第64話 お約束事! 失踪?


 二人は普段着である学生服に着替え、手を繋ぎながらトテトテと駐機場へと向かう。

 周囲は既に真っ暗で万遍の星空を伴った夜のとばりが下りていた。

 周囲は点々と道に沿って灯っている明かりと蛍に似た昆虫が通路脇の植栽スペースで飛び回っているだけでほぼ真っ暗状態。

 さらに聞こえるのは波の音と自分達の足音くらい。


 その中を二人は手を繋ぎながらマイペースで「トテトテ」と歩く。その姿はあの伝説の「初めてのお使い」で目にした光景そのもの。

 今のこの二人をエマが見たら「可愛いーーーー!!」とか言ってお持ち帰りするだろう。

 クレアならば鼻血出して卒倒してしまうレベル。


 無事寄り道することなく駐機場へと辿り着いた。

 だがそこには白色球体型の「アシ2号」の姿しかなく「アシ1号」の姿はどこにもなかった。


「……ミア、よ。アシ1号はどこ、なの?」

「……ちゃんとおる、よ」


 そう言うと更に奥へと歩みを進めた。


「……ま、まさか⁈ まだアレをやるの、か⁈」


 お約束の劇画調タッチで驚くノア。


「……ふぉ、ふぉ、ふぉ……「ふぇ~~どい~~ん」とな」


 アシ2号の先、何も無い場所でミアは両手を真っ直ぐ横に広げて叫ぶ。

 するとミアがいる場所から十m程先、そして地面から五m程の高さの「何も無い空間」に菱形の光の面が浮かび上がる。そしてその面から眩い光がミアに浴びせられた。

 その途端、ミアの体がフワッと浮き上がると菱形の面へと移動してゆき、最後は面に飲み込まれてしまう。

 完全に体が消えると光は消え、何も無い空間へと戻った。


 その光景を眺めていたノアは普段顔に戻し一言、

「……ねーちゃんも好きよ、の〜」

 と。


 これは機嫌が良い時の搭乗方法。勿論ノアギャラリーがいる時にしかやらない。


「……お主はやらんの、か?」


 聞いていたらしく消えた場所からヒョコっと頭だけを出した。首から下が見えないのは隠蔽中の艦の中に納まっているから。


「……もう卒業したぞ、っと」

「……つまらんの、じゃじゃじゃじゃ……」


 とほっぺを膨らませ不貞腐れた表情に。その顔で今度は前後上下左右にと起用に頭を動かし遊び始めた。

 首が宙を舞う。はたから見ればとても不気味な光景。

 そんな子供心を忘れない姉を見てノアは思った。


「こんなに派手に光らせて目立つ事したら隠蔽迷彩しとる意味なくねーー」と。


 だが姉も自分同様「お約束」をとても大事にしている。なので野暮なツッコミを入れてはいけない。

 ただそろそろ卒業してもらわないとこちらが疲れる。なので一言だけ言っておく。


「……いじけたぞ、っと」


 すると不貞腐れた顔が元通りに。


「……ま、いいか。余り時間はないよ、ね。さっさと行く、よ?」

「……はい、よ〜」


「恒例行事」が済んだところでノアも自艦に乗り込む。

 二艦は状態そのまま静かに、に基地に帰っていった。


 余談だがミアが滞在していた記録は一切残らない様、細工してあるし、誰も覗けないよう万全な対策をミア自身が講じておいた。




 ・・・・・・




「こ、これは……なんや」

「す、すごい数の残骸……」

「…………」


 跳躍を終えて通常空間に戻った三艦は調査艦の残骸の真っ只中にいた。

 周辺は自分達が跳躍してきた通ってきた部分がトンネル状に空洞になっている以外、全方位似たような光景で、センサーを介さなければ完全な暗闇状態。


 後で知ることになるのだが、到着宙域はちょうどシェリーが最高潮に暴れまわっていた激戦区。

 数万隻の残骸に囲まれていたら基地どころか自分達の正確な位置すら把握出来ない。

 ならばと各種電磁波での観測しようと試みたがも乱反射して使い物にならなかった。


『お……来た……もう戦闘……終わった……とり……こい』


 途切れ途切れの通常通信が届く。

 声の主はサラ。連絡が入ったという事は、向こうはこちらが来たことと、おおまかな位置は把握出来ている証。

 だからこそこの状況でも電波が届いたのだろう。


 情報連結に用いられる通信手段電波は数種類の各種電磁波や素粒子を同時使用で行っており、例え間に惑星や恒星、隕石などの障害物があったとしてもこの距離であれば何れかの手段で連絡が取れる。だが今回は周りに漂っている調査艦のが邪魔をしている為に、情報連結どころかまともに会話も成り立ちそうにない。

