第57話 エマと菜緒! 昔話!
扉の外では菜緒、菜奈、シャーリー、ソニアの四人が待っていてくれた。
全員不安そうな表情だったが私を見ると笑顔で出迎えてくれた。
それに対して力ない笑顔を返す。
「はぁぁ~~疲れたよ~~」
開口一番のため息をつきながら肩を落す。本当に疲れたよ。
「お疲れ様なの~」
ソニアが真っ先に正面から抱き着いてきた。先ほどのショックからもう立ち直っているみたい。
頭を撫でて若者パワーを分けて貰おう。
「エマさんお疲れ様でした。少しヤツレました?」
「はは……」
「いや……お腹ふっくらしてる」
菜奈に指摘され自分のお腹を見る。
確かに胃が少し膨らんでいるのが自分でも分かる。
「いやーちょっとねー。うん、飲みすぎたわ」
「お酒……を?」
「違うって!」
「あの二人の傍ですからね! 私なら途中で「トイレ~」とか言って遠慮せずに逃げ出しますよ!」
「そうしたいのも山々なんだけどね~そういう訳にもね~」
「エマお姉様、何処かで休憩した方がよくありませんの〜?」
「ん~でもね~探索艦にも行かないと~ね~」
面倒なことは先に片付けておきたい。でないといつまで経っても出発できない。
「天探女主任は
「サラは大丈夫だって」
「多分……主任の知識欲が満たされた……んだと思う」
「知識欲?」
「はい。あの人は何でも知りたがり屋なところがありまして……」
「「「…………」」」
主任が? まさかの自己中?
「さっき……ソニアさんの体を
「な、何の?」
「寸法……触り心地……本人の反応……その他諸々」
「へ? ここにもあいつらに似た奴がいたの? それともただの変態?」
「この基地勤務の探索者は全員、一回は被害にあっています」
「貴方達も?」
「「はい」」
同じ顔で頷く。
「ということは私達もいずれ?」
エマとシャーリーが顔を見合わせる。
「残念だけど……すでに射程内……あとはチャンスを待つばかり」
「ですが一度被害を受ければ、体が成長しない限りは二度とされません」
「……ん? 職員の人は?」
「そちらは無傷です」
「む、無傷って……触られたら傷物扱いかいな。あ、対策とかは?」
「誰かに護衛してもらう事くらいしか」
「位置情報は?」
「あの人の位置情報は当てになりません」
「……はい?」
「こちらから探すと光点だけの偽情報をマップ上で流したり、稀に先ほどの様に人形を使ったりと基地AIを使い我々を
「……なんで?」
菜緒と菜奈は顔を見合わせてお互いほっぺに人差し指を当て首を傾げながら答える。
「「……遊んで欲しいから?」」
「はぁ? それでみんなは困らないの?」
「脳内通話なら……いつでもどこでも……応じてくれる」
「あ、そう。…………天探女主任って何者?」
「過去は……詳細は知らない」
奈菜の発言に合わせて菜緒も頷く。
「そうなんだ。でもサラなら……」
知っていそう。
「エマさん! 何処かで落ち着いて話しません?」
我々はまだ貴賓室の扉の前にいる。だからかシャーリーもソニアもいつ天探女が飛び出てくるか心配で落ち着きがない。
「そうね。やっぱりどこかで休憩にすっかね!」
「それなら……エマは温泉好き……足湯はどう?」
「へ~ここにあるの? って何で私が温泉好きなの知ってるの?」
「そこは余り気になさらない方が……で温泉ではなく申し訳ないのですが……」
いや気にするなって気になるでしょうに。
「ま、いいか! 行こう菜奈、菜緒!」
「エマさん、探索艦はいいんですか?」
「そんなの後回し~~♪」
テンション復活!
四人の背中を両手で押し転送装置へと向かう。
菜緒は苦笑、菜奈はほんの少し嬉しそうな足取りで歩いていく。
五組計十本。青紫色の短めタイトスカートから伸びている生足がお湯に浸けられていた。
足湯の広さは2m×4mで無色透明の温水で
湯舟の床底はエアストーンが全面に敷かれており、細かい気泡がお湯と一緒に床全面から出て、足全体を心地よい感覚を与えてくれる。
湯船を囲む様に配置してある座面には「すのこ」が満遍なく並べられており、その上には厚手のタオルが敷かれてあった。
そのすのことタオルのペアには理由があり、すのこの下を湯船から溢れ出た排水溝へと流れていく。
つまりお尻の下からも湯気が上がるような仕組みの「蒸し風呂」状態。
「いや~気持ちい~」
私の両脇にはシャーリーとソニア。正面には菜緒と菜奈の姉妹が向かい合って座っている。
因みに菜奈以外至福顔。
今度
「こういうのもいいですね~!」
シャーリーも破顔。ソニアは足を浸けたまま仰向けに寝転び、ほんのりと汗をかきながらのうたた寝モードに突入。
菜緒は何故か目を瞑り顔を赤らめている。
菜奈は……私を見つめたまま、相変わらずの無表情。
てゆーかそんなに見つめられると照れちまうぜ……いやそうじゃない。なしてそんなに見つめとんの?
