マリちゃん2 ホレホレ?

 ステルスモードで転送装置へと近付いていく四人。

 もう目視で認識出来る距離まで来ていた。


 警備アンドロイドは全部で三体。

 こちらも古い情報通り全て男性型。


 体格や顔は違うが服装は統一されており、白いワイシャツの上に真っ黒なネクタイを締め上下黒のスーツを着込み真っ黒なサングラスと黒の革靴を履き、転送装置を中心に「何か」に対して警戒をしている風に見えた。


 マリはその容姿を見て「あいつらの名前は間違い無くスミスやな!」と思いながら、極力彼等の視界に入らぬように遠巻きに回り込みながら近付いて行く。


 何故マリが彼等を「スミス」だと思ったのかは、容姿もそうだが視線は真っ直ぐ前を見据えたまま首をゆっくりと左右に振って周囲を確認している仕草を見て、幼少期に見た古代に一斉を風靡したとある映画に出ていた「えーじぇんと」にそっくりで、悪役であった彼等を思い出したのだ。


 彼等はパッと見では武装等は見当たらないが、腰の辺りのちょっとした膨らみ具合から、何かしらの武器を所持していると思われる。


 まあ仮に武器を持っていたとしても探索者用宇宙服に傷を負わせられる程の性能が無いのは間違いない。


 マリも自分の宇宙服の性能くらいは知っているし、周りには甲乙丙もいる。なのでどんな武器があろうとも脅威になり得るとは思えない。


 むしろ自身が発見された上、騒がれてエリー救出に障害が出る方が余程怖い。


 ローナ達が折角ヒーローにしてくれるお膳立てをしてくれたのに、ここでもし失敗でもしたら合わせる顔がないし、妹のマキに会えるのがさらに先になってしまう。

 それだけはどうしても避けたい。


 念の為、バレた時は甲達に瞬殺させる心積もりだけはしておく。


 でも万が一、訳のわからん動きで攻撃を避けられたら……

 甲達が乗っ取られでもしたら……


 あの映画の一いち場面が脳裏を横切る……


 なのでここはコッソリと切り抜けるのが一番だ、と。


 だがそれ以外にもまだ問題が控えていた。

 アンドロイド達のそばにある転送装置だが、四つの研究エリア直通用に各一つずつ設置してあるが、どの転送装置がどの区画と繋がっているかが未だに判明していないのだ。


 まず作戦を立てる際に事前入手マップをチェックしたところ「研究エリア」には四つの区画、さらに各区画の部門の記載はあり、その区画に入る為の転送装置の設置場所までしっかりと記載されてあったのだが、「どの転送装置がどの区画に通じている」という肝心の情報が抜け落ちていたのだ。


 この問題は、情報部のその分野の専門家を交えた作戦会議の段階でも確定させる事が出来なかった事案で、当時の情報提供者の聴取の記録を確認したところ「研究員達の移動は各人の部屋にある転送装置から直接、配属先に移動しており、その者にしか利用は出来ない様に設定してあった」との事から考察するに、普段使用を想定して設置された物では無く「警備や保守関連限定、または非常時の避難等を想定して造られたものでは?」との結論に落ち着く。


 それならば逆に潜入ルートに使えるのでは?との意見が大半を締めたので、今回の最有力侵入ルートとして選ばれた。



 つまり研究エリアに入るには

 ○居住区エリア

 ○目の前にある転送装置

 のどちらかを使わなければならないのだが、どの転送装置が「生物部門」の区画に行けれるのかは使わないと分からないので、一番当たる可能性が高い「マリの直観力」での突破とすることにした。


