第82話 アリス⁇


「「アリス⁈」」


 マキ、ランの二人には想像すらしていなかったのか、今まで見た事もないくらい目を見開いて驚いていた。

 という私はが今回の騒動に何かしら関係していると思っていたがここにいるとは思っていなかったので、少なからずの動揺が起きてしまい言葉に詰まってしまった。


「……アル、今なんて?」

「ん? ア・リ・スって言ったよ?」

「てか何でアリスがここにいんのよ!」

「さあ? ただこの感じはエリスとは違うと思うし、アリスで間違いないと思うよ? どっちにしても基地に入れば解るんだし、直接本人に問いただしたらいいんでないかい?」


 まあそうなんだけどね。

 サラは全員無事だって言ってたからローナ達と一緒にいるって思ってたけど。

 でもあの大人しそうな子が何故Aエリアここに?

 もしかして誰かに捕まって監禁されてたとか?


「……もう一人は?」

「きんし~」

「…………」


 得意の話す気ないモードかい。


 とにかく今は中に突入し二人との接触。それと基地AIへのアクセスを果たし、この状態に至った経緯を調べて主任を始め探索者仲間がどこにいるのかを調べないと!


「ゴメン、お待たせ!」


 皆を見ると大半は私を見ていたが、菜緒とノアだけは何かに集中しているようで無反応だった。


「「…………」」


 二人の様子を伺うと菜緒はノアを見つめたまま、ノアは渋面で基地の映像を見たまま瞬き以外の動きはなかった。


「菜緒姉?」

「…………」

「お・ね・え・さ・ま?」

「……え? あ、呼んだ?」


 やっと気付いてくれた。


「うん、アルと話し込んじゃってて……そっちはどしたの?」

「え? あーこちらも突入前に大事な確認をしておこうと思ってね。ちょっとノアとね」

「何を?」

「とりあえず今は最悪の状況にはならなそうなので急ぐ必要はなくなりました」

「へ? そうなの?」


 菜緒とノアを交互に見ると雰囲気が和らいだようで普段の顔付きと口調に、もう一方のノアは……誰に憚ることなく大きな欠伸あくびを一つ。


 う~ん、二人で話していたのは確実だな。ただ何を話してたんかいな?


「それではここからはエマ班と私の二班に分けます。エマ班は菜奈とクレア。……エマ、クレアは?」


 上半身を僅かに離し顔を覗くと気持ちよさそうに寝ていた。


「どうしよう……。アル、いつ頃、目を覚ます?」


 クレアの頭を撫でながら聞いてみる。


「もう少しで起きるぞ~」

「ならエマ、

「……うん、分かった」



 クレアを置いていくという選択もある。

 私はどちらかと言えば「目覚めるまではここで休ませておきたい派」で菜緒は「起こしてでも参加させたい派」。

 菜緒がクレアに期待しているのは情報部で培った「経験値」の部分だろう。

 この不測の状況にクレアの「知識」が役立つと確信し期待を寄せているのは言われなくても分かる。


「全」の為には「個」を犠牲にする。菜緒のような人の上に立つ立場の者がこのような発想になるのは当然だしサラも例外ではない。


 ただし、ここは菜緒の特徴でもあり、サラとは決定的に異なる部分で「私の意思」を尊重した上で決して「押し付け」たりせず、こちらの気持ちを汲んで自主性に任せるといった言い方に務めている点。


<クレアを連れていくか置いていくか。連れていくのなら責任をもて>


 これは常日頃から「責任を持たせる=自ら考えて判断し行動する」をモットーにしているからだろう。

 私と同じで「良い師」に恵まれたのだろう。



「わ、私もお姉様について行きます!」

「私もなの!」


 二人が声を上げる。


「ランさん、ソニアさん。貴方達は私の班ね」


 二人には毅然とした口調で言い返す。言い方は丁寧だが何処か「威圧」を感じてしまう。

 そう、有無を言わさぬ「威圧」を。


「ど、どうしてですか⁈ 私もお姉様と一緒に!」


 食い下がるラン。


「ラン! 止め!」

「え? は、はい……分かりました」


 流石はマキ。この辺りは頼りになる。しかしマキとランこの二人のやり取り……何度目?


「私の班はマキさん、ランさん、ソニアさんの四名」

「了解や!」

「了解……なの」

「……了解です」


 まあマキが上手にフォローしてくれる……筈。


「最後にノア。貴方は周囲警戒をしながら宇宙から両班のサポートを」

「……あい、よ〜」

「いざとなったら頼むわよ」

「……へいへい、っと」


 ……いざ?


