第62話 姉妹×2! クレアの目的?
一刻も早く姉の姿をこの目で確かめようと、規定ギリギリの速度でドックへ戻ったシャーリー。
そして出口となる外装に穴が開くと同時に飛びだし無我夢中で待機室へと向かった。
──もうすぐ会える!
自分が使った転送装置を見ながら乱れた呼吸と鼓動を落ち着かせようと一回だけ大きく深呼吸。
と息を吐き終えたところで誰かが前触れもなく現れた。
予想外の速さに息を吸うのも忘れ……るが現れたのがソニアと分かるとガチガチに固まっていた肩の力が抜けてしまった。
Bエリアでは一応常識人の範疇で収まっているシャーリーは普段から言動には注意を払っている。また万が一、誤解を与える言動としたらすぐに気付くし素直に謝罪も出来る。
だが今回は「そどころではない」ようで、誰にでも一目で分かるくらいの「落胆の表情」をソニアに向けるという失態に気付けなかった。
片や僅か十八歳で『空気の読める』ソニアはその様子を「察して」見て見ぬフリを決め込む。さらに確かめておきたかったので、敢えてシャーリーの隣へ行きそっと手を握る。すると「期待通り」に握り返してきたのでその場に留まった。
と今度はソニア登場とは全く異なる張り詰めた「空気」が転送装置から。ソニアもこの「空気」を感じ取れたらしく二人の視線が装置に固定される。
そして準備が整ったとばかりに真っ赤な、いやシャーリーよりもより一層深紅に見える宇宙服を着たシェリーが颯爽と現れた。
丁度九十度横に体を向けた状態で現れたシェリー。
サラサラとした金髪、顔はシャーリーと似ているが全体的に若干大人びている。
身長と体格はほぼ同じ。だが胸だけは気持ち大きく筋肉質の体型。
そして上品さと力強さ、そして品性を感じさせる振る舞い。一挙手一投足がまるで計算されているかの如く優雅で惚れ惚れする洗練された動き。
極め付けは知る人ぞ知る、何事にも動じない鋼の精神の持ち主。王者に相応しい風格。
この「王者の風格」は本人の性格は言うまでもないが日頃からの鍛錬のお陰。常に妹の模範たろうと一切の妥協を許さず、常に研鑽を積み重ねてきた結果なのだ。
同じく気品を感じる菜緒とは全く異なるタイプ。
「お姉様‼︎」
声をかける。すると顔がゆっくりとこちらに向けられる。
二人の視線が重なった瞬間、どこからともなく風が吹きシェリーの金髪がキラキラとなびいた。
その体勢のままで見つめ合う二人。
先に我慢の限界を迎えたシャーリーが目を潤ませながら姉目指して駆け出す。
シェリーは両手を広げて迎入れた。
……お姉様……お姉様……
姉の首に手を回し涙を堪えながら小さな声で何度も、何度も呟く。
そんな妹を慈愛に満ちた笑みで優しく抱きしめる姉。
そしてシェリーも妹にだけ聞こえる声でそっと耳元で囁く。
……遅くなってごめんね……
今までにない優しい声。
その言葉を聞き耐えきれなくなったのか声を張り上げ泣き出してしまう。
その光景を見守っていたソニアも貰い泣きする。
すると周囲からすすり泣きが聞こえてきた。
見ればいつの間にか艦に避難していたCエリアの面々が背後におり、同じく貰い泣きをしていた。
ふと待機室内に誰かの足音が響き渡る。
皆が足音の主に目を向けると、そこにいたのはサラと菜緒だった。
シェリーも気が付きサラを見る。だが一目見ただけでシャーリーに向き直り抱きしめることに専念してしまう。
その仕草からシェリーの意図を察したサラは再び転送装置へと踵を返した。
突然Uターンしたサラを慌てて付いて行く菜緒。だが転送装置手前で突然立ち止まったサラにぶつかりそうになる。
実はこの時、サラとシェリーは会話をしていたのだ。
(急いでいないのならここで休んでいったらどうだ?)
(……ではお言葉に甘えて。主任のご予定は?)
