第68話 悪巧み発進! ナマケモノ?

 ・・・・・・



 ……Bエリア基地内のとある秘密の部屋……


「「……ふ、ふ、ふ、ふ……完成、だ!」」


 暗い部屋で背中合わせに座り何かの作業をしていた二人だが、突然怪しい笑い声を漏らすと立ち上がり片手を突き上げ叫んだ。


「先生方、完成デスカ?」

「「……おう! 出来た、ぜ〜」」

「オメデトウゴザイマスデス! トコロデ何ガ完成シタノデス?」

「……新作、だ!」

「シ、新作デスカ? ドンナ凶悪兵器デス?」

「……アシ2号、や。お主は何を言っておるの、だ?」

「違ウノデスカ? 1号、貴方ハ分カリマス?」

「分カリマセンデス」

「……何、と……二人とも分からない、の?」

「「ハイ」」

「……そんな事ではお主らは(アシスタントを)クビにしないと、な〜?」

「「ソ、ソレハゴ勘弁ヲ〜」」

「……と、お遊びはこれくらいにして、出来たのは次回作、かも?」

「次回作……副業ノ方デスネ?」

「「……おう!」」

「オメデトウゴザイマス。コンナ短時間デ流石デス。デモ我々ハオ声ガ掛カッテオリマセンガ?」

「……今回はの方、だぞ」

「……読者サービス、かもかも」

「アー趣味デ書カレテイル方デスネ?」

「「……そうだ、よ~ん」」

「ソレデ悪巧ミノ準備ハ終ワッテイルノデスカ?」

「……おう、もう二手・三手先まで打ちまくってある、ぜ~」

「……完璧だ、ぞ~い!」


「「いえ~い」」


 同時に立ち上がりハイタッチ。そのまま横並びで腕を組んで華麗なダンス? を舞い始める。

 これまた息がぴったりで寸分変わらない動き。

 それに併せて怪しい色のスポットライトと奇妙な音楽が流れ始めた。


「オ? ソ、ソレハモシヤチョー伝説ノ「サソワレタオドリ」デスネ?」

「……おう! さ~すが~だの~やはりアシはお主達でないと務まらん、の~」

「ハ、ハァ」

「因みに赤い帽子のお姉ちゃんバージョン、だ~」


 大きく足を上げ爽快なステップで元気よく豪快に踊る。とても楽しそうに。

 踊りのキレから察するに二人とも見た目に反して運動神経はかなり良さそう。


 一曲踊り終えてからシャワールームに向かい宇宙服に着替えてから誰もいない待機室へ。

 そこでお互い向き合う。


「……さて、では行くとしますか、ね」

「……ワイズには伝えてある、の?」

「……協力してくれるそう、だ」

「……ならばここでお別れだ、ね」

「……後は手筈通り、に」

「……今度会うの、は?」

「……全員揃った、時!」

「……そっちは頼んだ、よ!」

「……そっちも頼んだ、ぜ!」


 最後のハグをしてから一緒に転送装置へと向かった。

 それぞれのドックに着くとそのまま飛んで一気に艦へと乗り込む。

 ドックから出た二人は基地から少し離れた区域まで移動、漆黒の円錐型となり別々の方向へと向かって行った。




 ・・・・・・




 先日の菜奈艦と同じく横並びでアルテミスを見上げて立っている菜緒、菜奈、エマ、そしてクレア。


「これがアルテミス……」


 ポツリと菜緒が呟く。

 そう、これがアルテミス。ただ外見もそして中身も菜緒の艦と全くの同一。なので「何を思って」の発言かは本人にしか分からない。


「はい、初めまして菜緒さんと菜奈さん」


 アルテミス陽気な女性の声が静かなドック内に響き渡る。


「いえいえ、こちらこそ初めまして。昨日はここを守っていただきありがとうございました」


 アルテミスAI相手に対し律儀に頭を下げる菜緒。


「私は命令でですから」

「そうですか。ところでエマさん、アルテミスはうちの子達とだいぶ仕様が違うようですね」


 アルテミスから目を逸らさずに聞いてくる。


「お! 今の会話だけで分かっちゃう? 凄いわ!」

「はい……いえ、そもそも艦AIに名前というか個性がある時点で……おかしいと思いますよね?」


 探索艦には最先端のAIが積まれている。探索者なら誰でも知っていることで「個性」を与えるメリットが思い浮かばない。

 エマ達Bエリアの探索者もそこには同意見だし、疑問を抱かれるのは事前に予想していた。

 なのでBエリア仲間内では「他エリアに赴く際には出来るだけ会話には注意を払うように」とバレないよう周知徹底していた。

 今回も細心の注意を払っていたし、アルテミスとの会話には特に目立つ様なアナは無かったと思っていたが……


「……流石ね。ご明察の通り。どこで気付いたの?」

「昨日の襲来時にというサラ主任の命令を拒絶した時です」


「きょ、拒絶? アルが? サラの命令を?」


 サラには絶対服従のアルテミスが?


