マリちゃん1 甲乙丙!

 ・・・・・・



 とあるドックのハッチ前に到着。手を繋ぎながらその場で動かずを立てる二艦。



 ピコ  ピコ  ピコ  ピコ



「ここで間違いないわね♪」

「そのようや」

「中に入ったら真っ先にミケちゃんにをすること」

「おう!」

「甲・乙・丙の操作は一応私がサポート面倒見てるけど、もし通信が途切れた場合は自動モードフルオートになるからね♩」

「あいよ!」

エリー目標と接触出来たら通信封鎖解除。目標を掻っ攫ったらスタコラサッサーと引き揚げておいで♪♪」

「分かっとる! そんじゃちょっくら行ってくるで~」


 マリ艦は上下開閉式のドックのハッチに張り付くと、艦の一部をハッチに捻じ込み、最小限の範囲で強引に破壊、その開いた穴に艦の外装の出口を重ねると、自艦通路内に待機させていた、ノアとミアの合作となる全身銀色の体をした三体の特製アンドロイドをドック内へと侵入させ内部の安全確認を行わせた。


 内部の確認を終え自艦内通路で待機しているマリにハンドサインにて安全な状態だと伝えると、マリは頭部保護シールドを作動させた状態でヒョコっと顔だけを出し、一応内部をキョロキョロ見回しながら恐る恐ると出ていく。


「誰も……おらへんし静かやわ~」


 ドック内は探索部基地と同じ無重力。違うのは真空で探索艦が丸々二艦分は横並びに入れるほどの正立方体型をしており想像以上に広かった。


 だが四方は真っ白な壁があるだけで補給用チューブなどの機材も見当たらず、普段は単なる倉庫として使っていて、今は一時的に艦を入れているだけの様に感じられた。


 そこに見慣れた真っ白な球体型の探索艦が1艦、他はドックのハッチとは反対側のに幾つかの転送装置が直接設置してあるだけで、人や物の出入用の扉も見当たらなかった。



 そこにマリを囲む様に集まる三体。

 このアンドロイドだがエリー救出にあたり、事前に入手した「かなり古い資料」により、警備システムとそれに連動した警邏アンドロイドの配備が判明していたので、マリの安全確保及び障害物の排除の両方を考慮した結果、ノアがBエリア基地改造で余った資材を使い欲望の赴くまま工作した特製アンドロイド「こうおつへい」の三体を作り上げ、その搭載AIに姉のミアがチョコチョコっと手を加えた物を急遽この作戦に組み込んだ。


 この三体だが、一応人型はしてはいるが体を組成しているほぼすべての物質は探索艦の外装に使われている流体物質を流用。「未来からやって来たN-2020型」の様に状況に合わせて自由自在に形状・色の変化が自由自在。

 そして他のアンドロイドとは違い内蔵の特製AIにより自立型仕様とし、基本的には彼らのマスターであるノア、又は彼女が許可した者の指示にのみ従うよう、強固なハッキング対策がしてある。


 内蔵電源は長時間の活動、瞬間的なパワーが出せるよう「単一×2の並列」とし、と比較してもかなりの高性能に設定してあった。



「そんじゃ始めっかの!」


 数日前までのマリであったなら、予想外に静まり返るドック内の状況に尻込みし、艦から出るのに軽く五分は費やしていただろう。

 だが今では警戒心はそのまま度胸だけが付いたようで然程躊躇うことなく出てこれた。


 当初予想していた「お出迎え」が全く無かったことで冷静さを失わずに済み適度な緊張感を保てていた。


 出てからそのままエリー艦ミケちゃんへと、特に急いでいるという程でもなく、だからと言って遅すぎるという程でもない速度でフワフワ〜と飛んで行くと囲む様に三体のアンドロイドが近付いてくる。


 ここで腰の小物入れから、昨夜ミアから受け取った小さな物体を取り出す。そしてミケちゃんに辿り着くと艦の外装にペタっと押し当てた。


 するとその物体は、まるで熱いフライパンの上に置いたバターが溶けるかの様に溶けて外装と混ざり合うと認識出来なくなってしまう。


「よし、これで一つ目は終了っと! さあみんな、次に進むで!」


 と声に出し奥の壁にある転送装置へと向きを変える。



 因みに今は通信類いは一切は遮断をしている。

 これはマリ達が内部に侵入している事を悟られないためにだ。


 事前に入手していた古いデータによると、研究所外部の探知システムはかなり大掛かりな物が用意してあったようだが、内部に関しては然程警戒に値するシステムは見当たらなかった。


