師匠!
・・・・・・
「おい! 関係無い者とは何の事だ?」
「おいらはここでやんすよー」
自らの姿を晒した上での発言。
シェリーはその内容を聞いた直後、質量兵器による攻撃を止めてしまう。
ロイズはそれを確認した後、それ以上は何も語らぬまま、再度調査艦へと擬装し
「くっ、どこまでも小賢しい奴だ!」
「どうやら挑発にも乗ってこなさそうだな」
考える暇も与えず引き返したロイズ艦。
今度は隠蔽迷彩までした様で、調査艦との見分けが付かなくなり位置をロストしてしまう。
だが今の僅かなやり取りでシェリーの張り詰めた気が解け、心に余裕が出来た。
「あの中のどれかに人が乗っていると?」
「奴の言う事を信じればな。だが唯のハッタリの可能性もあるぞ?」
「
「その可能性が高いと見ているが」
暫く考え込むシェリー。
「コーチ、センサー類に反応は?」
「生体反応の類は今のところ無い」
「巧妙に隠匿されているのかもしれませんね。仮に誰かが乗っていたとして、それはどなたなのでしょう?」
「調査部の職員?」
「それは……あの艦は常に無人では? それにここは政府でも一握りの者しか知らない極秘施設の筈」
「なら、研究所関連職員か?」
「それなら……僅かですがあり得るかと」
またまた考え込むシェリー。そこまでの行いをするとは思えない。
「どちらにしても奴が言っている事が事実であるなら手が出せんぞ」
「…………」
「まあ、今の話を聞いてしまったからにはいるいないに関わらず、作戦の変更が必要だがな」
「……そもそもロイズの信念……目的は何なのでしょう?」
人の有無よりもそちらの方が気になる。
「目的……我々と相対している理由、か?」
「はい」
「お前達姉妹と同じ様に人には言えない事情を抱えているのかも知れないな。だが、だからと言って
「……そうですね。そこは同意見です」
・・・・・・
ミアはローナ達と別れた後、研究員として潜入している情報部員の回収の為、とある場所へとやって来ていた。
到着後、初めにやった事は『迎えに来た、帰還するから残らず集合せよ』という合図をバレずに全員に知らせること。
集合の合図は事前に何通りか決めてあったが、今回はマリの潜入に合わせてもっとも派手なプランで行くこととした。
まず隠蔽迷彩状態のまま集合地点の外壁に張り付き壁の一部を派手に破壊、そのままその場で待機。
内部で異変を感知した警邏アンドロイドかロボットが確認に来た時点でミア特製の憑依型ウイルスに感染させる。
そのウイルスは制御AIに乗り移り、そこから一部のスミス達へと分散させていく。
ウイルスの準備が終わったところで合図を送ると、各フロアの一定の間隔にいる一部のスミス達が暴れ始める。
さらに暴れる際には予め決めてあった潜入部員しか知り得ない暗号を連呼させることで集合場所を伝えさせた。
その暴動を合図とし、目撃した情報部員は迎えが来たことを知り、これまた決めておいた合言葉を連呼し、合図に気付けなかった者に伝えた上で各々集合場所へと脱出を謀らせる。
この方法は、他の無関係な研究員を扇動・巻き込むことによりバレにくくなり、さらに別の計画のカモフラージュにもなるという利点があった。
デメリットとしてはシステムに潜り込ませたウイルスが事前に発見・解析された場合、対策が立てられ逆に不穏者の炙り出しに使われかねないといった懸念が生じる恐れがある。
だか今回、リンの活躍のおかげでミアが組んだウイルスに唯一対抗出来る存在であるレベル5の称号を持った者がここには立ち寄る暇は無いと確信していたので、この集合方法を採用することとした。
「……は〜い、みんな仲良く並んで、ね〜」
集合場所に続々と集まる情報部員達。
心配されていた残留希望者もなく、登録されている全部員がこの場に集まっており、順次ミア艦への乗り込みをする為、行儀良く一列で待機していた。
今、皆が集まっている場所は小型救難艇が納められてある格納庫。
ここ研究所にもいざという時、直ぐそばにある二重惑星への避難に使える様、脱出用救難艇が複数個所設けられてあった。
ローナ艦が張り付いているドックや居住区エリア、さらに研究エリアにもあるのだが、エリー救出作戦に支障が出たらまずいとの事で、だいぶ離れた場所で回収とした。
その救難艇格納庫のハッチ外から艦の一部を侵入させその部分をストロー状にし、並んで待っている部員達を順次「吸い上げて」艦内に「取り入れて」いく。
勿論検閲も同時に行いながら。
改修作業も順調に進み、待機している部員も残りわずか。
元々数十人しかいなかったのでたいして時間は掛かってはいない。
残っている部員も皆揃って帰れると喜んでおり、自分の番が来るのを心待ちにしている様であった。
「先生! ローナサンカラ暗号通信デス!」
「……ローちゃんから、とな? 読み上げてくれ、たまゑちゃん」
「エーートデスネ……『金時山からの下山中♪ そちらの状況は?』トノコトデス」
「……ほうほう。それは素晴らしきこと、だね」
「返答デスガ如何シマスカ?」
「……もう直ぐ水揚げ完了、と」
「了解デス」
勿論「水揚げ」との単語は変換しての報告。
「……それでシェリーの戦況は、どう?」
「苦戦シテイルヨウデス」
「……マジっす、か?」
うっそー、といった表情。
「例ノウイルス弾ガネックニナッテイルヨウデス」
「……そう、か。ロイズも案外本気なのかも、ね。でもシェリーには
「ゴショク君ニ
「……それは無理だ、よ」
「何故……アッ! 失礼シマシタデス」
「……不器用なアチキには高度なプログラムの構築なんて直ぐには出来ませんよー、だ!」
「ス、スイマセンデス」
「……ふーーんだ!」
膨れてしまった。
(……
(……お?