「はい。例え今現在はエマさんがBエリアマスターであっても、あの時点ではBエリアマスターは不在、我がCエリアマスターも不在で代行のサラ主任だけしかいない状態。つまり規程によりあの場ではアルテミスは命令に従うはずでした」


「全くその通りだわ」


 あんにゃろー。AIのクセに油断しやがって。


「サラ主任はその事には全く触れず、と言い換えたところでやっと了承したのですが、このやり取りは通常では有り得ませんよね?」

「そうね」

「サラ主任はAIが故障なり不具合を起こしているなら気付く筈だし、そのまま放置しておくはずがない。ならばAIの改変を誰かがした、さらにその改変事実をサラ主任は知っていた、と考えるのが自然です。そしてそれが出来る人物がBエリアにはいる」


「……菜緒、あなた凄いわー」


 考察には素直に関心。それよりアルテミスがサラの命令を拒否した方に興味を惹かれる。


「もしかして……ミアノアあの子達の仕業ですか?」

「正解」

「やはり。ところであの子達はどんな改造を?」

「人格を設定した与えたみたい」

「人格? どんな利点メリットが有りましたか?」

「特にないかな~。気さくに話せる相手が増えたくらいかね」


「話し相手を増やすだけならこんな危ない橋を渡るような真似はしないしサラ主任が元に戻す筈……何かが……」


 目線を下げ考え込んでしまう。


「え~と……あ、菜緒と菜奈って言うか、Cエリアのみんなに先に謝っとかないと! ラーたんがご迷惑をお掛けしてごめんなさい‼︎」

「はい? 何の事でしょうか?」

「聞くより見てもらった方が分かり易いかな。菜緒、ラーたんとサラが話しているところの記録見れる?」


「は、はい。少々お待ちを」


 と空間モニターを呼び出す。

 モニターを皆して脇から覗き込む。



『サラちゃ〜ん……お仕置きってなーにー? エマちゃんにー何ーかーしたーのーかーなー?』



 その発言後、皆が一斉に倒れた。


「なっ……何⁈ これ……」


 菜緒菜奈は刮目したまま固まってしまう。

 当然だが映像には殺気やオーラは映っていない。その代わり水面に雫が落ちた時に波紋が広がるように、ラーナの周りの者が順番に倒れていくのが見て取れた。


「ごめんなさい!」


 間髪入れず九十度、腰を曲げ頭を下げ謝罪する。


「殺気はラーたんのせいなのよ」

「し、知らなかった……」

「本人には悪気はないんだけど、私かエリ姉の事になると見境がなくなっちゃってね。立場が立場なだけに私達姉妹かローナくらいしか止められないんだわさ」


「止めるには苦労するけどね」と愚痴りながら頭をポリポリ搔く。


「二面性ではなく三面だったとは……でもこれはこれで良い情報を得ました」


 思案顔でモニターを見ている菜緒。


「そう言って貰えると助かるかも……あ、あれ? ここちょっと拡大してくれる?」


 モニターのある部分を指さす。


「はい? え~とここですか?」


 指定した箇所を拡大。


「そう……え? こ、これってシェリー⁈」

「はいBエリアそちらのシェリーさんです。ギリギリのところで駆けつけてくれまして。大活躍されましたよ」


 こちらを横目で見ながら教えてくれた。


「へーーって、あ! 倒れた……ってことはシェリーも医務室に?」

「はい」

「因みにシェリーは一人で来たの?」

「はい」

「そう……そうなんだ……」


 一人で……か。


「あ、そのシェリーさんなんだけどエマに用事があるみたいだったよ?」

「私に? 何で?」

「なんか凄い剣幕というか怒ってる風? だったけど」


「……怒られるようなことはした覚えがないんですぅけどぉー」


 アヒル口で膨れる。


 早く見つけてあげれなかったから怒ってるのかな〜

 いや〜シェリーはそんなんで怒るようなタマじゃないし〜

 大体、あたしゃあの子が怒ったとこ見たことないし〜沸点がどの辺りにあるのかも知らんわな〜


 それよりシェリーはどうして艦が動けるようになったんだろう……

 気合い? 根性? 努力?……あの子ならあり得そう。

 シェリーの艦がラーナと同様の状態だった場合、自由に動かすには基地か本部で調整を受けないと無理っぽかった。


 ではどうやって……私じゃないし……サラ?

 ん? ワイズの時はサラが動ける様にしたんだっけ? その時に見つけて動けるようにしてあげた?

 という事はあの子もサラの駒?

 だとしても自由に操れない筈。それはサラ自らが言っていた。

 なら何処でメンテナンス受けたの?