姉妹の足はクレアと同様、バランスの取れた、そして手入れの行き届いた綺麗な足。
生まれつきだろう、輝いて見える。
なんて羨ましい。
ただあまりジロジロ見てると変態扱いされそうなので程々にしておく。
それから数分も経つとシャーリーと菜緒もソニア同様に仰向けで横になり、うたた寝を始めてしまう。
見れば三人の両膝の間隔が徐々に開いてゆく。
──うーーん。私から菜緒のぱ〇つが見えているってことは、奈菜にはこっちの二人のぱん〇が見えているんだよね。
いくら女性同士とはいえスカートの中身を見せるのは好ましくない。
なので足拭き用に置いてあったタオルを三人のスカートの裾辺りにそっと掛け、中が見えないようにしてあげる。
とここで誰かの熱い視線を感じる。視線の主は菜奈だった。
菜奈は二、三度瞬きをしてから上体を後方にゆっくりと倒して仰向けになり目を瞑る。
さらに同じように両膝の間隔がゆっくりと広がる。
──これは見せたい……んじゃなくてタオル掛けて欲しいんだな……
そーと立ち上がり菜奈の足にタオルを掛けてあげる。顔を覗くと少しだけ嬉しそうに顔を赤らめた。
──うーん……菜奈の行動パターン。何かどこかで……
見た覚えがあるような? と思いつつ定位置に戻る途中で菜緒が起きた。
ムクリと上半身起こすと自分のスカートにかけられたタオルに気付く。そして私以外の三人が同じ格好で寝ているのにも気付く。
私に軽く会釈をしてきたのでこちらは愛想笑いで返すと菜緒に聞きたかったことを思い出す。
「一つ聞きたいんだけど……いい?」
「はい、何でしょう?」
先程までのスヤスヤ寝顔は何処へやら、凛々しい澄まし顔に戻っている。
「とその前に、菜緒も私の事エマって呼んでくれない? それともっと砕けた話し方で」
「申し訳ありません。それはちょっと無理です。お許し下さい」
両手を揃えて頭を下げてきた。どこか有無を言わさぬ雰囲気を感じる。
「どうして? 私とじゃ嫌?」
「そんなことは決して……すいません、性格でして」
「そう。そっちは追々なんとかするとして、ローナの話を少し聞きたいんだけど……」
「あ、愛弟子の件ですね」
澄まし顔が少しだけ緩んだ。
「うん」
「実は私達姉妹とローナさん達とはゼロエリア時代からの仲でして」
「……へ~~」
「学生時代に探索者としての「適正」が発覚した当初は私も菜奈も探索者なんて興味が無かったのでスカウトをお断りしていたんです」
「…………」
「だって探索者なんて誰も知らないし、胡散臭いし、判断材料なんて全くないじゃないですか」
そりゃそうだ。だって政府特殊機関だから。
「だからスカウトの方にはキッパリとお断りしたんですが、暫く経ったある日に突然私達の目の前にあの「赤髪の姉妹」が現れたんです」
「赤髪の姉妹……それで?」
「ローナさんが会うなり『貴方、探索者になりなさい♪』って」
「うんうん、それで?」
「私が『それは断った』と言ったら『あら? でも妹さんはOKしたわよ♩』って。菜奈を見たら珍しく顔赤らめてモジモジして『黙っててゴメン』と訴えているし……。不敵な笑みを浮かべるローナさんの後ろではラーナさんが何度も済まなさそうに私に頭下げてくるし。どんな手で落とされたのかは知らないけど、知らぬ間に懐柔しやすい方から攻められて外堀埋めていたんですね」
「ふふ、ローナらしいね」
「はい。実は「適正」が発覚する以前から少々事情があって、私達は親元から離れて二人で暮らしてたんです。それで新しい環境にも慣れた頃に探索部のスカウトが突然やって来て『我々と契約して探索者になって欲しいんだ!』と」
「おお、あの有名な?」
「はい。とても胡散臭そうな人でした」
そうなんだ? あたしゃあったことないけど。
「で菜奈の性格考えたらとてもじゃないけど無理だし、その誘い文句にのったら取り返しがつかないくらい不幸になりそうな気がして……それでその場で正式に断ったんです」
「その後にローナ達が?」
「はい。暫く経ってからですが。でもあの二人と出会えた結果「菜奈が変われた」ので今では感謝していますね」
「そう……菜緒の判断基準は奈菜なんだ」
親元を離れた原因はどうやら奈菜にありそう。
「それは仕方ありません。姉ですから」
「菜緒は妹思いの立派なお姉さんだね」
「エリーさんも素敵なお姉さんだと思いますよ?」
「……うん、ありがとう」
<仕方ありません>
……この言葉に重みを感じる。想像だけど結構苦労してきたのではないかと。
そしてそれを誇るでもなく、だからと言って蔑むこともせず、さらには会ったことのない相手の身内をさり気なく褒める行為。かなり「人間が出来ている」のではないかと。