(……それどころでは無くなった、ぞ! 奴がこっちに現れたのじゃじゃじゃ!)
(……わぉ⁇)
(……そうだよ、ね~。普通は驚くよ、ね~)
(……で?)
(……で⁇)
(……勝ったの、か?)
(……僕に恐れをなして……)
(……逃げられ、た?)
(……はい)
(……あれま)
(……ぐすん)
(……あれま)
(……慰めてくれんの、ね)
(……あれま)
(…………でね、今そっち向かってる、ところ)
(……何故、に?)
(……Aエリアの者達が全員そっちに連れていかれた、みたい)
(……ほう)
(……でね…………みたい)
(……やばたにえん‼)
(……でしょ~)
(……でも私は動けん、ぞ?)
(……なんでや、ねん)
(……人命救助、中~?)
(……他の連中、は?)
(……無理茶漬け~。って大体こっちでは見掛けていない、よ?)
(……そう~? ま、そっちに着いたら僕が探す、ね。だからまた入れ替わろうか、ね?)
(……なんじゃ? もう終わり、か?)
(……そういうこと、でーー)
(……そういうこと、かーー)
どうやら
・・・・・・
甲を先頭に外に飛び出し敷地から出ると、エリーの言う通りそこら中からスミスが現れ行手を遮り始めた。
「甲! 来た道戻るで!」
ローナと連絡を取った時点で通信封鎖を解除。その際、マリの潜入と居場所が発覚するのは織り込み済み。
なので音声及び各種通信の制限がなくなり自由に使える様になった今は遠慮せずマリの声が辺りに響き渡っていた。
「了解」
ドスの効いた低音の声が返ってくる。
こちらもジェスチャーではなく音声による返答へと変わった。
そんなやり取りをしている間にも増え続けるスミス。
映画のワンシーンと同じく既に道路上にはスミスで埋め尽くされており、さらに先の方では大勢のスミス達がこちらに向け走ってくる姿まで見えてしまう。
「全くエリーの人気はたいしたもんやね! 甲、エリー、乙、ウチ、丙の縦列でそのまま真っ直ぐ突破や!」
移動しながら指示通りに並び直すと、先頭を走っていた甲が両手を広げながら物凄い勢いでスミスに向け突進していく。
その後を続く皆。
エリーとマリは反重力シューズを使い飛びながら付いて行く。
甲は敵の体勢は一切無視、ボディービルダー顔負けのムキムキマッチョな己の体一つで体当たりをし、強靭無敵な体で触れる物を全て粉砕・なぎ倒して行く。
その情けの無い突進のお陰で後方にいるエリー達に雨霰の如く容赦なく破片が襲い掛かる。
だが余りにも敵が多過ぎるのか流石の甲も勢いが一瞬弱まるが更に地面を抉りながら力強く速度を保ち走り続けた。
しかし甲の体当たり攻撃範囲外にいたスミス達がすれ違いざま手を伸ばしてエリーを捕まえようとしてくる。。
それを三番目を走っていた乙が両腕を伸ばしてからブレード状に変化させ、エリーに襲い掛かる手を片っ端から切り裂いていく。
そのお陰で四番手を行くマリに降り掛かる破片の量が倍増してしまう。
後方からは口を閉じて無表情のスミスの大群が
なのでここで進みを止める訳にはいかなかった。
やっとの事で公園前の広い区画へと辿り着く。
だがそこは一面スミス達により真っ黒に埋め尽くされていたのだ。
「ウジャウジャと! 構わずそのまま公園に!」
マリの指示で勢いを殺さず向きを変える甲。
そのまま公園に進入、転送装置がある建物へ向け突進して行く。
ここで変化が訪れた。
小道に入ったのだが何故かスミスは1体も居らずスンナリと通ることが出来たのだ。
そして研究エリアに行きの転送装置がある建物前に到着。
すると甲が立ち止まり後ろを振り帰り、直ぐ後ろまで迫っていたスミス達をその場で薙ぎ払い出す。
