第61話 イヤー! 奴と奴!


 ・・・・・・



『「任務完了、これから帰投する」と連絡が入りました!』

「了解した。他に何か言っていなかったか?」

『いいえ……聞いてみますか?』

「いやいい」


 主任執務室で基地改造作業進捗率を確かめていたところに、Bエリアに伝令に向かわせた探索者から報告があったと、班長からの報告。

 そして報告内容から最悪の事態にはなっていないようだと安堵した。



 ここに至る経緯だが、基地医務室で経過観察中療養中だったソフィアがソニアから繋がりリンクを使った連絡を受け取り上司であるハンク自分へと伝わった。

 敵の戦力、そしてCエリアの現状を知り、急ぎソフィア経由でソニアに指示を出す。


 〈Bにはこちらから使い出すので援護に戻れ〉


 さらに探索者の一人を「指名」し伝令役としてBエリアへと向かわせた。


 これにより現在ペアが揃っている探索者は二組のみ。そうたったの二組しか残っていない。

 本来であれば五組十人揃っている。だが今は訳あって三人が出張中なのだ。


 一人目はサラに同行しているソニア。

 ソフィアの艦を修理するのに時間が掛かる。ならその間はサラに同行させて経験を積ませるのも良いかと思い許可を出した。勿論情報収集も兼ねて。


 揉めることなく送り出した後、ソフィア艦の修理を本部に相談したところ……難色を示された。

 まあ向こうの言い分は良く分かる。なにせ探索部規定を逸脱した依頼なのだ。


 規定では大規模に修理を行う場合、主任自らが基地に赴いて説明するという決まりがある。

 だが昨今の情勢から短時間であろうと基地から離れる状況では無くなった。

 さらにソニアとの「連絡手段として艦AIを残しておきたい」から無い状態で修理して欲しいなど、自分でも無茶なお願いをしていると思った。


 最終的には本部が折れてくれて、技術者を派遣した上でここで最終調整をしてくれることで落ち着いた。

 その結果、通常よりも多く時間を要するとのことで二人目が本部で待機する羽目となった。


 そして想定外の三人目。短時間とは言え基地を離れられては防衛に難が生じる。

 だからといって仲間の危機は見過ごせなかった。


 結果、自由に動けるのは二組のみ。

 防衛を考えれば待機二名を加えて計六人しかいない。



 コンコンコン。



 扉がノックされる。


「入れ」

「「「失礼します」」」


 見れば待機の探索者達だった。


「「「主任! 私達は本当に救援に向かわなくていいんですか⁈」」」


 入ってくるなり執務机ハンクに詰め寄る六人の若い探索者。


「何度も言うが出撃は許可できん!」


 椅子を回転させ、探索者達に背を向けながら答える。


「何故ですか? ソニアが戦っているんですよ!」


 さらに詰め寄る探索者達。


「まだ基地ここの準備が整っていない!」

「準備、ですか?」

「そうだ! Cの次はここかもしれん! 準備が終わるまで待つんだ!」

「でも……」

「今は耐えろ! あいつらなら……サラ達ならきっと乗り越える! あいつらを信じて待つんだ!」


「「「は、はい!」」」


 戸惑いながらも執務室を後にする探索者達。


「……ふぅ」


 大きく息を吐きながら机に向き直る。



 ──こんな顔、部下には見せられん。



 常に冷静であろうと努めているが……反省しながら眉間辺りを指で解す。


 本音は救援に向かわせたいが、行かせた後に自基地ここが襲われた場合、残した戦力で太刀打ちできるか微妙なところ。

 最悪不利な状況に陥った場合、Dエリア基地を放棄しBエリアなりに全員を待避させるという話はついているが、それを行うと敵戦力を一箇所に集めてしまうことに。

 それに敵は調査艦だけとは限らない。我々に対抗しうる艦は他にもあるのだ。


 だが基地や探索艦の改造が済めば、ある程度までの数的不利な状況には対抗出来るようになり、戦術的敗北の確率も格段に下がるだろう。


 今回ソニアからの報告は端的に、