 ならば残骸から抜け出れば良い。唯一の解決手段である「移動」を開始した。


 周辺の残骸を気にせずに基地がある方へ、白色卵型にて移動を始める。

 すると反重力炉から漏れる重力震の影響で周りの残骸が波が引くように離れていく。

 とはいえ進行方向の残骸は影響を受ける前に接触するので押し退ける形となってしまう。


 先が見通せないのでゆっくりと移動すること約一分。残骸の量が減り始め、徐々に視界が開けてきた。

 それに伴い情報連結が行われるようになると膨大な量の情報が舞い込んできた。


「ろ、六万……やて」

「そ、そんな……全部……調査艦……なんで?」

「でもみんなは無事みたいね~」


「あ、あの金色に輝く球体は……何?」


 情報が入ってきたと同時に、自らの存在感を示すように全く動かずにいる金色に輝く巨大な球体もモニターに映し出された。

 クレアの言葉に反応したのか注釈アイコンが立つ。

 そのアイコンは初めは空欄だったが、すぐに「サラに見捨てられた整合部の偵察艦。搭乗員は兎……かも?」

 と追加された。


 …………ウサギ? ×4。




 マキ艦内での会話……


「いったいこれはどういうこっちゃ? どうやら戦いは終わっとるようやけど……ハナちゃん分かるか?」

「分からへん。見渡す限り調査艦の残骸ばかりや」

「しかしなして調査艦が敵やねん?」

「敵ゆうか、敵となっとる奴に操られとる考えるのが適当ちゃう?」

「何のために?」

「それは分からん。ただ普通に考えたら調査艦が探索部の基地、襲う意味ないやろ? そやからここに用事がある奴に利用されたと考えるのが妥当やない?」

「しかしこの数相手に……よう勝てたよな」

「えーーと……どうやらシェリーの独壇場だったみたいやな」

「うぉ? シェリー来たのか? それなら納得や……っていつ⁈」

「……結構ギリギリのタイミングらしくシャーリーとソニアちゅう姉ちゃんが袋叩きにあっとるところに颯爽と現れたらしい」

「……なるほど。シャーリーを袋叩きか……そりゃシェリー、キレるわな。シェリーアイツは昔からシャーリーにちょっかい出そうとした奴に片っ端から制裁加えとったし」

「まあそんなこったで最終的には圧勝」

「そうか……シェリー帰ってきたんか……」

「……マリはどこでなにしとるんやろ」

「ホンマ何しとんのやろ……」



 ラン艦内での会話……


「これはどういう事なの⁈」

「お、お嬢様、落ち着いて下さい!」

「お姉様が消えたって! 落ち着いていられるわけないでしょ!」


 四人の中でランが真っ先にエマの情報を見つけた。


「お、お嬢様、アルテミスがあそこにいる以上、エマ様が単独で宇宙に出る可能性はございません。必ずどこかにいらっしゃる筈です! 今基地内部を徹底的に調べておりますのでもう少々お待ちを!」