だが甲一人で相手するには数が余りにも多すぎて、脇から上から足元からと回り込もうとする者達が出てきた。それを身近なスミスを掴み振り回したり投げ飛ばして阻止しようとするが多勢に無勢状態でみるみる突破されてしまう。
ここで丙が甲の後方から参戦、乙のように両腕をブレード状に変化させ、すり抜けたスミス達を三枚・四枚・細切れ・微塵切りと料理し始める。
二体の活躍のお陰で周辺には元スミスの残骸の山があれよあれよと築かれていった。
その間に自動ドアをエリー・乙・マリの順に通過する。
「そのまま飛び込むんや!」
通過後に装置を破壊してしまえば、さらに増え続けている目の前のスミス達の追撃を躱すことは出来る。
初めにエリーが、次に乙が転送装置に飛び込み消えて行く。
そのまま続けてマリが飛び込もうとしたところ、後方から幾つかの破片が飛ん込んできて転送装置にめり込み電源が落ちてしまった。
「なっ!」
ダイブしたまま装置の上を通過するマリ。勢いでその先の床へと倒れ込んでしまった。
急いで立ち上がり装置の上に乗るが全く反応が無かった。
ここでローナと行った
「エリー、聞こえるか?」
「ど、どうしたの?」
「どうやら装置が壊れちまったらしい。こっちは何とかするさかい、先にミケちゃんの所に行き!」
「え?」
「乙、ウチらを待たんでええ! 最優先指令や! エリーをミケちゃんに乗せい! 傷一つ付けさすなよ!」
「了解」
「行け!」
冷静にテキパキと指示を飛ばすマリ。
妹の前では気丈に振る舞っていたが、その妹がいないところでは弱気になってしまう性格。
変えたいと思ってはいたが、結局自分では変えることは出来なかった。
だが、それをたったの一日でローナが変えてしまった。
しかもいとも簡単に……
マリ自身がその事に気付くのはもう少し後のこと。
「さてと……姉さん、聞こえる?」
「どうしたの?」
「エリーと逸れたわ」
ローナを呼び出すと直ぐに返答が。
「……状況は?」
「居住区の転送装置が壊れてな。エリーには乙を付けてなんとか先に逃がせたがウチらが取り残された。乙にはミケちゃん迄送り届けるよう言ってある。後のフォロー頼む!」
「……了解♩ 乙のサポートはこっちでする♩」
「頼むで!」
「で、貴方達は帰投ルートの変更ね♩ かなり遠回りになるけど♩」
「了解や!」
「貴方の艦にルート送っとくわね~♪」
「師匠! 聞いたか?」
自艦AIに問い掛けるマリ。するとワンテンポ遅れて……
「……へ」
「へ?」
「へ……ヘックション!」
マリ艦のAIである<師匠>の登場。
「ど、どないした? 風邪でも引いたんか?」
「い、いや~昨日飲み過ぎてな、傘どっかに忘れてしもて、ずぶ濡れで家に帰ったんよ」
「そりゃ災難やった……って師匠酒飲むんか?」
「あう‼ ……」
「あ……盛大に嚙みよった」
「……痛いの……」
「そやね。その気持ちよう分かるわ。色んな意味で痛いよな」
「…………まだ続くのかしら~♩」
珍しくイラついたローナの声。
「…………はっ! スンマセン師匠‼」
「いやそっちはローナの姉さんで師匠はアンタやろ⁈」
「ワシが師匠? ……そりゃ知らんかったわ!」
「師匠~頼むわ~」
「おう‼︎ 任せとき~」
「あ、今度は嚙まんかった! さすが師匠や!」
「…………あんた達、サッサと動かないと置いてくわよ~♩」
今度は冷淡な声。
「「スンマセン‼ 大統領‼」」
ローナは思った。
〈マリだけじゃなくて、
と……
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