(あと最低十時間はここにいる)
(承知。ご厚意に感謝を)
(貴賓室で待っている)
(では後ほど)
「全員、被害状況の確認と事後処理作業に移る。菜緒の指示に従うように」
振り向かずに周りの者に声を掛け、全員に退室を促す。
「「「了解」」」
空気を読めるCエリアの面々。一斉に返事をするとその場を足早に去っていく。
「ソニア、ついてこい」
「は、はいなの」
涙を拭きながらサラの傍へ。
「主任、別行動してもよろしいでしょうか?」
「ああ、なにかあったら呼んでくれ」
「ありがとうございます」
菜緒からの「利いた提案」に許可を出す。
菜緒は頭を下げてから職員に駆け寄り何かを話しながら一緒に行ってしまった。
その後にサラ達も部屋から移動していく。
皆のお陰で待機室には二人だけとなった……
基地は現在、先の戦闘で傷ついた外装の修理を行う「自動修復システム」を一時停止していた。
理由は単純で「調査艦の残骸」が想定以上に飛来しており、危なっかしくて
宇宙空間では飛び散った破片は何かに邪魔をされない限り初速を維持し続ける厄介物。
これはかつて人類の生活の場が地球内であった頃に問題となった「スペースデブリ」と考え方は同じで、よく見かける光景。
ただ今回のゴミはそれらとは比べられない程に厄介で、防御対策を施さないと修復ロボット程度では米粒大の破片でも簡単に機能停止してしまのだ。
一番効率的な防衛対策は探索艦を盾として用いる……のが最善なのだが絶対数が足りていない。
ご存じの通りCエリアの艦は全て動けない。
残るはBとDの四艦のみ。だが動かせるのはアルテミス一艦のみ。そのアルテミスはサラの命令により「(基地に損害を与えそうな)大きな破片」は弾いてくれるが小さな破片までは対応していない。
そして他の三
皆で話し合った結果、到着予定の物資が届けば外装の交換と改造をするんだしそれまでは現状維持に。基地内部には被害は出ていないし、その内探索艦も動かせるようになるでしょうと。
結果、放置と決まったので「自動修復システム」を停止させた。
そうなると班長達は手持無沙汰に。
自エリアの艦は参戦しておらず損害は無し。艦内備蓄品もそうだが燃料となる物質も減っていない。
さらに戦ってくれた探索艦の燃料も僅かしか減っておらず一瞬で補給は終了している。
よって班長らは通常の……襲撃前の休日体制へと戻った。
そして艦を動かせない探索者達。やれることといったら訓練くらいだがそもそも今日は休日。戦ってくれた仲間の慰労を兼ねて宴会でも……と思ったが、そんな雰囲気でもない。
ということで宴会は後ほどとし大人しく休日タイムへと戻った。
残るは菜緒だがサラと別れた後に班長らを招集。報告を聞いた後に受け取った計画表を皆で目を通した後に一通りの指示を出して解散とした。
急ぎの要件を片付けると、待機室に姿を見せなかった菜奈の位置を確認。すると「お仕置き部屋」の前にいた。どうやら一人膝を抱えて座っているらしい。
姉として反省しつつ急ぎ奈菜の下へ。一番近い転送装置から出ると奈菜の姿が見えたが……様子がおかしい。
いつもなら近づく前にこちらに気付き何かしらのリアクションを起こしているのだが……
なのでわざと足音を立てながら近づき、様子を伺いながら呼びかけた。
「菜奈?」
「…………」
返事がない、というか反応がない。
目線を同じにしようとしゃがみ、菜奈の肩を小さく揺すりながら再度呼び掛けた。そこでやっと顔を上げこちらを見てくれた。
良く見ると……泣いている。とても悲しそうに。
「どうしたの? どこか怪我でもしたの?」
膝立ちにて顔を覗き込む。
「うんん……なんでもない」
言い終えるとまた顔を伏せてしまう。
こんなに悲しそうな菜奈は初めて見た。
ここまで感情を
どうしたらいいの……そんな思いが一瞬沸き起こるが同時に「ある人物が言った言葉」を思い出す。
すると肩から頭へと自然に手が動き、奈菜を優しく撫で始めた。
「……菜奈、覚えてる? ちゃんと
「……うん」
「それで何で泣いてるの?」
「寂しい……」
「寂しいの?」
「うん……エマちゃんが……いないと」
「……そう」
「ほぼ」だったのが今ではハッキリと妹の気持ちが理解出来る。
それと同時に寂しいとか嬉しいとか嫉妬とか、いろんな感情が沸き起こる。
──あの人は私の悩みをいとも簡単に……
「エマさんのこと……好き?」
「多分……好き」
再度顔を上げて答える。
「そう……一緒にいたい?」
「……うん」
様々な葛藤がこの瞬間の、今の菜奈の顔を見れたことにより綺麗に氷解してゆく。
そして少しだけ肩の荷が下りた……気がした。
「分かった! 後で主任達にお願いしよう!」
「……何を?」
頭を撫でながら「秘密♡」と言って先に立つと、撫でていた手を妹に手を差し出す。
妹はその手を数秒眺めてから掴んで立ち上がる。
「でもその前にごはん食べに行こ! 私、お腹空いちゃった!」