「その後、ゼロエリア候補生に内定。私はどちらかと言えば「流されて」しまっていましたが、菜奈はローナさん達と同じ場所での勤務を楽しみにしていたようです。ただ残念ながら候補生訓練施設に入る寸前にあの二人がBエリアに移籍が決まってしまって」
「ん~それはサラが引き抜いたからよね」
「はい、そこは上が決める事なので致し方ないですよね。それと天探女主任……当時は幹部候補生ですが、ローナさん達が移籍する数年前に紹介されまして」
「ふむふむ」
「「貴方達、この人にも遊んで貰いなさ~い♪」と」
「…………」
「主任は紹介して貰った当時から、今でもそうですが、とにかく内向的で人と接するのが苦手な性格でして。友人と呼べる人はサラ主任だけだったようです」
「って事は七……いや八年以上まえからの知り合い?」
「はい。あの二人は……いや本人がいない所でプライベートをベラベラ話すのは良くないですよね」
「え? ま、まあそうね」
「私達も今みたいに
「…………」
今ので気軽……
「でサラ主任がBエリア設立で忙しくなり、私達も訓練施設に入所してからは主任の相手はあの子達だけになってしまいまして、益々引きこもりが激しくなってしまったんですよ」
「あの子達?」
「そちらに在籍しているミアノア姉妹です」
「…………」
「あの姉妹の
「へ~~それは初耳」
「はは、そうなんですか? ローナさん達とウチの主任はかなり前から接点があったようで、そのせいかミアノアとは仲が良かったみたいですね」
「ふーん」
「あ、でも当時からミアノアは主任のことは煙たがっていましたね」
「はは、なんとなく想像できちゃう……特にノア辺りは「……ウザイ、ぞ」とか言ってそう」
「私達ももう何年も会ってはいませんが、今では主任を遥かに凌ぐ能力を身に着けたみたいで良かったです」
「もしかしてあの二人の本業……じゃなかった、副業は」
「あ、あーあのB〇本ですね。多分に保護者からの影響を受けていると思いますよ。実は私はファンで全話読んでいます♡」
「…………そうなんだ。この前、最新話書き上げて送ってたからもう直ぐ読めるんじゃない?」
「♡」
目がハートマークになっている。
なるほど。あーゆー漫画の読者ってこういう人だったのね。
「ところでエマさん。先程は何をお話しされていらっしゃったので?」
「話?」
「貴賓室の中で」
「……さあ?」
「さあ?」
「二人で無言の睨めっこをしてたから分からない」
「……そうですか」
「嘘じゃないよ。それより天探女主任って引きこもり? でよく
「あの人は能力だけはずば抜けて高いんです。特例で
「一人で数体? 一体どうやって……」
「それは本人に直接聞いて下さい。多分エマさんになら教えてくれると思いますよ」
あんまり関わりたくはないな……ま、機会があったらね。
「でも不謹慎に聞こえるかもしれませんが、今日の主任はいつになく嬉しそうで、はしゃぎ過ぎで困ってます。サラ主任と久しぶりに会えたのが一番大きいと思うのですが……多分エマさん、あなたに会えたのとが半々くらいですかね」
「何故私?」
「さあ?」
「え?」
「主任の態度を見ていれば分かります」
「は、はあ……」
「だから我々もいつもよりも少しだけ真剣に相手しているんです」
楽しそうに話す菜緒。
「そういえば菜奈ってどんな性格?」
「菜奈が何か失礼な事でも?」
「ううん、なんも」
「そうですか。それなら良いのですが。菜奈は……一言で言えば寂しがり屋、ですかね」
「そうなの?」
「はい。私がもう少ししっかりしていれば……」
「?」
「ところでエマさんも色々あったみたいですね。いつレベル4になられたのですか?」
「何で知ってるの⁈」
「フフフ、それも天探女主任の能力のお陰です。私の個人情報は見れてますか?」
「え? うん。なんか変なこと表示されてたよ?」
「ははは、ここの基地では隠し事は出来ないんですよ」
「どーゆーこと?」
「それも主任の
「いやいや、ちっとも安心できません!」
「大丈夫ですよバレても。だって同じ
そうなんだ。なんかとんでもない所に来ちまったかな……
「あ、あとサラと天探女主任の」と言いかけたところで「ふぁぁ~~~~。おはようございます……なの」とソニアが目を覚ます。
「はい、おはよ」と笑顔で返した。
因みにもう夕方……だいぶマッタリしてしまったようね。残念だけどお話はここで終了。早いとこ結果を出さないと。
「んじゃそろそろ艦の方に向かいますかね!」
大きく背伸びをする。
「はい……了解」
菜奈がムクッと起き上がる。
あれ君、寝てなかったの?
シャーリーは起きなかったので揺すって起こす。
「ふ、ふにゃ……もう朝? お、おはようございます!」
いやだからまだ夕方やねん……
結構みんなマッタリ出来たみたいだね!
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