 ……ま、会えば分かるか! 怒っているシェリーもちょっと見てみたいし!


「あ、それともう一艦現れたんですよ。……見ます?」

「見せて見せて」

「はい……どうぞ」


 今度は代理管理権限を利用して当時の記録映像を呼び出す。


 お、お〜? 器用な動きだわ。でもこれ何処かで……


「…………これ……この動き、多分だわ」

「ランちゃんのお姉さん?」

「うんそう。こんな芸当出来るのリンしかいないわ。Bエリア新人教育担当として断言できる」

「確かに常人には無理な動きです。でもどうやったらこんな動き出来るんですか?」

リンあの子は理論的に考えるのが苦手なタイプでね、感覚っていうか感性で生きてるってゆーか、分かり易く言えば「考」より「感」のタイプ」

「「「…………」」」

「普通、艦を動かす時は私達みたいに「艦任せ」というか、艦が私たちの意志・思考を汲み取って動いてくれてるじゃない? でもあの子の場合、艦の色んなセンサーや情報を頭のチップを通して自らとリンクさせて「一体」となって操っているんだわさ」


「でもそんな事したら脳というか心が持ちませんよね」


 リンの真似はある程度までは誰でも出来る。艦に制御を委ねているのだから。

 だがリンの動きは常軌を逸した動き。速度もそうだが初めから迷路の答えを知っているかのような一切無駄の無い動き。


「普通はね〜でもあの子にはそれが出来ちゃうんだ」

「凄いですね」

「はは、調整にはミアも手、貸してたからね」


「「…………」」


 菜緒菜奈が顔を見合わせる。


「でもね~あの子の扱い〜大変なんだ」

「何が大変なの?」

「う~ん……掴みどころがないっていうか……一言で言えばちょー気分屋さん」

「え? な、なにそれ」

「気がのらない時は樹懶ナマケモノ以下、でもスイッチが入ったらチョー無敵」

「無敵⁈ あのラーナさんよりも強いの?」

「え? あ、そっち系では無くて危機回避能力?」

「へ?」

「クレアなら分かるかな? 脱衣所でラーたんがワイズを捕まえられなかったでしょ?」

「ええ、あれは凄かった」

「あの状態のワイズでもリンには指一本触れられないかもね」


「…………」


 口を開けたまま固まる。


「まるで予知能力でもあるみたいな動き。でもまぁ、リンは基本放置。あの子の場合、私が色々考えてもしょうがないし」

「そうなの?」

「うん、だって一部の言う事しか聞かないもん!」

「一部の人って?」

「ランとサラと……あとはローナくらいかな」

「ラーナさんの言う事も聞かないの? もしかして相当な我儘?」

「あ、ごめん、勘違いしないでね。話はちゃんと聞いてくれるし一応、物事の分別はちゃんとつくから」

「そうなんだ」

「あ……ランがのは間違いじゃ無かったんだ!」

「?」

「いやね、ランが「リンが移動してるかも」って言ってたんよ。どうやらこれはリンで間違いなさそだね」

「探索者ってそんなことも分かるの?」

「分かり易い言い方だと気配? みたいなもんかね」


「エマさん、後でBエリアの探索者の皆さんの事、色々教えて頂けませんか?」


 真面目な顔で菜緒が割り込んできた。


「ん? いいけど。どしたの急に?」

「いえ、Bエリアの皆様に少々興味が湧いたもので」

「ブッとんでるところに?」

「それも含めて」

「はははは、そこは否定しないのね! そんな奇譚きたんない性格の菜緒も好きよ! 分かった! 後でね」

「え? い、いや好きって……オホン! その時に少々個人的にお願いしたいことがあります」


 僅かに顔を赤らめ取り乱したが直ぐに立て直す。そして黙ったまま真っすぐな眼差しを向けてきた。


「……いいよ。分かった」



 ──何か人には聞かれたくないことがあるのかな?



 一瞬間が空いてしまったが頷いて了承する。

 それと、ブッとんでるのはローナ姉妹とミア姉妹、シェリー、リンくらいであとはみんな普通だよ?


「さて、乗り込みましょうかね! アル?」

「四人様、ご案内~」


 ドック中央部で浮いているアルテミスの外装に入口が開く。


「クレアは飛べる?」

「あ、ラーナさんに借りた靴だった……」

「じゃ、久しぶりに一緒に行こ!」


 と言って手を差し出す。

 その手を躊躇ためらいもなく握る。


「じゃあ私は……こっち」


 と空いている方の手を菜奈に握られる。


「じゃ、じゃあ私はここ!」


 菜緒が余所見しながら菜奈の空いている手を握った。ちょっと恥ずかしそうに。


「フフ、よし、みんな手を繋いだね? それじゃ久しぶりに言ってみるか! みんな一緒に……」


「「「3」」」


「「「2」」」


「「「1」」」


「「「GO」」」

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