「それとアリス艦の位置は?」


「……ピコピコ信号はーーここだぁーー、ぞ?」


 円陣の中央下、私の下方に基地の簡易立体図面が現れ分かり易いようにゆっくりと回転を始める。

 さらにその図面の一点に光が灯り「ピコピコ艦」との注釈アイコンが立った。


「アリス艦」ではなく「ピコピコ艦」と表示されているのは「ピコピコ信号」だけでは確定には至れないから。

 それについてはツッコミを入れる余地はない。


「OK。正体不明艦の位置は?」


 アリス艦? とは中央空間を挟んだ反対側のドックでアリス艦? と同じ様に点灯し出した。

 こちらの注釈アイコンには素直に「正体不明艦」との表示。


「二人の位置は?」

「……えーとー一人は居住区? もう一人は……基地司令室? なのかも?」


 艦とは色違いの青色で点滅を始める。

 立体図面上にそれぞれ注釈アイコンが立ち、居場所の名称が表示されていた。


「アリス艦との距離がだいぶ離れているわね……」

「居住区も指令室も中央空間を挟んだ反対側なの。逆に正体不明艦に近いかもなの」


 正体不明艦と司令室内は近いがアリス艦? と居住区はその二箇所から離れている。


「転送装置を使えば一瞬では?」

「内部の状況が分からない以上、基地の設備はあまり使いたくはない」


 それは正論。転送装置を使った先が天然温泉とかなら嬉しいが、独房だったら目も当てられない。


「問題はどっちがアリスってとこやな?」

「……菜奈っ子が中に入れれば分かる、かもかも?」


「そうか! 菜奈!」「分かった」


 指示を出す前に返事が。


「えっ? あっそう……よろしくね」


 呆気にとられる菜緒。

 流石は姉妹と思えるやり取り。


「みんなガンは持った? それじゃまずドックまで移動!」


 締めは私が! と片手を突き上げ号令を飛ばした。


 号令と共に全艦白色卵型にてアリス艦? のドックがある位置まで移動を開始。

 程なく目標に到着。アルテミス我が艦はアリス艦? が入港している隣のドックに。他はアル艦そばの空きドックから入港を試みようとそれぞれの流体ハッチに艦を潜り込ませる。

 だがアルテミス我が艦のドックだけは基地AIから「固形化命令」が出ているのか拒まれた。



 ゴンゴン……



 他の艦はスンナリ潜り込めたのにアルテミス我が艦は入れない。


「……フン小賢しい真似を! ぶっ壊してもいい?」


 菜緒に確認を取る。


『OK。その代わり内部の空気を逃がさない様に艦か質量兵器で塞いでね』

「了解!」


 艦の一部を鋭利化させ無理やりねじ込むと破損した固形化物質の破片と共に艦を強引に侵入。そのまま中を覗き見ると……


「えーと、いっぱいお出迎えがいるんですけど?」


 ドック内正面の壁際にアンドロイド達が所狭しと待ち構えていた。


『こっちにはおらへんで~』

『こっちにもいないなの』

『私の……ところも』

『流石はお姉様! アンドロイドもお姉様の魅力に引き寄せられて集まっているのでは?』

「いや~照れるな~って武装アンドロイドにモテても嬉しくもないわ~。しかも全員女だし~」


『……どれどれ。……あの程度の武器なら当たっても痛くも痒くもない、ぞ。ただあの数はちっとばかし面倒い、かも』


 アンドロイド達の武装を分析した結果、問題なしとのお墨付きを頂けた。


『運動不足にはちょうどええやろ。なんならウチも手伝ったろか?』


 お前が運動不足言うんかーーい!


『アリスさんの……位置判明。司令室……だね』

『ありがとう菜奈。ついでにもう一艦の情報も入手出来る?』

『…………拒絶された』

『えっ?』

『言いたく……ないって』

『……分かった。そちらはとりあえず放置。エマ班はアリスさんがいる司令室へ。私達は居住区に向かいます』

「そっちの班がアリスのとこに行った方が良くない?」

『これは貴方の役目。エマ、貴方が行かなければダメなの』

「でもそっちは誰だか分からないじゃない? リスクが大きくない?」

『だからこそ貴方を行かせられないの。大丈夫、その為にこちらは四人で行くんだから』

「でもでも最悪の状況でもないんなら急ぐ必要もないんだし、みんなで纏まって行動した方が良くない?」

『それも考えた。最悪の状況ではないんだけど、ちょっと厄介な状況になるかもしれない。それにさっきアルテミスが言っていた事、覚えてる?』


 クレアをチラ見する菜緒。


「…………うん」

『私が思うに、多分だけど今のアリスさんにはエマの助けが必要なんじゃないのかな?』

「私の助け?」

『そんな気がするだけ。だから直接会ってしっかりと話てきて』

「……分かった」


『こちらはなんとかするから』


 ……なんとか?