「Cエリアが調査艦の大軍に襲われている。現在Bエリアに救援要請に向かっている」

 との内容だった。



 ──サラはBエリア待機組を選んだ。我々ではなく。総合的に判断した結果だろう。



 ソニアに指示してから数十分が経過しているが、その後の連絡もないし、こちらからも敢えてしてはいない。

 そんな余裕は無いだろうし、連絡を取ったことにより気が散り、致命的なミスに繋がるかもしれない。


 寧ろ気掛かりだったのはBエリア。だがBエリアには敵が来ていなかった。

 だから待つしかない。

 ただいずれどこかで決断しなければならない時が来るかもしれない。



 一方、探索者達はこの上司に絶大なる信用を寄せていた。

 自分達と同じで救援に行かせたいという気持ちが充分にあることも、ハンクの立場さえも理解している。

 だからこそこれ以上自分達が我がままを言ってはいけないし、主任を困らせるようなことはすべきでは無いと肌で感じて引き下がった。


 そして今の自分達には何が出来るのかを考える。

 自分達に出来るのは艦を操ることだけ……


 皆はハンクからいつ指示がきてもいいよう、待機室で待つことにした。



 ・・・・・・



 ……すまんの〜サラは不器用での……


 誰かが私の頭を撫でている。



 ……サラは一人で背負いすぎなのじゃ……


 誰かが私の顔を撫でている。



 ……もう少しで終わりじゃて……


 誰かが私の丘を撫で回している。



 へ?


 そこで目が覚めた。

 少しだけ気分がいい。


 ボヤけて見える天井や壁は真っ白。ここは紅茶を飲んでいた部屋だと思う。

 私はその部屋に置かれていたベッドに寝ているみたい。

 このベットって見た目に反して寝心地がいい。


 視界も思考もハッキリしない「夢見心地」の中、下半身に圧迫感を感じたので下方に意識を向ける。すると視界の片隅で何かがモソモソと動いていた。

 シルエットから想像するに女性が私の腰辺りに跨り、両手で私の丘を撫でているようだった。


「おや起きてしまったか? 悪いがもう少しだけ寝とってな」


 何故だか思考が働かない。


「は……い……」

「いい子じゃて……」


 その者は丘だけでなく身体の隅々を一心不乱に撫で続ける。

 その間も他人事のような夢見心地の状態が続いた。


 目が覚めてから10分程経過。一通り撫で終えた頃、徐々に視界と全身の感覚と思考と活動を始めた。



 ──……ハ! な、何?



 突然夢見心地気分から現実へと引き戻されると、モゾモゾと動いていた「誰か」がくっきりと視界に映り込む。その誰かに視線を向けると……なんとそこにいたのは「素っ裸」の天探女あめのさぐめであった。

 私の腰の上に跨り、私の身体を丁寧に、丹念に撫でていた者の正体は天探女だった。

 しかもほんのりと赤らめた顔は真剣そのもので全身汗を掻きながら無心にまさぐっているではないか。


 そこで妙な違和感を感じて顔を上げる。

 すると二十三年連れ添った、見慣れた「丘」が目に入った。


「え? あ、あれ? あ……イヤーーーー‼︎」


 主任と同じく全裸に気付くと反射的に主任を全力で突き飛ばす。



 ──あ、あれ? 今何か手に違和感が……



 偉大な山脈付近を押したのだが予想に反した感触'.'? のお陰で一気に冷静に。

 付き飛ばされた天探女はベットの上で見事な後転一回を披露しながら吹っ飛ばされあられもない姿でノビてしまう。


「ななな、何これーー‼︎」


 毛布を手繰り寄せて体を隠す。


「い、痛いの〜」


 主任は上半身を起こし軽く頭を振る。

 その時に後頭部で纏めていた髪が解けて汗を掻いている身体に纏わりついた。


「もう覚めてしまったか。まあ良いか……「事」は済んだしの」

「ここここ事は済んだって⁈ なにが⁈」


 不穏な単語に思わず下半身……とシーツを確かめたが特に変わったところは無かったので天探女に視線を戻すと、彼女は膝立ちになりこれ見よがしと一切隠さずにこちらを見ていた。