 これは居住区エリアにある転送装置も同様で、共に確率は1/4。

 リスクを考えると出来れば一発で正解を引き当てたい。


 マリが選んだ転送装置にコッソリ向かう四人。

 だがここで突然、丙が全員を止めた。


「ん? どない……」


 と言い掛けた時、警備アンドロイドに動きがあり、転送装置に向け身構え始めた。


 直後、転送装置からライトブルーの制服らしき物を着た一人の女性が慌てた様子で飛び出して来た。

 それを一体の警備アンドロイドが体で優しく受け止める。


 あの色は確か工学部門の者が着ている制服の筈。


「一体何が起きてるの⁈」叫ぶ女性


「大した事ではありません。直ぐにご自分の部署へお戻り下さい」


 静かに返答する警備アンドロイド。


「でも中は大混乱よ⁈」

「大丈夫です。直ぐに収まります」

「え? あれだけ滅茶苦茶なのに?」


 とここで違う転送装置から新たにライトグリーンの制服を着たそこそこイケメン顔の男性が現れたかと思ったら、そのままスミス達に詰め寄り先程の女性と同じ問答を始めた。


「おい、スミス! どういうことか説明しろ!」


 その男性は大声で叫びながら詰め寄るが、返答も先程と同じで会話が成立する素振りはみられない。

 男性は終いには埒が明かないといった感じでその場から移動をしようと暴れ始めた。


 それを二人掛かりで体を張って止める警備アンドロイド。


 その様子を横目で見ながら一番近い転送装置に近付いていたマリが、ふと何かを思い出したのか男性が現れた転送装置へと向きを変えた。


「あの色は確か……」


 移動しながらもう一度男性の制服を見る。


 確か事前情報では「生物部門」の研究員が着ている色だった筈。


「こりゃ運が向いてきたかもな」


 若干ニヤケ顔になりながらガラ空きの転送装置寸前まで辿り着いたところ、突然三体のスミスが動きを止め同時に顔をマリに向けてきた。


「ヤバ! バレたか⁈ ずらかるで!」


 目が合った? 気がしたマリは三体を引き連れ光の速さで消えていった……



 転送装置から出るとステルスモードのまま近くの物陰に隠れようと周囲を見回すが、物自体が何もない部屋で仕方なしに壁際に寄ってマリを守る様に防御を固め追っ手に備える。


 だが、十秒程待っても先程の警備アンドロイド達が追って来る様子は無かった。


「さっきの反応、見つかったんとちゃうの?」


 転送装置を見ながら呟くと、乙と丙がマリから離れて転送装置の方へと歩いて行く。

 丙が転送装置に近付くと乙が先程のアンドロイド達を真似して首だけマリに向ける。

 そして丙が転送装置から離れると乙は首の向きを戻した。


「……近付くと反応する、ちゅうことでええん?」


 乙と丙が同時に頷く。


「どの辺から?」


 丙が転送装置外縁部から1m程離れた床を、感知ラインを指で示した。


「ほうほう……」


 難しい顔をし丙が指差した位置まで近付くと片足をそーと伸ばしそのラインを一瞬だけ超え直ぐに引っ込めた。


「ホレホレ」


 それを楽しそうに何度も繰り返すマリ。


「向こうじゃ首振りまくっとるんやろね。脅かしてくれた罰や~」


 途中から満面の弄り顔になっていたが直ぐに飽きて部屋の中を見回し始めた。


 そして今、やっと気が付いたのだがそこそこ広いこの部屋には引力があり、床と天井の区別がしっかりとある円形の部屋だった。


 弧を描いている壁は突起物や扉の類は全く無く、今利用してきた転送装置を中心に、囲むように計八機の転送装置があるだけで、他は何もなかった。


「何や面白みがない部屋やの~」


 ここで頭部保護シールドに出ているマップを見ると四つのブロックの内、初めに通ってきた通路から見て左奥に当たるブロックのさらに中央部に当たる区画にいることが分かった。