『ところでクレアは起きたの?』


 身体を離してから顔を見ると焦点の合っていない目と視線が重なる。


「今、目を覚ました」

『よし、エマ班は司令室。私の班は居住区へ。全員頭部保護シールドを作動の上、個々に突入。艦から離脱後は班ごとに速やかに指定場所に集合! 各艦AIは搭乗者バックアップ最優先!』

『『『了解!』』』

『司令室に着いたら連絡して。タイミングを合わせる』

「分かった」


 菜緒班の空間モニターが消えてゆく。


「ちょっ待って! 私、こいつらどうすればいいの⁈」

『……ガンを使うの、だ!』


 モニターを消さずに残っていたノア。椅子の上に上がってから片足を机に乗せ(ガンがくっついている)自らの腰に手を当て教えてくれた。


「え、え? 使ったことないんだけど」

『……敵に向けてひたすらトリガーを引きまくればいい、ぞ! 後はガンが勝手に補正してくれるんだ、な』


 説明途中からコックピットを無重力にしたらしく、椅子から体が浮き上がってゆく。そのまま器用に体を回転させ四方八方に打ちまくるジェスチャーを披露しながら親切丁寧に説明をしてくれた。



 ──なんかカッコいい……



『エマちゃん……移動しながら……援護するね』


 菜奈の映像が消える。


『……クレア、よ。お主の役割は接近してくる奴の排除、だぞ』

「……りょうかい」

『……エマを任せた、ぞ。あと二人は決して離れるではないぞ、よ』


 ノアの映像も消えた。ここで意識が暗いコックピットへと戻る。


「クレア大丈夫?」


 力ない空返事が気になり再度クレアを覗き見る。

 見た限りでは普段と変わりないように見える。


「まだちょっと頭がボーとする」


 軽く頭を振ってみせた。


「なら今回だけ元気が出るように~手助けしてあげる~」

「アルが? どうやって?」


「ちょいと失礼しっつれーい


 緊張感のない(アルの)声が止むと、クレアが腕からスルリと離れた。


「え? え?」


 戸惑うクレア。


「?」


 戸惑うクレアを見て私も戸惑う。


「大丈夫そうだね~」

「「?」」

「本当は規則ルール違反で怒られそうだけど~今回は特別だしね~」

「あ、アルちゃん?」

「もしかしてアルが?」

「そう、動かしてるんだよ~」

「そんなことも出来るの?」

「私とリンク出来てる人限定だけどね〜。だからエマとクレアだけ~」

「「…………」」

「因みにこんなことも出来るぞ~」


「「あ、え?」」


 周囲が桃色花畑に変わると本人二人の意志とは関係なく身体が動きだす。

 あれよあれよという間に抱き合うと熱~いキスを始めた。


「「……………………」」


 暫しの間、二人は首や体に手を回し激しくお互いを求めあう。


「しゅうりょ~」

「「ぷは~~~~」」


 やっと解放された。


「ちょ、ちょっとアル!」

「お礼ならいらないよ~」

「そうじゃなくて! せめて目くらい閉じなさいって!」

「オーしっつれーい! それは気が利かなくてゴ~メンナサイネ~」


 反省していないなコイツ。


「アルちゃん……とっても上手。お陰で目が覚めた」

「どういたしまして~」


 悔しいがそこは同意。


「因みに緊急事態でも無い限り~身体への直接介入は禁止されているので誤解なき様に~」

「緊急事態って?」

「まあ生命に危機が差し迫っている時とか? だよね~」

「……よくよく考えたら艦AIアルを乗っ取れたらおまけで私達も操れる付いてくるってことだよね?」

「難しい質問だ~ね」

「難しいって……どっち?」

「基本的には無理だね~。何故かって言えば~我々をどうにか出来るのは数人だし、その数人は我々探索艦には〜〜はおいといて〜艦経由で探索者に手を出すにはの許可が必要なんだな~」