 サラと同じく理想の顔立ち。標高までもが同じの偉大な山脈。腹筋はないが細く引き締まったくびれ。小ぶりな臀部と程よい肉付きの脚。

 さらに汗をかいた身体に長い髪が纏わりついて妖艶に見えてくる。

 そんな色気ムンムン状態を直視しずらくなり目を背けてしまう。

 すると「待ってました」と言わんばかりに天探女は指を鳴らすと、私の身体がその音に反応したのか態勢そのまま体が動かなくなってしまう。


 四つん這いで近付く天探女が身体に触れると硬直が解ける。そのまま崩れ落ちようとしたところを天探女が抱きかかえられる。

 彼女は優しくゆっくりと寝かせてから毛布を掛けてくれた。



「まだたっぷりと時間は残っておる。次は一時ひとときの良い夢を見るのじゃ……」



 言い終えると私の顔に手がかざされる。すると独りでに瞼が閉じられた……




 ・・・・・・




 アルテミスの傍に現れた隠蔽迷彩状態の艦は、密集状態にて進軍を続ける調査艦の隙間を「艦を変形させながら」擦り抜けると、敵最後尾にいる白色球体型の所属不明艦へと迫っていく。

 片や所属不明艦はこの宙域に現れた時から1mmも動いておらず、さらに迫りくる艦に気付いた様子はなく白色球体のまま静観していた。

 そしてそのままこのままでは接触は免れないと誰もがそう思った瞬間、突然漆黒の円錐型へと形を変えるとどこかへと跳躍してしまった。


 目標? を失った艦は所属不明艦がいたその場で急停止すると周囲を探す……素振りも見せずに漆黒の円錐型へと形状変化し何処かへと跳躍した。


 その様子を指令室のミニターにて無言で眺めていたサラと菜緒。

 二艦が消え去るとサラは腕を組み僅かな時間、考察する。



「奴」は接近中の隠蔽迷彩艦にどうやって気がついたのか?

 単なる偶然? それとも何か他の要因か?

 もしや近くに賛同者が? いやそれはない……と思いたい。


 ただ一つだけ分かった。

 後を追った? 艦の「搭乗者が誰か」だけは……





 シェリーの猛攻撃を受けていた調査艦群。その猛攻の甲斐もあって広範囲の散開に成功していた。

 ここまで散らばれば集団殲滅戦法は使えず個別撃破へ切り替えるしかない。

 なので殲滅される前に数で押し切ろうとシェリーを無視した個別接近を始めた。

 この行動は調査艦搭載の艦AIの判断だが、この事態も予め設定していたらしく、全艦一斉に最終目標基地に向け突撃していた。


 そして散り散りになった敵艦の後を追いかけまわすシェリー。

 彼女も分かっているからこそ、手早く一艦ずつ確実に仕留めにかかっている。


 この先討ち漏らして基地に侵入でもされると、調査艦内部で待機していると思われる多数の敵アンドロイドに基地が蹂躙されてしまう。

 その場合、基地内戦力だけで迎え討たなければならない。


 サラの予想では敵艦の構造の都合上、一艦分だけなら手持ちのアンドロイド達で迎撃可能だとは思うが、ニ艦以上侵入された場合は保たないと考えていた。

 その場合は散開される前に侵入エリアを敵ごとアルテミスに破壊して貰うくらいしか手はない。

 そうなったらBエリア基地と似たような惨状に陥ってしまうだろう。


 この時期にそれは致命傷になりかねない。

 エマが閉じ込められた状況では逃げの一手も取れない。

 なので宇宙で敵殲滅を絶対に為さなければならないのだ。



「シャーリーとソニアは付かず離れずの距離でお互いをカバーしながら基地に近い奴から片付けろ!  質量兵器はお前達の直衛に回せ! 一万を切ったら散会して迎撃! とにかく止まらずに動き回るんだ!」