「最優先! 何としても見つけ出すのよ!」

「りょ、了解でございます!!」

「しかし……何か嫌な予感というか危機感を感じるわね……」

「危機感……でございますか?」

「ええ……お姉様というよりも、私への危機感を」

「……はい?」



 ラーナ艦内での様子……


「え? エマがいない⁈」

「…………(サラちゃんが代理?)」


 基地を目視可能な距離までやってくると白い光が見えてきた。

 そこでアイコンが立ったことにより、光の正体が無人状態のアルテミスだと知る。

 それを知ったクレアは(情報連結により得た情報から)エマ関連を選別して探し始める。

 すると失踪扱いロスト」となっていた。

 つまりは行方不明。

 慌てて基地内を探すクレア。


「エマは……どこ?」


「奈菜」という探索者と移動していたところまでは「位置情報」に記録されていたが、主任の部屋に入ったところで

 あり得ない情報に戸惑いが増してゆく。


 一方のラーナは対照的に落ち着いて情報を精査していたが、危うさを感じさせるクレアの姿を見て、それらを一旦止めてまで落ち着かせる方を優先した。


「クレアちゃ~ん、大丈夫よ~」

「え?」


「ね~サ〜ラちゃ~ん」


 行動を共にしていた自分が言っても納得しないだろう。なので効きめが高いであろう相手を呼び出す。


『ああ、ちゃんと中にいる』


 まるで聞いていたかのようなタイミングでの返事。それと何故だか音声のみの返答。


「ね? サラちゃん~私達も入って~いいかな~」

『呼び出しておいて追い返す訳ないだろう。三人共遠慮せず入ってこい』

「りょうか~い」『『了解』』



 ドックへと向かう途中、アルテミスの傍を通る。

 こんな時はモニターに艦の搭乗者が映るものだが、今回は艦名アイコンが立つだけで背景と化していた。

 全方位モニターに映るアルテミスが前方から後方へと流れてゆく。その巨大な姿をクレアは体を傾けてまで追い続ける。

 クレアのそんな姿を眺めていたラーナが話しかけてきた。


「クレアちゃん。さっきの話はみんなには内緒ね~。特にエマちゃんにはね~」

「……はい」

「ここでお姉さんからのアドバイス~。今後は~立場とかは~気にしなくていいから~心の赴くままに~進みなさ~い」

「……はい」


 静かに頷く。

 頷く姿を見てから視線を基地へと向けた。





 ラーナを先頭に貴賓室に入ると、サラと探索者用宇宙服を着た小柄な少女が笑顔で雑談していた。


「お、やっと来たな?」

「主任~初勝利おめでと~」


 緊張感など微塵も感じさせないサラの表情。

 勝利後というのもあるだろうが、二人は親しい間柄で会話を楽しんでいる風に皆の目には見えた。


 因みにラーナとクレアはこの少女の名前を知っている。特にラーナは二人の間柄まで知っている。だが深い事情から紹介されるまで、二人は知らない素振りを続ける。


「ああ、シェリーのおかげで事なきを得た」

「それで~奴らの目的は~」

「間違いなくエマだろう」

「そう~」


 サラが言わんとしていることがラーナに通じたらしく、力ない笑顔に変わってしまう。


「まあ座ってくれ」


 言われたので近寄るとソニアが気を聞かせてサラから離れた位置に移動してくれた。


「では~遠慮なく~」


 サラは上座の一人掛けのソファーに。左右の長ソファーにはラーナ・ソニアとマキ・クレア・ランが横並びで座った。


「……で~シェリーちゃんは~?」

「今はシャーリーと一緒にいる。後ほここで話を聞くことになっている」

「私もそれに~同席してもいい~?」

「ああ。とも話を詰めておかないとな」

「らっきぃ~~♡」


「主任! エマはどこに?」


 クレアは声を上げて立ち上がりここぞとばかりにサラに詰め寄る。


「そう目くじら立てなくても大丈夫だ。現在、身体の調だ」

「ちょ、調……整……?」

「ああ……ってクレア⁉︎ 何故お前がここにいるんだ⁈」

「え? ……エマが心配でついてきたのですが?」


「んーーーー悩みの種がもう一つ増えた……」


 何故か頭を抱えて項垂れてしまう。


「「「?」」」


 サラの反応に戸惑う一同。


「どうしたの~サラちゃん~。トイレにでも~行きたくなったの~かな~?」

「それは間に合っている。さてどうしたものか……」


「主任。ちっとええ?」

「……今度はマキか。なんだ?」

「ここで何が起きたん?」

「調査艦に襲われた」

「それは知っとる!」


「そうです! なんで調査艦に襲われたんですか? しかもお姉様が目的だと!」


 様子を伺っていたランもチャンスとばかりに立って詰め寄る。


「そうなの! 考えてみたら何故調査艦に襲われないといけないなの? しかもエマ姉様が目的って?  …………お姉様?」


 ソニアも立ち上がり追従した……が寸前に耳にした「お姉様」との単語が引っ掛かったのか、刺すような目つきでランを睨む。するとランも同じ目つきでソニアを睨んでいた。

 普段の二人からは想像もつかない鋭い目つき。


「今、エマ姉様と? ……あなたは何者ですか?」

「私はソニア! エマ姉様をお姉様呼ばわりする貴方こそ誰なの?」

「私? 私はラン。お姉様に身も心も捧げると誓った女よ」

「ぬ、ぬー! わ、私だってエマ姉様の隣りを闘って勝ち取ったなの!」


 気持ち上から目線のランとその態度にイラつくソニア。サラ達を無視して睨み合いバトルを始めてしまう。


「で、なんでや?」


 威圧すら感じない同レベルの睨み合い。そんな二人をほっといて話しを続ける。


「以前、エマの立ち位置を説明したのは覚えているな?」

「え? ああ。思いに応えるっつーやつ?」

「そうだ、それを利用しようとしている奴らがいる」

「利用……なんちゅー奴らや……」

「そう、ふざけた奴らだ。しかもエマの意思など意に介そうともしない」

「……? エリーもか?」

「そうだ。エリーは既に奴らの手の内だろう」


「誰? そんな酷いことする奴は!」


 珍しくマキが憤慨エキサイトしている。


「今回、奴自身が調査艦を引き連れてきたが、ギリギリのところでシェリー達に救われた」

? シェリー以外もおったん?」

「ああ」


 と言ってサラは後を追って行った不明艦の件を説明する。

 この不明艦については今のところは秘匿事項になっている為、情報連結には載せていない。


「なんや……凄い腕前やわ」


 当時の映像を見てマキが驚嘆の声を漏らす。


「そうね~」


 のぞき見していたラーナも同意する。


「も、もしや……マリちゃう?」


「「いやいや、それはない!」」


 サラとラーナが珍しくハモりながらの即否定。


「な、なんで?」

「言っては悪いがマリは至って普通というか平均的な女だ。分かりやすく言えばお前と同レベル」

「そ、そうけ~?」

「一部を除いて皆同じ~。でも~ここでマリちゃんの名前が出てくるってことは~マキちゃんは~マリちゃんに会いたいってことなのかしらね~」


「そ、そないなことない!」


 顔を真っ赤にして否定する。


「フッ」「うふふ」


「な、なんや二人とも!」


 みずかから墓穴を掘ってしまったことに気付いて気まずくなってしまう。



 ガシッ!



 オチが付いたところで何かがぶつかる音が聞こえた。

 四人が音がした方を見ると、ランとソニアが涙を流しながら熱いハグをしていた。


「な、なんや……こいつら」


 近寄りがたい雰囲気を感じた四人は二人をジト目で眺めるのであった……

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