 まあ考えてみれば全世界の情報を掌握しているレベル5の本丸でもある研究所ここに辿り着ける者は、昔も今も「整合部」を除けばいな訳だし、その整合部も上位組織からここにだけは近付かないよう言われてあった。


 ローナ達もミアが偶然見つけたから来れた訳で、一般の宇宙船もこの区域だけは辿り着けない様にプログラムされてあるので警戒するだけ無駄というもの。

 との理由からあまりセキュリティーは、特に内部に関しては力を入れてはいないと踏んでいた。


 だが万が一、微弱な電波を探知するシステムが存在していたら一発でバレてしまう。その状態でエリーを探すのは至難の技だ。


 なので念には念を入れて、と言う事で。



 マキからアンドロイド達への意志疎通手段は基本ハンドサインとしたが、頭部保護シールド越しに喋ることにより、口の動きをアンドロイド達に読み取らせることで伝えることも可能にした。

 この理由は簡単で、両手が塞がっている場合を考慮して。


 逆にアンドロイド達からマリに対してはジェスチャーのみとなる。

 これはマリ側にかなり負担となりそうだが、アンドロイドのジェスチャーに「人臭さ」を追加させる事で、マリ本人も気付いていない特殊能力お笑いスキルである「空気を読む」と「鋭い直感」により、会話を成立させる事に成功していた。


 残るはアンドロイド達とローナとの連絡手段だが、こちらは特殊な方法ではなく通常アンドロイドとAIが行うやり取りと同じ手段を採用した。これに関しては全世界共通であるシステムで、椿やレベッカが広めた技術。

 勿論ここ研究所でも同じ物が使われている。


 つまり同じ電波帯に割り込み、不自然にならない範囲で送受信を行なうこととした。


 勿論バレる可能性はあるので、その電波も読み取りは出来ない様に信号自体は高度な暗号化を施し「椿」がいない限りは解読が不可能なレベルで構築してあるので、万が一バレたとしても内容が判別出来ない。


 まあ、ここまで辿り着くのはほぼ不可能でも、情報を扱うスペシャリスト達から見れば、辿り着けさえすれば秘密の塊の研究所も結構穴だらけに見えてしまうのであった。



「さて、どれにしようか……な」


 目の前の壁には横並びで転送装置が四つ設置してあり、それを順に眺めていく。


 数秒間眺めた後「よし、こいつにすっか!」と一つの転送装置に向け声を出して近づくと同時に、周囲警戒していたアンドロイド三体も含めて四人同時に消えて行った。


 転送装置から出た先の部屋は床面から引力が発生しており、自動ドアが一つだけ、他は何もないありきたりな、面白味が全くない無機質な部屋であった。


 そこから四人がドアをくぐり抜けると、体が急に軽くなり浮き上がり始める。

 どうやらここから先はまた無重力になっているらしい。


 直ぐに簡易型反重力シューズを自動モードで作動させると姿勢制御が始まり動きが安定する。


 落ち着いたところで周りを見渡すと、横・高さ共に五m程の先が全く見えない長い直線の通路だった。

 が、その通路の造りに対し呆気に取られ思わず言葉に詰まってしまう。


「…………こりゃ一種のダンジョンやな」


 目の前の光景を見て思わず口から出た言葉。その時思った。


 ──さっきの転送装置、左にしとけば良かったか?


 どちらの通路も基地ホームの通路とは比較にならない程、壁に一点の曇りのない、さらに継ぎ目もなくどこまでも続く真っ白な空間。

 その通路に等間隔で点在する同じ扉。

 振り向くと今潜ってきた扉も造りは全く一緒。

 しかも上下左右のどの壁面にも同じ扉があるという不思議な光景。


 一応用意してきたマップをシールドに表示させているのだが、この場に限って言えば当時の配置とは明らかに異なっている。

 とは言え、見えている範囲周辺の地図との差異はリアルタイムで修正が入るので、戻りの心配はしなくていい。


 だが現時点ではマップは当てにならない。

 まだ侵入したばかりだがこの先、訳の分からないトラップもあるかもしれない。

 勿論防衛機構も警戒しなければならない。


 普通の神経の持ち主なら、この緊迫した状況に心の中の警戒レベルが上がっても良さそうなのだが、マリの場合は対人関係以外は鈍感なようで「さて……どっちから攻略すっかな~」と腕を組んで左右の通路を呑気に見回す余裕があるようだ。