「…………」

「まっ、それは機会があったら説明すっから、今はあいつらをどうにかしたら~? 菜奈ちゃん一人で頑張ってるぞ~」


「え? 菜奈が?」


 空間モニターにて外を確認すると、一体の武装アンドロイドが周囲のアンドロイドに対して自らのガンで攻撃を加えていた。


「菜奈ちゃんが操っているんだね~。……あ、やられちった」


 多勢に無勢、後ろから撃たれて呆気なく破壊されてしまう。だが間髪入れずに他のアンドロイドを操り攻撃を再開。


「あれも菜奈ちゃんには結構な負担になってると思うから早めに加勢してあげた方が良いんでないかい~」

「分かった! クレア行こう!」

「うん! アルちゃんよろしくね!」

「はいよ〜」


 二人は腰のお守りアイテムを手に取り通路に潜り込む。


「エマ~さっきの話~忘れるな~」


 そのまま一気に通路を進み出口手前で一旦停止。一呼吸おいてから外装に穴を開けさせるとそーと出てゆくと二、三十m先、タラップと転送装置がある奥の壁付近で戦闘をしていたアンドロイド達が射撃をやめて一斉にこちらに向き直る。

 すると菜奈が操るアンドロイドを無視する形でこちらに飛ん来るではないか。

 その「圧」から逃れようと反射的に頭を引っ込め出口を閉じさせてしまう。


「どうしたのー行かないのー」


 アルテミスの冷ややかな声。


「アレ、相手にするのってなんか怖くない?」

「うん、大丈夫かな」


「大丈夫だって! ほれ、グズグズしとらんで行ってこーーい!」


 と、コックピット方面の通路が徐々に狭まり塞がれ壁が出来上がる。その壁が寸前に迫ると出口が開かれ外へと押し出されれてしまった。


「「きゃーーーー」」


 艦から数mのところで急停止。そこでやけに周囲が暗く感じられたので視線を動かすと……


 艦の方向以外はアンドロイドと銃口だらけ。

 幼い時に世話になった擁護院のピンチを救おうと黒いサングラスと背広を着た凸凹兄弟が活躍した、あの「伝説の映画物語のクライマックス」と同じ光景シーンがそこに。


 その一体と目が合ったので、


「……えへ♡」


 と取り敢えず微笑んでみた。

 その笑みが気に入らなかったのか、百体近いアンドロイド達が一斉に撃ってきた。


「「キャーーーー!」」


 心構えが出来ていなかった二人は反応出来ずにお互い抱き合う。その間にも多種多様な種類の弾が二人に命中する……が、


「あ、あれ?」

「い、痛くない……ね」


「だ・か・ら~大丈夫だって~」


 アルテミスの呆れ声。


 そう言われれば確かに。弾は間違いなく当たってはいるが、衝撃や振動、慣性作用による姿勢制御、更には音までもを宇宙服が完璧に吸収・制御してくれていた。


「なにこれ……凄い!」

「衝撃が全くない!」


 ここでガタイの良い女性型アンドロイドが死角である後方から蹴りを入れてくる、がアンドロイドの足が千切れ部品が飛び散る。

 次は小柄なアンドロイドがもの凄い勢いで体を左右に振りながらデンプシーロールを繰り出すが、宇宙服にその両拳が触れた途端に粉々に砕け散った。


「ここまで高性能だったっけ?」

「あの武器は通常仕様の宇宙服を想定して作られた物だな~。改造前なら心を挫くくらいのダメージが通ってたかもね~」

「挫くってどれ位?」

「タンスの角に足の小指をぶつけたくらい〜」


「「うわ……」」


 二人して眉間にシワを寄せた沈痛な表情に。


「ま、まあとりあえずは感謝しとこ。あの主任に」

「そうね」

「そんじゃいくど~」

「はいよ!」


 と低い位置にて両手でガンを構え、周りのアンドロイドに向け、自身初となる射撃を始めた。



 カチカチカチカチカチカチカチカチ・・・・・・・



 今回の弾は「敵を行動不能にしたい」と念じただけなので、弾丸の種類は金属製、電磁投射タイプらしく無反動。

 ただ「撃っていますよ的」なカチカチという振動のみが指先に伝わってくるだけで音も聞こえなかった。

 重さは今は無重力空間にいるので何とも言えないが、上下左右に軽く振っても苦にならないので、1G下でもそこそこの軽さなのだろう。


 そして肝心の射撃時にはガンが対象の構造解析を自動で行い急所を瞬時に判断、銃身内部で射線を10°程度までを自動調整してくれる。

