面へと戻ってしまい、ローナはまたどこかへと、ミアは基地へと向かって行ってしまったと教えてくれた。
今回の隠密帰還で、ローナは単独では無くミアを連れてきたということはエリスを余程警戒しているという証拠だろう。
そして話をしている内に以前ラーナが言っていた、ローナ達の
それは「馬が合う」と言う表現がピッタリで、彼女は私の事を慕ってくれてるみたいで、まるで姉妹であるかの様な錯覚を覚えた事もある程だ。
エリスの良いところは「裏表」が無く、誰に対しても爽やか笑顔を振り撒き、何故か不思議な表現を駆使して、誰が相手でも親しくなってしまう。
だからと言って空気が読めないとかではなく、ちゃんと距離を取るし、ズカズカとプライベートな事に入り込む事などはしない。
ただ、今まで全く気には留めなかったが、思い返せば普段から一緒にいる
姉妹の関係は上手くいっていなかったのかな……
でもラーナは「姉妹では無い」って言ってたし……
ここまで正反対のこと言われて、一体どれを信じればいいのか。
ま、そこんとこは私が考えても仕方が無いか!
私はエリスは信じるって決めたんだ!
さあもう遅いし今日は部屋に戻って寝ますかね
露天風呂からぞろぞろと引き上げる四人。その姿が見えなくなったところでラーナが口を開いた。
「アレ、これからやるの〜?」
「……おう、今晩寝てる間に、ね。決行するタイミングは今しかない、かも?」
「ここで?」
「……今頃ミアがプログラム変更してくれてる筈だから、ね」
主星の光を反射させて輝いている基地を見上げて答える。
釣られてラーナも見上げたが直ぐにノアに向き直る。
「あの二人のどちらかってこと〜?」
「……そうなる、かも。本音を言えばクレアが最適だと思うし、その為の改造は既にしてあるんだが、な」
「仲間の中では一番適正がありそうだもんね〜。でも〜エマちゃんと菜奈ちゃんの改造は〜まだでしょ〜?」
「……それ用の改造はまだだ、けど。ただ必須って訳ではないから、ね」
「そうか! 二人とも艦があるからね〜。因みに菜緒ちゃんやエリーちゃんではダメなの〜?」
「……ん〜無理、だな」
「なんで〜?」
「……二人は優し過ぎるんだ、な……byミアちゃん♡」
「へーー」
「……因みに私以外は全員強制参加だから、ね」
「わ、私も〜?」
「……当然。時間もないからレベルは下げる様に指導してあるし、前回の様に0泊二日の強行軍で全滅ーー、て事にゃならん、から。ま、楽しんできて、ね」
「はいはい〜」
「……パーティーリーダー、よろよろ〜」
二人もみんなの後を追って出て行った。
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