『『了解』』


「アルテミスは質量兵器で迎撃。漏れた奴はお前自身で潰せ!」

『了解』


 敵との基地から約五万㎞。爆発の光の大きさが目視でもくっきりと見える距離での「押しつ押されつ」の攻防が続いている。

 三艦しかいない探索艦が敵を押し留めていられるのは基地の大きさが原因。

 目標の大きさは直径1㎞。いくら広範囲に散開しても最終的には再集結することになる。

 それが嫌なら基地の反対側に回り込み全方位から襲うしかないが迂回にも時間がかかる。

 ならば数に任せて押し切るしかないが、集まればシェリーの餌食になるし、後ろに控えている二人にも狙われ易くなる。



 因みに現在の防衛ラインは、

 <最前ライン:シェリー> 絶好調高速直角ターンで速度を緩めることなく敵艦を粉砕。


 <中盤ライン:シャーリー&ソニア> シェリーの猛攻から逃れた敵艦を二人掛かりで分担して刈り取る。


 <最終ライン:アルテミス> 運よく逃れた艦を質量兵器で潰していく。さらに基地に損害を与えそうな飛来物(調査艦の破片)を艦本体を使って弾く。



 破壊された調査艦の大小の破片がようやく基地外壁に降り注ぎだした。

 その音と振動が基地中心部付近にある司令室にまで伝わってくる。

 見れば調査艦の前部と思われる破片の幾つかは外壁に突き刺さっていたが貫通するような事態には至ってはいなかった。



 それから約10分後。膨大な数の残骸だけが漂っていた。

 今、この宙域で動けるのは探索艦四艦のみ。



『はぁはぁ……お、終わった……なの?』

『はぁはぁ……六万を……何とかね……やったね‼︎』

「二人ともお疲れ様。そのまま基地に戻りなさい」

『は、はいお姉様!』『了解なの!』


 停止している二艦の間をシェリーがゆっくりとすり抜ける。二人に対しモニター越しに笑みを送りながら。

 その微笑ましい様子を見ていたサラが割り込む。


「シェリーすまん。助かった」


 モニターでは疲労の色が見られないシェリー。映っている表情は普段と変わらずのお澄まし顔。


『いえ、これくらいの事は造作もなきこと。ただ……あそこで動かずにいる趣味の悪い色の艦は?』


 整合部の艦を言っている。シェリーは敢えて整合部の艦が映っているモニターを見ず、こちらを見て話す。


「趣味の悪い? ……あれは放置でいい。そのうち勝手に帰る」


『承知しました。主任、少々込み入ったお話があります。そちらに伺っても?』

「私も聞きたい事がある。遠慮せずに入ってこい」

『了解』


 シェリーのモニターが消えた。


「シャーリー達もごくろう。戻ってくるんだ」

『『了解!』』

「ソニア、ハンクにも連絡しておいてくれ」

『了解なの! Bエリアは……いいの?』

「ああ、構わない。もう直ぐ到着だ」

『はいなの!』


「アルテミス、すまんがもう暫く警戒に当たってくれ」

『了解』


「菜緒、全員に終わったと伝えてくれ。あと被害状況の確認と事後処理も頼む」

「はい! 主任もお疲れ様でした!」

「ああ……」


 敵の残骸が映っているモニターを見ながら愛想笑いをした。



 菜緒は指示された作業を終えてからサラに疑問をぶつけた。


「またここに来ますかね?」

「多分……暫くは……来ないだろう。今回奴が来た理由は……それはいい」


 奥歯に物の挟まったような言い方。


「来るなら次はDか……直接Bか……いや、エマの結果次第では暫くは大人しくしていると思う」



 ──大人しく?



