ハッズレー! マリと師匠!
甲達に視線を移すと未だに戦闘は続いており、自動ドア付近までジリジリと後退していた。
一見、形勢は不利な様にも見えるが、甲と丙がドア前で立ち塞がっている為、スミス達が入り込む余地が無く、そのお陰で室内は平穏が保たれていた。
「エリーが居なくなったちゅーのに数が減らんの」
「今度はマリが目当てやからな」
「う、ウチが?」
「いやーー人気者はしんどいのー」
「そんな人気いらんわ! そんで師匠、どこ向ったらええねん?」
「んーーその前にちーとトイレにだな……」
「こんな時に……我慢しーや」
「そんなご無体な……もう歳やし致し方ないんよ」
「なら早う行ってこい!」
「……あっ……」
「あ?」
「…………何もあらへん」
「ちょい待て気になるやん! 教えてーな!」
「知りたいんか? しゃーないなら教えたる! 先ずは居住ブロックに戻れ」
「ほうほう、話戻したな。それから?」
「そこに秘密の抜け道があってな」
「フムフム」
「そこ抜けると綺麗な
「先ずは居住ブロックか」
はいはい第一目標は居住ブロックと……
「……何や姉ちゃんに興味なさそやね~?」
「ウチは姉ちゃんより
「……へ? マリは
「普通ちゃう? 女やし」
「なっ……女? そう言われたら……だんだんと女に見えてきよったわ!」
「いやいや「きよったわ!」じゃなくてウチは元から女なんよ! ちゃんと出るとこ出とるやろ?」
「いやー女装なんぞケッタイな格好しとったし、触れたら可哀想かと思うて言わんかったが、そうやったんか……マリもやっと人間になれたんか……」
「今度は人間かい!」
「…………楽しい?」
何処からかローナの呟きが。
「「‼︎」」
ビビるマリと師匠。
そういえば通信を繋げたままだったのに気が付いた。
「ほ、ほなら行くで! 甲、ウチ、丙と前回と同じ縦列で突破や!」
「「了解」」「了解や!」
「い、いや……師匠は張り切らんでええねんって」
「そうか……ワシはいらん子か……弟子に煙たがれ、トイレにすら行けれず惨めに捨てられるんか……」
「あーー分かった。好きにしたらええ」
「わーーい、感謝感激雨霰! ワシの弟子は優しいのーー」
「しかし雨霰って……いつの時代やねん」
「ワシが知るか〜」
「あっそう。なあ師匠、そろそろ真面目に行こか?」
「そやね。オカンに怒られるし」
「オカンて誰や……いやもーええ」
エンドレスになりそうだったので、甲達にハンドサインにて合図を送り移動を開始した。
因みに音声では無くハンドサインにした理由は、一度話し始めると師匠のペースにハマり抜け出せなくなるから。
やっとの事で移動を始めよう甲達に近付こうとしたところ、周りのスミス達が破壊された仲間の破片をマリに向け投擲し始める。
勿論、探索者用宇宙服に傷を付けることは出来ないがその数が次第に増え始め足元に積み重なっていく。
「ちょっと鬱陶しいな。そうや丙!」
何かを閃いたのか丙を呼ぶ。
丙は手はスミス達を切り刻みながら首だけを180度後ろに向けマリを見た。
「ひぇ~~、丙それちっと怖い~」
思い切り引くマリ。
逆に引くマリを見て悲しそうなそぶりを見せる丙。
「あっスマン、そういう意味やない。それよりいいこと思いついた。今からウチを
一瞬、丙の動きが止まったかと思ったら、マリに向け突進し接触寸前にスライム状になってマリを内包、身体に合わせて外郭を構成した。
さらにマリの宇宙服そっくりに擬態化、ひと回り大きなマリちゃんが完成した。
「……真っ暗やん。丙、ウチの宇宙服とお前のセンサー接続出来へんか?」
呟いた途端、マリの探索者用脳内チップを通して丙のセンサーと繋がり、外郭を構成している丙も含めてまるで宇宙服を着ておらず、素っ裸の身一つで立ち尽くしているかの様な不思議な感覚になる。
さらに頭部保護シールドには丙に見えている風景が全面に映し出されていた。
「こりゃ……凄い!」
各種高性能センサー搭載の丙が見ている世界は、人が目で見ている世界とは根本的に違っていて情報量が桁違いに多い。
可視光のみに頼っている人の目とは違い、赤外線等の各種電磁波、更に音波・反響音等を利用・読み取るソナー、さらにマリには全く理解出来ない謎の電波まで駆使し、それらから得た情報を処理しマリが苦なく見れる範囲内まで
それでも自分の目で見る世界とは明らかに違っているのが分かるレベルなのだ。