「生物部門はどこや?」


 声に出すとそのマップ内の下方に該当区画が強調表示される。


「よしよし、あれで正解やったね。んで、次はどの転送装置使うんや?」


 シールド越しに見えている右奥の転送装置に矢印アイコンが立った。


「あれか。ほならサッサと行くか」


 甲・乙・丙が頷く。


 が今度は転送装置が作動しなかった。


「あ、あれ〜何でやねん」


 首を傾げるマリ。


 そのマリに向かって乙が再度人差し指を顔の前で立てながら今度は指だけを軽く左右に振って見せた。


「はい? ちっと待っとれって?」


 すると乙はステルスモードを解除、さらに先程騒いでいたそこそこイケメン研究員に擬態変化をし、持っている武器はステルス化したまま腰に付けた。


「なるほど。こっから先はその格好の方が都合ええっちゅうことやな?」


 乙が頷いた。


 すると今度は転送装置が作動し四人は無事目的地へと送られた。



 転送装置を出ると今度はかなり狭い部屋へと出た。

 正面には自動ドアが一枚あるだけで他には何も無かった。


 マップによるとこの先の通路の奥が第一目的地のようだった。


 甲と乙を前方に、丙を後方に配置して自動ドアを通過、広くはないがそこそこの距離がある通路を一気に反重力シューズを使って飛び抜ける。


 直ぐに目的地への扉の前に到着。突入前にもう一度マップを確認する。


 ここで間違いない。


 ここで甲・乙・丙を前方に配置し直し、後方を確認してから自動ドアを開き飛び出した。


 扉を出ると床が無く体が宙に投げ出され、無重力状態になった。


 だが直ぐに自動制御が働き姿勢が安定する。


 下方に目をやるとかなり広いフロアをいくつかの壁で仕切り、テーマ別に研究・実験を行っている風景が目に入る。

 しかも上方にも同じ光景が広がっていた。


 今、浮かんでいる位置はちょうどフロアの中央に当たる位置で無重力区域。

 上と下に向かい合わせに研究フロアが広がっていた。


「おもろい造りやけど、何か静かすぎへん? しかもかなり散らかってるし」


 確かに見える範囲には誰もいない。それに床には椅子や機材が散乱、無重力区域には色んな物が漂っていた。


 とここで突然、甲がマリの前に背を向けて割り込んできた。


 何事かと思い甲の肩越しに覗き込むと、マリから見て下方のエリアの一画で、機材の陰に隠れる様に倒れている人が見えた。


「およよ〜? あれ、生きとるよね? 乙や、ちっと見て来てくれへん?」


 乙が頷き、その女性から五m程離れた位置に降り立つ。


 歩いて女性に近付き状態チェックをした後、マリ達に向けOKサインを送ってきた。


 そのサインを見てから乙の下へと降りて行く。


 甲と丙が周囲を警戒している中、マリは乙の隣へと行き様子を伺うと、倒れていたのは若い女性の研究員で、外見上は怪我等は見当たらず、ただ気を失っているだけに見える。


「とりあえずそこの椅子にでも寝かせんか? 乙や、頼む」


 頷く乙。


 そのままお姫様抱っこで持ち上げると女性は気が付き軽い呻き声を上げ、薄目で擬態化している乙を一瞬見るが何故か急いでまた目を瞑ってしまう。


「一体何があったんや?」


 ステルス化しているマキが乙の肩に触ることで有線状態とし、マリが話す言葉を乙を通して発声させる。


「突然……一体のスミスが暴れ出して機材を破壊し始めたのよ!」


 女性はその時の事を思い出したのか、慌てて周りをキョロキョロと確認し始めた。そして擬態化した乙しかいないのが分かると落ち着きを取り戻して話しを続けた。


「他のスミスが押さえつけようとしたら周りに被害が広がり始めて。それを見た幾人かは我先にって感じで避難を始めたから周りもそれに釣られてすぐにパニック状態になって。私も避難しようと思って立ち上がったら背後から押されて倒れた拍子に頭を打って気を失ってしまったみたい」


 頭を摩りながら教えてくれた。

 よく見るとタンコブが出来ていた。


「そうか。それは災難やったね。でもまあ大した怪我でも無さそやし一ひと安心やな。そんで一つ聞いてもええか?」

「?」

「例のお客さん、何処にいるか知らへん?」

「……誰のこと?」

「えーーと……」

「もしかして実験体の人?」


 乙の顔色を伺いながら話す女性。


「そ、そうや! それ!」

「今日はまだ見てないけど?」


 何故かホッとしたご様子。


「そ、そうか……何処にいるか知っとるけ?」

「さあ……スミス達なら知ってると思うな」

「そうなん?」

「だっていつも傍にスミスがいるじゃない」

「そう言えばそうやね……でも今はスミスとあんまり話したく無いな」

「そうよね。なら居住区の方を探してみたら?多分あっちにいるんじゃない?」

「そうやな、あんがとさん。暴れたスミスはもうおらんみたいやし、ここも心配あらへんやろ。ところで転送装置まで歩けそうか?」

「う~ん、ちょっと辛いかな」

「ほならそこまで運んでやるわ。ちょいと失礼」


 そう言うと遠慮なくお姫様抱っこで軽々と持ち上げる乙。


「キャッ!」軽い悲鳴を上げる女性

「へ? どこか痛かった?」

「ううんごめんなさい、何でもない。でも貴方、そんな話し方だった?」

「うぇ? ま、まあこれが素でな。特に美人の前だと抑えが効かんのや」

「はは、そうなんだ。知らなかった」


 何故か顔を赤らめる女性。


「一応医務に診て貰ってな」


 区画の角にある居住区行き転送装置手前で降ろして見送る。


「ありがとう」


 女性はふらつきながらも微笑み軽く手を振って消えていった。


 女性が消えたのを確認してからその場を離れる四人。


 情報は手に入ったが少し長居をしてしまったので急ぎ居住区直通への転送装置がある場所へと移動を開始する。


「知り合いやったのね。以後気ぃつけんとな」


 離れながら反省をした。



 居住区行きの転送装置はこのフロアに入ってきた自動ドアがある壁の対面の壁に同じような扉がありその先にあるようだ。


 転送装置がある壁面の下まできたところ急に体が浮き上がる。

 どうやらこの場所だけ引力は作用していないようだ。


 そのまま真っすぐ扉へと昇って行く。



 そして先程の会話の事を思い出す。


 生物部門ここがスミスによってパニックになり、あの男性が避難して来た。

 もしかしたら先程見かけた工学エリアの女性が慌てていた理由も同じかもしれない。


 だとしたら他のエリアも同じ状況かも……

 何故このタイミングで?

 居住区エリアの方はどうなってる?


「ま、行ってみれば分かることやな」


 扉を潜ると先程と同じような通路があり、その先には自動ドアがあった。


 さらにその先には転送装置がある小部屋、その先には生物区域に来る前に通過した円形部屋へと来る時に通ってきたルートと同じ部屋であった。


 マップによるとこの部屋の中央部にある転送装置が「居住区」への直通ルートらしい。


 ここで次の目的地の「居住区エリア」のマップを開いてみる。


 ここ研究エリアがあるブロックの隣が研究員などが普段生活しているブロックとなっており、その一画に「居住区エリア」がある。


 他には探索部基地と同様「娯楽エリア」や「福利サービスエリア」などがあるが、在籍している人数が桁違いに多い様なので規模や店舗数が段違いに多いようだ。


 特に居住区エリアは一番巨大でBエリア基地が丸々収まるほどの広さ。

 よく見ると保育施設やら学校まであり、ここだけで一つの町に相当する規模に思えた。


 エリーはその広大な範囲のどこかに居るはず。


 ……いるよな?いてもらわんと困る。


 でももしいなかったら……どうすっか?


 少しだけ弱気になるマリであった。

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