「……しかし調査艦を乗っ取るって、相手は何者なんですか?」

「その気になれば探索艦すら乗っ取れる。そんな存在だ」


 抽象的な物言い。機密に当たるのかもしれないが、質問自体は拒否していない。なのでもう少し踏み込んでみる。


「主任は先程エマさんが目的と言われていましたが、探索艦すら乗っ取りが可能なら自ら乗り込んで来た方が確実ではありません?」

「……警戒しているんだろう」

「警戒……ですか?」

「ああ」

「何に警戒? 基地……基地AIを乗っ取れば我々の無力化なんて赤子の手を捻るよりも簡単ですよね?」

「この世に乗っ取り出来る奴が一人だけならな何の躊躇いもなくそうするだろう」

「…………」

「だがそう簡単ではない。でもう一人、に対抗出来るがいる」

「誰ですか?」

奴で現在、行方知れずの奴だ」

「良く知っている…………あっあの子?」

「所在が分からないからこそ、近づかずに様子を伺っていたんだ。もしかしたら「あいつがここにいるかも」ってな」

「成程。行方不明が逆に抑止力になっているんですね」

「ああ。初めに待機探索者を全員「飛ばして」しまったことが「奴」にとって大誤算になっているが、我々にとっては良い時間稼ぎになっている」

「時間稼ぎ、ですか? 何に対する?」

「もうすぐ分かる」

「は、はあ」

「しかし今回は少し焦った。エマの状態にていよいよ消耗戦になるのかと心配したところにアイツらまで現れた」

「……整合部ですね?」

「そうだ。全く目障りで仕方ない」

「整合部は何をしにここへ来たのでしょう?」

「高みの見物だな」

「はい? どういう意味ですか?」

「まあ整合部は放置でいい。あいつらはその内、身動きが取れなくなって勝手に自滅する、いやもう手遅れかもしれない」

「自滅……ですか」


「我々は仲間の事だけを考えていればいい。力はあるのに手伝う気もない様な奴らの面倒まで見てられるか」


 吐き捨てる様に言う。


「……サラ主任、仲間である我々に手伝えることがあるのでしたら遠慮なく仰って下さい」

「ありがとう。今は大丈夫だ。それより菜緒、ここを頼むぞ」

「はい」

「明日以降届く物資を使って基地と探索艦の改造を進める様に。私なりに考えたプランを天探女アメに渡してあるが、一応お前にも渡しておく。その改造を終えれば基地防衛に関しては今回程度の敵ならば問題なく撃退可能になる」

「先日の連絡艦の件ですね? 分かりました。到着次第直ぐに取り掛かります」

「頼むぞ。それと今後エマが困っている時はあいつの手助けをしてやってくれ。私も常にエマのそばにいてやれるとは限らない」

「エマさんは何やら特別な事情があるみたいですね……了解しました。私も菜奈も協力を約束します」

「ああ。お前の様に冷静に一歩引いたところから物事を見れる奴がエマの傍にはいない。ウチの奴らは一人を除き感情を優先してしまう奴ばかりなので困る」


「それは自業自得では?」


 選んだのはエリアマスター。つまりサラ自身。


「フッ……お前も言うようになったな」

「誉め言葉と取っておきます。それで一人は分かるとしてラーナさんは?」

「アイツもエマ絡みになると見境が無くなり手が付けられなくなってしまう」

「え? そうなんですか? そういうタイプには見えませんでしたが」

「そうだろう? それより菜緒お前も成長したな。ここでの様子からローナと天探女アメを学べたようだな」

「その言い方、喜んでいいのか複雑なところですね。あ、そうではなくて、そんな、あの二人の足元にも及びませんよ」

「謙遜しなくてもいい。お前の成長が見れたしと安心した」

「あれにはとても感謝しています」

「感謝か。それなら私よりもキッカケを作ったあいつらに言ってやれ」

「そちらも感謝しています。ただ」

「ただ?」

「私よりも菜奈の方がよほど影響を受けていますよ」

「そうなのか?」

「はい。悪意もなくシレっと使いこなしています」


 菜緒がやっと笑顔になった。


「使いこなす? もしや天探女アメの? フフフそうか」


 サラにも笑みが戻る。


「あ、話は変わりますが主任、エマさんの件で少々ご相談が……」

「すまんな、お前達に迷惑を掛けてしまって」

「いえ、ではなく……実は菜奈の事なんですが」

「ん? 菜奈がどうした?」

「実は菜奈がエマさんのことをと……」


「…………菜奈もか」


 思案顔になるサラ。


?」

「ん、あ? いや何でもない。それよりどうした?」

「えーと、あのですね……突然激しい方の……キス……をエマさんに」


 あの場面を思い出したのか、顔を赤らめ恥ずかしそうにモジモジしながら話す。



「そうか…………因みに菜緒、か?」

「え? ハイー⁈ わ、私ですか⁈ 私は……大丈夫です……」


 戸惑いながらも否定する。


「ハハハそうか……聞きたかったのはお前が相談したかった件とは別だ」

「は、はあ」

「すまんが菜奈のことその件は少し考えさせてくれ。悪い様にはしない」

「は……はい。分かりました」


 菜緒は何故だか少し残念そう。


「……よし! それじゃ英雄を出迎えに行くか!」

「はい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る