 さらに射線上に対象物が無くなると、例えトリガーを握っていたとしても自動で射撃が止まる。


 また菜奈が操っているアンドロイドが射線上に入ってしまうことがあったが、しっかりと敵味方を識別してフレンドリーファイヤーを防止してくれていた。

 弾の威力に関しても、後方や周辺設備などに被害が及ばない様に射線上に敵の数に合わせて打ち抜けるだけの力で打ち出すといった、細かい気遣いも忘れない。


「こりゃ凄いわ!」


 撃ちながら感動する。


 また天探女が手を加えた宇宙服にも目に見える改善が見られた。それは何かというと見ている光景。

 今、自分達に襲い掛かっているはこの基地所属のアンドロイド達であり、Bエリア基地と同様外見上は人と寸分変わりのない、どこにでもいるような女性の姿をしている。

 理性で分かっていても「人が撃たれた・人を撃った」を見たらトラウマとして残ってしまうかもしれない。

 その対策として着用者に「ぐろ」を見せない画像処理配慮がなされてあった。


 一方、クレアは今はサブマシンガンタイプでエマのガンと外見上は全く同じ。

 専門の訓練を受けた証として、両手でしっかりと握り肩の高さまで上げ狙いを定めながら、近付く敵の排除に専念する。しかも射撃している間も常に視線を固定せず「死角」最小限に抑えながら。

 それでも四方八方から押し寄せる敵は捌き切れない。死角から迫る敵にはガンの引き金を引いたまま銃口を向けたり、宇宙服の性能を利用して蹴り飛ばしたりと奮闘していた。

 この神がかった動きはアルテミスが補助を加えているからだろう。


 約半数を破壊し終えた頃に菜奈がドックに到着。操っているアンドロイドの脇に来るとガンで攻撃を開始する。

 奇しくも挟撃をする形となった。


 そして死闘? の末、最後の敵を撃破しアンドロイドは全滅。三人以外で動いているのは菜奈が操っているアンドロイドだけとなった。

 周りには無残な姿となっているアンドロイドの残骸が「無数」に漂う。


「やっと終わった~」


 背伸びをする。すると破片を押し除け菜奈とクレアが姿を現す。


「やっと……合流~」

「アルちゃんありがとね!」


 二人が来たところで両腕を前に掲げて、


「無事合流完了ぅ~!」

「「いえ~~い」」


 三人同時に三角ハイタッチを交わしてから三人同時にハグをし合った。


「みんなお疲れ~ここの残骸は纏めとくから先に進め~」

「よし、アルに任せた! あと指令室迄の道案内ナビもよろしく!」

「りょうか~い」

「そんじゃ指令室へ!」


 アンドロイドを先頭に通路を移動を開始。

 ここの通路は他エリアの白基調とは違い、床面はフローリング調の鏡面仕上げ。区画毎に分けられた暖色系の壁。面発光の白い天井と全体的に落ち着きがある造り。

 通路の幅も他基地の1.5倍と広い。


 そこを「飛びながら」基地AIにアクセスを試みる。だが、やはり繋がらなかった。

 菜奈にも試してもらうが不明艦の時と同様「拒否」されてしまったらしい。

 途中、清掃やメンテロボットとすれ違うが我関せずと見向きもされなかった。


 結局何も起きず五分程で司令室前に到着。

 ここで菜緒に連絡を入れる。


(こちらエマ。指令室前に無事到着)

(了解。準備運動は堪能出来た?)

(凄いわ、この宇宙服!)

(データ通りね。今度は全員分改造して貰いましょう。それと移動中は何事もなかった?)

(特に。そっちは?)

(こっちも。静かすぎて怖いくらいね)

(ノアの方は?)

(…………)

(ノア?)

(…………お、お~エマか? オハヨ~さん、かな?)

(……もしかして寝てた?)

(……そ、そんなことは……ない、ぞ~?)

(対象の位置は変わりない?)

(……ない、っす)

(では同時突入ということで)

(そっちはどうやって進入するの?)

(ここは客室で逃げ道が無い袋小路。そんな場所で待つのは余程の自信があるか余程の間抜けか。前者なりトラップの類を考慮し扉を破壊する。それならトラップも関係ないでしょ?)


(そ、そう?)


 扉のトラップと言えば「落ち」が定番。

 上から「落ちる」か下に「落ちる」か。


(全員準備はいい?)


 エマ班はエマを、菜緒班は菜緒を見て全員無言で頷く。


(ノアの方は?)

(……着々と進行、中〜)

(?)