「ノアってメカに関してはホンマ天才やわ」
と感動して呟いている間にもスミス達による
その様子も最初から映っていたのだが、内部にいるマリに音や衝撃が全く伝わっておらず、しかも丙の性能の凄さに気を取られていた為、全く気にも留めてはいなかったのであった。
「こんな
のんびりモードに戻ったマリ。何かに気が付いたのか、先行している乙を呼ぶ。
「……はい」乙から音声が返ってきた。
「ウチが言いたい事、分かる?」
「……了解」
多分丙から情報を受け取ったのであろう、何も言わなくても伝わったようだ。
「乙の判断で危ないと思ったらな。エリーを頼むで」
「マスター」
「はい?」
「ですがその機会はもうないかと」
「なんで?」
「もう直ぐエリー艦に到着です」
「えらい早いの!」
「…………ルートが判明しておりますので」
「何やその「…………」は?」
「特に含むところはありません」
「……まあええ。そんで妨害は?」
「今のところ全く」
「そうか。あんだけ執拗に追っ掛けてきたのになんでやろ?」
「理由は不明。研究員も含めて誰もおりません」
「まーええ。最後まで気、緩めんといてな」
「了解」
「んじゃ甲、待たせたね。さあ行こか」
「お待ちください、マスター」
「今度は丙か? どないした?」
「制御はどうしますか?」
「制御? 制御って?」
「私の体です」
「……お~そうやね。丙が動かすと……ウチの体がイカレそうやし、ウチの動きを補助してくれるっちゅー感じでお願い出来る?」
「了解」
「よろしく!」
「今度こそ行くで!」
甲が再度両手を広げゆっくりと前進を始めた。その後ろを付いて行く。
戻る行程で気付いたのだが、スミス達は通路以外に踏み込んではいないようで、道沿いの植栽や花々に荒れた様子は見られなかった。
ただそのせいでスミス達が小道に並んで待機していた為、進みが遅くなってしまう。
その後、公園出口にまでスミス達との戦闘は続いたが、出口からその先にはスミス達は既に一体も見当たらなかった。
「あんだけおったのにどこに行ったんや?」
辺りをキョロキョロ見ながら居住区に向けかなりのスピードで走る。
丙のお陰で一歩の歩幅が5mくらいあり、軟弱なマリでも苦なく進めた。
この二人、側から見ればかなり異常な速度で走っているのだが、当の本人はそんな事は全く気付かない。
終いには呑気に師匠と会話を始めた。
「皆、昼休みちゃう? 機械も休憩はしっかり取らんとな」
「そうなん? もうそんな時間か……」
「マリもどっかで休憩しとき。長丁場になるかも知れへんしな」
「んーー何か嫌な予感するからサッサと帰る」
「そんなん言わんと寄り道してこー? なーええやろ? おっちゃん疲れたわー」
このやり取りは
「師匠! 楽しい会話の時間もお終い。居住区に着いたで! ここからどこ行くの?」
「またワシのこと無視しくさりおって……教えたげなーーい」
「……師匠。さっきから何か嫌な胸騒ぎがするんよ。出来れば早う移動したいんや」
「マリも二日酔いか……餌付く前に丙に声かけてあげてな。臭い取れなく……」
「師匠!」
「……分かった。取り敢えずエリーの家でトイレ借りよ?」
「エリーの家やな」
「お邪魔しまーす」
ドアを開け行儀よく玄関に入る。
一応、中に誰もいないのは確認済み。
トラップの類いも同様。
「そんで次は?」
「トイレの隣の扉」
「……ここね」
開けると六畳程の広さの部屋に転送装置が四個、等間隔で設置されてあった。
「また四つかいな!」
項垂れる。
「さあ好きなヤツ選べ~」
「え? どういうこと?」
「確立は1/4。上手くいけばワシの所に一発で行けれる」
「……あ、ミケちゃんの壁にあった転送装置か?」
「ぴんぽ~ん大当たり~! さらに一発で当たりを引き当てた強運なお嬢さんには極楽浄土へご案内~~」
「師匠、この情報どこで仕入れたん?」
「知りたいんか?」
「おう」
「ならスリーサイズ教えてーな」
「90.61.83のEに限り無く近いギリDカップ。大体師匠は知っとるやろ? んで、情報源は?」
「もう少し……こうモジモジとな、恥ずかしそうにな、上目遣いでな、答えんと面白みがな……」
「そんなんどうでもええねんて。そんで?」
「恐怖の大王」
「大王? ……あー姉さんの指示か。なら間違いあらへんけど1/4ってのは?」
「ワシの前に道はなし、ワシの後に道が……」