 捜索に関しては事前にエリーがいるであろう区域を何か所かに絞り込んである。

 なので侵入位置から近い順に攻略していくことにした。


 一つは居住区エリア。

 もう一つは研究エリア。


 余程運が悪くない限りはそのどちらかにいる筈だ。

 因みに現在位置から近いのは研究エリア。


「悩んでてもしゃーない! 近いとこから攻めるか!」


 ハンドサインを出すと即座に前方に甲・乙の二体、後方に丙が囲むように集まるとマリの飛ぶ速度に合わせて付いて行く。


 長い通路をそこそこの時間を掛けて飛ぶがいつまで経っても代わり映えしない通路に飽きると、ふと扉の中が気になりだす。

 思い立ったら吉日と「試しに開けてみっか!」かとなり、手身近な扉へと近付いてみたのだが、ロックされているのか反応がなく、中がどうなっているのか分からず終い。


 だからと言って壊してまで開けようとも思わなかったし、無駄骨に終わった事への不満もなかった。


 開かないのは当たり前。気晴らしにもなったと前向きに思うことにした。


 ──ゲームでもストーリーに関係ない扉は開かん約束やし!


 結果として開かなかったことにより余計な時間を費やすことなく目的のエリアへ通じている大きな自動扉へと到着した。


 今、マリの前には「研究棟」への入口となる扉が行方を遮っている。

 その扉の感応外で、宙に漂いながら胡座と腕を組み考える。


 ──素直に開くのか? 合言葉が必要だったりして。


 と微妙に見当違いな事で悩んでいると「丙」がハンドサインを送ってきた。


「ん? この先に生体反応があるってか?」


 コクコクと頷く丙。

 丙は各種センサー類が多く搭載されており「目と耳」の能力が他の二体よりも数段優れている少し小柄な女性型アンドロイド。


 その彼女のセンサーが初めて反応した。


「何人くらいおる?」


 両手を広げる丙。

 つまりいっぱい、であると。


「そっか、そんなにおるんか! ん~戻るのも面倒くさいし~このまま突っ込むか?」


 三体は無反応だ。

 決断するのはマリ。

 なので返答のしようがない。


「よし、全員ステルスモードで行くで~」


 宇宙服を簡易版隠蔽迷彩モードに変更、ステルスと化す。

 それを見ていた三体も同じくステルスモードへと変化した。


 この状態では第三者から四人は全く見えないし、電磁波などでも捉える事は不可能なのだが、マリの頭部シールド内には三体の様子が把握出来る様にしっかりと処理された画像が表示されている。


 ここでローナから言われた事を思い出し、進む前に後方を確認。三体を前方に配置し直すと巨大な扉の前へ。

 すると抵抗する事なく開いた。



 扉の先は正立方体の部屋となっていた。

 向いの壁には今通り抜けた自動ドアと同じ扉が、上下左右の壁には一つずつ転送装置が設置してあった。


「誰もおらへんよ?」


 丙に問いかけると正面の扉を指差す。


「この向こうか?」


 頷く丙。


 急に悩み始めるマリ。

 マップを見るとこの部屋は古いマップと合致しており、先の区域の詳細情報が表示されていた。


 それによるとこの先は大まかに部門毎に区切られていて、その区域も研究内容によってさらに細かく区切られている様なのだが、その分け方が表示されているマップでは理解というか想像が付かなかったのだ。


 研究エリアは全体が正立方体に近い箱型。それを縦方向に十字に切り分け四つに分かれている。

 その切込み部分は今いる空間よりも広い約十m程の通路扱いとなっており、上から下まで、端から端まで他の研究部門とは一切接していない、長大な通路扱いとなっていた。


 そして長立方体へと仕切られた各部門は内部にてさらに細かく区切られている様なのだが、通路への出入用の物理的な扉の類は一つも無く、内部への出入りは直接転送装置を利用して入るしか手は無さそう。


 そして入るための装置で一番近い場所にあるのが、この先各区画を分けている通路が交わる十字通路の中心部に当たるところに設置してある転送装置。


 因みに今いる部屋にある四つの転送装置は保守関連専用と、今回の作戦に関係ない箇所ばかり。


「……選択の余地はなさそやね」


 先程と同じく三体を前面に配置し扉を潜る。するとそこは何とも形容し難い雰囲気が漂う空間であった。


 広さは通ってきた通路の倍。

 明るさは真逆でどこまでも均一で薄暗く、だからと言って奥が見通せない程ではないモノトーンの空間。

 注意してないと遠近感が麻痺しそう。


 壁は白色の無機質で、これまた一切の継ぎ目が見当たらない金属製。自ら光を発光している点は通路と同じなのだが、光量は極小に抑えられており、まるで地下で眠り続けた古代の神殿の様な有様。