(良し。では……突入)


 菜緒の合図で一斉に動く。



 ソニアのハンドガンから扉に向けかなりの低速で黒弾が飛び出す。

 その弾が扉のど真ん中に当たると爆発が起き、黒煙と共に扉の破片が四人を襲う。

 反射的に腕で頭部に飛んできた破片を凌ぐ。


「良し、突入!」


 間髪入れず菜緒を先頭にガンを構えながら部屋に進入していく。

 この部屋は来客用でかなり広い。

 とはいえ応接室と寝室、更にはシャワー室&トイレしかない。


 入ると灯りは消えており真っ暗。ただ廊下から差し込む光で煙が室内に充満しているのが見てとれた。

 ただその煙も「中和」が進んでおり、みるみる視界が開けていく。


「誰も……いない?」

「確かにおらんな。奥か?」


 煙が充満しているので光学迷彩は考慮しなくていい。

 頭部保護シールドの「モード」を切り替えたお陰で暗闇でも見通せている。

 この部屋にはソファーとテーブルくらいしか置いてはいないので誰もいないのは一目瞭然。


 残るは隣の寝室。

 位置情報でこの客室にいるのは調べがついている。

 だが客室はプライベート空間。どちらの部屋にいるかは入ってみないと分からない。


「おい! お前らノックって言葉知ってるか⁈」


 隣の部屋に移動を開始しようと目を向けた時、前触れもなく寝室の扉が開く。

 今いる部屋同様、灯りが消えた寝室。そこから不機嫌そうな女性の声が聞こえてきた。


 徐々に浮かびあがるシルエット。

 紫色の探索者用宇宙服を着た女性が一人、静寂に支配されている部屋に向け、ゆっくりと足音を立てながら現れた。


 煙の「中和」が終わると天井が徐々に明るくなっていく。すると相手の容姿が見えてきた。


 身長は菜緒とほぼ同じが気持ち低い。

 探索者用宇宙服の下は菜緒やマキレベルのないすばでぃー。加えて妖艶な雰囲気も。

 その顔が見えたところで……四人が言葉を失った。


「全く、扉ぶっ壊しやがって!」 


 不機嫌な言葉とは裏腹な不敵な笑みを浮かる女性。

 片や唖然とする四人。


「あなた……やはり……生きていたのね……」


 初めに菜緒が口を開いた。


「ん? お前誰だ? 「贄」じゃねーのか?」


 立ち止まりその場から菜緒の顔をジロジロ見てくる。


「……なんだ、俺と同じかよ……こっちはハズレか……ちっ」


 吐き捨てるように言う。

 その言葉を聞いた菜緒の顔が強張る。


 菜緒とは違い未だ動揺が収まらないマキ達三人。

 菜緒のように事前に情報を与えられなかったが為に、素直に疑問を口にした。


「な、なんでがここにおんのや⁈」


 マキの発言に反応を示す女性。


「…………お前クレアを知ってんのか?」


 笑みが一瞬で真顔へと変わる。


「あれはクレアではない」


 女性から目を逸らさず小声で答える。


「……へ?」

「ど、どういうことですか?」

「ち、違うなの?」


 三人は銃口はそのまま、菜緒を見る。


「おい! クレアはどこにいるんだ!」


 女性がマキに向け一歩を踏み出す。



「あれは……多分レイア。……クレアの姉よ」




 ・・・・・・




「よし、行くよ!」


 扉が開くとアンドロイドを先頭に司令室の中へ。Bエリア基地の倍ほどの広さと倍以上のシートの数。


 今入ってきた扉は指令室後方の扉で正面には巨大な壁面モニターとその壁面に沿う形で各班長や職員が作業を行う為の席が所狭しと並べてあった。

 その空間の中央付近には基地主任専用の席がありかなり大きめで豪華そうな椅子がこちらに背を向けておいてあった。


 壁面モニターは稼働中で宇宙の様子や基地内部の様子、さらにはエマ達や菜緒達全員の様子が映し出されていた。


 ここまでは予想していた範囲。

 問題はどこにアリスがいるか。

 今のところ見える範囲にアリスはいない。


 アンドロイドを先頭に警戒しながら進むと主任席が軋み音を立てて僅かに動く。


 その音に身体が反応。全ての銃口が椅子に向く。


「アリスよね? そこにいるのは?」


 返事はなかった。だが僅かな間をおきゆっくりと椅子が回転を始める。


「「「!」」」


 回転が終わったその時、座っていたその者を見て三人が固まる。



 そこにはアリスではなく、椿が座っていたのだ……

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