「はい? そこまでは分からんってことね」
「ワシに難しい事、聞かんといてーな」
「まあ可能性は0ではないし、他に手は無いし。行くしかないか」
「そやからさっきから言っとるやんけ。早う選べ~」
「そんじゃ……これや!」
転送装置にマリと甲が乗る。そのまま
・・・・・・
「到着です。そのまま搭乗して下さい」
「ホントに動くの?」
「大丈夫よ〜♪」
「ローナ?」
「久しぶりね♪ 元気そうで良かった♫ あいつらに酷いことされなかった?」
エリー艦がある倉庫? へと無事到着した二人。自艦の姿を見上げたところにローナから通信が入った。
「え? ええ、色々あったけど待遇は悪くなかったかな?」
「そう……つもる話しは後にして先に
「え? でもマリがまだ……」
「あの子なら大丈夫♪ 私がここに残るから♩」
「で、でも……」
「マリの頑張りを無にしたいの?」
「…………」
「
「……分かった。お言葉に甘えます」
「いい子♪ ミケちゃんには寄り道せず
「やっと帰れる……」
「あとミケちゃんは、
「り、了解」
「それと……エマは元気よ〜♪」
「今どこに?」
「今はAエリア基地ね♩」
「な、なんでAエリアに?」
「細かいことはラーナから聞いて♪
「ラーナが?」
「とにかく先に戻って、あの子達とゆっくり好きな温泉でも入って美味しいモノ食べて疲れを癒してて〜♪」
「は、はいな」
「あ、そうそう。ラーナに伝言頼める?」
「な、なに?」
「今度私との約束破って暴走したらお仕置きよ〜ってね♩」
「は、はい確かに!」
「それじゃ後でね♪」
「あ、ありがとう。ローナ」
「どう致しまして♪」
挨拶が終わると艦に
入口まで付いて来ていた乙は敬礼しながら離れて行き、再びマリの下へと戻る為、そのまま壁の転送装置へと向かっていく。
「あ、乙。貴方にはやって貰いたい事があるの♪ チョットだけ待っててくれる?」
エリーが
『お帰りなさいエリー。みんなが貴方の帰りを待ってるよ』
と表示されていた。
それを暫し無言で見つめていたが目を閉じてシールド越しに手で顔を覆ってしまう。
「みんな……ありがとう」
直ぐに球体モニターが外の様子に切り替わり、それと同時に艦が白色のまま卵形へと形状変化をし、マリがちょっとだけ壊したハッチを派手に破壊しまくりながら真っ暗な
直ぐ脇には隠蔽迷彩状態のマリ艦とローナ艦がエリー艦を守る様に待っているのが球体モニターに映る。
だがミケちゃんの機能が殆どダウンしている為か、注釈等は一切表示されてはいない。
それでもその二艦の内のどちらかにローナが搭乗しているのは分かった。
その二艦を瞬きせず眺めるエリー。
だが、感慨に浸る間もなく艦は漆黒円錐型へと形状変化をし跳躍、消えて行った。
「よし! ここまでは
・・・・・・
「ハッズレーーーー!」
「ウッキィィィィーー! 師匠! どういうこっちゃ⁈」
四つの転送装置を全て試したが、結局全て外れであった。
「……あ……」
「あ? またかいな。怒らんから言うてみ?」
「何もあらへん」
「そやから何やねん‼︎」地団駄を踏むマリ。
「怒っとるやん。多分やけど……」
「けど?」
「色気が足りんせいや」
「…………」青筋立てて握り拳を作るマリ。
「いやホンマに!」
「どういう意味やねん?」
「言い方間違ごうた! エリーやないと正しく作動せんちゅーことを言いたかったんや!」
「そうか、確かにウチに色気はない。そこは否定はせん」
何かが違う気がする……
「
「師匠、別に直通に拘る必要はあらへん。最後に師匠とこに辿り着ければええんよ」
「……そんなにワシに会いたいんか?」
「そりゃもう直ぐにでも!」
「そうか……でもワシはな、もっと可愛いネーちゃんの方が……」
「師匠ーー設定変えるでーー」
「わ、分かった! ワシが悪かった!」
「今度は若いにーちゃんにでもすっかな♪」
「堪忍してーな!」
「そう言えば三番目に飛んだ先、おもろそうやない?」
「あ〜地味な二等賞のヤツね」
「そう、物理工学研究区画」
「ま、ワシらにはてんで分からん世界やが、冷やかしがてら行ってみっかの」
「ほなら甲、行くで」
「了解」「了解や!」
「おう! 師匠もしっかりついてこいや!」
新たな目標に向かう為、スタート地点へと戻って行った。
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