「でも……まだエマちゃんが」
「開くまでまだ時間はあるしそれまでに戻ればいいじゃん! 今は私と付き合う、ね?」
「……うん」
「よし決まり! ごはんの後は久しぶりに一緒にお風呂に入ろ! 今日はとことん付き合ってもらうから!」
と有無を言わせず菜奈の手を引き移動していった。
・・・・・・
「調査艦相手なら大丈夫ですよね?」
クレア用の宇宙服は基地かアルテミスにしか置いていない。取りに寄るもなかったので持ってきた下着と訓練で着ていた服に着替えた。
探索者用宇宙服は完全受注生産。データーさえあれば作れるが、作るには専用設備が必要。その設備が置かれているのは探索部の各基地か本部。
そのクレアの隣ではラーナが真っ黒な宇宙服を着ている最中だった。
「分からない。Cエリアの探索者とエマちゃんとシャーリーちゃん合わせて十六人も揃っているにも拘らず我々を呼ぶ。そこが分からないの。だから想定外の事が起きているのかも」
「……想定外」
「ただ想定外であったとしてもサラちゃんを始めあの子達もいるし……私達が到着するまでは持たせられると思う」
表情と口調は先程までのラーナとは明らかに違っていた。
現在、ラーナはCエリアに向け跳躍中。
認識は出来ないが傍には同じく跳躍中のマキ艦とラン艦がおり、ラーナと同じく着替えの真っ最中。
「向こうの状況を心配するより、今は着いた後を想定しておいた方がいいわね」
「……そうですね」
こんな時でも落ち着いているラーナ。逆に心配顔で俯き加減のクレア。
着替え終えるとシートとテーブルが現れたのでそこに座る。二人が着席すると満たされた状態のコーヒーカップが二個、茶請けと共に小さなテーブルへと舞い降りてくる。
「……二人きりだし丁度いいかな。クレアちゃんに色々と尋ねておきたいの。答えられる範囲でいいから教えてくれる?」
コーヒーカップを持ち傾けてゆっくりと中の液体を回す。そのコーヒーを見つめながらクレアに問いかける。
「え? あ、はい」
「エマちゃんから今の状況はどこまで聞いてるかな?」
「そんなには……何か話したくないみたいで」
「じゃあ私と姉さんのことは?」
「……エマは尊敬してる、と」
「うふふ。ではクレアちゃんはエマちゃんをどう思ってる?」
「……大切な人です」
「どのくらい?」
「え?」
「
「…………」
口を開きかけるが言葉は出てこない。
「なら貴方の上司から私と姉さんの件は
「…………」
今度は唇まで閉じてしまう。
「じゃあCエリア主任は? サラちゃんは?」
矢継ぎ早に質問してくる。
「……経歴、でしょうか?」
「
「……『判断し、協力せよ』と」
「
「…………」
「…………」
「…………」
「貴方は
「……分かりません」
「そう……私達は探索者として決めたわ」
「それは……見れば分かります」
「主任は分からない……かな。あの人はサラちゃんしか見ていないから……」
カップを見ながら「はぁ」と小さなため息を一つ。その様子を見たクレアはラーナの心情を察してか口元が緩む。
「でもね、私達がエマちゃんやエリーちゃんの悲しむところが見たくないのと同じで、サラちゃんが泣くようなことはしないと思う」
「……はい」
「だから主任も私達と同じ思いじゃない……のかな?」
「わ、私は……」
何かを言おうとするが言葉に出来ずに俯いてしまう。
「貴方はエマちゃんが泣くところが見たいの?」
「……いいえ」
「エマちゃんはエリーちゃんや仲間がいなくなって……自分の置かれている状況の深刻さを知って……どん底まで落ちたのに何とかここまで……みんなのおかげで戻ることが出来たの」
「…………」
「もしここで貴方がエマちゃんの期待を裏切るようなことをしたら……あの子はもう二度と笑顔を見せなくなる……そうなったら私も姉さんも……絶対にあなたを許さない」
クレアの意志次第では今後は「敵」にもなりうると。
「でもどうするかを決めるのはエマちゃんとエリーちゃん。とても辛い選択を迫られる時がくるかも知れない。貴方が最後までエマちゃんのそばにいる選択をするのであれば、その時は
ラーナはコーヒーを飲み干す。
冷めて苦味だけが際立ったらしく、見ずにソーサーにカップを置く。
暫しの沈黙のあと、突然ラーナが口を開く。
「……あなた達の出会いは偶然ではないって言ったわよね?」
「……あれはどういう意味なんですか?」
上から各星系宛に送られてきた指令では「対象が来た場合は……」と記載されていた。
なので偶然かと思っていたのだが……
「貴方達は運命の巡り合わせなんかではなく、予め組まれていた出会い」
「貴方のお姉さんがもし亡くなっていなければ……あなた達姉妹は間違いなく探索者となりBエリアに配属となっていた」
「一人残され、候補生育成課程から去るあなたを
「エマちゃん達も……貴方達も……そして
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