 出た位置も丁度通路端に当たるようで上・左右方向には壁、正面から下方にかけては底が見えない通路が延びていた。


 ここも無重力だからよいもののその光景は奈落に見え万が一、下方から引力が発生していたらと思うとぞっとする光景であった。


 とは言っても入る時の向きが上下逆であれば見方も逆になるので通路を見上げることになり、抱いた感想も違ったものになるのだが……


 だがそんなことは全く気にする素振りすら見えないマリ。本人は気付いていないだけで、その事を教えてあげればガクブル状態になることだろう。


 現時点ではマリの性格が良い方向へと作用しているようだ。


 取り敢えずその空間で停止する四人。


 マリは丙を見て問いかける。


「人はこん中か?」


 壁を指差して聞いた。


 頷く丙。更に反対側の壁も指差して頷く。


「この壁、壊せそうか?」


 丙と甲を順に見て聞いた。

 甲は頷くが丙は首を振る。


 因みに甲は攻撃力極振り男性型アンドロイド。体格も上半身がとても逞しく設定してある。

 サングラスでもかけさせたらとても似合いそう。


「ん? どういうこっちゃ?」


 丙が壁を叩くフリをした後、ビックリして慌てるジェスチャーをした。


「あーーバレちまうっちゅーことやな?」


 頷く丙。


 そこに乙が割り込んで人差し指を顔の前で立てながら指と顔を軽く左右に振って見せた。


「なんや、甘いなって」


 言い返すマリの視線を誘導するかの如く向きを変え通路中心部方面を指差す乙。


 乙は一応中肉中背の男性型アンドロイドだがバランス重視で能力は全て平均値にしてある。


 因みにコアな設定として、三体とも怒らせるとあらゆる手段を行使して、地の果てまで追いかけて来るので注意が必要だ。


「お、そうか! あそこから行けるんやったな! スマン、忘れてたわ」


 素直に頭を下げて謝るマリ。

 それに対して頭をポリポリ搔く仕草をして同じ様に頭を下げる乙。


 再度ハンドサインで集合、目的の転送装置へとフワフワと進軍していく。


 途中で前方の二人が急停止しこちらを振り向いて「しー」の合図を送ってきた。

 危うくぶつかる寸前で丙に引っ張られる。


「ん? 誰かいるんか?」


 頷く乙。

 隣の甲が前方を指差す。

 指差す先には転送装置が有る筈なのだが暗くてまだ見えない。


 シールド内を望遠画像に切り替えると、多少暗いが警備担当と思われるアンドロイドが数体、転送装置の方を向いて浮かんでいた。


「……あいつら何しとん? 何で転送装置の方を向いとるんや?」


 同時に首を傾げる三体。


「ウチらの事、探してる訳じゃなさそやね。でもあそこにおったら邪魔でしゃあないな。さてどないすっか」


 ステルスモードは光学・電磁波などには有効なのだが、空気や液体のある場所では否応なく振動等が伝わってしまう為、発見される確率が格段に上がる。


 ──もしあいつらがそっち系のセンサーを搭載していたら……


「ま、バレたらバレたで強行突破すっか! 戻るの面倒いし」


 呆気なく作戦が決まる。


「コッソリ行くで。バレたらよろしくな!」


 三体が頷く。


 敵は三体。転送装置は四つ。

 その四つはそれぞれの研究エリアへと繋がっている筈。


 今の第一目標は研究エリア内の「生物」区画。この何処かにいると思われる。


 ただエマに比べてエリーの方は準備はかなり進んでいると思われるので、もしかしたらもう研究エリアに用事がないレベルに達しているかも知れない。

 なら残るは居住区エリアで賓客扱いで幽閉されているだろう。


「贄」としての力を得る為には「遺跡」に行かなければならないが、そこに行くには自分の「探索艦」が必要。

 ここに艦があるということはエリーはここにいることを表していた。


 なのでこの研究所の何処かにいる事は間違いない。

 あとは時間との勝負。素早い行動と決断力が求められる。


「そんじゃ行くで!」

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